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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
15章 深き群青に潜むもの

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第338話 メンダコの島(2)

めちゃくちゃな時間になってしまいましたが、金曜分ですm(_ _)m


 アスルに手を引かれ、町の中心部に位置する立派な館に連れてこられた僕らは、そのまま上階の応接室に通された。

 部屋は南国特有の開放的な造りになっていて、部屋とバルコニーが一体化しているような感じだ。

 外には夕暮れの海と港町を一望できて、景観もすごくいい。

 遊びに来たんなら気楽に景色を楽しめたんだろうけど、今日は詫びを入れに来ている。

 先ほどから妙に距離の近いアスルと一緒に、緊張気味に座って待っていると、彼女のお付きのマハルさんがノックと共に部屋に入ってきた。


「み、皆様、島主(しまぬし)様がおいでです」


 彼女の言葉に席を立って迎えると、鋭い眼光をした妙齢の蛸人族(たこじんぞく)が入ってきた。

 メンダコ種の例に漏れず上背はそこまでじゃないけど、鍛え抜かれた歴戦の戦士といった風貌だ。水色の触腕の一本は千切れてしまっている。

 これまで何人もの領主の方々に会ってきたけど、その人達同様、位階の高さとは別種の威圧感をお持ちだ。

 彼女は上座の席にどかりと座ると、僕らの方をじっと見据えた。

  

「待たせた。俺が島主(しまぬし)のリワナグだ。アスルは…… 聞いた通り無事なようだな」


「うん、無事」


 短い親子のやり取りに続き、僕はリワナグ様に深々と頭を下げた。


「青鏡級冒険者パーティー『白の狩人』のリーダー、タツヒトと申します。

 彼女達はパーティーメンバーです。本日はお時間を頂き誠にありがとうございます」


「ふむ…… どうやら本物のようだな。我が娘、アスルが負けたと聞いた時は耳を疑ったが…… 相手が、かの邪神殺しの英雄達なら納得だ。掛けてくれ」


 リワナグ様の言葉に驚きつつ、僕らは席に座り直した。

 アラク様の眷属、邪神死を紡ぐ蜘蛛(アラニアモルティス)を討伐してから半年以上経っているけど、ここでその名前を聞くとは思わなかったのだ。


「あ、ありがとうございます。ご存じでしたか…… ここからアラニアルバ連邦とはかなり離れていると思うのですが……」


「この国は、アラニアルバ連邦に近いベルンヴァッカ帝国とも取引がある。

 時間はかかるが、国を揺るがすような大事は耳に入ってくるものだ。

 それで、マハルからはお前達がアスルを倒しただとか、謝罪に来るだとか聞いたが、一体どういう状況なんだ?」


「はい。その、非常に申し上げにくい事でして…… まずはこちらを。

 このようなもので恐縮なのですが、邪神の甲殻を削り出した防具と、南方の珍しい菓子です。どうかお納め下さい」


 ずっと緊張しているマハルさん経由で、軽い装飾の施された木箱をリワナグ様に渡す。

 プルーナさんに急造してもらった贈答用の木箱の中には、僕らが装備しているのと同じ手甲や胸当てなどの他に、こちらもいい感じの箱に詰めたチョコレートが入っている。

 彼女は箱の中身と僕らの装備と見比べながら、感嘆の声を上げた。


「ほぉ、これがかの邪神の……! なるほど、これはお前達の予備の武装だな?

