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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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第300話 黒いスコール

すみません、遅くなりました。水曜分ですm(_ _)m

ちょっと長めです。

 メームさんの秘密を知った日の翌朝。コメルケル会長は、お肌ツヤツヤ、気分爽快といった感じで部屋から起き出してきた。

 一方、トゥヤさんとピリュワさんの二人は、若干(やつ)れた様子だった。激しかったもんなぁ……

 二階の面子全員で一階に降りると、メームさんもちょうど部屋から出てきたところだった。

 昨日のことがあって気恥ずかしかったせいか、お互いちょっとよそよそしい感じで挨拶してしまった。

 すると、それを目にしたコメルケル会長が目を見開いた。


「おぉ! ついにやったのか、メーム殿! よかったよかった! これで俺様も、気兼ねなくタツヒトを誘えるというものだ!」


「や、やっていない! まだ……」


 会長のとんでもない発言に、メームさんがちょっと赤面しながら反論する。

 ……昨日の事もあるせいか、普段の凛々しい姿とのギャップでめちゃくちゃ可愛く感じる。


「ほっほぅ、まだ、とな? ふふふ…… 楽しくなってきたな! さぁ、朝食を頂こう! 今日も素晴らしい一日が始まるぞ!」


「コメルケル会長、朝から本当に元気ですね……」


 寝起きとは思えないテンションの会長についていくと、食堂ではすでに、村長さんや双子の両親のみなさんが朝食の用意をしてくれていた。

 メニューは、この辺で取れる芋から作った蛋白な味わいのパンに、具材たっぷりの魚のスープ、それから森で取れたフルーツ。シンプルながらとても美味しいものばかりだった。

 朝食後にしばらく談笑した後、僕らは村の皆さんに見送られながら船に戻った。

 船の方でも特に問題はなかったようで、ゾネス川を遡る旅の二日目はスムーズにスタートした。






 港湾都市ベレンを出てから、早くも三週間ほどが経った。

 南西に進み続けた僕らの船は、やっと広大なラズィウ州を抜け、樹環国の首都が位置するブリワヤ州に入った。

 双子の村を出発してからも様々なトラブルがあったけど、今のところ無事に運航できている。しかし……


「ふむ。今日はまた一段と暗い…… この分では、首都は夜のような有様かもしれんな」


 いつものように甲板屋上に座っているコメルケル会長が、空を見上げながらぼやく。

 それに釣られ、屋上にいた僕を含む全員が天を仰いだ。視界いっぱいに分厚く黒々とした雲が広がる。

 港湾都市ベレン周辺は曇りの日くらいの明るさだったけど、南西に進むにつれてどんどん降灰はひどくなり、今では豪雨が降ってくる直前のような暗さだ。

 この船の皆さんは、樹人族(じゅじんぞく)の中でも日射量に影響されにくい食虫植物型の種族だけど、それでもいつもより元気が無い気がする。

 あのコメルケル会長ですらテンションが低めなので、彼女の両脇に座る双子も少し心配そうだ。


「暗さもそうですが、川幅も徐々に狭くなりやす。危なくて中々速度が出せやせん。

 申し訳ありやせんが、首都への到着はちいとばかし遅れてしまうかもしれませんぜ?」


「仕方あるまい。焦って事故を起こしてしまってもつまらん。安全第一で頼むぞ、ワンプ船長!」


「へい、会長!」


 ワンプ船長の言葉に今度は周囲に目を向ける。今通っている場所は十分な川幅があるけど、たまに狭い急流を通ることがある。

