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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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第317話 待たせたな

すみません、だいぶ遅くなりましたm(_ _)m


 石畳を走る馬車の音ががらがらと響く。

 目覚めると、至近距離にメームさんの整った顔があった。

 生まれたままの格好で同じベッド入っている僕らは、向かい合う形で横になっている。

 規則正しく寝息を立てる彼女は、眠っているというのに昨晩の様子と真逆の凛々しい顔立ちをしている。

 そんな彼女をそのまましばらくぼーっと愛でていると、閉じられた双眸がぴくりと震え、ゆっくりと開いた。


「おはようございます、メームさん」


「ぁ…… あぁ、おはようタツヒト」


 目覚めた彼女は、そう言って穏やかに微笑んでくれた。胸の奥に温かいものが溢れるような感覚を感じる。

 が、次の瞬間。彼女はハッと息を呑むとその顔を羞恥の赤に染め、顔を両手で覆って反対側を向いてしまった。


「メ、メームさん、どうしたんですか……?」


 半身を起こしておずおずと彼女の肩に触れると、蚊の鳴くような声が聞こえて来た。


「俺は…… 俺は自分が情けない……! どうやっても素面で誘う勇気が出ず、酒とチョコレートの力を借りてまで臨んだというのに、土壇場であんな醜態を晒すなんて……!

