第337話 メンダコの島(1)
木曜分です。大変遅くなりましたm(_ _)m
金曜分はなんとか今日中に投稿します。
ラケロン島に向かう船の上。アスルとうちのお子様組との会話は、思ったよりも盛り上がっていた。
「え、アスルは十四歳なんでありますか? もっと子供だと思ったであります!」
「そういうシャムは、幾つなの?」
「一歳と半年であります!」
「……絶対に嘘」
堂々と言い放ったシャムに、アスルは静かにジト目を向ける。
そりゃそうだ。いくらシャムが童女の見た目をしているからって、どう見積もっても生後一歳半の赤ん坊には見えない。
しかしアスル、プルーナさんの一個下だったのか…… 申し訳ないけどシャムに賛成。
「あはは…… シャムちゃんはちょっと事情があるんですよ。
--あの、アスルさん、じゃなくてアスルちゃんは、どうやって魔法を勉強したんですか?
僕も結構魔法が得意なつもりだったんですけど、アスルちゃんの水魔法はもっと洗練されているというか……
どなたか高名な魔導士の方に師事していらっしゃるんですか?」
「魔法の、勉強……? した事ない。こうしたいと思ったら、海が応えてくれるから」
「え…… じゃ、じゃあ全部独学って事ですか……!? て、天才っているんだなぁ……」
アスルの返答にプルーナさんは愕然とし、僕も含めた他のみんなも驚きを隠せなかった。
僕はプルーナさんも天才だと思っているけど、それは彼女が人生の大半を使って研究や鍛錬を積み重ねてきた結果だ。
僕もこっちにきてから結構頑張って魔法を学んだけど、自分が独学でアスルの領域までいけるとは到底思えない。
言うなればプルーナさんは努力型の天才で、アスルは完全に感覚型の天才らしい。
ちょっと凹んでいるプルーナさんを見て、アスルが視線を少し彷徨わせる。あれ。もしかしてちょっと焦ってる?
「--あなたの防壁、結構硬かった。切るのに時間がかかって、びっくりした。貴方もすごい」
「そ、そうですか……? えへへ…… あの、チョコのおかわり要ります?」
「うん。チョコ、甘くて好き」
プルーナさんからチョコレートを受け取り、無表情でそれを齧るアスル。あ、ほんのちょっと口角が上がった。
めちゃくちゃ強いだけで、このお子さんやっぱり結構優しいのかも。
少し前まで殺し合いをしていたというのに、ものすごく平和な空間だ。船上にいるみんなが微笑んでいる。
特にロスニアさんは、本当に幸せそうな様子でニコニコとお子様組を眺めている。子供大好きだからなぁ、この人。
そうこうしているうちに、船は目的地のラケロン島に到着した。シャムによると、大きさはプギタ島の百分の一くらいらしい。
島は、海底遺跡が多く存在するプギタ島の領海から、結構東に移動した位置にある。
やはり、僕らは想定よりだいぶ流されていたようだ。ちなみにここからさらに東に進むと大龍穴が存在するので、この辺の魔物は結構強めだ。
船から桟橋に上がると、そこには素朴な感じの港町が広がっていた。
居合わせた住民らしき只人と蛸人族の人達から、僕らに視線が集中する。
後者は全てアスルと同じメンダコらしき種族で、小柄で可愛らしい人が多い。
それだけでここは僕にとっての楽園、メンダコパラダイスアイランドなのだけれど、住民の皆さんの視線が気になる。
遠巻きに見るだけ決して近づかず、何だか余所余所しい感じだ。
「--巫女様〜、姫巫女様〜!」
すると遠くの方から、一人の蛸人族が声を上げながら走ってきた。
他の人たちよりさらに小柄なその人は、僕らの前で止まるとオレンジ色の触腕で汗を拭った。
そして気弱そうな顔をガバリと伏せ、色鮮やかなポンチョのような上着を恭しく差し出す。
「はぁ、はぁ…… お、お出迎えが遅くなってしまい申し訳ございません! こちらを……」
「ん」
言葉短く応じたアスルがポンチョを羽織ると、彼女のお付きらしい人が僕らに気づいた。
「あ、あのー、姫巫女様。こちらの方々は、お客様、でしょうか……?」
「--うん。私を倒した人達」
「あぁ、左様で-- えぇっ!?」
アスルの言葉に僕らから後ずさるお付きの人。そりゃそうなるか。
「あの、事実ではあるんですが…… その件で是非、島主様にご挨拶と謝罪に伺わせて頂きたいんです。どうか、取り次いで頂けないでしょうか?
