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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
15章 深き群青に潜むもの

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第324話 回収報告(右腕)

大変お待たせいたしましたm(_ _)m

15章開始です。


前章のあらすじ:

 鬣犬人族の商人、メームを加えたタツヒト達は、降灰によって陽光が遮られた薄闇の樹環国へと転移した。降灰は一行の目的地である巨大火山の噴火によるもので、灰の除去は強力な呪炎竜により頓挫していた。

 その後一行は、樹人族の悪徳商人、コメルケルと知己を得る。彼女の船で火山近くの首都へと向かうも、陽光を得るために行われた行為が神の禁忌に触れ、天からの火により都市が半壊してしまう。

 現状を打破するため火山に向かった一行は、呪炎竜に対して夜襲を決行するも失敗。膠着状態に陥るが、メームの商人としての直感により交渉が成立。呪炎竜の火山からの退去と目的の部品を回収に成功し、樹環国は青空を取り戻した。


 暗闇の中、音も地面に立つ感覚も感じられない。本当に何も無い虚無の空間だ。

 このままの状態で数日も過ごせば、きっと僕は餓死する前におかしくなってしまうだろう。

 そんな妄想をしながら一人で勝手に怖がっていると、消失していた五感が徐々に回復してきた。

 足元に硬い地面の感覚が戻り、薄暗いながらも目が見え始め、今自分が石造りの小部屋にいることが分かった。

 そして、後ろからは安心したような吐息が聞こえてきた。


「ふふっ。転移する時って、やっぱり少し不安になっちゃいますよね」


 振り返って声をかけると、鬣犬人族(りょうけんじんぞく)の商人、メームさんが少し恥ずかしそうに目を逸らした。

 彼女は中性的な魅力に溢れた大人の女性って感じだけど、実はかなり可愛い人だということを僕は知っている。


「う、うむ。数秒とはいえ、全ての感覚が無くなるからな…… しかし、タツヒトもみんなも全く動じていないな」


「我々は何度も使わせてもらっているからな。だがメームはまだ二回目、仕方ないだろう」


 メームさんの肩に手を触れながら整った顔立ちを綻ばせたのは、馬人族(ばじんぞく)の元騎士、ヴァイオレット様だ。

 動作の一つ一つが本当に絵になって格好いい。ちょっとメームさんに場所を変わってもらいたくなるくらいだ。


「転移にゃんて普通に生きてたらやらにゃいからにゃぁ。でもそんにゃことより、早く猊下んとこに行くにゃ。ここ狭いにゃ」


 殺風景な石壁を見回してにゃーにゃー主張しているのは、猟豹人族(りょうひょうじんぞく)の元借金奴隷、ゼルさんだ。

 過去の経験か自由奔放な元々の気質からか分からないけど、彼女は狭くて暗いところが苦手なのだ。いや、好きな人はあんまり居ないか。


「ですね。結局二ヶ月くらい掛かっちゃいましたから、心配されているでしょうし」


 今僕らがいるのは、聖ペトリア大聖堂の地下にある転移魔法陣の小部屋の一つで、ついさっき遥か南西の樹環国から帰ってきたところだ。

 全員でその部屋から出て、同じような小部屋への入り口がずらりと並んだ通路を進み、コソコソと地上階に戻る。

 さっきの転移魔法陣部屋は多くの人には秘密で、この大聖堂の中でも限られた人しか知らないのだ。

 そこからさらに大聖堂の入り口付近に進み、来場者を捌いている職員の方に取り次ぎをお願いするというプロセスを挟み、僕らはやっと目的の方と会うことができた。


「皆、よくぞ無事に戻った。そしてその顔を見るに、無事に目的を果たせたようだな」


 通された応接室で二ヶ月ぶりに対面したのは、この世界における最大の宗教組織である聖教会の教皇、ペトリア四世猊下だ。

 凪いだ湖面のような表情には仄か微笑みが浮かんでい流。感情表現が控えめな猊下としては、最大限に僕らの無事を喜んでくれている様子が伺える。

 人数分の珈琲を淹れてくれた側付きの方はもう退出していて、部屋の中には猊下と僕らしか居ない。


「もちろんであります! ペトリア、この部品がシャムに使えるか見て欲しいであります!」


