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第029話 領都へ


 マンティスカミソリと髭剃り液のお披露目から数日後の朝、今日は領都までいく隊列に参加する。

 この村が領に支払う税は主に小麦と今回運ぶ材木だ。

 そう、物納である…… ネットバンクとかクレカ払いに対応して欲しい。


 隊列の参加者は怖い顔を生かした交渉が得意なボドワン村長、材木を運ぶ木こり十数人、護衛としてイネスさんパーティと僕だ。

 村にはもう一つ冒険者パーティいて、イネスさん達がいない間は彼女達が村を守ってくれる。

 ちなみに居残り組の方のパーティーには只人の男もいる。

 冒険者になる只人の男は居ないわけではないけど少ないらしい。

 あと、今回リゼットさんとクロエさんはお留守番だ。

 朝食後すぐ、隊列は村のみんなに見送られて出発した。


 隊列は、先頭が普通の馬車で、その後ろに材木を積載した荷車が続いている。

 普通の馬車の方は村長が御者をしていて、中身は野営用の食料や寝具なんかが入っているらしい。

 護衛の僕らはその隊列の周りに散会して周辺を警戒している状態だ。


 大事な材木を運んでいる大きな荷車は、ゴロゴロと大きな音を立てて街道を進んでいる。

 長さを10mほどに切り揃えられ、枝をきれいに払われた材木が満載されている様子は圧巻だ。

 ここでも馬人族の木こりの人たちが力を発揮し、三台の荷車を一つにつき五人程度で引いている。

 力強く荷馬車を牽引している様を見ると、改めて亜人の身体能力の凄さに驚く。

 ただ流石に重いのか、速度はゆっくり歩くくらいしか出ていない。


 「イネスさん、領都までどのくらいなんでしたっけ?」


 景色にも飽きてきた僕は、近くにいたイネスさんに話しかけた。


 「材木を積んでいる荷車がこの速度だからね。何もなければ二日で着くよ。途中でバイエという村で一泊させてもらうけどね」


 「おぉ、そうでした。領都までって意外と近いですよね」


 あ、意外でもないか。ヴァイオレット様は普段領都にいるのにちょくちょく遊びに来てくれるし。

 いや、それはあの人の埒外な身体能力によって初めて可能になることなのかも。

 多分、普通の速度で歩いてもまる一日かかる距離を、数十分で走り切ってる気がする。


 「ふふっ。我らがご領主様は、領の奥地に引きこもることを良しとされない方だからね。そしてそれは我々領民もまた然りさ」

 

 我らが開拓村ベラーキは、開拓村の名前の通り領の端っこにある。

 そしてここは国防と開拓を担う侯爵領なので、隣国との国境付近に位置するとも言える。

 そんな立地なのに結構攻めたところに領都を置いているなぁという話だ。


 「なるほどー。あ、あとこの街道もちゃんと舗装されててすごいですね。これだけ重いもの運んでも全く轍ができないですよ」

 

 材木を満載した荷車は多分トン単位の重量がある。

 そんな荷車がおそらくなん度も通ってるはずなのに、街道には轍が全くないのだ。

 石が敷き詰められているわけではなく、土を思いっきり押し固めたような均一な路面をしている。


 「あぁ。主な街道は領主様が魔法使いを派遣して舗装してくれているんだ。この街道が舗装されたのは最近になってからだけど」


 「へー、さすがヴァイオレット様のお母さんですね。インフラの整備に余念がない」


 「……村の人はだいたいそうだけど、君は特にヴァイオレット様贔屓だね」


 イネスさんがニヤニヤしながら言った。

 あれ、もしかして僕がヴァイオレット様を狙ってるのバレてる?


 「えっと、まぁ、はい。でも、みんなと同じですよ。よく村を気にかけてくれますから、当然だと思います」


 「ふふっ、そうだね。そうゆうことにしておこう。 --無謀さは若者の特権だ」


 イネスさんは眩しいものを見るような顔で微笑んだ。






 それからもしばらく歩いてお昼休憩を過ぎた頃、右手にこじんまりとした森がある場所を通った時だった。


 「……ん? イネス、右からお客さんだぜ!」


 先頭を馬車で走っていた村長が声を上げた。

 右手を見ると森の影から十数人の人影が滲み出してきた。

 目を凝らすとそれらは人間ではなかった。

 醜悪な面構えに豚のような鼻、肥満ながら筋肉質な体格、そして犬歯の発達した大きな口。


 「「グラララァァァァッ!!」」


 彼らは粗末な武器を振り翳し、咆哮を上げながら僕らに向かって走り込んできた。

 イネスさんが彼らを見て叫ぶ。


 「全体停止! 右手からオークの群れ、距離およそ50歩! 木こり達は荷車から離れないでおくれよ! 護衛は全員右手で迎え撃つ!」


 オークみたいな奴らはやっぱりオークだった。

 イネスさんの指示に、僕も含めた護衛全員が弾かれたように動いた。

 ボドワン村長も馬車を降りて腰のブロードソードに手をかけている。


 「リュシー、ニコル、間合いに入ったら打ちまくれ! 前衛組はマノンを残し、合図するまで待機!」


 イネスさんは指示を出した後、杖を掲げて唱えた。


 『石弾!(ラピス・ブレッド)


 うなりを上げた石の礫が、先頭のオークのどてっ腹を貫いた。

 オーク達は臓物を撒き散らして倒れた仲間に一瞥もくれず突っ込んでくる。

 こちらが放った矢が降り注いでもその勢いは止まらない。

 こいつらっ、恐怖心がないのか!?


