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第030話 飛び込み営業(1)


 領都の城門に並んでいる人たちの最後尾についた僕らは、そのまま自分たちの番が来るまでひたすら待った。

 意外にサクサク進んでいくけど暇なので、村長とイネスさんに領都について聞いてみた。


 領都クリンヴィオレは少し小高い丘の上に造られた城塞都市で、結構歴史がある都市のようだ。

 冬の足音が聞こえてきている今は見当たらないけど、春にはラベンダーに似た紫色の花が咲き乱れてとても綺麗らしい。

 都市の名前の由来も紫の丘といった意味で、この花を使った香水が特産品として王都や国外にも輸出されている。


 列を進む内に気付いたけど、都市をぐるりと囲む高い市壁もかなり変わっている。

 落ち着いた茶色で等間隔に縦の継ぎ目が見える壁の材質は、石やレンガとは違う質感なんだけど木にしてはのっぺりしている。

 村長によると、なんと今僕らが運んできたような材木を魔法で圧縮、加工して造られたものとのことだ。

 大森林に近い都市では結構一般的なもので、下手な石材よりよっぽど頑丈らしい。

 あれかな、繊維強化プラスチックみたいな感じかな。


 都市の見た目に違わず人口も多くて、正確にはわからないけど二万人以上いるらしい。

 最近は100人そこらのコミュニティに慣れきってしまったので、そんな大都市にこれから入ると考えると少しドキドキしてしまう。


 --ガラーン、ガラーン。


 都市の方角、遠くの方から鐘の音が聞こえてきた。え、もしかしてもう閉まっちゃうの?

 前に並んでいた人の半分くらいは入れているけど、僕らが入るにはまだ時間が掛かりそうだ。


 「村長。なんか鐘が鳴ってますけど、これ今日の内に入れるんですか?」


 「心配すんなまだ予鈴だ」


 「このペースなら十分入れるよ」


 慣れているのか、村長とイネスさんの二人はことも無げに言った。

 その言葉通り、暗くなって城門が閉まる前に僕らは領都に入ることができた。

 ちなみに、普通は領都に入る上で通行税を取られるらしいけど、村長が通行証を持っていたので無料で入れた。


 門から奥の方に伸びる大通りは、亜人と只人で溢れかえっていてすごい賑わいだ。

 外からでは分からなかったけど、奥の方にも市壁と同じ壁があって、さらにその奥に城らしきものが見える。

 僕が田舎者なせいか、なんだか街にる人たちは服装や仕草も洗練されている気がする。

 あ、あの人見たことない種族かも。近くでじっくり見て〜。


 村長はそのまま僕らを先導し、馬車や荷車がたくさん置いてある広い場所に着いた。

 領軍の兵士らしき人たちが警備していてるので、多分物資の集積所なんだろうな。

 僕らはそこに材木が満載された荷車を置き、日が暮れる頃には本日の宿に入ることができた。

 ちなみに宿は普通の木造だった。やっぱりあの市壁に使われてる材料は高いんだろうな。


 宿の一階にある食堂に集合し、注文した酒や料理を前にした僕らに村長が音頭を取る。


 「おめぇら、ご苦労だった! 役人様が俺らが持ってきた材木を確認するまで時間がかかる。領都を発つのは三日後の朝になるだろう。それまでゆっくり羽を伸ばしてくれ。今日は俺の奢りだ!」


