第284話 新進気鋭の大商会(2)
遅くなりましたm(_ _)m
聖都に滞在し始めて一週間ほどが経った。これまでいろんな国の言葉を勉強してきたおかげか、樹環国語もちょっとは話せるようになって来ている。
ちなみにシャムは、三日くらいでほぼ完璧に習得して見せた。まぁシャムなので気にしないでおこう。
もちろんずっと勉強していたわけではなく、メームさん達と遊んだり、猊下達に稽古をつけてもらったり、簡単な依頼をこなしたりもしている。
そのメームさんだけど、僕らの次の旅に付いていくと言った決意は固かった。
危険な旅だからと説得を試みても、逆に自分が同行することの有用性を説かれてしまい、こちらが言いくるめられてしまう始末だった。さすがやり手の商人。口では敵わない。
それで、ダメ元で猊下にメームさんの同行の是非を聞いてみた。
メームさんの同行を断っていた理由は、危険だというのも勿論あるのだけれど、僕らの旅に転移魔法陣を用いるからというところも大きい。
聖協会が各国に通じる転移魔法陣を持っていることは最重要機密ですし、だめですよねぇ……?
そんな感じで尋ねる僕らに、猊下はあの者なら信用できようと、あっさりと同行の許可を下してくれたのだ。
そうなるとこちらとしても断る理由が無い。次の旅にメームさんも同行する事が決まった。
合わせて、僕らはメームさんに、僕やシャムの事情を説明した。
シャムが実は機械人形で、今回の旅は、彼女を元に戻すための部品集めである事。
そして、僕がどうやら別の世界から偶然迷い込んだ異世界人らしいという事。
メームさんはシャムの出自の件にも驚いていたけど、僕がこの世界で天涯孤独だったという事にショックを受けていた。
彼女は深く同情してくれて、目に涙を溜めて僕らを優しく抱擁してくれた。
本当に熱い人だ。その後で我に帰り、恥ずかしがりながら離れるまでセットなので、本当にズルい。
そんな感じでメームさんとの絆をより強固にした折り、彼女から僕らに指名依頼が入った。しかも、組合を通さない非公式なものだ。
事情を聞いた僕らは二つ返事でそれを引き受け、今はその依頼のために聖都から少し離れた街道を歩いているところだ。
時刻は昼頃。真夏の太陽が照りつける中、周囲の気配を探っていたキアニィさんが呆れたように息を吐いた。
「……堪え性がないですわねぇ。もう監視が切れましたわぁ」
「了解です。では、進路を例の林の方に変更しましょう。予定通りそこで乗り込みます」
「何でもいいから、早く日陰に入りたいにゃ…… あちーにゃ……」
「ゼル…… あなたはもう少し緊張感を持ちましょうよ……」
周囲に人影が無いことを改めて確認し、地面の起伏に隠れるようにして可能な限り早く進む。
そうして目的の林に到着した僕らは、そのまま中に分け入った。木々の隙間から外を眺めると、少し遠い位置に林を回り込むように街道が通っている。
街道近くの林は、野党や魔物が待ち伏せするには絶好のポイントなので、普通は街道の方を離すか林の方を伐採してしまう。
しかし、この林は街道からやや距離があるのと、少し珍しい野草が取れるという理由から、そのままにされているそうだ。
林の中で息を殺して待機すること暫し。聖都の方角から、大きめの馬車二台からなる小規模な商隊が近づいて来た。
僕らはいつでも飛び出せるように構え、林の際で馬車の動向を注視した。
そして、聖都側から見て商隊が林の影に入った瞬間、僕らは二台目の馬車に向かって駆け出した。魔法型の人を戦士型が担いで走るする高速移動モードだ。
十数mの距離を一瞬で駆け、流れるように馬車の中へ押し入る。
すると、中にいた商人の人が驚いた表情で僕らに夜曲刀を向けた。
しかし彼女。メームさんはすぐに表情を緩め、刀を鞘にしまった。
「--よかった、予定通り合流できたな。こんな仕事を頼んでしまい重ねてすまないが、よろしく頼む」
「あぁ、任せてもらおう。キアニィ、向こうの様子はどうだろうか?」
ヴァイオレット様の言葉に、キアニィさんがそっと馬車の後方を伺う。
「--気づいた様子は無いですわねぇ。このまま、作戦続行で問題ないですわぁ」
「ここまでは順調ですね。無事、引っかかってくれるといいんですけど……」
新進気鋭の大商会であるメームさん達は、聖都周辺で急速に影響力を伸ばしていた。
そしてその活動は結果的に、とある商会が行なっていた悪どい商売を潰す事になり、強い恨みを買ってしまったそうだ。
