第270話 大地を蝕むもの(2)
火曜分ですm(_ _)m
「--ではもう一度確認だが、主の部屋へ突入後、打倒しうる相手の場合はそのまま戦闘に移行し、疑わしい場合はすぐに退転する。判断は私に任せてほしい。
戦闘時には、基本的に青鏡級以上の者で主を相手取り、残りの者は後衛の護衛と援護、それから取り巻きが出てきた時の対応をお願いしたい。
主を打倒した後は、魔窟補強部隊の準備が整い次第、魔窟本体を破壊する。以上だ。何か質問は?」
騎士団長が魔窟討伐部隊のみんなを見回し、質問が出ない事を確認して頷いた。
「--よし、では突入する! 我々の街に、安寧を取り戻すのだ!!」
「「おぉ!!」」
王国軍、夜曲、国外の冒険者。僕らは種族や立場は違うけれど、魔窟の上に存在する首都ディニウムを守りたいという思いは同じだ。
最大の難関を前に連帯感と戦意を高めた僕らは、歪んだ光のカーテンをくぐり、主の部屋へ突入した。
「--あれは!?」
主の部屋は、これまで見てきた魔窟と同じく、縦横が200mはありそうな巨大なドーム状だった。
壁も床も頑丈そうな岩盤製。入り口の反対側には、紫宝らしき紫色の金属に覆われた大木のような石筍、魔窟の本体が鎮座している。
そして部屋の中央では--
「ゴッゴッゴッゴッ……」
体長十数m。タンクローリーのようなサイズ感の、巨大な首伸鶏が僕らを睨みつけていた。
首を撓めドスドスと足を踏み鳴らし、今にもあの強烈な打突を繰り出してきそうな様子だ。
「170層で遭遇したものよりさらに大きい…… こいつがこの魔窟の主なのか……!?」
「ふむ…… あれが魔窟中に穴を開けたとは思えないが…… だがしかし、やる事は変わらぬ。
戦闘に移行! あの巨大な首伸鶏を討伐する!!」
「「おぉ!!」」
やや拍子抜けだけど、魔窟本体を討伐するための障害は取り払わないといけない。
僕らは、騎士団長を先頭にした青鏡級以上の前衛を前に置き、後衛と緑鋼級以下の前衛が後ろに控える陣形を取った。
するとこちらの戦意を感じ取ったのか。首伸鶏は足を撓め、こちらに猛然と突進してきた。
「グェーーーッ!!」
--ゴォッ!!
しかし次の瞬間。主の部屋の壁から、唸りを上げて巨大な何かが飛び出した。
まるで鉄道上を走る新幹線のように、長大なそれは高速かつ滑らかに地面を滑走。真っ直ぐに首伸鶏へ向かった。
ゴシャッ!!
真横から不意の一撃を喰らった首伸鶏は、その巨体をいとも簡単に跳ね飛ばされ、反対側の壁までほぼ水平に飛んだ。
一方、跳ね飛ばした方の乱入者は、長い体を円環状に丸めながら制動を掛け、ゆっくりと鎌首をもたげた。
「--な、なに事だ!?」
「なんやあれ!? ばかでっかいうえに気色わりぃ……!」
「水竜……!? いえ、こんな環境に居るはずが…… そ、それに今壁から出てきたような……」
みんなが口々に乱入者について言及するけど、誰もそれ正体知らないようだった。
確かに塒を巻いた巨体は、以前海で見たような水竜に似て細長い。
その大きさも似ていて、体長はおそらく100mを超え、直径は5m程。本当に新幹線のようなサイズ感だ。
しかしその頭部には目も鼻も口もなく、流線型で頑丈そうな甲殻に覆われているだけだ。
加えて細長い体にはヒレや足のようなもの一切なく、細長い鱗のようなものと黒い点のようなものがびっしりと生えている。
突然壁から現れたことといい不気味な外見といい、全く正体がわからない。
ただ一つ言えるのは、元から紫がかった体から発される放射光から、あの魔物が紫宝級の強敵だという事だ……!
「ゴ…… ゴゲ……」
微かな鳴き声に視線を移すと、首伸鶏が血の泡を吐きながら、立ちあがろうともがいていた。あのぶちかましを喰らってまだ息があるのか……
すると、音もなく近寄ってきた水竜擬きが、そののっぺりとした頭部をゆっくりと首伸鶏に近づけた。
食べる気なのか……? 口もないのにどうやって…… そう思った僕の疑問は、すぐに解消された。
突如として頭部の甲殻に切れ目が生じ、パックリと四つに割れ広がった。
そして顕になったその内部には、放射状に凶悪な牙が生えた丸い口が隠されていた。
「ギギギィッ!」
大きく口を開けた水竜擬きは、そのまま首伸鶏に喰らい付くと、体を蠕動させながら丸呑みにし始めた。
あまりの光景に、僕らの中から呻き声が上がる。
「うわぁ…… シャ、シャム! あの魔物が何なのか知らない!? あんなの見た事ないよ!」
「シャムもであります! じ、自信がないでありますが、可能性がある種族が一つ! 岩蚯蚓という魔物に特徴が一致するであります!」
み、蚯蚓……!? いや、でも確かに言われみれば、一定間隔で細長い体を区切るような切れ目が見えるし、頭部の近くには輪っか状に少し太くなった箇所も見られる。
「岩蚯蚓じゃと!? あいつらは成熟しても一メティモルくらいじゃぞ!?
あんなにデカいわけが--」
ヨゼフィーネ大親方が、目を見開きながら台詞を途中で止めた。そうだ。僕らはすでに、似たような事例を目撃している。
「そういう事だろう…… ここは龍穴の真上にある魔窟。鶏があそこまで巨大化するのだ。蚯蚓がそれを上回るほどに強大になっても、なんらおかしくは無い……!」
「ヴァイオレット、推理は後に致しましょう! お食事が終わったようですわぁ!」
キアニィさんの声に意識を移すと、首伸鶏の巨体をペロリと平げた岩蚯蚓が、鎌首をもたげてこちらに向き直っていた。
「ギギギギギ……」
そして奴は体全体を地面に接触させると、頭部を真っ直ぐにこちらへ向け、体の方はバネのようにぎゅっと撓めた。
まるで、何かの予備動作のような--
「--避けろ!!」
騎士団長の悲鳴のような声。それを聞いて我に返った僕らは、奴の頭部の延長線上から飛び退いた。
ゴォッ!!
瞬間。僕らが左右に分かれたた事によって生じた間隙に、身の毛もよだつ勢いで岩蚯蚓が突進してきた。
凄まじい速度によって生じた気圧差が風を引き起こし、体が引き込まれそうになる。
距離は100m程も空いていたのに、ほんの一瞬で…… なんて加速だ……!
けれど初撃は全員が避けきった。そうほんの少し安堵した瞬間、奴は僕らの間を通過し終わる前に気まぐれのように尾を振った。
--ドン!
後方に控えていたメンバー。エリネンを含む数人が、岩蚯蚓の尾に弾き飛ばされて宙を舞った。
本作の累計PVが10万の大台を超えました!
いつもお読み頂き、誠にありがとうございますm(_ _)m
これからも楽しんで頂けるよう、精進してまいります。
【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】
※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。




