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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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第293話 噂の悪徳商人(2)

遅くなりましたm(_ _)m


 コメルケル会長達を連れて走り、僕らはその日の日暮れ、閉門ギリギリの時間に港湾都市べレムに帰還した。

 街の住民の皆さんは最初、巨大な双頭大蛇(ジェミニ・サーペント)の頭部やら何やらが載せられた荷車に歓声を上げていた。この辺でも珍しいくらいの大物だったらしい。

 しかし、ご遺体やぐったりしたコメルケル会長達が載った荷車を目にすると、気まずげに目を逸らしてその声を潜めた。


 そのまま通りを進んでコメルケル商会に到着すると、すぐにアマンカ副会長が迎え出てくれた。

 会長達やご遺体を引き渡し、簡単に経緯を説明すると、彼女は涙ながらにお礼を言ってくれた。

 さらに、礼は改めて、今は取り急ぎこれでと言って、注文していた大量のカカウを無料で譲ってくれた。

 依頼として受けたので気にしなくていいと言ったのだけれど、それでは向こうの気が済まないようだった。


 会長達の回復を待つため、一週間後にまた来てくれと言うアマンカ副会長に別れを告げ、僕らは次に冒険者組合に向かった。

 そこで今回の調査依頼の完了報告や経緯説明、双頭大蛇(ジェミニ・サーペント)の素材売却を行った。結構いい値段で売れた。

 ちなみに、魔核は綺麗な緑色をした大きいもので、あの馬鹿でかい蛇は緑鋼級の上位相当の魔物だったようだ。

 --魔物の領域に隣接しているとはいえ、あそこは人里からそこまで離れていない浅い領域だ。普通に出て来ていい強さじゃない。

 降灰の影響を強く受ける浅い層の魔物が減ったことで、それを獲物とするより深い層の魔物が移動し始めているのだろうか……?

 この推測が当たっているかは分からないけど、僕らの対応をしてくれた組合の人達の表情は険しかった。






 コメルケル会長達の救助後、依頼をこなしたり追加入手したカカウからチョコレートを作ったりしている内に、一週間は瞬く間に過ぎた。

 相変わらず、目的地である南西のラスター火山方向に向かう船は捕まらない。徒歩で向かう案が現実的になってきたな……

 そんな中、僕らは約束通りコメルケル商会を訪ねた。


 商会の受付で名乗るとすぐにアマンカ副会長が駆けつけ、下にも置かれない対応で豪奢な部屋に通された。大人数で晩餐会でも開催できそうな、広くて内装も立派な部屋だ。

 そこに置かれた巨大な縦長の食卓には、これまた豪華な料理が所狭しと並べられている。

 そして奥側の席にどっかりと座っているのは、すっかり元気になった様子のコメルケル会長だ。


「よく来た! 今日は俺様の命の恩人達への謝恩会だ! 大いに楽しんでいってくれ!」


 そう言って彼女は、大きな口を裂けそうなほどにニンマリと歪め、牙を見せながら不敵に笑って見せた。

 服装はじゃらじゃらと沢山の宝飾品をつけた豪奢なもので、左右には美形の双子の奴隷を侍らせている。

 彼らと目が合うと、弟のトゥヤさんはひらひらと笑顔で手を振り、兄のピリュワさんは小さく会釈してくれた。

 しかし何というか、完全に成金の悪徳商人といった感じだ。普段の様子がこうなのだとしたら、街の人達の評判が芳しくないのも納得できるかも……


「ほ、本日はお招き頂き感謝する」


「えっと、お元気そうで何よりです、コメルケル会長。トゥヤさんとピリュワさんも」


 メームさんと一緒にちょっと引き気味に挨拶すると、コメルケル会長は嬉しそうに手招きする。


「うむ! さあさあ席につけ! アマンカ、お前もだぞ?」


「私は歓待する側に回りたいのですが…… わかりました」


 給仕の人達に椅子を引いてもらって着席すると、すぐに盃にお酒が注がれ始める。

 うーん。できればノンアルにしておきたいけど、せっかくのご厚意だし一杯だけ頂くか。最近は一杯だけなら大丈夫になってきたし。それよりも……

 全員青年から少年と言っていい年齢の美形の給仕の人達、それから奴隷の双子達の服装は、結構攻めたものだ

 肩や太ももが顕になっていて、何だかえっちな印象を感じる。これ、ゲスト側に男の僕がいなかったらもっと凄かったのでは……?

