第325話 エラフ君の王国(1)
大変遅くなりましたm(_ _)m
今週はこの時間帯での更新となってしまいそうです。。。
ちょっと長めです。
猊下にご挨拶して次の目的地も決まった僕らは、今回の旅でもとてもお世話になった神様の元へ挨拶に向かった。
転移魔法陣から大森林に向かい、祝詞を捧げて二礼二拍手一礼。すると全ての感覚が消失し、少しの間のあとに足元の感覚が戻る。
先ほどまで大森林の淵にいた僕らは、一瞬にして巨大な木造の神殿の中に転移していた。
そして出迎えてくれたのは蜘蛛人族の少女に見える存在、文字通り神の美貌を湛えた蜘蛛の神獣だ。
大人版アラク様のような眷属の皆様も、側に控えていらっしゃる。
かなり慣れてきたけど、いまだに彼女達の発する超越者の気配に体が竦んでしまう。
「よ、よぉ来たのお主ら。まぁそこに座るのじゃ」
アラク様は僕らに座布団を勧めてくれた後、そそくさとご自身も座られた。
あれ。前回の時もそうだったけど、何だか今回もちょっと気まず気なご様子だぞ……?
「は、はい。アラク様、本日もお招きありがとうございま-- っと。メームさん、大丈夫ですか?」
隣にいたメームさんがその場で崩れ落ちそうになったので、僕は慌てて彼女を支えた。
メームさんの顔色は青白く体は小刻みに震えている。アラク様達の気配に当てられたのだ。
そのままゆっくりと座布団に座らせると、彼女は深呼吸してからゆっくりと頷いた。
「あ、ああ…… ありがとうタツヒト。お前に言われて心構えをしていなければ、心臓が止まっていたところだった……
--お初にお目にかかります。蜘蛛の神獣様、並びに眷属の皆様方。
私は、タツヒトの仲間の商人でメームと申します。お会いできて光栄にございます」
そう言って深々と頭を下げるメームさんに、アラク様は微笑みながら鷹揚に頷いた。
「おぉ、よろしくのメーム。妾の事はアラクで良いぞよ。それとすまんの。これ以上は気配を小さくできんのじゃ」
「い、いえ。お心遣いに感謝いたします。アラク様」
「アラク様、久しぶりであります!」
メームさんの挨拶が終わると、シャムが堪えきれずにアラク様に駆け寄る。
完全におばあちゃんちに来た孫ムーブだし、アラク様もそんなシャムに目尻を下げている。
「ほっほっほっ、相変わらず愛いやつよの、シャム。一週間ぶりくらいじゃったか? どれ、こっちへ来やれ」
「わーい! でも、一週間じゃなくて71日と15時間34分振りであります!」
「お? そうじゃったかの?」
するりとアラク様の膝の上に収まるシャム。そんな二人の様子にみんなが頬を歪め、場の空気が弛緩する。
おっと、今日はお礼を言いに来たんだった。僕が佇まいを正して頭を下げると、他のみんなもそれに倣った。
「アラク様。今回の旅でも危ない所を助けて頂き、本当にありがとうございました。
あの忠告が無ければ仲間が大勢が死んでしまっていたでしょうし、もしかしたら僕らも危なかったかもしれません」
「あー…… いいんじゃよその事は。だからそのー、あんまり礼など言わんでくりゃれ。居た堪れなくなってしまうわえ……」
「え……? そ、そうですか……」
視線を逸らしながらそんなことをおっしゃるアラク様に、僕らは顔を見合わせてしまった。
何だろう……? 前回の時と違って、今回アラク様には只々助けてもらっただけなのに。
「そ、それよりも、ほれ。いつものようにお主の冒険譚を聞かせてくれんか?
