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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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第310話 天からの火(1)


 脳内に響いた逃げろというアラク様の声。僕がそれに対して聞き返そうとした瞬間、感情と風景が()()ぜなったかのような何かが流れ込んできた。

 強い焦燥と哀れみ、悲しみ、そして、目の前に聳え立つ光の大樹を中心とした破滅的な破壊のイメージ。

 強烈なそれらに、一瞬立ちくらみを感じて膝をついてしまう。

 腕の中のロスニアさんは何とか取り落とさずに済んだけど、彼女の表情はそこ知れぬ恐怖に引き攣っていた。


「タツヒトさん、大丈夫ですか!? アラク様は何と…… これから、大いなる(わざわい)が起きるんですか……!?」


「だい、丈夫です……」


 何とか立ち上がってあたりを見回す。『白の狩人』のみんなとメームさんが、心配そうに僕を見つめている。

 視線を遠くに向ければ、法悦(ほうえつ)の表情を浮かべて陽光を浴びる街の人達が見えた。

 --無理だ。全員はとても…… 僕は大きく深呼吸をしてから、震える声で告げた。

 

「アラク様が、今すぐあの大樹から離れろと。何か、とても良くない事が起きます。

 みんな、今すぐ大樹の反対方向、湖に向かって退避して下さい。ゼルさん、ロスニアさんをお願いします」


 有無を言わさない僕の様子に、ロスニアさんを除く全員が戸惑いながらも頷いた。


「わ、わかったにゃ。でも、おみゃーはどーするんだにゃ? 一緒に逃げるんだよにゃ?」


 僕からロスニアさんを受け取ったゼルさんが不安げに声を上げる。


「はい、もちろんです。ですがその前に、コメルケル会長達だけでも退避させたいです。

 以前教えてもらった彼女達の宿は、ここからあまり離れていないはずなので」


「タツヒト、ならば私も同行しよう。魔法型の双子を連れて走る必要があるはずだ。キアニィ、プルーナを頼む」


「助かります、ヴァイオレット様」


 同行を申し出てくれたヴァイオレット様が、魔法型のプルーナさんをキアニィさんに預ける。

 そして全員が動き始める直前、ロスニアさんがはっと息を呑んであたりを見回した。


「……ま、待って下さい! コメルケル会長達だけでもって…… 他の、街の方々はどうなるんですか!?」


「すみませんロスニアさん。もう、時間が無いんです……! ゼルさん、急いで湖へ

! 早く!」


「タツヒトさん! 待って--」


 僕の声にゼルさん達が湖に向かって走り、僕とヴァイオレット様はその反対方向、コメルケル会長の宿に向かって走り始めた。

 都市の中心部、一等地にある高級宿にはすぐに到着した。

 外で日光浴に夢中な従業員を素通りして宿に押し入った僕らは、そのまま階段を駆け上がった。


 バァン!


 勢いのまま最上階の部屋の扉を開けると、中にはコメルケル会長と、奴隷の双子、そしてワンプ船長がいた。

 豪華で広い部屋の一角、一面がガラス張りになっている場所で陽光を浴びていた彼女達は、僕らの乱入に驚いて全員がこちらを振り返った。


「うぉっ……!? --なんだ、タツヒトとヴァイオレットではないか! よくこの部屋がわかったな?」


 身構えていたコメルケル会長が安心したように息を吐く。こっちも予想が当たって安心した。


「はい。コメルケル会長なら、一番いい部屋を取ると思いまして」


「がっはっはっ! さすがタツヒト、俺様の事を良く理解している!