 そういうところに限って、川の両端が岩場だったり木々が水中から生えていたりする。

 視界不良の上に障害物が多数。座礁や沈没を避ける上で、船長が慎重になるのは当然だろう。


「--これだけ暗いと、首都の樹人族(じゅじんぞく)の人達はかなり大変でしょうね」


「ああ。比較的日射量の多い地域へ避難する者もいるだろうが、残った住人はどうしているのか……

 以前、太陽に近い光を放出できる古代遺跡産の魔導具を見たことがあるが、どれも小規模なものだ。住民全員となると、とても賄いきれないだろう」


 僕の言葉に、隣の席に座るメームさんが神妙に頷く。が、実は僕らは、さっきまで会長達の目を盗んで手を握り合ったりしていた。

 双子の村での一件以降、僕と彼女との距離は着実に縮まってきていると思う。

 普段はきりりとして格好いい彼女が、恥ずかしそうに手を握ってくるのが堪らなく可愛い。

 会長からは、毎日にようにもうヤッたのか、早くヤれと言われてちょっと辟易しているけど。

 しばらくそんな感じで話していると、甲板屋上にヴァイオレット様が現れた。


「タツヒト、交代の時間だ。今のところ船首側に異常は無い」


「ありがとうございます。了解しました、ヴァイオレット様。じゃあ皆さん、行ってきます」


「ああ、気を付けてな……」


 僕が席を立つと、メームさんが少し寂しそうな表情で見送ってくれた。

 後ろ髪をひかれながら甲板への階段を降りていると、後ろからヴァイオレット様達の会話が聞こえてきた。


「メーム…… そんなに露骨にがっかりした表情をし無いでくれ。何か悪い事をしたような気持ちになってしまうよ」


「そ、そんなに顔に出ていたか……!? すまん……」


「くくっ…… がっはっはっはっ!」


 会長の爆笑にちょっと足が止まりそうなる。そんなに笑わなくても……

 ちなみにメームさんは、他のみんなにも自分の体について話してくれた。

 ヴァイオレット様はよくぞ勇気を持って話してくれたと彼女を抱擁し、ちょいちょい煽っていたシャムとプルーナさんは素直に謝罪していた。

 で、一番煽っていたゼルさんはと言うと、ごめんにゃ、でも、これで一本増えたにゃ! これからが楽しみだにゃ! とか言っていた。

 ブレないよなぁ、ほんと。





 

 船首側に居たロスニアさんと合流した僕は、そのまま二人で哨戒を始めた。

 すると段々と風が強まり、元から暗かった空は曇天と言って良いほど黒く染まり、頭上からゴロゴロと不吉な音までし始めた。

 季節外れだけど、明らかなスコールの前兆だった。しかし運悪く、今船がいる場所は周囲に停泊できるような場所が無く、だいぶ先まで船を進める必要があった。

 船内が緊張感に包まれ、漕ぎ手の人達の掛け声のピッチが上がる。トゥヤさんの水魔法も加わり、船はかなりの速度で航行していたけれど、無情にもそれは始まってしまった。


 ビュゥゥゥゥッ!!


 ピリュワさんの風の障壁が機能しているはずなのに、それを貫通して強風が船内に吹き荒れ、灰を含んだ真っ黒な豪雨が顔を打つ。

 停泊可能な場所にたどり着く前に、船は強いスコールに見舞われてしまった。

 普段はあまり波もないゾネス川が黒い大蛇のように畝り、船が激しく揺れる。

 

「きゃっ……!」


「危ない!」


 船の揺れにバランスを崩したロスニアさんが、(へり)を超えて外に投げ出されそうになる。

 僕は済んでのところで手を握り、彼女の体を強引に船側へ引き戻した。


「す、すみません! ありがとうございます!」


「いえ、このまま掴まっていてください!」


 ロスニアさんを自分の体に掴まらせた僕は、自身も手近なロープを掴んで投げ出され無いようにした。これは、かなりまずい状況だ……!