今回もちょくちょく覗かせてもらっておったが、本人の口から聞いた方が面白い故のう」
「あ、はい。分かりました。そうだ、お土産、じゃ無かった。献上の品もございますので、是非そちらをご賞味頂きながら--」
神々は、献上したチョコレートをとても喜んでくれたようで、僕らが話す間ずっと上機嫌だった。
アラク様は久しぶりに口にするわいと御尊顔を綻ばせ、普段無表情の眷属の方々すら笑みを浮かべていた。
やはり長命種な方々にとってチョコレートは懐かしいもののようだ。
「--と、いうわけでして、今度は東南アスリア地域のハルリカ連邦というところに向かう予定です」
「なるほどのぅ。うむ、此度の冒険譚も大層面白かった。礼を言うぞ、タツヒトや。
しかし東南アスリアというと、あやつの縄張りかぇ…… まぁ温厚なやつじゃし、大丈夫じゃろ。
--ん? おっと、そろそろ夕方じゃな。聖都に送ればよかったんじゃったかの?」
「へ……? あ、いえ。その、今度こそ友人の緑鬼を訪ねて見ようと思っています」
何か聞き捨てならない台詞が聞こえたけど、何とかそう返答する。
前回は何かタイミングが悪かったらしく、知的な緑鬼の友達、エラフ君の所に遊びに行けなかったんだよね。
「おぉ、ならそっちに送ってやろうかいの。どれどれ……」
アラク様が虚空を見つめ始めたところで、みんなが小声で話し始める。
「キアニィ。確かハルリカ連邦の東の海にも、広大な魔物の領域が存在したな……?」
「ええ、ヴァイオレット。あそこも大龍穴という事ですわねぇ……
まぁ、シャムの地図による遺跡は海中にあるわけではありませんから、あまり気にする必要は無いと思いますけれど……」
「キアニィ。それ、タツヒトがたまに言うフラグって奴じゃにゃいかにゃ?」
やめてゼルさん。指摘したことで完全にフラグが立ってしまう……
ドキドキしてしまうようなみんなの会話の最中、アラク様が声を上げた。
「お。今回は大丈夫そうじゃな。では、あやつらの集落のすぐそばに送ってやろう」
「ほ、本当ですか! みんな、そろそろお暇しよう!」
エラフ君に会えると思ってテンション高く立ち上がると、みんなから何やら微笑まし気な視線を送られてしまった。
うぐっ…… ちょっと恥ずかしい。誤魔化すようにいそいそと準備を整えると、すぐに帰り支度は整った。
「では皆様。今日はここで失礼させて頂きます。アラク様、いつも帰りの面倒まで見て頂いてありがとうございます」
「ほっほっほっ、若いもんはそんな事気にせんで良いわい。落ち着いたら、また遊びにくるのじゃぞ。ではな」
「またね! であります!」
笑顔のアラク様と無表情の眷属の方々に全員で頭を下げると、転移が始まった。
僅かな間に感覚が消失し、再び回復すると、僕らの目の前には夕暮れの森が広がっていた。
この張り詰めたような感覚、背の高い木々…… 大森林の結構深めの所か?
でも目の前には集落のようなものは見えない。一緒に転移して来たみんなも同じ事を考えたのか、ほとんど同時に後ろを振り返った。
するとそこには、拓かれた広大な平地の真ん中に巨大な城塞都市が存在していた。
どこかの川から引いて来たのだろう、水の流れる深い掘りの向こうには、直径数百mはありそうな高い防壁が構築されている。
内側には盛り土がしてあるのだろう、ここからでも内部にもう一層防壁が見える。
ベラーキの村と似たような作りだけど、規模は何十倍もあるぞ……!?
予想外の光景に僕らは言葉も無く驚いていたけど、もっと驚いた方々がいた。
僕らの正面には堀にかかる跳ね橋のようなものと、物見台が設けられている。
そしてそこに詰めていた小緑鬼の方々が、僕らを指差しながら絶叫した。
「「「ゲッ…… ゲギャーー!?」」」
小緑鬼の言葉は分からないけど、多分「何だあいつら、突然現れたぞ!?」的な事を言われた気がする。
そして冒険者業が身についたみんなは、魔物の咆哮を耳にして反射的に武器を構えてしまった。
「なんと…… ここまでの砦を作り上げていたは……!」
「にゃは! こりゃスッゲーにゃ!」
「ちょ、ちょっとみんな、武器を下ろして! おーい、落ち着いてくれー!
