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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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第321話 黄金を抱くもの(4)

すみません、寝落ちしておりました。。。木曜分ですm(_ _)m

少し短めです。


「--ヒト、タツヒト!」


 呼びかけられ、体を揺さぶられ、意識が覚醒する。

 強烈な倦怠感に抗って目をこじ開けると、すぐそばにヴァイオレット様のホッとした顔があった。

 どうやら僕は、「天雷フルグル・カエレスティス!!」を撃った直後に魔力切れで気絶していたらしい。


「よくやったタツヒト! 見事な一撃だった!」


 彼女は僕を抱きしめながら嬉しそうにそう言った。周りを見回すと、他のみんなも集まってきていた。

 さらに首を巡らせると、少し離れた場所に呪炎竜(ファーブニル)が煙を上げて墜落している。

 なるほど、祝勝ムードなわけだ。できれば僕も一緒に喜びを分かち合いたい所だけど、おそらくそうも言っていられない。


「ま、まだです……!」


 声を振り絞りながらやんわりとヴァイオレット様の抱擁を解き、何とか立ち上がって天叢雲槍(あめのむらくものやり)を構える。

 すると、伏して動かない呪炎竜(ファーブニル)から少し離れた場所に、地面が焼け溶けたようになった場所を見つけた。

 やっぱり……! 僕は見たのだ。落雷の一瞬前、奴が自身の体を紫炎で覆い、さらに真下に向けてブレスを吐くのを。

 

「タツヒトさん……!? もう終わったんですよ。横になっていて下さい、今治療を--」


「グルルルルッ……」


 気遣わしげなロスニアさんの言葉に被せるように、腹に響くような唸り声が聞こえてきた。


「「……!」」


 全員が弾かれたように音の方向を振り向くと、呪炎竜(ファーブニル)がゆっくりと起き上がった。


「ば、馬鹿な!?」


「あの凄まじい雷の直撃を受けて、なぜ生きている……!?」


 驚愕しながらも、歴戦の冒険者であるみんなが臨戦体勢に移行する。多分、天雷フルグル・カエレスティスは直撃していない。

 炎は電気を通す。絶縁体である空気よりも遥かに……! おそらく奴は、周囲を炎で覆いさらに接地させることで、自身に流れるはずだった電流の大半を地面に逃したのだ。

 さすがは炎の魔竜。その特性をよく理解している。きっと飛行中に何度も落雷を受けて学んだのだろう。


 しかし、かなりまずい…… 僕はもう槍を構えて立っているのがやっとだ。

 絶望的な状況に冷や汗が頬を伝う。しかし、僕らを憎しみの目で睨んでいた呪炎竜(ファーブニル)が、ガックリと膝をついた。

 よ、良し……! 殺しきれなかったけど、それでもかなりのダメージはあったらしい。

 そんなふうに希望が見えたのも束の間、奴は膝をつきながらも大口を開け咆哮した。

 

「ガァァァァ!」


 ドドドドッ!

 

 ブレスを警戒して身構えた僕らを他所に、奴の周りに巨大な火柱が四本出現した。

 なんの、つもりだ……? --そうか、避雷針か! 虚勢のために槍を構えていたけど、それが功を奏したようだ。

 奴は、まだこちらに天雷フルグル・カエレスティスを撃つ余力があると思っているんだ。


 ここが踏ん張りどころだ……! こちらにもう魔法を撃つ余力が無いと悟られたら、奴は火柱の制御を手放して遠慮なくブレスを撃ってくるだろう。

 今の僕の魔素はすっからかんなので、もう奴のブレスを逸らすことすらできない。

 奴が勘付く前に、雷撃のダメージから復帰する前に一気にとどめを刺さなければ!

 そう思ってヴァイオレット様に目で合図すると、彼女は大きく頷いて応えてくれた。


「畳み掛ける! シャム、プルーナ、援護を! 行くぞ、キアニィ、ゼル!」


「「応!」」


 後衛の二人が矢と魔法を撃ち初め、前衛の三人が呪炎竜(ファーブニル)に向かって飛び出した。

 僕は後衛の二人とメームさんを後ろに庇い、槍を構え続ける。


「タツヒトさん、せめて傷を治療します!」


「ありがとうございます、ロスニアさん!」


 背後から治癒魔法をかけてくれる彼女にお礼を言いつつ、前方で行われている高速戦闘を見守る。

 呪炎竜(ファーブニル)はやはり体が思うように動かないようで、その四肢は小刻みに震え、立っているのがやっとの様子だ。

 しかし、それでも奴は紫宝級の魔竜だ。鋼の鞭のような尻尾だけで、ヴァイオレット様の猛攻を捌いている。

 キアニィさんの死角からの攻撃、ゼルさんの音速をこえる斬撃、後衛組の攻撃は防御すらしていない。強力な身体強化と鱗の強度により、全くダメージが入らないのだ。


「タ、タツヒトさん、このままじゃ……!」


「うん…… くそ、ここまで追い詰めたのに……!」


 不安そうなプルーナさんの声に、僕もそう答えるしかなかった。

 こちらの攻撃は通らず、向こうの攻撃はどんどん鋭さを増していく。ダメージが抜けつつあるんだ。

 一方こちらの魔力はそんなに短時間では回復しない。一時撤退なんて許しちゃくれないだろうし、どうすれば……!?


「ゴアッ!」


 バァン!


 そして奴が一際強く尾を振った瞬間、鋭い破裂音と共に前衛の三人がまとめて吹き飛ばされた。


「みんな!?」


 反射的に駆け寄ろうとして、疲労感から思わず膝をついてしまった。まずい……

 急いで顔を上げると、僕の様子に気づいた呪炎竜(ファーブニル)がニヤリと嗤い、奴の周りの四本の火柱がふっと消失した。

 まずい、もう僕に余力が無い事に気づかれた……!


「ヴァイオレット、しっかりするであります!」


「うぅ…… だ、大丈夫だ……」


 ちょうど僕らの目の前に投げ出されたヴァイオレット様に、シャムが駆け寄る。

 そしてその向こうでは、奴がこちらに向けて大口を開けていた。ブレスが来る……!


「ゴァァァァ…… グルッ……? --ギャァッ!?」


 しかし、またしても予想外の事が起こった。

 巨大な(あぎと)の前に火球を生成しつつあった奴が、それを途中で止め、悲鳴のような声を上げたのだ。

 全員で訝しんで見ていると、奴はこちらを凝視しながら怯えたように身を低くし、ジリジリと後退している。

 い、一体なんだ……? 奴のあんな声や態度は初めてだ。視線の先は…… シャム?


「ど、どうしたんでありますか……!?」


 負傷したヴァイオレット様を抱き抱えながら、シャム自身が不思議そうに呪炎竜(ファーブニル)を見つめ返す。当然、あんな態度を示される心当たりは無いらしい。

 奴は数歩ほどそのまま後ずさったけど、途中でハッとした表情で踏みとどまった。そしてチラリと洞窟の方を振り返る。


「グル、グルルルルッ……!」


 僕ら、というかシャムと洞窟を何度も見比べて、迷うように唸る。本当に、一体どうしたんだ?

 攻め手の無い僕らと、様子のおかしい奴。なんとも不思議な膠着状態は数十秒ほども続いた。

 すると、後ろに控えていたメームさんがはっと息を飲んだ。みんなが振り返って注目する中、彼女は静かに切り出した。


「--タツヒト。ここは俺に任せてくれないか?」


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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