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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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第268話 殺人鶏

先週の土曜分ですm(_ _)m


 人の話し声に目を覚ました僕は、野営用にプルーナさんが作ってくれた寝床からのっそりと起き上がった。

 この寝床は背の低いハンモックのような構造で、土魔法で地面から平行に生やした2本の縁石のようなものの間に、プルーナさんの蜘蛛糸を渡したものだ。

 直接地面に寝てしまうと、寒かったり痛かったり虫が来たりして大変なのだ。


 ふと縦穴の壁を見ると、昨日土魔法使いのみんなが作ってくれた螺旋階段が跡形もなく消えてしまっていた。

 これは、魔窟の土魔法によるものらしい。魔窟内に土魔法で作った構造物は、ああしてすぐに修正されてしまうのだ。

 あと、魔窟の地面に穴を開けるのもかなり大変で、よほど魔窟本体より位階が高くないと難しい。

 だから、僕らの後をついて来ている魔窟補強部隊も、まだ軽石樹(アルボラピス・リブス)の魔法を使わない事になっている。

 僕らが魔窟本体を討伐した瞬間に補強を始めるため、今は適切な位置に魔法使いを配置している段階のはずだ。


 そんなわけでこのハンモックも、寝入った時にはもっと高い位置にあったのだけれど、一晩でかなり沈み込んでしまっている。

 けれど一晩眠るには十分すぎる寝床だ。これのおかげでだいぶ快眠できたと思う。


「--うわぁ……」


 しかし僕は、目覚めるなり呻き声を漏らし、手で顔を覆ってしまった。

 なんか、めちゃくちゃエッチな夢を見てしまった。僕、ゼルさん、ロスニアさんの三人でくんずほぐれつするやつだ。

 多分、ここが魔窟の縦穴の底なせいだろうな…… あの時の体験が強烈すぎて、夢にまで見てしまったのである。

 あたりを見回すと、焚き火を囲む見張りの人達以外にも、眠っていた人達がぽつぽつと起きだしていた。

 スマホを確認すると、そろそろ起きる時間のようだった。僕は隣ですやすや眠っているヴァイオレット様を揺すった。


「ヴァイオレット様、おはようございます。もう起きる時間ですよ」


「んむぅ、わかっていりゅ…… もう起床した……」


「いや、起きてませんよ…… しょうがないなぁ、もう」


「ん〜……」


 僕は、意外に寝起きの悪い騎士様を寝床から起き上がらせると、他のみんなも起こしにかかった。

 場所と夢見のせいで、ゼルさんとロスニアさんを起こす時はお互い変な感じになってしまった。

 けど、エリネンまでちょっと様子がおかしかったのはなんでだろ?






 縦穴の底から移動した僕らは、さらに下の階層を目指してまた数日程進み、現在は推定170層ほどの場所にいた。

 この辺りになってくると、100階層の魔窟の(ぬし)クラス、青鏡級の魔物が結構気軽に出てくる。

 時たま遭遇する広間のような空間。そこで今僕らが遭遇したのもそんな強敵の一体だった。


 ガィンッ!


「ぐぅっ!?」


 魔物の攻撃をかろうじて防御したヴァイオレット様が、凄まじい勢いで後方へ弾き飛ばされた。

 僕らの目の前にいるのは、体長10mはありそうな巨大な鶏のような魔物だ。

 養鶏場などで目にする家畜化されたものと違い、戦闘に特化した恐竜のようなフォルムで、頭部の半分ほどを占める巨大で硬質な嘴を持っている。


「ヴァイオレット様、大丈夫ですか!?」


 僕はすぐに巨大鶏とヴァイオレット様の間に割り込み、後ろに声を掛けた。

 

「問題ない! タツヒト、こいつの正面に立つな! 異様な間合い、異常な威力の打突だ!」


「わ、わかりました!」


 ヴァイオレット様が体勢を立て直したのを確認した僕は、忠告通り魔物の側面に回り込んだ。

 見間違いかと思ったけど、この馬鹿でかい鶏の首は、先ほど一瞬にして十数mほど伸び縮みしたのである。

 予想した間合いの遥か先からの奇襲。もし僕があの攻撃の標的になっていたら、おそらく防げなかっただろう。


「ゴッゴッゴッゴッ…… グェーッ!」


「「クェーッ!!」」


 加えて巨大鶏の後ろには、人の大きさほどの鶏が数十羽控えていた。

 巨大鶏の号令の元、そいつらは一丸となって僕らに殺到した。


「青鏡級以上で巨大鶏を相手する! ヴァイオレット殿は後衛の守りを! 残りの者は小型の鶏を!!」


「「おぉ!」」


 イヴァンジェリン騎士団長の指示に全員が答え、隊が二つに別れて動き始めた。

 

雷よ(フルグル)!』


激流槍ハスタアクエ・フォルテ!』


螺旋岩(サクスム・スピラル)!』


 突進してくる巨大鶏に、僕を含む青鏡級魔法使い三人が魔法を放った。しかし。


「ゴゲッ!」


 鶏は巨体に見合わぬ身軽を発揮し、僕らが魔法を撃つ一瞬前に跳躍した。

 そして上空で僕らの魔法をやり過ごした後、翼を使って滑空し、騎士団長に襲いかかった。

 

「グェッ!」


 上空から音を置き去りにする速度で迫る、大砲のような嘴。

 しかし、騎士団長はそれを上回る速度で斜線から身を躱し、大地を穿って引き戻される首筋に(こん)を叩き込んだ。

 

「ふん!」

 

 バィィンッ!


