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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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302/511

第302話 鉱山都市ロプロタ(2)

遅くなりました。金曜分ですm(_ _)m

ちょっと長めです。


 港から街の中心部に向かって行くと、この街の都市機能は、本当にぎりぎりのところで維持されていることが窺い知れた。

 通りを活発に歩いたりお店を回している人の多くは、只人かコメルケル会長の同族だ。

 そして普通の樹人族(じゅじんぞく)の人達は、陽光を発する魔導具のそばに屯しているか、通りを歩く際も足を引きづるようによろよろとしている。

 多分、この街の人口の三分の一弱がまともに働けない状態なのだ。


 そんな様子を横目に歩みを進めて行くと、冒険者組合の建物はすぐに見つかった。

 そして、先頭をスキップしていたシャムが喜び勇んでその扉を開ける。

 --なんであんなに嬉しそうなのか考えたけど、僕らの経験上、組合には結構な確率でカサンドラさんが居るからだろう。

 あの人、マジで世界中を飛び回ってるみたいだからなぁ。

 しかし、シャムは扉を開けたところでびくりと固まってしまった。


「ふふっ、カサンドラさん居なかった?」


「あぅ…… それもあるでありますが……」


 声をかけると、彼女はそう言って怖がるように僕の後ろに隠れてしまった。

 どうしたんだろうと思いながら扉を潜ると、すぐにその理由が分かった。


 入ってすぐの待合スペースに、まるで魂が抜けたような様子の樹人族(じゅじんぞく)が沢山屯していたのだ。

 各々、椅子にだらしなく身を預けて座ったり、机に死んだように突っ伏している。

 もちろん、食虫植物型の樹人族(じゅじんぞく)や只人の冒険者もちらほら居るんだけど、雰囲気に飲まれているのか雰囲気が暗い。

 なんだろう…… とても表現が悪いけど、外の通りが亡者の闊歩する煉獄なら、ここは亡者達の集会場のような様相だ。

 待合スペースの中央には、外でも見た陽光を発する街灯のような魔導具が置いてあるけど、その光は今にも消えそうなほどに弱い。


「なるほど…… シャムが怖がるのもわかるな」


「ええ。通りの方々にも増して、皆さん元気がありませんわぁ……」


 メームさんとキアニィさんが声を顰めながら話す。一方、そんな事を気にしない人もいる。


「だにゃ。にゃんか辛気臭せーにゃ」


「こ、こら! ゼル!」


 でかい声で暴言を吐いたゼルさんをロスニアさんが嗜める。

 その場に居た冒険者の何人かが目だけでこちらを睨んだけど、喋るのも億劫なのか何も言ってこない。

 視線から逃げるように受付に進むと、職員さんがこちらに気づいた。若い食虫植物型の樹人族(じゅじんぞく)で、この場の他の人間に比べて元気なようだ。


「お、おぉ、見ない顔だな…… ん……? あんた魔法使いか!? いきなりで悪いんだが、そこの魔導具に魔力を込めてくれねぇか!?」


「え……? えっと……」


 突然カウンターから身を乗り出してきた職員さんに、プルーナさんが狼狽する。


「頼む! 結構持っていかれると思うんだが、金なら出す!」


 必死に頭を下げる職員さん。その必死な様子に、僕とプルーナさんは頷きあった。


「--わかりました。僕も魔法を使えます。手伝いましょう」


「おぉ、ありがてぇ! なら、こっちのも頼む!」


 待合スペースと、奥の事務室にあった二機。僕とプルーナさんとでそれらに魔力を込めると、魔導具は力強く発光し、室内を照らし始めた。

 どうやら、先ほどまでは込められた魔力が切れかけていたらしい。


「おぉ……」


「生き返る……!」


 待合スペースにいた冒険者達が、光源に向けて体を広げ感嘆の声を漏らす。

 本当に息を吹き返したかのような彼女達の様子に、職員さんも安堵の表情を浮かべた。


「いやぁ、助かったぜ! 空があんな調子なんで、俺たちゃあの魔導具の光を浴びねぇと元気が出ないんだが、それを動かす魔法使いも元気がなくてな。どうにもならなくなって来てたとこだったんだわ。

 しっかし今の光、青鏡級と緑鋼級の手練だったとはなぁ…… 道理であれに魔力を込めてもピンピンしてる訳だぜ。

 おっとすまねぇ。この通り口がでかいもんでな、つい喋りすぎちまうんだ。なはは! それで、今日はどうしたんだ?」


 マシンガンのように話し始めた職員さんに、僕はちょっと引き気味になりながら要件を伝えた。


「あっと、ちょっと伺いたいことがありまして。南西のラスター火山にいるという、呪炎竜(ファーブニル)に関する情報を貰えませんか?」


 しん……

 

