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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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286/511

第286話 樹人族の国(1)

水曜分ですm(_ _)m


2025/1/4 対火山灰作戦の内容を修正(修正前:海洋投棄→修正後:固形化)


「「ホキャーッ!!」」


 灰色の熱帯雨林を往く僕らの頭上から、鋭い咆哮と共に猿のような魔物達が襲いかかる。


「シッ!」「ゼアッ!」


「ギャッ……!?」


 すでに気配に気づいていた僕らは、待ち構えるように槍や剣先を突き上げてそれを迎撃した。

 さらに第二陣、第三陣と降ってくる人間大の猿の魔物を、同じように切り刻んでいく。

 

「えい!」


『『螺旋岩(サクスム・スピラテル)!』』


 加えて後衛組の矢や魔法が樹上に殺到し、撃ち抜かれた魔物達が次々に落下してくる。

 時間にして一分も経たない内に、僕らに襲いかかった魔物の一団は全滅した。


「ふぅ…… メームさん、お怪我は無いですか?」


「ああ、大丈夫だ。相変わらずみんないい腕をしている」

 

 円形の陣形の中心。そこで後衛のメンバーと一緒に身構えていたメームさんが、緊張を解いて微笑む。

 行商人だった経験から、メームさんも嗜みとして鍛えていて、位階はなんと橙銀級だ。

 しかし彼女の本業は商人。今回の旅では物資の調達や現地の人達との折衝などで頑張ってもらい、戦闘は基本的に『白の狩人』のメンツで対処する方針だ。

 周囲を警戒していた他のみんなも残心を解き、ゼルさんが魔物達の死骸の横にしゃがみ込む。

 

「にゃー…… こいつらも、殺気飛ばしてやったのに構わず突っ込んできたにゃ…… この森にゃんだかおかしいにゃ」


「ゼル、みてごらんなさぁい。みんな灰まみれで痩せていますわぁ。この環境ですもの。きっと満足に餌を確保できていないんですわぁ……」


 キアニィさんが同情するような感じで呟く。この森に入ってから何度も魔物に襲われているけど、その様子が少しおかしいのだ。 

 魔物は魔素の影響を大きく受ける。魔素が濃い環境では、食べ物をあまり食べなくても平気なのだ。

 一方で魔素が薄い環境であれば、食べ物が無ければ普通の動物のように飢えてしまう。この辺りは、魔物の領域の中でも浅いところなのだろう。


「……急ごう。今はとにかく情報が欲しい。キアニィ、進路はこのままでいいのだろうか?」


「お待ちをヴァイレット。念の為、もう一度確認しますわぁ」


 キアニィさんがまたするすると木に上り、さらに上空へ高く飛び上がった。

 そして空中で周囲を見回した後、四肢を撓めて着地した。

 

「少しずれていましたわぁ。川はあちらの方向、もうすぐ見えてくるはずですわ」


 その後、キアニィさんの先導で僕らは大きな川に辿り着いた。そしてそこを下流に降ること暫し、事前情報にあった、大きな港町が見えてきた。






 幸いなことに、この過酷な環境にあっても人々は強かに生きていたようだ。

 港町の海側では船がたくさん出入りしていて、街道には人や馬車が行き交い、都市に入るための待ち行列ができている。

 街や街道には灰が積もっている様子が無い。多分、風魔法か土魔法で防ぐか定期的に掃除しているんだろう。


 僕らは人々の死角から目立たないように街道へ合流した。灰は相変わらず降り続けているので、口と鼻は布で覆っている。

 だと言うのに、街道を行く人々はチラチラと僕らの方に視線を送ってくる。

 おそらく、道を行く人たちの大半が樹人族(じゅじんぞく)や只人だからだろう。単にヴァイオレット様のような他の亜人種が珍しいのだ。


 そう言いつつ、僕も道を行く樹人族(じゅじんぞく)の人々に視線を走らせていた。

 基本の肌の色は茶色から緑色で、体つきは殆ど只人の女性と変わらない。しかし、その頭部はかなり特徴的だ。

 髪の毛の代わりに、地面につくほどの長い蔦や荊が生えている人。

 ショートヘアーかと思ったら葉っぱの集合で、その中から花の蕾のようなものが生えている人。

 あるいは、額から樹木がツノのように生えていたりしている人などもいる。

 あと、肌が緑色なのに只人のような普通の毛髪が生えている人もいた。けれど、その人が欠伸した瞬間、裂けるように大きく開かれた口の中に、大型肉食獣のような凶悪な牙がずらりと見えた。