「ギョェッ!?」


 しかし、鶏の頸椎を叩き折るかに思えた騎士団長の一撃は、強靭なゴムのような首筋に衝撃を吸収されてしまった。

 痛がりながらも平然と首を引き戻した巨大鶏は、警戒するように僕らから少し離れた位置に着地した。


「ぬぅ、武器との相性が悪いか……!」


「おぅ、こいつ飛んどる時はそないに早うないわ!」


 お頭さんの指摘に頷いたルイーズ魔導士団長が、僕とヨゼフィーネ大親方に向き直る。


「わかりましたわ! タツヒトさん、私たちの後に! ヨゼフィーネさん、あなたに合わせますわ!」


「分かりました!」


「承知した! 『螺旋岩(サクスム・スピラル)!』」


激流槍ハスタアクエ・フォルテ!』


 大親方と魔導士団長が、ほぼ同時に螺旋回転する岩塊と水の槍を放った。


「ゴゲッ!」


 巨大鶏は、先ほどと同じように地を蹴って飛翔し、やはりそれらの攻撃を上へ避けた。

 工夫が見られない。どうやら見た目通りの鳥頭のようだ。


「飛んだぞ! タツヒト殿!」


「ええ! 『雷よ(フルグル)!』」


 バァンッ!


 滞空中で速度の鈍った巨大鶏に、僕の雷撃が直撃した。


「ギャッ……!?」


 硬直して落下する鶏。なんとか体勢を立て直そうとするが、こちらにそれを待つ義理は無かった。


「らぁ!」


 ドザザンッ……!


 お頭さんの鋭い二連撃が走り、鶏の首は中程から切断された。


「よし! え……!?」


 ダッ…… ダダダダダッ!


 あまりの光景に、全員が目を疑って一瞬硬直してしまった。

 首を失って倒れ伏すかに思えた巨大鶏の胴体が、ヴァイオレット様と魔導士団長達に向かって突進し始めたのである。

 今更ながら、鶏の足に凶悪な長い爪が生えていることに気づいた。あんなので轢かれたら……!


「なっ…… 頭を飛ばしましたのに!?」


「防壁を……!」


 慄く二人とは対照的に、ヴァイオレット様は斧槍(ハルバート)を後ろに大きく引き絞ると、思い切り大地を蹴って前に出た。


「無用! ぜぁ!!」


 ゴシャッ……!


 大上段からの一撃は、巨大鶏の残存する頚部を縦に真っ二つにたち割り、突進の勢いを相殺した。

 そして一瞬の沈黙の後、ゆっくりと巨体が傾ぎ、地響きを上げて地面に倒れた。

 

「ふぅ…… よく止めてくれた、ヴァイオレット殿。あちらは-- カタが付いたようだな」


 騎士団長の言葉に視線を移すと、小型の鶏の最後の一体が、エリネンによって切り伏せられた所だった。


「お、そっちもちょうど終わったとこやな」


「うん。お疲れ、エリネン」


 歩み寄ってエリネンとハイタッチしていると、キアニィさんが鶏達の死骸を凝視し始めた。


「コケコケと騒がしい方々でしたわぁ…… でも、お肉はとっても美味しそうですわね。

 タツヒト君。わたくし、今夜はこの方のテリマヨ焼きが食べたいですわぁ」


 魔窟の中に持ち込める食料には限りがあるけど、僕は調味料は充実させるようにしている。

 今回もこんな状況を予想して、マヨネーズと照り焼きソース的なものを持参してきているのだ。


「ははは、任せて下さい。でも、こいつら初めて見ますね。食べられるのかな…… ねぇシャム、何か知ってる?」


「以前読み込んだ冒険者組合の資料に、特徴が一致する魔物が一種類居るであります!

 種族名は首伸鶏(バンダースナッチ)。先ほど見た通り頚部を素早く伸縮させるのが特徴的な魔物で、首以外の肉は上質な鶏肉のようで美味とのことであります! じゅるり……

 ただ、本来は小さい蚯蚓型の魔物を捕食するような、もっと小型で低位階の魔物のはずであります……

 タツヒト達が仕留めた今の個体は、体長10メティモル、位階は青鏡級に達していたでありますね」


 シャムは、首を捻りながら巨大な首伸鶏(バンダースナッチ)の死骸に目をやった。

 なるほど。やっぱりサイズは異常だったのか。


「ありがとう、よくわかったよ。確かにデカすぎるよねぇ……」


「--魔物とは元々ただの動物で、魔素が豊富な環境で異常進化した個体が始まりだと考えられていますわ。

 普通の環境では弱い魔物が、龍穴付近の魔素が豊富な環境で強力な個体になる……

 そういったことは、稀ですが昔からよく見られる現象ですの。この鶏さんもそういう事なのでしょう」

 

 僕らの会話を聞いていた魔導士団長が、丁寧に補足を入れてくれた。

 なるほど。そういえば大学の基礎魔物学の授業で、そんなことを聞いた気がする。

 しかしそうすると、ここから先は似たような強力な魔物が出てくる可能性があるわけか……

 おそらく僕と同じ考えに至ったみんなが、深刻な表情で鶏達の死骸を眺めていた。

 一方ヴァイオレット様とキアニィさんの二人は、テリマヨ焼きについて楽しそうに語り合っていた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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