 同じように考えたのか、甲板屋上からワンプ船長のがなり声が聞こえてきた。


「……! 漕ぎ手は(かい)を上げろ! 持っていかれるぞ! トゥヤ! 船は停止! 転覆しないようこの場に固定してくれ! 嵐が過ぎ去るまでこのまま耐える!」


「「へい!」」


「わ、わかりました!」


 船長に指示にみんなが返事した後、トゥヤさんの魔法のおかげか少しだけ揺れが小さくなった。

 しかし、スコールはその後も激しさを増し、揺れと風雨は強まるばかりだった。


「だめ……! 俺の魔法じゃ抑えきれ無い!」


「僕もです! このままじゃ……!」


 船が数十度傾く中、双子の疲弊した声が響く。魔力切れが近いのかもしれ無い。


「--ワンプ船長! 船員達に指示しろ! 積荷を投棄する!」


「か、会長! いいんですかい!?」


「構わん! ここで全員死ぬよりましだ!」


 船首から甲板屋上を見上げると、船長の隣に立つコメルケル会長が、険しい表情で船を見下ろしていた。

 確かに積荷を捨てれば転覆の危険性は下がるけど…… 牙を剥くこの自然の脅威には、到底対応しきれ無いように思えた。

 これは……


「タツヒトさん……!」


 腕の中のロスニアさんが、僕の目を見て頷く。どうやら同じ事を考えていたようだ。


「分かりました……! コメルケル会長、指示を撤回して下さい! 今から天気は好転します!」


「タツヒト!? 一体何を言っている!?」


 驚いた表情で聞き返してくる会長に構わず、僕は漆黒の神器、天叢雲槍(あめのむらくもの槍)を天に掲げた。

 槍を下賜して下さった神様への祝詞を唱え、意識を集中する。僕の体が青く発光し、上空に増幅された膨大な魔力が立ち上っていく。


天叢雲(あめのむらくも)!』


 槍の名を関する魔法名を発した直後は、何も起こらなかった。

 しかし数秒後、僕の頭上に柔らかな陽光が降り注いだ。

 まるでスポットライトのようだった光の柱は徐々に広がっていき、船全体を範囲に収めると急速に拡大していった。

 そしてその直径が数km程になると、暴風雨は微風となり、船を激しく揺さぶっていた大波は小さな漣に変じた。

 

 呆然と推移を見守っていた船上のみんなは、誰ともなく天を仰いだ。

 そこには、僕らには一ヶ月ぶり、樹環国の人々にとっては数ヶ月振りとなる青空が広がっていた。


「「お…… おぉ……!」」


 樹人族(じゅじんぞく)の人達が腕を天に向かって広げ、歓喜に溢れた表情で陽光を浴びる。

 中には涙を流している人もいる。日射量の影響が少ない食虫植物型の彼女達に取っても、太陽の光はそれほどに大切なものなのだ。

 その光景を見て安堵してしまったのか、僕はガックリと膝をついた。


「タツヒトさん!? 大丈夫ですか……? すごいです。まるで神の御技です……!」


 興奮した様子のロスニアさんが僕を支えてくれた。それは言い過ぎだけど、転覆の危機は退けられたみたいだ。


「だ、大丈夫です。ちょっと魔力切れ気味なだけで…… 嵐が止むまで、しばらくこのまま--」



 ドバァッ!


 台詞の途中で、船首側から突如として凄まじい水音が響いた。


「こ、今度はなんだ!?」


 慌てて音の発生源に目を向けると、冗談のような光景が目に飛び込んできた。

 船の数百m程先の方で、魚が川から青空に向かって跳ねていた。それだけならよくある光景だけどその大きさがおかしい。

 以前テレビか何かで見たピラクルのような見た目の魚は、この船と同じくらい、全長50mを超える巨体だったのだ。

 その大きな魚影が空に飛び上がり、川に向かって自由落下していくのを呆然と見守る。


 --ドザァァン!


 巨魚が着水したことによって生じた波が船を大きく揺らしたことで、僕を含む船上のみんなは漸く我に帰った。


「「--おぉぉぉっ!?」」


 全員で必死に船にしがみ付き、大波が収まるまで耐える。

 すると後には、嘘のように穏やかな水面と、青空が広がるばかりだった。

 その静寂の中、誰かが吹き出した。それは連鎖するように広がり、船の上は穏やかな笑い声に包まれた。


本話で拙作は300話に達しました!

いつもお読み頂き、誠にありがとうございますm(_ _)m

【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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