僕はタツヒト、タツヒトだ! エラフ君に会いに来たー! 敵じゃない、味方だよー!」
みんなそう言いつつ僕も槍を地面に置き、砦に向かってタツヒト、エラフと何度も声をかける。
すると物見台の小緑鬼達は次第に落ち着きを取り戻し、何やらゲギャゲギャと相談を始めた。
それを見守ること暫し、音を立てて跳ね橋が下され、中から立派な体躯の食人鬼が現れた。
彼はゆっくりと僕らの元まで歩み寄ると、胸に手を当てながらお辞儀をし、手で砦の方を指し示した。
「ゴルルルッ……」
「あ、これはどうもご丁寧に…… みんな行きましょう。歓迎してくれるみたいです」
「あはははは…… か、歓迎ですか。邪神討伐の時も思いましたけど、本当に魔物とは思えない振る舞いですね……」
ロスニアさんが乾いた笑い声を上げる。僕も同感だ。エラフ君はともかく、お仲間の魔物までこうだと常識が揺らいでしまう。
こちらを気にしながらゆっくりと歩く食人鬼君の後に続き、僕らは恐る恐る砦の中に入った。
中は、何というか普通だった。普通に通りがあり、簡素な木造住居が立ち並び、子供達が駆け回っている。
ただ、そこで生活しているのは人ではなく、小緑鬼や食人鬼、豚鬼などの人型の魔物だった。
彼らはこちらに襲いかかったりせず、案内役の食人鬼君と一緒に歩く僕らを遠巻きに見ているだけだった。
あまりにも普通の街並み。けれど、魔物達がそれを作り上げているというのはとても異常な事だった。
「わ、わぁ…… 深い掘りに二重の高い防壁。掘りを作った時の土で内側を高く盛ってもいますね。少し荒いですけど、中々にいい仕事です」
「プルーナ。あなた、それもう職業病よ……?」
「ふむ。住居や、市場のような物まであるな…… これならば本当に取引可能か……?」
全員で街の様子を具に見学しながら歩き、二層目の防壁を越えてさらに進むと、都市の中心にあたる場所に大きな砦があった。
そしてその入り口に、食人鬼に迫るほどの立派な体格の緑鬼が立っている。
刀傷の入った頬を歪めながら、彼、エラフ君はとても嬉しそうに笑った。
「タツヒト……! 久シブリダ! ヨク来タナ!」
邪神討伐以来、半年以上ぶりに目にした彼の姿に嬉しくなり、駆け寄ってその手を取る。
「エラフ君! ごめんよ、来るのが遅くなって! この街すごいね! そんでまた王国語が上手く-- あれ?」
エラフ君とぶんぶん握手していると、彼の隣に只人の女の人が立っている事にやっと気づいた。
小柄で、この辺では珍しい黒髪の短髪。そして人懐っこそうな顔つき……
確かこの人は--
「おー、タツヒトさん。それに皆さんも。久しぶりっスね!」
「えっと、マガリさんでしたよね。お久しぶりです」
「そう! ご存知、エラフの番のマガリっス!」
「……」
--あれ。以前もこのやり取りは見たけど、その時エラフ君は直ぐに否定していた。
しかし今は、唇を引き結んで何も言わない。しかも、ちょっと顔が赤い……?
「エラフくん…… も、もしかして!」
「アー…… ウン。マガリト、番ニナッタ」
エラフ君は少し恥ずかしそうに頬を描きながらそう言い、マガリさんをそっと抱き寄せた。
こ、これは…… お祝いをしなければ!
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