第333話 実家のような安心感
大変遅くなり申し訳ございません。金曜分ですm(_ _)m
少し長めです。
目的とする古代遺跡は、どうやら海の底に沈んでいるらしい。
その情報の真偽を確かめるため、僕達『白の狩人』はハルリカ連邦南端のプギタ島へと向かった。
海星人族のお姉さん達から得た情報は、もちろんパーティー全員に共有済みである。
みんな、驚愕と共にどこか納得したような表情を見せていた。
部品回収の旅は今回が三回目だけど、これまでスムーズに進んだこと無かったもんなぁ……
僕らを乗せた船は順調に南下を続け、数日ほどしてプギタ島北端の沿岸に到達した。
船はさらに島をぐるりと回り込み、今は島南端の港近くまで来ている。
全員で甲板に出て海岸線を眺めてみるけど、美しい海と緑豊かな陸地が見えるだけで正直よく分からない。
シャムの地図上では、この辺には本来細長い半島があって、そこに目的の古代遺跡があるはずなのだけれど……
「シャム、どうかな?」
僕は頭上に向かって問いかけた。女児形態であるシャムの身長の低さを補うため、現在肩車中なのだ。
機械人形故の人の枠を超えた視覚と処理能力を持つ彼女は、しばらく海岸線を見渡すとはっと息を呑んだ。
「--ほ、本当にあるはずの半島が消滅しているであります……!
周囲の海岸線の変化も確認。これは…… 当時は水上にあった半島が、海面の上昇によって水没したものと推測されるであります。
つまり目的とする古代遺跡は、情報通り海底に沈んでいる可能性が高いであります……」
彼女の言葉に全員渋い表情になってしまうけれど、事前情報のおかげでその衝撃は少なかった。
船に同乗していた他の冒険者からも話を聞いていたので、海底遺跡の話がどうやら本当らしいことはわかっていたのだ。
でも、地底、火山と来て、今回は海底かぁ…… 今回も困難を極めそうだけど、次は一体どこになることやら……
船が港に到着すると、そこは剣呑な雰囲気を放つ冒険者らしい人達でごった返していた。
不思議なことに、なんだか皆さん露出度が高い気がする。ビキニアーマーみたいな装備の人までいるけど、大丈夫なのか……?
ちなみに、国内外から集まった多種多様な人種の中でも多くみられるのは、やはりここを本拠地とする蛸人族だ。
彼女達の頭からは、吸盤の付いた八本の触腕が生えていて、瞳孔の形は蛸らしく四角形になっている。
烏賊人族に会った時もそうだったけど、只人と離れた彼女達の姿にゾクゾクしてしまう。いいなぁあの触腕。触ってみたい。
それぞれ自在に動かせるみたいだけど、彼女達の脳内では一体どんな処理が行われているんだろう……? やっぱり足の方にも大きな神経節があるんだろうか?
蛸人族の中でもさらに種族が分かれているようで、水蛸っぽい大柄で触腕の長い人もいれば、豹紋蛸っぽい斑ら模様で小柄な人もいる。
本当にいろんな種族の亜人に出会える…… 最高だな、この国。
「あの、タツヒトさん。冒険者組合に行くのでは……」
にこにこと若干気持ち悪い笑みを浮かべながら人々を眺めていると、プルーナさんにおずおずと袖を引かれてしまった。
振り返ると、他のみんなが呆れ顔で僕を待っていてくれた。
「すみません、つい……! い、行きましょう。すぐに!」
慌ててみんなの所に戻り、歩みを進める。
今回のフィールドは、海底遺跡などという初体験の環境だ。まずはしっかりと情報を集める必要がある。
そもそも水性亜人じゃない僕らが海底を探索できるのか、遺跡周辺にはどんな魔物が生息しているのか。
それらを確認するため、僕らは人の流れに乗って冒険者組合に向かった。
「次の方-- あら皆さん! 魔導国でお別れして以来ですね!」
多種多様な種族で混み合う冒険者組合。異様な速度で進んでいく受付の待ち行列の先にいたのは、輝く金髪と笹穂耳を持つ妖精族。
僕らにとってはお馴染みの受付嬢、カサンドラさんだった。
「カサンドラ……! 久しぶりであります!」
彼女を目にしたシャムが受付のカウンターに駆け寄り、満面の笑みで両手を伸ばす。
するとカサンドラさんも、慈母の笑みを浮かべてシャムの手を取った。
「うふふ、こんにちはシャムちゃん。つい最近会ったばかりじゃないですか」
「いやいや、三ヶ月は経っていますよ…… お久しぶりです、カサンドラさん」
「あら、そうでしたっけ……?」
シャムと同じ顔で惚けたように笑うカサンドラさん。猊下といいカサンドラさんといい、長命種の方々の時間感覚にはついていけないです……
彼女とは魔導国で会ったのが最後で、ここはそこから遥か遠いハルリカ連邦だ。
普通ならめちゃくちゃ驚くところだけれど、何せ底知れない人なので、最早驚きが無い。いや、もちろん会えて嬉しんだけど。
彼女は以前、冒険者組合の支部を見て回るのが仕事と言っていたけど、本当はもっと偉い人なのではと僕は睨んでいる。
「おい何やってんだ! 後が支えてんだぜ?」
カサンドラさんとわちゃわちゃやっていると、僕らの後ろに並んでいた強面の冒険者に文句を言われてしまった。
その人は大型な蛸人族のお姉様で、苛立ちからか体がほんのり赤くなっている。なんだか可愛いし、ちょっと美味しそう。
「む、すまない。シャム、その辺にしよう。カサンドラ殿、列が落ち着いたら、少し相談させてもらっても良いだろうか?」