以来、その悪徳商会からの有形無形のあらゆる嫌がらせが始まり、それはどんどんエスカレートしていった。
そして僕らが聖都にくる一週間ほど前。近隣の都市に商品を運んでいた商隊が襲われ、従業員に死者が出てしまったのだ。
もちろん護衛は連れていたそうだけど、向こうには相当な手練がいるようで、全滅だったそうだ。
当然、メームさん達は聖都の騎士団、その治安維持を担当する部署に陳情を行った。
しかし、老獪な悪徳商会は巧妙に立ち回っており、逮捕に踏み切るための証拠が集まらなかったのだ。
メームさんは大いに悩んだ末、賭けに出る事にした。
極秘取引のため、少数の護衛のみで聖都の外へ出るという情報を流し、自分を暗殺しにくるであろう実行犯を釣り出す作戦を決行したのだ。
前置きが長くなったけど、僕らがメームさんから受けた仕事は、メームさん達の護衛と暗殺の実行犯の捕縛である。
メームさんと交友があり、なおかつ高位冒険者である僕らは、悪徳商会に警戒されている。
そのため、別の依頼を受けるふりをして街を出て、監視に気取られる事なくメームさん達に合流したのだ。
そしてその日の夜。野営をしていたメームさん達に襲いかかった襲撃者達を、それまで気配を消していた僕らが迎え撃った。
予想外の反撃に驚く実行犯を一人残らず捕縛した頃、キアニィさんが一人の商人風の妖精族を捕まえてきた。
メームさんによると、悪徳商会の人間らしい。どうやら、暗殺の成否を確認するために現場近くで様子を見ていたようだ。
「くそっ! なぜ『白の狩人』がここにいるんだ! 別の依頼を受けてたんじゃ無かったのか!?」
「そう見せかけたんですよ。ところで、そっちの人はかなりの腕前でしたね。もしかして、元冒険者ですか?」
僕は、十数人の実行犯の中でも一際強かった、おそらく緑鋼級はありそうな猫人族の戦士を見た。
この位階になると、普通に紐とかで縛っても千切られてしまう。なのでちょっと野蛮だけど、四肢を砕いた状態で縛っている。
彼女はバツが悪そうに僕から目を逸らすと、くいと顎を上げた。隷属の首輪が装着されている。
「--その通りだ。見ての通り俺は借金奴隷でね。まぁ、ご主人様には逆らえなかったんだ。
いててっ…… はぁ。あそこで黒に賭けていれば今頃--」
彼女の発言を耳にした僕らは、全員が無言でゼルさんを見た。
「にゃ、にゃんでみんにゃウチを見るんだにゃ!? ウチは借金はしても、悪事に手を染めたことはないにゃ! --多分……」
「いや、そこは自信を持って言い切ってくださいよ……」
それから僕らは朝を待ち、暗殺の実行犯達を伴って騎士団の元へ陳情に行った。
悪徳商会所有の戦闘奴隷や従業員。そして彼女達の情報をヒントに、夜の間にキアニィさんが回収してきた犯罪の証拠となる裏帳簿や手紙など。
聖都の騎士団の人達が動くには十分な証拠が揃っていた。
騎士団はすぐに悪徳商会の拠点を強襲、商会長を含む主要人物を軒並み逮捕した。
彼女たちが獣のように喚きながら連行されていく一部始終を、僕らは少し離れた場所から眺めていた。
通行人の人達の反応を見ると、やっとか…… というようなリアクションだったので、本当に誰もが納得するような悪徳商会だったらしい。
「彼女達は、これからどうなるんでしょう……?」
「--少なくとも、商会長や幹部連中は極刑だろう。今まではうまく立ち回っていたようだが、今回は十分すぎる証拠がある。
俺の商会の人間だけでなく、他の商会や邪魔な人間を何人も始末してきたような連中だ。その報いは必ず受けてもらう……!」
僕の呟きに、メームさんは強い怒りの表情で応えた。
「メームさん…… その、これで仇を打てましたね。悪い商人の人が居なくなって、街もよくなるでしょうし」
「それに比べて、メームは良い商人であります! 不正をせずにメームみたいに真面目にやるのが、結局のところ一番合理的なのであります!」
プルーナさんとシャムの言葉に、彼女はハッと息を呑んだ。
「あぁ…… しかし、今はああだが、奴らも最初は真っ当な商人だったらしい。
それが大きな商いに失敗し、少しづつ、仕方なしに悪事に手を染めるようになり、落ちる所まで落ちてしまったのだ。
今はお前達のおかげでうまくいっているが、俺だってああなってしまう可能性はある。気をつけねばな……」
メームさんは、先ほどとは違った険しい表情で悪徳商人達を見送った。
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