 童女のような見た目をした機械人形(きかいにんぎょう)のシャムが、猊下に元気よく駆け寄って人の右腕のように見えるものを手渡した。

 僕ら『白の狩人』の今の目的は、負傷が原因で体が縮んでしまったシャムの治療のため、機械人形の部品を集めて回ることだ。

 今回の旅でも、かなりの苦労の末にそのうちの一つの回収に成功したのだ。

 ちなみにシャムと猊下の顔は本当に瓜二つで、僕らは猊下の他に二人シャムと同じ顔をした人間を知っている。流石にもう他にはいらっしゃらないと思うのだけれど……


「--うむ、問題なく使用可能だ」


 部品をひとしきり確認し終わった猊下が、そう言って大きく頷いてくれた。

 その言葉に僕を含めた全員が小さく歓声を上げる。特にシャムは嬉しそうだ。


「やったであります!」


「よかったねシャムちゃん! これで、あと両足と胴体を揃えれば元通りだね!」


 小柄な目隠れ土魔導士、蜘蛛人族(くもじんぞく)のプルーナさんが我が事のように喜びながらシャムと抱き合う。

 年齢が比較的近く、魔導関連でよく一緒に仕事をするせいか、この二人は本当に仲が良い。

 

「此度も多大な苦労があったようだな…… 樹環国はどのような様子出会ったか、話を聞かせてくれぬか?」


「はい猊下。あっと、その前にこちらを。今回の旅のもう一つの重要な成果です。長い話になりますので」


 僕は荷物の中からあるものを取り出し、猊下の前において包装を解いた。


「ほぉ。何やら大荷物だと思っていたが…… こ、これは……!?」


 猊下が目を見開いて凝視しているのは、包装紙の上に乗った黒く艶やかな四角い物体だ。包みをとったことで甘い芳香が漂ってくる。


「向こうで見つけたカカウという果実を加工した、チョコレートというお菓子です。どうぞお召し上がり下さい」


 僕の言葉に、猊下は震える手でチョコレートをつまみ、ゆっくりと口にした。

 そして口どけを楽しむように咀嚼して嚥下し、最後に手元のコーヒーを口にすると、ほぅ、と満足そうに息を吐いた。


「懐かしい。なんと甘美な…… 礼を言うぞタツヒトよ。よくぞ届けてくれた」


「--ふふっ、わかります。カッファにもよく合いますよね」


「樹環国でコメルケルという商人と知り合いまして、海上封鎖が解かれ次第、原材料を仕入れられるよう取り計らっております。

 近く、カッファと同じように定期的に納品できるようになるでしょう。

 しかし猊下。猊下はチョコレートを食されたことがあったのですね。てっきりタツヒトが開発したものと……」


 僕が飲み込んだ疑問を、メームさんが代わりに口にする。もしかしたらと思っていたけど、やはり猊下は過去にチョコレートを食べたことがあったのだ。

 古代遺跡なんてものがあるんだから、以前に今より栄えた文明があったのは明らかだし、過去の時代にチョコレートが存在していてもおかしくないのだ。

 しかし、その大昔のチョコレートを知っている猊下って、一体何歳なんだろう……? 怖くて聞けないけどさ。


「うむ。遠い…… とても遠い過去にな。 --さて、そろそろ話を聞かせてはくれぬか?」


「あ、はい。まず、向こうに転移してすぐに分かったのですが--」






 チョコレートと珈琲を楽しみながら、僕らは樹環国であった事を一通り報告した。

 ラスター火山の噴火で国全体に降灰が生じ、それが樹人族にとって致命的な日照不足をもたらした。

 それを解消しようとした樹環国の人々の前に呪炎竜(じゅえんりゅう)が立ち塞がり、代替手段を求めた彼女達は古代遺跡から出土した魔導具に活路を見出した。しかしそれが悲劇の始まりだった。

 神託による忠告を無視して起動された陽光の大樹(シャマ・ラビシュ)は、起動と同時に天からの火によって焼け落ち、樹環国の首都の半分も瓦礫の山となってしまったのだ。

 夥しい死者が出たその惨状を目にし、僕らは打倒呪炎竜(じゅえんりゅう)を決意したのだけれど、そこまで話した段階で猊下が手をあげた。


「話を止めてしまいすまぬな、タツヒト。 --ロスニアよ。今、其方の心には大きな迷いがあるようだな」


 猊下の言葉に、蛇人族(へびじんぞく)の司祭、ロスニアさんがびくりと体を震わせた。

 いつもは慈愛の微笑みを絶やさない彼女が、ここに戻ってきてからは表情も固く言葉数も少なかった。

 

