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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
14章 禁忌の天陽

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第278話 湖畔で過ごす夏のひと時(1)

すみません、遅くなりましたm(_ _)m

14章開始です。


前章のあらすじ:

 シャムを元に戻すための部品集めの旅に出たタツヒト達一行。その最初の目的は賭博と魔法の都、魔導国の首都ディニウムだった。

 都市に到着した一行は部品の情報を得るため、兎人族のエリネンの元で地下犯罪組織の仕事を手伝い、シャムと同じ顔を持つ大魔導士アシャフの元で学生生活を送ることに。

 そんな生活が半年程続いた頃、突如として地下街の深部に魔窟の入り口が出現した。都市の危機に地表と地下の人々は諍いを忘れて戦力を結集、魔窟討伐作戦を決行し、魔窟の主である巨大岩蚯蚓に辛くも勝利した。

 その後部品の回収にも無事成功した一行は、強い絆を結んだエリネンと涙の別れを交わし、聖都への帰路に着いた。


 燦々と照りつける太陽の下。草原を断ち割るように作られた街道を、僕らはひたすら南に進んでいた。

 歩くうちに周りの風景も見慣れたものになり、目的地に近づいた事で僕の歩調も自然と早くなる。

 すると後ろから、心地よい蹄の音が小走りに近づいてきた。


「タツヒト。気持ちは分かるが少し歩調が早いな。ロスニアとプルーナがバテてしまうぞ?」


 端正な顔に笑みを浮かべながら僕を嗜めてくれたのは、馬人族(ばじんぞく)の元騎士で現『白の狩人』のエース、ヴァイオレット様だ。

 今日も濃い紫色のポニーテールが似合っている。思わず見惚れてしまうほどだ。


「すみませんヴァイオレット様。もうすぐ着くと思ったら、つい」


「謝ることは無い。何せ半年ぶりだからな。かく言う私も気が急いてしまっている」


「あはは、なら一緒ですね」


 二人で笑い合って歩調を緩めて後続に合流すると、清楚という言葉の擬人化、蛇人族(へびじんぞく)の司祭のロスニアさんが、口元に手を当てながら上品に笑っていた。


「うふふ、お二人とも本当に楽しみなんですね。でも、私達なら大丈夫ですよ。ね、プルーナちゃん?」

 

「--へ? あ、はい……」


 一方、振られた方の返答は歯切れが悪い。小柄で控えめな蜘蛛人族(くもじんぞく)の天才魔導士、プルーナさんは、何やら目的地に近づくほど元気がなくなっている様に思える。

 けど、俯きがちでなその様子を見て、僕はやっと原因に思い至った。


「あ…… そっか。ごめん、浮かれてて気づかなかった。確かにちょっと入りづらいよね……」


「えっと、その…… はい。僕なんかが入ったら、あそこの皆さんは落ち着けないんじゃないかって……」


 僕らのやり取りを聞いて、他のみんなの顔にやっと理解の色が浮かんだ。

 邪神討伐の帰りに顔を出した時には、色々と配慮してプルーナさんは紹介しなかったのだ。


「そうでしたわぁ。一緒に居すぎて忘れてましたけれど、あなた、わたくしと同じく元々敵側の人間でしたものねぇ」


 あらあらと頬に手を当てながら悩ましい表情をするのは、妖艶な斥候の蛙人族(あじんぞく)、キアニィさんだ。

 彼女は元々、王国が僕とヴァイオレット様に向かって放った暗殺者だった。

 プルーナさんも元は敵国の軍人で、元の職場に不満があった二人は、今ではこうして仲間になってくれている。


「気にしすぎだにゃ。おみゃーは村の連中を痛ぶってたわけじゃにゃーし、あそこの連中はみんないい奴だったにゃ。

 タツヒトの女だって言えば、みんにゃ納得すると思うにゃ」


「そ、そうでしょうか。でも、タツヒトさんの女…… えへ、えへへへへ……」


 手を頭の後ろで組んみぞんざいな感じで言い放ったのは、猟豹人族(りょうひょうじんぞく)の双剣士でコミュ力の化身、ゼルさんだ。

 この適当な感じが良く働くこともあるんだけど、悪い方向に働いた場合は非常にまずいことになる。具体的には、借金奴隷に落ちたりする。 

 しかし、プルーナさんが笑顔になってくれたのでよかったけど、僕としてはどういう表情をしたらいいのか分からないな、あのフォロー……


「プルーナ、シャムと一緒に外で待っているでありますか?」


「シャムちゃん、ありがとう。でも、一度きちんと謝罪させて欲しいから……」


 そう言ってプルーナさんを気遣うのは、機械人形(きかいにんぎょう)の弓士、シャムだ。

 彼女は半年ほど前に強敵との戦いで大破してしまい、とある神様と、神の如き腕前の教皇ぺトリア四世猊下のお陰で一命を取り留めた。

 けれど、男としては小柄な僕と同じくらいだった体格は縮んでしまい、今は童女のような見た目になっている。

 冒険者パーティーである僕ら『白の狩人』は、彼女の体を元に戻すため、今は各地の古代遺跡を巡って機械人形の部品を集めている。

 