 旅の魔導士が死の呪いを解いたと街はお祭り騒ぎだったが、やはりお前だったのだな! いや、それよりもみろあの光の大樹を! ここの連中も中々--」


「会長。もうすぐあの木を中心に壊滅的な何かが起きます。今すぐ湖に向かって避難して下さい」


 僕の言葉に、部屋にいたコメルケル会長以外の面々が困惑の表情を見せる。


「--ふむ。それも予報か?」


 しかし会長だけは、硬い表情で僕にそう聞き返した。

 多分、僕がスコールを晴らした時の事を言っているのだ。またお前の予報通りの事が起きるのかと。


「ええ。おそらく今回も当たります。急いで下さい、もう時間がありません……!」


「……了解した! ワンプ船長! 向こうの宿に泊まってる船員全員に声をかけ、一緒に湖へ走れ! 全速力だ!」


「へ、へい!」


 会長から指示を受けた船長が外へ走っていく。よし、船員の皆さんは位階が高めの戦士型だから大丈夫だろう。


「会長はこちらへ、僕が抱きかかえて走ります!」


「トゥヤ、ピリュワ。君たち二人は私の背に乗れ!」


「えっ、いいの!?」


馬人族(ばじんぞく)って、滅多に人を背中に乗せないんじゃぁ……」


 楽しそうに僕に身を預けてくる会長と、おずおずとヴァイオレット様の背に乗る奴隷の双子。

 本当にもう時間がない。三人を抱えた僕とヴァイオレット様は、今度は転がり落ちるように宿の階段を下り、全速力で湖を目指し始めた。

 途中で同じ方向に向かって走るワンプ船長達の集団と合流し、もっと速くと彼女達を急かす。

 そうして、何とか何かが起こる前に湖の(ほと)りに辿り着く事ができた。

 息を整える僕らに、先に避難していたみんなが駆け寄ってくる。

 

「よかった…… 間に合ったんですね!」


「コメルケル殿達とも合流できたようだな」


「ええ、みんなも無事でよかったです」


 安堵とともにコメルケル会長を地面に下ろすと、彼女は僕らを見回して大きく頷いた。


「うむ、そちらも揃っているようだな! してタツヒトよ。そろそろ説明してくれるか?」


 不安げな船員さん達を代表するかのように尋ねてくる彼女に、僕はさてどう説明したものとかと迷った。

 しかし、すぐにその必要は無くなった。

 都市を隔てて見える光の大樹。その上空に横たわる黒雲が、ぼんやりと光り始めたのだ。


「--始まった」

 





 絶望感と共に呟いた僕に釣られて、その場にいた全員が光の大樹に目を向ける。

 その後の変化は一瞬だった。分厚い黒雲を突き破り、光の柱が真上から大樹を貫いたのだ。


 ズズン…… ッズガァァァン!!


 着弾と同時に発された烈光が目を焼き、足元からの振動に次いで凄まじい爆音が響いた。

 数秒ほどして視力が回復すると、光の大樹は今や炎の大樹に変じていた。

 煌々と陽光を放っていた木の葉は光を失い、極太の幹の所々から炎が噴き上がっている。

 それを目にした街の人達の悲鳴が重なり合い、街全体がその光景を嘆いているかのようだ。


 言葉もなくその光景に目を奪われていると、炎は見る間に大樹全体に燃え移り、とてつもなく巨大な松明のような状態となった。

 そして、大樹の各部から大小の爆ぜる音が連続し、炭化した巨木の幹が割れ、全体が崩壊を始めた。

 あの光の柱によって一瞬で蒸発してしまったのか、崩れ落ちる大樹の中心部は空っぽだった。

 崩壊は街の上空まで張り出した枝にまで伝搬、凄まじい質量を持ち、業火を纏ったそれらがゆっくりと落下を始めた。


 ズズンッ…… ズガッ…… ズガガガッ……!!


 それはどこか現実感の無い光景だった。先ほどまで自分達のいた街が、建物が、人が、逃れようのない災厄によって次々に押し潰されていくのだ。

 赤熱する大樹の残骸が全て地に落ちた頃。西ゴンド大陸随一の大国、樹環国が誇る首都ロプロタは、その半分が燃え盛る瓦礫の山と化した。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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― 新着の感想 ―
これが神罰か、まさしく神の雷ってやつですね。 あの魔道具があかんやつだと支部長たちが分かっていてわざと仕向けたのか、ほんとにただアホだっただけなのかが気になるところです。
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