 --こっちの世界の男の人達って、本当に中性的な人が多いよね。例外は今のところベラーキ村のボドワン村長くらいだ。


 で、そんな露出度高めの見目麗しい男の子が沢山いるせいで、みんなの視線がチラチラと彼らの方へ泳ぐ。

 若干モヤったので、試しに小さく咳払いをしてみた。


「あ…… い、いや、違うのだタツヒト!」


「そ、そう! えっと、とにかく違うんですわぁ!」


 みんなが弾かれたように僕に視線を向け、ヴァイオレット様やキアニィさんを皮切りに必死な様子で弁明し始める。

 そんな何だか可愛い様子に、わずかに感じていた嫉妬と不安がかき消された。


「ふふっ、僕は何も言っていませんよ?」


 笑顔でそう答えると、みんな露骨にホッとした表情をする。 ……まずいな、何だかいけない遊びを覚えてしまいそうだ。

 コメルケル会長は、そんな僕らの様子を興味深そうに観察していた。


「ふむ、なるほど。お前達はそういう関係性か。面白いな……! おっと、その話は後にしよう。

 まずは酒だ! 『白の狩人』とメーム殿との出会いに、そして、俺様達への献身の末に命を散らした者たちに、乾杯!」


「「乾杯!」」






「さあ、港湾都市べレムが誇る美食の数々だ。遠慮せず食え!」


 みんなが盃を干した後、会長の号令でみんな目の前のご馳走に手をつけ始めた。

 ヴァイオレット様やキアニィさんが目を輝かせてステーキに取り掛かる中、ロスニアさんが僕も気になっていた事を口にした。


「あの、コメルケル会長。私が治療した緑鋼級冒険者の皆さんは、どんな様子でしょうか?」


「ああ、大事ないぞ。司祭…… ロスニア殿のおかげで、骨も臓腑も、酸で溶けた皮膚や肉すらも元通りだったからな。街の司祭殿も舌を巻いていたぞ。

 本当は連中もここに呼びたかったのだが、体の疲労はともかく、心の方がまだ時間がかかりそうなのだ。

 何せ丸呑みにされ、生きたまま溶かされるなどという体験をしたわけだからなぁ……」


「--そうですか……」


「もぐもぐ…… ロスニア、おみゃーが心配しても仕方にゃーにゃ。あいつらにもきっと家族とかがいるにゃ。心の問題はそいつらに任せればいーにゃ」


 沈んだ表情を見せるロスニアさんに、ゼルさんが気楽な調子で語りかけた。


「ゼル…… そうですね。では、私も頂きます。とても美味しそうです」


「おう、食え食え!」


 そこからは食事をしながら歓談の時間となった。提供された料理はどれも本当に美味しく、かつこの辺独特の食材やスパイスが効いていて初めて食べるようなものもあった。

 それもあって、うちのパーティーが誇る二人のフードファイターの胃が覚醒してしまった。

 二人以外にも、僕も含めてよく食べる人が多いので、さすがのコメルケル会長も少し引いていた。


 みんなの胃が落ち着いて来た頃、給仕の人に言ってコメルケル会長がかなりの大金を持ってきた。命の恩人達への心ばかりのお礼らしい。

 すでに依頼の報酬は貰っていると言ったのだけれど、俺様達の命の値段にしてはやすいが取っておけと押し付けられてしまった。


 そのタイミングでメームさんも本題に入った。魔物による海上封鎖が解除された際の、カカウの大量取引についてだ。

 メームさんと僕らとで話し合い、今もらった大金はその準備に当ててくれとコメルケル会長に渡すことにした。

 それでこちらの本気度が伝わったようで、コメルケル会長も笑顔で請け負ってくれたので、あっさりと話がまとまってしまった。


「さて、礼もしたし仕事の話もまとまったが…… メーム殿達は、なんでも南西のラスター火山に行きたいのだったな?」


 僕らが街を駆けずり回って火山への船を探している事は、コメルケル会長の耳にも入っていたようだ。

 メームさんはその問いに、一瞬間を置いてから口を開いた。


「--ああ。少々用事があってな」


「そうかそうか。ところで良い話があるのだが--」


 コメルケル会長の話は、確かに僕らにとって都合の良いものだった。

 彼女達の商会では、定期的に首都へ食料を売りに行き、首都周辺の古代遺跡から出土した魔導具を仕入れ、それをさらに帝国や魔導国などに輸出するといった事をして来たらしい。

 そして現在は降灰で食糧価格が上昇し、海上封鎖中のため魔導具の価格が下がっていて、大きなビジネスチャンスなのだそうだ。


 それで、是非とも首都に向かって船を出したい所なのだけれど、護衛を頼めそうな頼りになる冒険者が居ない。

 ここは実力もあって信用できる、『白の狩人』に護衛を依頼したいというのが、彼女の提案だった。

 首都はここから南西のブリワヤ州にあり、ラスター火山ともそれほど離れていない。渡に船とはこの事だ。

 僕らは、一も二もなくその話を受ける事にした。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜金曜日の19時以降に投稿予定】


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