 半年ほど前、僕らは海の向こうの兎人族(とじんぞく)の王国、通称魔導国へ渡り、苦労してやっと一つ目の部品を手に入れることに成功した。

 その時の事を思い出すと、脳裏に魔導国で別れた兎人族(とじんぞく)の友人、エリネンの泣き顔が浮かんでしまい、まだ少し胸が苦しくなる。


 さておき、その後海路で馬人族(ばじんぞく)の王国に戻った僕らは、ヴァイオレット様の実家、ヴァロンソル領の領都に顔を出した。

 入手した部品を教皇猊下に見て必要があるので、早めに領都近くの転移魔法陣から聖都に飛ぶべきなのだけれど、あえてそこを通り過ぎて街道を進んだのだ。


「そうでありますかぁ…… あっ。みんな、向こうを見るであります!」


 元気よくシャムが指し示した街道の先を全員が注目する。

 すると、なだらかな起伏の向こう側に懐かしいものが顔を出した。

 陽の光を受けて煌めく大きな湖。そして、そこに隣接する高い円形の防壁に囲まれた開拓村。


「見えてきたね…… ベラーキの村だ!」


 




「もがもがもが! もがもがが〜!!」


 この世界における実家のようなベラーキの村の人達は、暫くぶりに顔を出した僕らに驚きながらも、笑顔で招き入れてくれた。

 しかし、入り口付近で村の人達と談笑していた僕は、奥から飛び出してきたエマちゃんに早速マウントを決められた。

 彼女は仰向けになった僕のお腹に顔を押し付け、もがもがと文句らしきものを言い募っている。

 あまりにも変わらないそんな様子に、自然と彼女の頭に手が伸びて笑みが溢れる。


「ごめんよエマちゃん。半年以上も顔を出さないで。また背が伸びたんじゃない?」


「すまないエマ。異国にまで出張っていて、途中で帰ってくる事が困難だったのだ」


 ヴァイオレット様も隣に膝をつき、二人してエマちゃんの頭を撫でる。

 他のみんなが微笑ましく見守る中、しばらくしてやっとエマちゃんが僕を解放してくれた。


「もう、二人とも心配したんだから! でも、エマはお姉ちゃんなので許してあげます!」


「ふふっ、ありがとう。リリアちゃんも大きくなったのかな?」


「うん! もう歩けるように…… あれ? そっちの蜘蛛のお姉ちゃんは……」


 楽しそうに話していたエマちゃんが、僕らの影に隠れるように気配を消していたプルーナさんに気づいた。

 すると、僕らを出迎えに出てきてくれていた村の人達もザワザワし始めた。

 特に、村付きの冒険者であるイネスさんを始め、リゼット義姉(ねえ)さんやクロエ義姉(ねえ)さんも表情を固くする。

 雰囲気が変わったことを察して、僕も含めた『白の狩人』のみんなが、プルーナさんを背に庇う。


「タ、タツヒト君。私の記憶が正しければ、その子って……」


「おい弟! そいつ、前にここを占領した連邦軍の士官じゃねぇか!?」


「どうしてタツヒト君と一緒に……?」


「あ、あの、その……」


「あちゃー…… ごめんにゃプルーナ。もしもの時は抱えて逃げてやるにゃ」


 リゼット義姉(ねえ)さんのでかい声に萎縮してしまうプルーナさんと、当てが外れて気まずそうなゼルさん。

 いや、これは完全に僕のミスだ。先に彼女の事を説明するべきだったのに、エマちゃんとの再会に浮かれてタイミングを逸してしまっていた。

 慌てて声を上げようとした所に、丁度よく頼りになる方々が現れた。

 

「おい、どうした。何があった?」


「あら! 帰ってきていたのね」


 筋骨隆々のワイルドな見た目の中年男性と、彼とは対照的な上品なおば様。この村の村長夫妻が、人垣を割って現れた。


「ボドワン村長!」


「クレール殿も、久しいな!」


「タツヒトに、ヴァイオレット様。お久しぶりでごぜえやす。ご無事で何よりで-- ん? その蜘蛛の嬢ちゃんは……」


「--ボドワン。ここでは話しづらそうだわ。ひとまず、皆さんに家に来てもらいましょう?」


 村の人達の様子を察したクレールさんに、村長も頷いた。


「……だな。おうお前ら。言いたい事もあるかも知れねぇが、ひとまず飲み込んでくれ。

 ヴァイオレット様と、あの『雷公』様が連れてきたんだ。悪さをしに来た訳じゃねぇはずだ」


 ボドワン村長は、山賊のような見た目に反して絶大な人望を誇る。彼の言葉を耳にした村のみんなは、それもそうかという表情で頷いてくれた。

 あっという間にその場を収めてしまった村長は、そのまま僕らを奥の村長宅に案内してくれた。

 どすどすと前を歩く村長の背中に、僕は我慢できず質問してしまう。


「あのー、村長。その『雷公』って二つ名、やっぱり広がってしまっているんでしょうか……?」


「おう。意味も合わせてなぁ。あれだろ? 早い話、またおめぇの女が増えたって事だろ?」


 こちらを半分振り返りながらそんな事を言いう村長。その言葉に、僕とプルーナさんは顔を見合わせてちょっと赤面してしまった。

 --ボドワン村長は、この世界における僕の父上のような方である。実際僕は彼の養子ということになっているし。

 ならばこの状況は、もしかしたら彼女を紹介しに実家に顔を出したというシチュエーションなのかも。

 彼女が複数人で、その内の何人かは元々敵だったりするのが異世界的だけど。


「えっと、はい……」


「やっぱりな。なら話は簡単だ。着いたぜ。入んな」


「長旅で疲れたでしょう? すぐにお茶を淹れますから」


 細かいことは良いからまずは入って寛げ。そんな様子の村長夫妻に、僕はじんわりとした安堵を感じながら村長宅の扉を潜った。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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