 青鏡級冒険者が身を預けるものだ。この黒く美しい光沢だけでなく、さぞ頑丈なのだろう。

 --だが、これ程のものを受け取るには、やはり先に事情を聞く必要があるな」


 彼女は木箱を一旦脇に置くと、僕らに鋭い視線を送ってきた。

 ぐぅ…… 先に贈り物を受け取って頂く事で、謝罪を受け入れて貰いやすくする作戦。失敗だ。

 姑息にもアスルに島主(しまぬし)様の好みを事前聴取し、船の上で大急ぎで準備したのに……

 老獪な島主(しまぬし)様には通じなかったようだ。


「は、承知しました。事の初めは--」






 僕らが事情を説明し終わると、リワナグ様は非常に険しい表情を僕らに向けた。少し殺気が漏れ出ている。


「--なるほど。話は分かった。つまりお前達は、無断で我が領海に侵入し、我が娘による正当な防衛行為を妨害し、あまつさえ殺しかけたと…… そういう事だな?」


「--はい。その通りでございます。本当に申し訳ございません……」


「にゃ、にゃあ。やっぱり逃げてた方がよかたんじゃ……」


「お黙りなさいな。聞かれますわよぉ……?」


 怒りを露わにするリワナグ様に全員で深々と頭を下げる。

 小声でゼルさんとキアニィさんが何か話しているけど、本当に向こうに聞こえていないことを祈る。


「母。私も、よく確認せずに仕掛けてしまった。タツヒト達を許してほしい」


 空気が重くなったところで、アスルが助け舟を出してくれた。

 殺されかけた本人が僕らの減刑を嘆願してくれるなんて、ありがたすぎる。

 これにはリワナグ様も驚いたのか、殺気を霧散させて目を見開いてしまった。


「アスル。殺されかけたと言うのに、随分とタツヒト達を気に入ったようだな。

 だがこの島を預かる身として、俺はこいつらに厳罰を与えねばならん。ならんのだが、ふむ……

 --ところでお前達。なぜわざわざこの国まで来て、海底遺跡の探索などしていたんだ?

 お前達なら、エウロペア周辺でいくらでも稼げるだろうに。割に合わんだろう」


 リワナグ様が至極当然な疑問を口にするが、これに対する答えはすでに用意してある。

 僕はシャムを指し示しながら返答した。


「はい。それには少し理由がございまして、こちらの白髪の娘、名前をシャムと言うのですが、彼女は先の戦いで邪神から呪いを受けてしまったんです。

 その影響で、元は私と同じ程度だった体格はこのように縮んでしまいました。

 その治療に必要な魔導具が、この辺りの海底遺跡に眠っているはずなのです」


「ほぅ。にわかには信じ難いが…… だが仲間のため、エウロペアから遠く離れたこの地に来たのであれば、天晴れな事だ。

 --では一つ選択肢を増やしてやろう。お前達の道は三つだ。

 一つ、定めに従い厳罰に服すこと。二つ、そのつもりが無いからここへ来たのだろうが、刑に服さず逃げること。当然これは勧めん。

 そして最後の三つ目。罪を赦す対価として、しばらくアスルの仕事を手伝うことだ」


「「……!」」


 リワナグ様の言葉に全員が息を飲んだ。みんなを見回すと、全員が頷き返してくれる。

 なんかアスルもこくこく僕に頷いてくれたので、頷き返す。


「慈悲深きご裁定に感謝いたします、リワナグ様。是非とも三つ目を選ばせて頂きたいのですが……

 ご息女の仕事とは、このラケロン島の領海の警備と考えて良いでしょうか?」


「うむ。知っての通り、最近プギタ島領海の海底遺跡の辺りが騒がしい。

 それに乗じて、このラケロン島領海でも密漁や盗掘を働く者が増えてきている。この国の馬鹿共だけでなく、隣国のならず者まで出張ってくる始末だ。

 加えて魔物の数も増加気味だ。アスルは兵100人分以上の働きをしているが、それでも追い付いてない。

 どうだアスル。他の者ならともかく、タツヒト達なら--」


「うん……! タツヒト達となら、一緒に戦える」

 

 被せ気味に返答するアスル。相変わらず表情の変化は少ないけど、なんだか嬉しそうに見える。

 その様子を見たリワナグ様は、ほのかに笑みを浮かべた。一瞬だけ、為政者から母親の顔になられたようだった。

 

「ふふっ、そうか…… 付け加えると、仕事に(さわ)らない範囲であれば、領海内での遺跡探索も許可しよう。

 この辺りの海はアスルの庭だ。お前達の探すものも見つかるかも知れんぞ」


「それは……! 何から何まで、本当にありがとうございます、リワナグ様!」


「「ありがとうございます!」」


 全員で立ち上がって頭を下げる。すごい。どうしてここまで、と思ってしまうほどに僕らにとって有難い裁定だ。


「ああ。さて、もう日が暮れるな。今日のところは館に泊まっていけ。俺も邪神討伐の英雄譚が聞きたい。

 アスル、マハル。彼らに離れを案内してくれ」


「分かった……! タツヒト、こっち!」


「ひ、姫巫女様……! 私が、私めがご案内しますから……!」


 またしてもアスルに手を引かれ、僕らは館の離れへと向かった。

 

お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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