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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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第285話 灰色の熱帯雨林

火曜分ですm(_ _)m

悪徳商会の逮捕劇からさらに一週間ほどが経った。僕らの言語学習は順調に進み、日常会話レベルの樹環国語を習得したと、教師役の司祭様から合格を貰うことができた。

 もちろん今回の勉強でも翻訳装具の力を借りているし、困ったら現地でも使用する予定だ。

 ちなみに、メームさんはこの樹環国語習得強化合宿に遅れて参加したはずなのに、すぐに僕らに追い越した。

 今では、シャムについて二番目に流暢に喋ることができる。さすが商人。


 現地の言語をある程度習得し、装備や食料などの諸々の準備を整えた僕らは、早速樹環国に飛ぶ事にした。

 全員一緒にメーム商会のカフェで朝食を食べ、さあ出発するぞと言いながら大聖堂に向かうと、メームさんは少し不安げに口を開いた。


「タツヒト。樹環国に向かう前に猊下達に挨拶するのか? それも大事だと思うが…… 一体どうやって現地に向かうんだ?

 任せろと言うからこちらでは何も準備していないが、海路の場合は船の調達に相当手間取るはずだ」


「そうですね。出発の前に猊下には挨拶させて頂きます。移動方法については…… まぁ、すぐにわかりますよ」


「むぅ……?」


 困惑気味のメームさんを引き連れて猊下に面会した僕らは、挨拶もそこそこに、大聖堂の最奥、聖槽の間のさらに奥へ通された。

 そして、目を白黒させているメームさんの手を引き、樹環国に通じているという転移魔法陣に乗った。

 猊下はというと、魔法陣の外側に立っていつもの穏やかな調子で話し始めた。


「--さて。これから其方達は、この転移魔法陣で樹環国に飛ぶことになる。繰り返しとなるが、件の国についていくつか伝えておきたい。

 だがその前にメームよ。先ほどの聖槽の間もそうであるが、この転移魔法陣の存在は聖協会の中でも数人しか知らぬ」


「は、はい! このメーム、ここで見たことは決して口外致しません」


 緊張した様子でそういうメームさんに、猊下は小さく頷いた。


「うむ…… ではまず--」


 猊下から注意事項は大きく二つだった。

 

 一点目は、これから向かう西ゴンド大陸の北、魔獣大陸には近づくなという事。

 この大陸では、過去にそこら中で大狂溢(だいきょういつ)が繰り返された事で、現在人類はほぼ生存圏を確保できていないそうなのだ。

 生息する魔物の数も位階も他の場所とは比べ物にならないので、用がなければ近づかない方が良さそうだ。


 二点目は、とにかく慎重に、無茶をするなと言う事。

 西ゴンド大陸の国々とはここ数年国交が停止しているので、現地が今どうなっているのか分からない状況だ。 

 さらに今回の目的地、機械人形(きかいにんぎょう)の部品があると目される古代遺跡は、樹環国の南西の端、ブリワヤ州の山岳地帯にあるらしい。

 しかし、そこに最も近い転移魔法陣は樹環国の北東の端、ラズィウ州の港町付近なのだ。

 距離にしておよそ3000kmほども離れているので、仮に徒歩で行けば順調に進んでも二ヶ月は掛かる。

 加えてその経路上には、多様な魔物の住処である広大な熱帯雨林が広がっている。

 こんな感じで、今回の旅は不確定要素やハードな要素が多い。いつものつもりで無茶したら、途中で行き倒れてしまう可能性もある。安全第一で進む必要があるだろう。


「--以上だ。では行くが良い。皆、無事にここへ帰ってくるのだぞ」


「「はい!」」


 少し心配げな猊下に見送られながら、僕らは樹環国に向かって転移した。






 大聖堂の地下からの転移先は、いつものように真っ暗な闇の中だった。


「まさか転移魔法陣とは…… なんとも奇妙な感覚だった。しかし真っ暗なようだが、み、みんな居るのか……?」


 初めて転移を体験したらしいメームさんが、少し不安そうに声を上げる。


「はい、すぐ近くにいますよ。待ってください、今明かりを点けます。『灯火(ルクス・イグニス)』」


 手元に作り出した灯火(ルクス・イグニス)が、石造の古代遺跡の中を照らし出した。

 転移前と変わらず、『白の狩人』のみんなと、ほっとした様子のメームさんの全員揃っている。

 