「ロスニア、大丈夫ですの……? 猊下。今回の旅はロスニアは辛いものでしたわぁ。今日のところは--」


 蛙人族(あじんぞく)の妖艶な元暗殺者、キアニィさんが、自身の隣に座っていたロスニアさんの体に気遣わしげに触れる。

 この二人は、聖職者と元暗殺者ということで関係が危ぶまれた時期もあったけど、今ではちょっと嫉妬してしまうくらいに仲が良い。

 しかしそんなキアニィさんに、ロスニアさんはゆっくりと首を横に振った。


「キアニィさん、ありがとうございます。でも、大丈夫です」


「……そぉ。わかりましたわぁ」


 ロスニアさんは姿勢を正し、猊下に向き直った。


「--猊下。創造神様は、私を介して陽光の大樹(シャマ・ラビシュ)を使わぬよう樹環国の人々へ呼びかけました。

 にも関わらず起動を強行したことは、確かに信徒として罪深い事です。しかし、それに対して下された罰はあまりにも大きかったように思えるのです……

 あの陽光の大樹(シャマ・ラビシュ)は、それ程までに邪悪なものだったのでしょうか……?

 樹環国の人々は、本当にあれ程の責苦を受けなければならなかったのでしょうか……!?」


 押さえ込んできたものが一気に溢れたかのように、ロスニアさんは目に涙を湛えて訴えた。

 猊下は暫し目を瞑った後、ロスニアさんの目を真っ直ぐに見つめ返した。


「邪悪な存在、という訳で無い。あれ自体はただの魔導具に過ぎぬ故な…… 道具を使い罪を犯すのは、いつも人なのだ」


「そんな…… 樹環国の人々はただ生きるのに必死だっただけです。なのに……!」


「そうであろう…… しかし、あれは絶対に使ってはならないものだったのだ。それこそ、この世界そのものを滅ぼしうる程の禁忌と言って良いだろう。

 神は慈悲を持って人々に選択を与えるが、残念ながらその慈悲は無限ではない。

 世界と樹環国の人々とを天秤にかけ、神は罰を下したのだろう……」


 猊下の言葉にも、ロスニアさんの表情は晴れない。しかし、その目には静かな決意が宿っているかのようだった。

 

「……やはり、私の中にはまだ神への疑いがあります。ですが、この身はまだ神聖魔法を使うことを許されています。

 ならば聖職者としてやれる事をやるだけです。神の慈悲が続く限り、私は人々を助け続けます……!」


「--うむ。多くの迷いの果てにこそ、真の信仰はある。其方の道行に祝福を。真なる愛を(アハ・バーテメット)


 二人の問答の後も僕の報告は続き、話し終える頃にはロスニアさんも大分落ち着きを取り戻したようだった。

 猊下は僕らの報告に、本当にご苦労だったと労ってくれた。特に呪炎竜(ファーブニル)を交渉の末に立ち退かせた事に驚かれていた。

 なんでもあの魔竜は、神獣やその眷属を除けば、この世界においてほとんど並ぶもののいない存在なのだそうだ。

 奴がシャムに怯えたような様子を見せたことについては、猊下は何かご存知の様子だったけど、教えては貰えなかった。

 

 その後、次の目的地をどうするかという話になったのだけれど、今回猊下は行き先についての助言を辞退してしまわれた。

 どうやら、大変な時期に樹環国へ僕らを向かわせてしまった事を気に病んでいるようだった。あんなの誰にも予想できっこないのに。

 それで、古代遺跡の場所が載った地図を囲んでみんなで話し合っていると、しばらく天気の悪いところにいたから、今度は天気が良くて開放的なところがいいという事になった。


 すると自然と候補が絞られ、次の目的地はここから遥か南東、東南アスリア地域に位置するハルリカ連邦というところに決まった。

 その国土は大小の沢山の島から構成されていて、烏賊人族(いかじんぞく)が支配し、蛸人族(たこじんぞく)なども住まう海洋国家なのだそうだ。

 今の時期は天気も良く、風光明媚でご飯も美味しいらしい。これは期待が高まる。

 ただ決定した際、猊下が何か言いたそうにされていたのが気になる……

 まぁ、樹環国みたいに火山の噴火も海上封鎖も無いというし、前回のような大変な状況にはならないでしょ。多分。

 

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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