あ、僕はタツヒトと申します。青鏡級冒険者パーティー『白の狩人』のリーダーで、彼女達はパーティーメンバーです」
なるべく穏やかな調子で僕が頭を下げると、他のみんなもぺこりと続く。しかし、この名乗りは逆効果だったようだ。
「せ、青鏡級……!? ひ、ひぇぇ……」
お付きの方がさらにもう一歩後ずさる。この人リアクションいいなぁ……
「マハル。今タツヒトが話した通り。母に、会ってくれるように伝えてきて」
「わ、分かりましたぁ」
見かねたアスルがそういうと、お付きの人、マハルさんはよろよろと町の奥の方へと歩いて行った。
「アスル、ありがとうございます。助かりました。あの、ところで、姫巫女というのは……?」
「--私が島主の娘で、海神様の巫女だから…… 館の前に、少し寄る所がある。いい?」
「え、ええ。勿論」
「ん。ついてきて」
そう言ってアスルは、マハルさんが向かったのとは別の方向にずんずん歩いて行った。
その方向に集まっていた人垣がサッと割れ、やはり遠巻きにアスルを見つめる住民の方々。なぜか手を合わせて拝んでいるご老人もいらっしゃる。
その様子に少し不気味なものを感じながら、僕らは彼女の後を追った。
アスルが足を止めたのは、なんというか、神社のような雰囲気の場所だった。
こじんまりとしているけど、綺麗に掃き清められた石畳の広場の中央に、これまた石造り社のようなものが置かれている。
--なんだろう? 社から強い気配を感じる気がする。アスルが首から下げている牙と同じ雰囲気だ…… もっと言えば、アラク様の気配に似ている……?
アスルはその祭壇の前に跪くと、手を合わせて祈り始めた。
僕らが見守る中、祈りは数十秒ほど続いた。
「--終わった。行こう」
立ち上がり、歩き出そうとするアスルを呼び止める。
「あの、ここはもしかして、その海神様の祠でしょうか?」
「うん。海に出る前と帰ってきた後、必ずお祈りする。 --あ、創造神様へのお祈りもしている。ちゃんと」
とって付けたように加えるアスルに、ロスニアさんが微笑む。
「うふふ、大丈夫ですよ。創造神様は懐が深-- く無い時もありますが…… 慈悲深いお方ですから。お祈りの回数で差別されたりしません」
「そう……」
それを聞いて、アスルはどこかホッとしたような様子だ。ちょっと可愛いな。
「その、さらに変な事を聞いてしまうんですが…… もしかしてその社の御神体は、アスルが首から下げている牙か、それに似たものですか?」
「え…… なんで、分かったの?」
目を見開いてそう聞き返すアスル。対して、ヴァイオレット様はどこか納得したように頷いた。
「ふむ。やはりタツヒトも気づいたか。あの気配に」
「ええ。もししかしたらと思ったんですが、多分東の大龍穴に座す神獣か、その眷属の牙でしょうね。
アスル。それ、もしかして東の海で手に入れたものではありませんか?」
「う、うん。これは、海神様の牙、らしい…… 先代の巫女は、海に愛されたものだけが、この牙に巡り合うことができると言っていた。
私も、数年前に東の海でこれを拾って、巫女になった。これを持っていると、海がより強く願いに応えてくれる。
あの社には、歴代の巫女の牙が納められている。でも、どうして……?」
困惑するアスルに、僕は自分が持つ神器、天叢雲槍を見せた。
「その、信じてもらえるか分かりませんが、僕も少し神様には縁があるんです。
この槍は、ここから遥か北西の大森林に座す神様、蜘蛛の神獣から下賜されたものなんです。アスルの牙とお揃いですね」
そう言って僅かに制御を緩めると、槍から異様な気配が漏れ出す。
すると、アスルはさらに目を見開いた。そして恐る恐る槍に触れながら、自身の牙と見比べる。
「……信じる。タツヒトは、海の中でも私より強かった。それにその槍は、この牙と似てる……
そう、タツヒトも御子…… 私とお揃い…… 私と同じ……」
「アスル……?」
彼女は俯いて何事かを呟いていたけど、突然顔を上げて僕の手を掴んだ。
「--行こう。母に会わせる」
「へ…… は、はい」
そのまま彼女に引っ張られるように、僕らは町の奥の方へと歩いて行った。
お読み頂きありがとうございます。
よければブックマークや評価、いいねなどを頂けますと励みになります。
また、誤字報告も大変助かります。
【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】
※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。