 --なるほど、食虫植物か何かの樹人族(じゅじんぞく)だったのか…… いいね、すごくいい。

 初見の亜人種に出会うことは僕にとって無上の喜びなので、思わず胸が高鳴ってしまった。

 魔導大学で見かけた樹人族(じゅじんぞく)が全てだとは思っていなかったけど、それにしても多種多様だ。


「あの…… タツヒトさん、ちょっと、そのぉ……」


「え、なに、プルーナさん」


「ソワソワし過ぎであります! 恥ずかしいので、もうちょっと落ち着いて欲しいであります!」


「え……!? そ、そんなに挙動不審だった……? ごめんなさい……」


 年下の二人に指摘され、慌てて視線を前方に固定する。一方他のみんなは、やれやれと言った感じで肩をすくめている。

 おかしい。ちょっと道ゆく人たちを凝視していただけなのに…… いや、おかしいのは僕か。

 しかし、好奇心のまま周囲を観察し続ける内、少し気になる傾向に気づいた。


 街道を歩く人たち、特に樹人族(じゅじんぞく)の人達に元気がないように見えるのだ。

 表情が暗く、歩き方にも力強さがなく、目元にクマがある人までいた。

 例外として、食虫植物の樹人族(じゅじんぞく)のお姉さんはそこまで体調が悪そうには見えない。

 空を見上げると、昼を過ぎて夕方になりつつある太陽は、やはり輪郭がぼやけて光も弱い。

 日射量が少ないと、樹人族(じゅじんぞく)は体調を崩してしまうのだろうか……?


 それから僕らは都市に入るための待ち行列に並び、暫くしてから樹人族(じゅじんぞく)の衛兵さんに対面した。

 頭から荊を生やした衛兵さんは、僕らのを見て眉を上げなながら樹環国語で話し始めた。


『***族に、そっちは***族か? 珍しいな。どこから来た?』


 うーん。ちょっと聞き取れない単語がある。やっぱりまだ勉強が必要だ。

 普通なら困ってしまうところだけど、今回は頼れる商人さんがいる。


『帝国から来た。船で魔導国に行く途中で嵐に遭った。遭難して運よくこの近くにたどり着いたが、船は沈没してしまった…… ここは樹環国で合っているか?』


 一歩前に出たメームさんが、門番さんの問いに簡潔な樹環国語で応対してくれた。

 今彼女が説明してくれたのは、転移魔法陣の存在を隠すためのカバーストーリーだ。

 海路が封鎖されていて、北に魔獣大陸があるこの国へは、多少無茶があるけど今の話くらいのレアケースでしか辿り着けいないのだ。


『何、本当か!?』


 衛兵さんは大きな声でそう叫んだ後、誤魔化すように咳払いをして別の言語で話し始めた。帝国

語だ。


「これは驚いた。ああ、樹環国であっている。外国からの客は数年ぶりだ。大変だったな……

 しかし、街に入るには通行税が必要だ。一人二千レース、帝国の通貨でも大丈夫だが……」


「これで頼む」


 メームさんが帝国の通貨でかなり多めの金額を渡すと、門番さんは少し驚きつつもそれを受け取った。


「見ての通り、俺達はここの状況をわかっていない。この有様、一体何があったのか聞かせてくれないか?」


 メームさんの言葉に、門番さんは快く話を聞かせてくれた。

 彼女の話は、僕らの想像通りのところだけで無く、予想外の部分が大いにあった。

 南西の山岳地帯、つまり僕らの目的地付近の巨大な火山が、二ヶ月ほど前に噴火したそうなのだ。

 噴火は未だ続いていて、その噴煙は西からの風に煽られ、灰が樹環国全体に降り注いでしまっている。

 ここはまだましだけど、火山の近くでは常に夜のように暗いらしい。


 樹人族は一部の種族を除いて、日照条件が悪いと覿面に元気を無くし、最悪死に至る。

 また、普通の亜人よりも少なくて済むそうだが、彼女達だって当然食事を取る。このままでは作物もまともに育たない。

 事態を重くみたこの国の重鎮達は、一ヶ月ほど前に降灰を低減させる大規模な作戦を計画した。

 多くの魔法使いを動員し、継続的な重合風魔法と土魔法で火山灰を集塵、固形化し、上空への飛散を防ぐと言うものだ。

 

 しかし、高位冒険者の護衛も参加していたこの作戦は、思わぬ横槍により頓挫してしまった。

 北西の海の果てから飛来したある強力な魔物が、いつの間にか火山付近に住み着いていたのだ。

 この国にも古い言い伝えが残る伝説の魔物。呪いの炎を操る紫宝級の魔竜。呪炎竜(ファーヴニル)だ。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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― 新着の感想 ―
樹人族はけっこう幅広い感じなんですね! よくあるドライアド的なのを想像してました。 そしてタツヒトのカバー範囲の広さを見誤ってました、さすがやm(__)m
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