第321話 黄金を抱くもの(4)
すみません、寝落ちしておりました。。。木曜分ですm(_ _)m
少し短めです。
「--ヒト、タツヒト!」
呼びかけられ、体を揺さぶられ、意識が覚醒する。
強烈な倦怠感に抗って目をこじ開けると、すぐそばにヴァイオレット様のホッとした顔があった。
どうやら僕は、「天雷!!」を撃った直後に魔力切れで気絶していたらしい。
「よくやったタツヒト! 見事な一撃だった!」
彼女は僕を抱きしめながら嬉しそうにそう言った。周りを見回すと、他のみんなも集まってきていた。
さらに首を巡らせると、少し離れた場所に呪炎竜が煙を上げて墜落している。
なるほど、祝勝ムードなわけだ。できれば僕も一緒に喜びを分かち合いたい所だけど、おそらくそうも言っていられない。
「ま、まだです……!」
声を振り絞りながらやんわりとヴァイオレット様の抱擁を解き、何とか立ち上がって天叢雲槍を構える。
すると、伏して動かない呪炎竜から少し離れた場所に、地面が焼け溶けたようになった場所を見つけた。
やっぱり……! 僕は見たのだ。落雷の一瞬前、奴が自身の体を紫炎で覆い、さらに真下に向けてブレスを吐くのを。
「タツヒトさん……!? もう終わったんですよ。横になっていて下さい、今治療を--」
「グルルルルッ……」
気遣わしげなロスニアさんの言葉に被せるように、腹に響くような唸り声が聞こえてきた。
「「……!」」
全員が弾かれたように音の方向を振り向くと、呪炎竜がゆっくりと起き上がった。
「ば、馬鹿な!?」
「あの凄まじい雷の直撃を受けて、なぜ生きている……!?」
驚愕しながらも、歴戦の冒険者であるみんなが臨戦体勢に移行する。多分、天雷は直撃していない。
炎は電気を通す。絶縁体である空気よりも遥かに……! おそらく奴は、周囲を炎で覆いさらに接地させることで、自身に流れるはずだった電流の大半を地面に逃したのだ。
さすがは炎の魔竜。その特性をよく理解している。きっと飛行中に何度も落雷を受けて学んだのだろう。
しかし、かなりまずい…… 僕はもう槍を構えて立っているのがやっとだ。
絶望的な状況に冷や汗が頬を伝う。しかし、僕らを憎しみの目で睨んでいた呪炎竜が、ガックリと膝をついた。
よ、良し……! 殺しきれなかったけど、それでもかなりのダメージはあったらしい。
そんなふうに希望が見えたのも束の間、奴は膝をつきながらも大口を開け咆哮した。
「ガァァァァ!」
ドドドドッ!
ブレスを警戒して身構えた僕らを他所に、奴の周りに巨大な火柱が四本出現した。
なんの、つもりだ……? --そうか、避雷針か! 虚勢のために槍を構えていたけど、それが功を奏したようだ。
奴は、まだこちらに天雷を撃つ余力があると思っているんだ。
ここが踏ん張りどころだ……! こちらにもう魔法を撃つ余力が無いと悟られたら、奴は火柱の制御を手放して遠慮なくブレスを撃ってくるだろう。
今の僕の魔素はすっからかんなので、もう奴のブレスを逸らすことすらできない。
奴が勘付く前に、雷撃のダメージから復帰する前に一気にとどめを刺さなければ!
そう思ってヴァイオレット様に目で合図すると、彼女は大きく頷いて応えてくれた。
「畳み掛ける! シャム、プルーナ、援護を! 行くぞ、キアニィ、ゼル!」
「「応!」」
後衛の二人が矢と魔法を撃ち初め、前衛の三人が呪炎竜に向かって飛び出した。
僕は後衛の二人とメームさんを後ろに庇い、槍を構え続ける。
「タツヒトさん、せめて傷を治療します!」
「ありがとうございます、ロスニアさん!」
背後から治癒魔法をかけてくれる彼女にお礼を言いつつ、前方で行われている高速戦闘を見守る。
呪炎竜はやはり体が思うように動かないようで、その四肢は小刻みに震え、立っているのがやっとの様子だ。
しかし、それでも奴は紫宝級の魔竜だ。鋼の鞭のような尻尾だけで、ヴァイオレット様の猛攻を捌いている。
キアニィさんの死角からの攻撃、ゼルさんの音速をこえる斬撃、後衛組の攻撃は防御すらしていない。強力な身体強化と鱗の強度により、全くダメージが入らないのだ。
「タ、タツヒトさん、このままじゃ……!」
「うん…… くそ、ここまで追い詰めたのに……!」
不安そうなプルーナさんの声に、僕もそう答えるしかなかった。
こちらの攻撃は通らず、向こうの攻撃はどんどん鋭さを増していく。ダメージが抜けつつあるんだ。
一方こちらの魔力はそんなに短時間では回復しない。一時撤退なんて許しちゃくれないだろうし、どうすれば……!?
「ゴアッ!」
バァン!
そして奴が一際強く尾を振った瞬間、鋭い破裂音と共に前衛の三人がまとめて吹き飛ばされた。
「みんな!?」
反射的に駆け寄ろうとして、疲労感から思わず膝をついてしまった。まずい……
急いで顔を上げると、僕の様子に気づいた呪炎竜がニヤリと嗤い、奴の周りの四本の火柱がふっと消失した。
まずい、もう僕に余力が無い事に気づかれた……!
「ヴァイオレット、しっかりするであります!」
「うぅ…… だ、大丈夫だ……」
ちょうど僕らの目の前に投げ出されたヴァイオレット様に、シャムが駆け寄る。
そしてその向こうでは、奴がこちらに向けて大口を開けていた。ブレスが来る……!
「ゴァァァァ…… グルッ……? --ギャァッ!?」
しかし、またしても予想外の事が起こった。
巨大な顎の前に火球を生成しつつあった奴が、それを途中で止め、悲鳴のような声を上げたのだ。
全員で訝しんで見ていると、奴はこちらを凝視しながら怯えたように身を低くし、ジリジリと後退している。
い、一体なんだ……? 奴のあんな声や態度は初めてだ。視線の先は…… シャム?
「ど、どうしたんでありますか……!?」
負傷したヴァイオレット様を抱き抱えながら、シャム自身が不思議そうに呪炎竜を見つめ返す。当然、あんな態度を示される心当たりは無いらしい。
奴は数歩ほどそのまま後ずさったけど、途中でハッとした表情で踏みとどまった。そしてチラリと洞窟の方を振り返る。
「グル、グルルルルッ……!」
僕ら、というかシャムと洞窟を何度も見比べて、迷うように唸る。本当に、一体どうしたんだ?
攻め手の無い僕らと、様子のおかしい奴。なんとも不思議な膠着状態は数十秒ほども続いた。
すると、後ろに控えていたメームさんがはっと息を飲んだ。みんなが振り返って注目する中、彼女は静かに切り出した。
「--タツヒト。ここは俺に任せてくれないか?」
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