 僕が呪炎竜(ファーブニル)の名前を出した途端、辺りが静寂に包まれた。

 驚いて周囲を見回すと、陽光を浴びて微笑みを浮かべていた冒険者達が、鎮痛な表情で俯いていた。

 困惑したまま職員さんに視線を戻すと、彼女も眉に皺を寄せてしまっている。


「--あんたらが只者じゃないのは雰囲気でわかる。放射光も見たしな。けど、あれに手を出すってんなら止めさせてもらうぜ。わざわざ命を捨てることはねぇ」


 雰囲気が一変した事に驚き言葉を詰まらせていると、ヴァイオレット様が助け舟を出してくれた。


「忠告に感謝する。だが我々も、自分達だけでかの魔竜を討伐できるとは考えていない。

 ただ、ラスター火山には少々用があるのだ。脅威を避けるためにも情報がいる。話を聞かせてもらえないだろうか?」


「そ、そうか。それでもかなり危険なんだが…… まぁ分かったぜ。ここじゃ少し話しづらい。ついてきてくれ」


 職員さんに奥の部屋へ通された僕らは、彼女から呪炎竜(ファーブニル)に関する情報を得ることが出来た。

 基本は噂で聞いた通りで、奴は名前の通り強力な呪いの炎を操る紫宝級の火竜らしい。

 現在もラスター火山に居座っていて、火山の噴煙を収めるためにそこに赴いたこの国の最高戦力を、単騎で蹴散らしたそうだ。


 この呪い炎というのがかなり厄介だ。対象の体に燃え移った炎はどうやっても消すことはできず、その体を焼き尽くすことでやっと鎮火するのだ。

 火山に向かった高位冒険者達は、出発時の半数ほどは敗走して戻ってきたそうなのだけれど、ほとんどが呪いの炎によって焼け死んでしまったらしい。

 上澄がごっそりと戦死してしまったので、作戦の再開は絶望的だとか。これがあの待合スペースの雰囲気の原因か……


 ただ、なんと現在も一人だけ生き残っている冒険者がいるらしい。

 その人はこの街の教会で療養しているという事なので、後で見舞いに行こうという事になった。

 僕らの訪問は、呪いに苦しむその人の末期を、無遠慮に邪魔してしまうだけなのかも知れない。

 けれど、もしかしたら何か出来るかも知れないし、奴に相対した人から直接話を聞きたかったのだ。


 加えて、この国の首脳部は別のアプローチも考えているそうだ。

 なんでも、大元の火山に手を出さず、日射量の問題を解決する方法を準備しているのだとか。

 ちょうど街のすぐ外でその準備とやらが行われていて、組合の屋上から様子が見えるらしい。

 教会に向かう前に、そちらの方を先に見ておこうという事になった。






***





 

 タツヒト達のいる樹環国の首都、鉱山都市ロプロタから遥か北西。馬人族(ばじんぞく)の王国のすぐ隣に、強大な魔物達が闊歩する大森林が広がっている。

 その最奥、大龍穴の真上に建てられた神殿の中で、一見すると蜘蛛人族(くもじんぞく)の少女に見える存在が座布団の上で(くつろ)いでいた。

 異様なほどに白く、幼くも妖艶な美貌を湛えた人の上半身に、蜘蛛の下半身は闇よりも深い漆黒。

 姿こそ亜人のそれだったが、本質はこの惑星(ほし)そのものとも言える理外の存在。蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)である。

 

 そのすぐ後ろには眷属達が行儀良く並んで座っており、彼女と同じ方向を見つめている。

 視線の先、虚空に投影された映像の中には、タツヒト達がロプロタの冒険者組合の階段を登っている様子が映し出されていた。

 タツヒト達が階段を上り終え、屋上から景色を見渡し始めたところで、画角は彼らの背後から景色眺める角度に変化した。

 しかし、映し出されたのは灰色に染まった山々や黒い湖などで、色彩というものが殆ど存在しなかった。

 

「むぅ…… 今回の旅は景色がずっと灰色でちと面白くないのう…… お?」


 湯呑みに淹れたコーヒーをひと啜りしてぼやいた後、蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)は画面の一点に注目した。

 街のすぐ近くの平野部に、人間達が作成したらしい巨大な魔法陣が敷かれている。

 タツヒト達は魔法陣を見ながら少し話しただけで屋上から出て行ったが、映像はまだ魔法陣を映したままだ。

 映像がだんだんと魔法陣の中心に寄っていく。すると、灰色の景色の中にあって、瑞々しい緑を湛えた小さな若木が生えていた。

 滅多に笑顔を崩さない彼女が、微かに眉を潜めながら後ろを振り返った。


「あー…… のうお主ら。妾、あれに見覚えがある気がするんじゃが……」


 彼女の言葉に、眷属の一人が首肯した。


「はいお母様。少し前に人間共が使っていた、穢らわしい木ですね。愚かにもまだ懲りていないように見えます」


「じゃよなぁ…… えっと、あの辺はあやつの縄張りかえ…… ちと不味いのう。なんせ大雑把なやつじゃからのう。

 うーん…… 妾からタツヒトに伝えても、あの国の上の方まで伝わるかどうか……」


 うんうん唸る蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)に、今度は別の眷属が手を上げた。


「お母様。こういう時こそ、あれに働かせてみてはいかがでしょう?」


「あれ? --おぉ、あやつか! そうじゃな、確かにあやつこそ適任じゃ!」


 眷属の言葉にポンと手を打った蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)は、虚空に向かって語りかけ始めた。


「--あ、もしもし? 妾じゃ。 --うん、そうじゃ。突然すまんの。 --ほっほっほっ、そうかえ。

 それで要件なんじゃが、えっと、樹環国の首都でちと不味いものを見つけてのう…… その場にタツヒトと、ほれ、お主らんとこの僧侶のロスニアもおるんじゃが--」


 彼女は数分ほど虚空に向かって話した後、ほっと息をついて頷いた。


「うむ、これでなんとかなるじゃろうて…… さて、では鑑賞に戻るかのう。しかし、本当にタツヒトの周りは騒動に事欠かないのう。ほっほっほっ」


 彼女は映像の画角をタツヒト達を中心に据えたものに戻すと、再び(くつろ)ぎ始めた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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