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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
2章 開拓村ベラーキ

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第033話 夕暮れの領都


 槍を握り締め、僕は緊張と共に絶対的強者と対峙していた。


 「いつでも来るといい」


 遠間で同じく槍を持つ相手は、対照的にとてもリラックスした様子で構えている。

 一見どこにでも打ち込めそうだけど、どこに打ち込んでも当たるイメージが湧かない。

 こちらのほんの僅かな身じろぎにさえも反応する様に、隔絶した実力差を感じる。


 「ではこちらから行こう。まずは前回の復習からだ」


 攻めあぐねていると、相手はポツリと呟くように言った。

 瞬間、四本の足が烟るように動き、残像を残すような速度で相手が眼前に迫った。

 同時に突き込まれる槍を、なんとか体を開いて躱す。


 しかし相手はその場で急制動をかけ、僕が避けた方向に槍を振り抜いた。

 それにもなんとか反応できた僕は、身を屈めて槍を見送り、逆に相手の足に横なぎの一撃を放った。

 が、読まれていたのか小さい動作で飛んで避けられ、返す槍で反撃されてしまう。

 そんな攻防が十数合続き、段々と詰将棋のように僕は避けきれなくなっていった。


 カァンッ!


 そして最後は、攻撃後に引き戻す途中の槍を弾き飛ばされてしまった。


 「……まいりました」


 両手をあげて降参する。


 「--うむ、素晴らしいぞタツヒト! 最初に会った時は二撃目で勝負がついたというのに、短期間でよくぞここまで練り上げたものだ」


 今日一番のいい笑顔で、嬉しそうにヴァイオレット様は仰った。

 褒めてもらえたのになんだか複雑だ。

 





 ここは都市内にある武器屋の裏庭だ。

 なんでいきなり組み手しているのかというと、これには浅い理由がある。


 エマちゃんへのお土産を買った後、僕はヴァイオレット様にイネスさんおすすめの書店へ行くことを提案した。

 しかしなぜか彼女は露骨に話を逸らし、村の近くに出たアルボルマンティスについて聞かせて欲しいと言った。

 なので、甲殻に槍が刺さらなくて困ったという話をしたら、では武器屋に行くぞということになったのだ。


 いや、今日はいいんじゃないですかとやんわり伝えたけど、今日の準備が明日の命を繋ぐのだと押し切られてしまった。

 おっかしいなぁ。さっきまですごくデートっぽいいい雰囲気だったのに。

 まぁでも、案じてくれるのはとても嬉しい。

 それに武器屋でテンションの上がっているレアなヴァイオレット様が見れて幸せだ。


 「店主殿。今のように、彼の戦い方には比較的短く穂先がシンプルな槍が向いているように思える。何か良いもの見繕ってもらえるだろうか」


 組み手に使った木製の槍を元の場所に戻しながらヴァイオレット様が訊ねる。

 僕らの組み手を見守っていた武器屋の店主さんは、はっとしたようにそれに応えた。


 「は、はい。いや、すごいものを見せて頂きました。お二人ともさぞかし名のある軍人か冒険者の方なのでしょう。おっと、槍でしたな。ご予算はいかほどで?」


 「えっと、これくらいでどうでしょうか?」


 水を向けられ、僕はだいぶ奮発した金額を提示した。

 ヴァイオレット様からカミソリの報酬をかなり多めに頂いていたので、懐がだいぶあったかいのだ。


 「おぉ、それでしたらあれが良いでしょうな。少々お待ちを」


 店主さんが持ってきてくれたのは、焦茶色の不思議な材質の柄に、ほのかに緑がかった穂先のついた槍だった。


 「こちらは硬木の柄に緑鋼の穂先を設えた槍で、ご覧の通り余分な装飾を廃したシンプルかつ実用的な一品です。長さもこちらの方にちょうどよさそうですし、品質は当店が保証いたします」