 「「おおおおっ!」」


 隊列のみんなはその言葉にテンション爆上げだ。


 「よっ、村長太っ腹!」


 「よっしゃ、飲むぞ!」


 「久しぶりに男娼館に行ける!」


 「バカっ、タツヒトもいるんだぞ! もっと小さい声で言え!」


 何か木こりのお姉さん方が騒がしい。

 まぁ多分あるんだろなーと思ったけど、あるんだね。エッチなお店。

 ただ惜しむらくは亜人や只人の女の人向けのお店、つまりサービスの提供側がおそらく男の人ってことだな。

 亜人のお姉さんのエッチなお店だったらちょっと見てみたかったけど。


 「あの、僕のことは気にしないでください。そういう話題も平気ですから」


 地球原産の男としてすごく共感できるし、はしゃいでるお姉さん方が微笑ましかったので吊られて僕も笑ってしまった。


 「お、おう」


 「……なぁ、今のもう一回言ってくんね?」


 妙なことを言い始めるお姉さん方。

 領都1日目の夜は、そんな感じで賑やかに過ぎていった。






 翌朝、二日酔いでぐでぐでのみんなと一緒に朝食を取り、丸二日の自由時間が始まった。

 ちなみに昨日僕は飲んでいない。一回やらかしてるもんで……

 みんなそれぞれ遊びに行ってしまったけど、残念ながら今回僕は遊んでいる時間はない。


 宿の部屋で元の世界の学生服に着替え、武装は全部部屋に置き、マンティスカミソリと髭剃り液だけをカバンに入れる。

 あと靴の汚れも落として寝癖がついてないかも確認する。

 今から行うのはいわば飛び込み営業のようなものなので、なるべく綺麗な格好で疑われるようなものは持たない作戦だ。

 いや、本当はこっちの世界の良さげな服を買いたかったんだけど、いい服は基本オーダーメイドで時間がかかるし、やたら高いんだよなぁ。

 その点学生服はこの世界基準ではかなり仕立てがいい。こっちの世界の人には奇妙には映るだろうけど。


 準備を終えた僕は、村長に教えてもらったヴァイオレット様が普段いらっしゃるという領軍の屯所へ向かった。

 いい匂いのする食べ物の屋台や、みたことのない道具を扱っている雑貨屋なんかに目移りしながら歩くことしばし、教えられた屯所についた。


 屯所は壁に囲まれた立派な大きな建物で、門の前に兵士らしき馬人族のお姉さんが二人立っている。

 壁や建物には市壁と同じ素材が使われているようだ。やはり頑丈なんだろうな、これ。

 僕はちょっと緊張しながら門に近づいた。


 「そこで止まれ! ここは領軍第五中隊の屯所である。何用か!」


 片方の兵士の人が厳しく誰何してきたので、ピシリとお辞儀をして答える。


 「おはようございます、兵士様。私はベラーキ村の村長ボドワンの息子でタツヒトと申します。

 本日は、以前こちらのヴァイオレット・ド・ヴァロンソル中隊長様からご依頼があった件について伺わせて頂きました。

 突然やってきて大変不躾なのですが、どうかヴァイオレット様に繋いで頂けませんでしょうか?」


 宿から歩いてくる間に考えていた口上を一気に捲し立てる。

 あと、もしかしたら袖の下的なものが必要かもとと思ってポケットに硬貨も忍ばせている。

 兵士のお姉さんはやや面食らった様子で答えた。


 「そ、そうか。あ、いや、だめだ。突然やってきたものを屯所に入れるわけにはいかぬ!」


 「ん? ベラーキ…… あぁ、君か」


 もう片方の兵士のお姉さんが何かを思い出したように言った。

 そういえばなんとなく見たことがあるお顔だ。


 「もしかして、以前村の近くの洞窟の調査に来てくださった方でしょうか」


 「その通り。三ヶ月くらい前に見かけたきりだったから忘れていたよ。大丈夫さ相棒、この子はヴァイオレット中隊長と顔見知りだ。繋いでも問題ないと思うよ」


 「む…… お前がそう言うなら、わかった。では中隊長殿に伺い立てしてくるゆえ、暫しそちらで待たれよ」


 そう言って彼女は屯所の中に走っていった。


 「ごめんよ。あいつはいいやつなんだが、ちょっと真面目過ぎてね」


 「いいえ、兵士の方が真面目なのは領民としてとても安心できます」


 「あはは。そう言ってくれると嬉しいよ」


 そのまま兵士の方と雑談することしばし、確認に向かってくれた方の兵士のお姉さんが戻ってきた。


 「中隊長殿が会われるとのことだ。こちらへ参られよ」


 おぉ、やった。第一関門の突破だ。


 「はい、ありがとうございます!」


 「あはは。元気いいなぁ」


 苦笑する兵士のお姉さんに見送られながら、僕は屯所の中に入って行った。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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