 『風刃!(ベイントス・フェルム)

 

 オーク達があと10mくらいの距離まで迫った時、またもやイネスさんが魔法を放った。

 突風と甲高い風音と共に、先頭にいたオーク数匹がズタズタに引き裂かれる。


 「「ギュピィッ!」」


 数匹が潰れたような声をあげて倒れ、目の前に迫るオークは半分程度になっていた。


 「前衛組、吶喊!」


 イネスさんの声を合図に、僕らは雄叫びをあげて突進した。

 

 「「おぉぉっ!!」」

 

 最短距離で迫り、オークが棍棒を振り上げる間に心臓を槍でついて次のオークに向かう。

 走り寄ってきたことで疲れていたのか、動きの精彩を欠くオーク達を全滅させるのに時間は掛からなかった。

 決着がついたことを確認したイネスさんが声を上げる。


 「よし、みんなご苦労様! 討伐部位と魔核だけ急いで回収するよ」


 「うむ。相変わらずお前んとこは連携がうめぇなイネス」


 「ふふっ、ボドワン村長に褒められるなんて光栄だね」


 談笑しながらあたりを警戒する村長達を横目に、散らばったオークの死骸から剥ぎ取りを行う。

 村と村の間ですらあんな規模で襲撃してくるなんて、本当に魔物の脅威度が高い世界だよなぁ。

 今回は誰も怪我しなかったけど、いつこの間のアルボルマンティスみたいな強い魔物が出てくるか分からないから泣けてくるよね。






 そのあとは襲撃を受けることなく、夕方ごろに中継地点の村、バイエに着くことができた。

 バイエは僕らが住んでいるベラーキと同じように頑丈そうな柵で隙間なく囲われていたけど、その高さはうちのよりは低かった。

 森からちょっと距離があるせいだろうな。

 外にはやはり小麦っぽい畑が広がっていて、作業をしていた人たちも村の中にそろそろ帰ることろのようだ。


 「おー、ベラーキ村の人たちか。そんな時期だったな。疲れたろ、入りな」


 ボドワン村長を先頭に門に近づくと、警備していた冒険者が声をかけてくれた。


 「おぅ、また世話になるぜ。ウラリー村長はいるか?」


 「あぁ、家にいるはずだぜ」

 

 流石に材木を満載した荷車は入らないので村の外に置き、ボドワン村長を先頭に村の中に入る。

 柵の内側もやはりベラーキと似たり寄ったりだった。

 木こりや冒険者の人たちが顔見知りに声をかけながら進むと、奥の方から背の高い馬人族の人が歩いてきた。

 黒い毛並みにロングヘアー、体つきは細いけどなんだか雰囲気のあるお姉様だ。


 「いらっしゃいボドワン。相変わらずいい男ね」


 「よしてくれよウラリー。お前さんは全く老けねぇなぁ。どうなってやがんだ?」


 二人は握手しながら気やすそうに挨拶を交わした。


 「紹介するぜ、こちらはバイエ村を仕切ってるウラリー村長。で、こっちは最近俺の息子になったタツヒトだ。結構腕が立つぜ」


 やっぱり、普通の村では馬人族の人が村長なんだな。

 おっと、紹介してもらったので僕も挨拶しなきゃ。


 「初めましてウラリー村長。タツヒトです」


 「やぁタツヒト君、よろしく。ボドワン、ずいぶん可愛らしい子じゃないか。どこから攫ってきたんだい?」


 「バカ言え。こいつには村のやつが世話になってなぁ、いくとこねぇってんで俺の家に来てもらったのさ」


 「ボドワン村長にはすごくお世話になっています」


 「そうかい、それは良かった。さてボドワン、いつもの領都への納税だろう? 広場は自由に使うといい」


 「ありがとよ。こっちの準備ができたら家に邪魔させてもらうぜ」


 「あぁ、待ってるよ。我が家の奥さんと妹も君と話したいだろうからね」


 そう言ってウラリー村長は去っていった。

 

 ウラリー村長が去ったあと、みんなで夕食や寝床の準備をした。

 ボドワン村長やウラリー村長と話があるらしく途中で抜けて、僕を含む他のメンツは広場で夕食をとってさっさと寝てしまった。

 こんなところで寝られるのかと思ったけど、疲れていたのかすぐ寝入ってしまった。

 

 翌朝、僕らは早めの朝食をとってバイエ村を出発した。

 ウラリー村長から何か良くないことを聞いたのか、何かボドワン村長の表情が優れないように見えた。

 ちょっと気になったけど、込み入った話かもしれないから今はそっとしておこう。

 

 バイエ村を発ってからは魔物に襲撃されることもなく順調に進んだ。

 そして夕方頃、目の前に高い壁に囲まれた、直径1kmはありそうな巨大な城塞都市が現れた。

 都市の門の前には人が列を成し、市壁の奥には城のようなものも見える。

 僕はその威容に魅入られながら村長に問いかけた。


 「村長、ここが?」

 

 「ああ、無事についたな。ここが領都クリンヴィオレだ」


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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