 最中もされるがままだった…… せっかくタツヒトが応えてくれたというのに……!」


 醜態って…… 僕からしたら、ただただギャップ萌えに悶えるばかりだったのだけれど……

 でもあれか。男女の貞操観念がほぼ逆転しているこっちの世界の価値観だと、ちょっと女としては情けないという感じになってしまうのか。


「そんな事ないですよ。メームさんらしくて、その、可愛かったです」


「うぐっ……! やめてくれ、少し嬉しいのがさらに惨めだ……」


「惨めなものですか。あのメームさんを知っているのは僕だけで、その僕がただただ魅力的だったと言ってるんですよ? そんなにご自身を貶めないでください」


「うぅ…… だ、だが--」


 それから僕は、さめざめと泣く彼女を抱きしめながら言葉をかけ続けた。

 いつもは僕が女性陣に好き放題にして頂き、後からその時の自分を思い出して悶える側なので、何だか新鮮だ。

 そうしてメームさんが歩けるくらいに立ち直ったところで、僕らは(ようや)く部屋を出て宿の食堂に向かった。

 すると、すでに他のみんなは集合していて、朝食も食べ終わったところのようだった。


「あぁ、やっと来たか。そろそろ起こしに行こうかと思っていたところだったのだが、その様子……

 メーム。人はそれぞれ歩く速度が違う。そして君は、時間はかかっても必ず目的地に辿り着く女だ。その、あまり気を落とさないようにな……」


 僕ら、というかメームさんの沈んだ様子を目にしたヴァイオレット様が、気遣うように語りかける。


「あぁ、いや、ヴァイオレット。何というか、その、出来はしたんだが……」


「え! おめでとうであります、メーム!」


「良かったですね! その、どんな感じでしたか……?」


 メームさんの言葉に、彼女の応援団であるシャムとプルーナさんが嬉しげな声を上げた。

 それからみんなは、メームさんを祝福しつつ昨晩の様子について楽しそうに尋問を始めた。

 メームさんも律儀なので、真っ赤な顔を俯かせながらそれらの質問に答えていた。僕はその間二人分の朝食を頼み、なるべく気配を消していた。

 いつも思うけど、こういう場面でどんな顔をしていればいいのか本当にわからない……


「ふーん。ちょっとだけにゃさけにゃいけど、まぁうまく行ったみたいで良かったにゃ! それで、どうだったにゃタツヒト。メームとのは良かったのかにゃ?」


「へ……!?」


 ゼルさんから突然話を振られ、僕は思わず手に持ったパンを取り落としてしまった。

 みんながにやにやニコニコしながら僕に視線を向け、メームさんも俯きながらちらちらとこちらを伺う。なんか顔が熱くなってきた。


「あの、えっと…… その、非常に良かったです……」


 そう答えると、メームさんは頬を歪めながら小さく拳を握った。かわいいなぁ、もう。


「にゃっはははは! そいつは良かったにゃ! じゃ、呪炎竜(ファーブニル)退治から帰ったらみんにゃで一緒にヤルにゃ! 今から楽しみだにゃ!」


 一方、ゼルさんはそう言ってとても楽しそうに笑った。この人も本当にブレないなぁ……






 和やか、では無いかも知れない朝食の後、僕らは街を出てから少し走り、その山の麓に立った。

 周囲は荒涼として植物も何もない山岳地帯。朝だというのに暗黒に包まれた空を背負い、ラスター火山は天を突くように聳え立っていた。

 頂上付近はぼんやりと赤く光り、現在も凄まじい勢いで黒い噴煙を吐き出している。


「間近で見るとすごい光景ですね。それにものすごく高い…… 今からこれを登るんですか……」


「ロスニアさん、言わないで下さいよ……」


 魔法型のロスニアさんとプルーナさんが、うへー、と言う感じで火山を見上げている。

 シャムの実家を訪ねるために南部山脈を登った時も、だいぶしんどそうにしてたもんな、この二人。


「魔物の姿はまだ見えませんわねぇ…… けれど、登ってる最中遭遇して騒いでしまったら、頂上にいる方に気づかれてしまうかも知れませんわぁ。

 ヴァイオレット。今から例のものを使っていったほうが良さそうですわぁ」


「うむ、心得たキアニィ。みんな、広げるのを手伝ってくれ」


 ヴァイオレット様の馬体の背にある大きな背嚢、そこからから取り出したのは、触っている感触はあるのに透明な不思議な物体だ。

 折り畳み式のそれを手探りで広げていくと、見えないけど僕ら全員をすっぽり覆えるくらいのテントのような構造物が完成した。


「念の為ちょっと確認しますか」


 組み上がったテントの中に入ると、内部には構造を支える骨組みが傘のそれのように配置されていて、各部に持ち運ぶための取手がついている。

 骨組みの外側は、厚み一センチメートル程の六角形のハニカム構造の層に覆われている。

 そしてそれらの向こう側には、外の景色をはっきりと見ることができた。こちらをみているみんなの姿も問題なく見える。


「うん、こちらからは問題なく外が見えますね。そっちからはどうです?」


「ええ、タツヒト君の姿が消えましたわぁ。こちらからも問題ないですわねぇ。本当、反則ですわよ、こんなの……」


 長年暗殺者をしていたキアニィさんにそこまで言わせるこのアイテムは、幽霊七節(ファズマ・ファズマ)の甲殻で作った『姿隠しの天幕』だ。

 奴の甲殻は三層構造になっていて、透明甲殻層の下にハニカム構造層、さらにその下に頑丈な強度部材層が存在していた。

 調べてみると、透明甲殻はハニカム構造層より離れた物体を完全に透過する性質を持っていた。

 それを確認した僕らは、奴の甲殻の上の二層のみを板状に剥ぎ取った。

 そして、シャムとプルーナさんに作ってもらった骨組みにそれらを隙間なく貼り合わせ、完成したのがこれというわけだ。

 しかし、急造の割にはめちゃくちゃ上手く行ったな。今回のようなスニーキングミッションにはもってこいの代物だ。


『--待たせたな』


「え……? 何かおっしゃいました?」


 つい口にしてしまった伝説の傭兵のセリフに、天幕の外のキアニィさんがキョトンとした表情で聞き返してくる。


「あ、いえ、何でもないです。じゃ、みんなも中に入ってください」


 天幕の中にみんなを招き入れ、手近なところにある取手を持ってもらう。

 こうすることで、姿を隠しながら移動することが可能だ。


「よし、では登っていきましょう……! 戦闘は避け、静かに山頂付近の洞窟を目指します」


「「応……!」」


 小声の号令にみんなが小さく応え、僕らは静かに山頂に向けて歩き始めた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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