シャムをやんわりとカウンターから引き離し、そのまま抱っこしながらヴァイオレット様が言う。
「そうですね…… でも皆さんがここにいらっしゃるという事は、ここの海底遺跡にシャムちゃんの治療に必要なものがあるという事ですか……
わかりました。別の方に変わって頂きますので、すぐに奥でお話ししましょう」
カサンドラさんは奥から代わりの方を連れてくると、すぐに僕らを奥の応接室に案内してくれた。
ありがたいけど、後ろにいた蛸人族のお姉様からは睨まれてしまった。
さておき、応接室の椅子に腰を落ち着けた僕らは、魔導国を出てからの事を聞きたいというカサンドラさんに、樹環国での出来事を語って聞かせた。
都市が神の捌きで半壊したり、呪炎竜と取引したなどと言う荒唐無稽な出来事を話し終えると、カサンドラさんは硬い表情で息を吐いた。
「なるほど…… 無事部品を回収できたのは良かったですが、とても過酷な旅だったんですね……
--ロスニアさん。あなたの神託の御子としての重責…… 私には想像することしかできませんが、身を裂かれるような痛みがあったのだと思います。さぞ、お辛かったでしょう」
気遣わしげにそう言う彼女に、ロスニアさんは一瞬だけ体を強張らせたけど、すぐに表情を緩めて首を横に振った。
「辛く無いと言えば嘘になります…… でも、私はあの厄災を生き残りました。ならばやるべきは嘆く事ではなく、一人でも多くの方を癒す事です。
それに、神も苦悩の末にあの決断を下されたのだと、そう考えることにしたんです」
「--そう、ですか…… ありがとうございます」
ロスニアさんの言葉に、カサンドラさんが微かに微笑む。
--ありがとうございます?
その物言いに少し引っ掛かりを覚えたけれど、彼女が表情を明るいものに変えてパンと手を叩いたので、その小さな違和感は僕の中から消えてしまった。
「ところで、あの呪炎竜と戦って全員生還するだなんて、さすが『白の狩人』の皆さんです!
邪神の件もありますし、皆さんはもう英雄と呼ばれるのに十分な実績を積んでいます。
後でまとめて昇給試験もしてしまいましょう。おそらく、タツヒトさんとヴァイオレットさんは青鏡級、残りの皆さんも全員緑鋼級になれると思います。
これで『白の狩人』も青鏡級の冒険者パーティーですね!」
「「おぉ……!」」
カサンドラさんの言葉に全員が声をあげる。僕も嬉しいけど、特に等級が黄金級以下だったお子様組のテンションが高い。
「本当でありますか……!? やったであります!」
「あの…… 僕の冒険者等級は橙銀級なんですけど、一気に緑鋼級に上がれるんですか……!?」
「ええ! プルーナさんの位階自体は緑鋼級ですし、功績点も十分です。全く問題ないですよ。
--あっと、すみません、私ばかりお話を聞かせて頂きましたね。皆さんは、ここの海底遺跡の探索を行いたいんですよね?」
「ええ、そうですわぁ。他の冒険者から聞いた話ですと、探索には少し面倒な手続きが必要なのですよねぇ?」
「そういやそんにゃ話だったにゃあ。あと海んにゃかの遺跡にゃんて、どうやって探索すればいいんだにゃ? そんなに息続かにゃいにゃ」
キアニィさんとゼルさんの疑問に、カサンドラさんはうんうんと頷く。
「わかります。その辺、慣れていないと難しいですよね。ちょっと陸地とは違う決まり事があったりもするので、今からご説明しましょう」
カサンドラさんによると、海底遺跡群が存在する海域は島主の領地扱いで、地上よりも少し厳しいルールがあるのだそうだ。
魔物の領域でもあるので、島主の軍か、許可を得た冒険者以外立ち入り禁止らしい。
加えて、その海域で得た海産物や魔物素材、発掘した魔導具は、必ず一度組合に納める必要がある。
勿論適正な対価は貰えるし、特殊なものでなければ引き取ることも可能だけど、破れば厳しい罰則があるそうだ。
シャムの部品を回収した際には難儀しそうだと思ったけど、そこはカサンドラさんが島主と交渉してくれるらしい。
加えて、プギタ島付近の海底遺跡への立ち入り許可証もすぐに発行してもらえた。いつもながら大変ありがたい。
あとここの海底遺跡は、噂通り最近になって魔導具がザクザク発掘されるようになったそうだ。
そのため、さっき見たように国内から多くの冒険者が集まってきているのだけれど、事態はもう少し複雑だ。
なんでも、噂を聞きつけた周辺国も領有を主張し始めていて、ここの海底遺跡は国家間の係争地にもなっているのだ。
なので、国内外の冒険者や無許可の盗掘者などが入り乱れ、現場は大変混沌とした状況らしい。皆さんなら大丈夫だろうが、注意してほしいとのことだった。
「状況などについては以上ですね。あとは、水棲亜人でない皆さんには必ず必要な魔導具もありますし、装備にも少し工夫が--」
その後もカサンドラさんは、サクサクと必要な事を端的に教えてくれた。やっぱりこの人めちゃくちゃ頼りなる。まるで実家のような安心感だ。
話がひと段落した所で昇級試験も行ってもらい、僕ら『白の狩人』は、呆気なく英雄と呼ばれる青鏡級の冒険者パーティーとなった。
その後、念入りにお礼を言ってからカサンドラさんの元を辞した僕らは、すぐに海底遺跡探索の準備に取り掛かった。
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