「ふぅ。ここはすでに樹環国ということか。しかし、妙に寒いな……?」


「確かにな。いくら季節が逆転するとしても、位置から考えてもう少し暖かいはずだが……」


 メームさんの疑問、ヴァイオレット様も同意見のようだ。かくいう僕も、体感で言うと秋の終わりくらいの肌寒さを感じていた。

 今僕らがいるのは、地球でいうところのブラジルの北西あたりのはずだ。

 さっきまで僕らがいた北半球は夏だったので、南半球にある樹環国は現在冬、年間を通して一番涼しい季節だろう。

 ただ、樹環国はかなり赤道に近い位置にあるので、冬でもそんなに寒くならないはずなんだけど……


「にゃー、それよりも早くここを出るにゃ。ここで話していても仕方にゃいにゃ」


「おっと、そうですね。では行きましょう」


 転移魔法陣のある部屋から出ると洞窟が続いてて、その先は行き止まりだった。いつもの入り口の偽装だろう。

 今回はぶち破らずに、プルーナさんにお願いしてスマートに穴を開けてもらう。

 しかし、薄い石壁を開けて外に出た僕らは、一瞬言葉も無く呆然としてしまった。


 転移魔法陣の遺跡に続く洞窟は、断崖に開けられた横穴だった。そして僕らの目の前には、密林が広がっている。

 それ自体には何もおかしい事はないのだけれど、色が違った。空も、地面も、密林も、全てが白く染まっていたのだ。

 まだ朝だというのに薄暗く、太陽の輪郭もぼやけている。視界もなんだかよくない。まるで薄い霧の中にいるようだ。


「うそ…… これ雪……!? いや、色が少し黒っぽい……?」


 相変わらずの肌寒さと日射量の少なさからそう思ってしまったけど、そこらじゅうに降り積もったそれは、雪にしては少し粉っぽく、色も黒ずんでいる。

 全員が困惑する中、プルーナさんが足元のそれを掬い取り、目の前に持ってきて観察する。


「これは…… おそらく灰、きっと火山灰です。ほら、今も少しずつ空から降ってきています」


 指摘されて自分たちの体を見てみると、ほんのわずかに灰が降り積もっていた。


「火山灰って…… シャムの地図では、この辺りに火山らしきものなんて無かったんじゃ……」


「むぅ…… あるとすれば、目的の古代遺跡があるはずの山岳地帯であります。でも、ここからは3000イングも離れているはずであります」


「--つまり状況から推測するに、古代遺跡付近の火山が噴火し、その火山灰がこの辺りに降り積もっているということか。

 そして、遠く離れたここまで灰が届いたことを考えると、その噴火の規模や、影響の範囲はかなり大きい、と……」


 状況をそうまとめたヴァイオレット様に、全員がしばし沈黙する。


「うむ、ヴァイオレットの推測はかなり合っていそうだな。だが、まずは人里に向かおう。状況を確認するにも、目的地への足を確保するにも、ここに居ては始まらない」


「そうしましょう。この状況です。日照不足で体調を崩している人がいるかもしれません。あ、皆さんも、口と鼻を布か何かで覆って下さい。細かな灰を吸い込んでしまうとよくないです」


「わたくし、ちょっと木にでも登って人里の位置を確認いたしますわぁ」


 混乱から立ち直った僕らは、ようやく行動を再開し始めた。しかし、毎度何かしらのトラブルに見舞われる僕らだけど、今回も一筋縄では行かなそうだ。

お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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