 手渡され槍を、重さや重心を確かめる何度か振ってみる。

 うん、見た目より軽いしバランスもいい。作りもしっかりしていて使いやすい。

 穂先にはほんの僅かな歪みすらなく、なんというか凄みすら感じる。


 「うむ、良いようだな」


 僕の様子を眺めていたヴァイオレット様もうんうんと頷いている。


 「はい! これいいですね、気に入りました。こちらを頂きます。あ、夕方頃にまた伺うので、取り置いて頂けませんか?」


 「ありがとうございます。では、取り置かせて頂きます」

 

 店主さんにお礼を言い、僕らは武器屋を出た。

 ちなみに、硬木とはここの市壁にも使われるもので、例の魔法で圧縮加工した木材のことだそうだ。軽さの割に鉄に迫る強度があるようだ。

 そして緑鋼はいわゆる魔法鉱物で、冒険者等級の表記にも使われるくらい信頼と実績のある素材で、こちらは鋼の数倍の強度があるらしい。

 ヴァイオレット様曰く、今のタツヒトには少々早いが、すぐにその槍に見合った使い手になるだろうとのことだ。

 --ご期待に添えるよう、頑張らないとな。



 本日の最後に向かったのは、ヴァイオレット様おすすめの絶景スポットだ。

 なんと市壁の上に上げてくれるらしい。

 都市防衛上、通常は登ることはできないのだけれど彼女は軍のお偉いさんだ。

 市壁にくっついた監視塔の警備を顔パスし、僕らは塔の中の螺旋階段を使って市壁の上に出た。


 「うわっ……」


 市壁の上から都市を見下ろした瞬間、思わず声が漏れ出た。

 二重円の市壁の中にある大小さまざまな建物、中央に聳える荘厳な城も、街を囲う市壁も、小さな商店すらも、全てが等しく夕日に染め上げられている。

 そして円の中心から夕暮れを知らせる鐘の音も鳴りなじめ、街を行く人々が家路を急ぐようにだんだんと建物の中へ消えて言った。

 不思議と郷愁を誘うその音色と光景には、何か胸に迫るものがあった。


 「すごい、ですね。まさしく絶景です」


 圧倒的な光景を前に、僕はそれしか喋ることができなかった。 


 「気に入って貰えたようで良かった。ここは私のお気に入りの場所だ」


 夕日は彼女の端正な横顔すらもオレンジ色に染め上げている。

  

 「良い街であろう。私はここで生まれ育った。ここへ来ると、この領を、領の皆を守りたいという気概が湧き上がってくる。だからタツヒトにも見てもらいたかったのだ」

 

 その美しも気高い様に、思いを伝えてくれたことに胸がいっぱいになり、僕は思わず叫んでいた。

 

 「ヴァイオレット様…… あの、僕、強くなります! だからその、待っていてください!」


 僕の突然の宣言に最初はキョトンとしていた彼女だったが、それでも何かを感じとってくれたようだ。


 「あぁ、待っているよ」


 彼女はそう言って微笑んだ。






 市壁を降りた後、僕は名残惜しさに何度も手を振ってヴァイオレット様と別れた。

 そして決意を新たにした僕は、早速武器屋で槍を買い取って宿に帰った。

 宿の酒場では、相変わらずイネスさんを筆頭にみんなが飲んだくれている様子だった。


 「おー、タツヒト君おかえり、おかえり! で、どうだったんだい? お姉さんに成果報告をしておくれよぅ」


 テンションも高くイネスさんが絡んでくる。わかりました、お見せしましょう。


 「はい! 見てください、これが今日の成果です!」


 「おー! すごい、緑鋼の槍じゃないか! ……あれ、逢引に行ったのになぜ槍を?」


 「--それは僕にもわかりません」






***






 ピーーー。


 【……コード00317を検出】

 【……第三大龍穴周辺の外部機能単位へ対応を指示】

 【……侵攻規模、侵攻ルート、終結までの期間の推定演算を開始】


 【進捗報告……現地表記イクスパテット王国、ヴァロンソル領において確認された未知の言語の解析を98%完了】

 【会話内容に上位機能単位の判断を必要とする事項を認める】

 【上位機能単位からの返答……第三大龍穴への対策を優先、本件への対策は保留……】






 2章 開拓村ベラーキ 完

 3章 森の異変 へ続く


2章終了です。ここまでお読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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