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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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第267話 地下街の魔窟(3)

金曜分ですm(_ _)m

結構長めです。


 最初の魔物と遭遇してから数日。僕ら魔窟討伐部隊は着々と攻略をすすめ、現在は地下92層まで到達してた。

 もちろん魔窟なので魔物達から熱烈な歓迎を受けた。階層を下るほど黄金級の魔物の比率が多くなり、この辺りでは緑鋼級の魔物もたまに出現するようになっていた。

 魔物はどんどん手強くなるものの、魔導国の上澄の人達と僕らはその尽くを跳ね除けられている。

 ここまでは全くもって順調。問題は無いかのように思えていたのだけれど、現実はそう甘く無いようだった。


「なんという大きさだ…… 底どころか、向こう側すら見えぬとは……」


 騎士団長が呆然と呟いた。同じように目を見開いている僕らの目の前には、巨大な縦穴が存在していた。

 魔窟都市で討伐した100階層越えの魔窟でも、下層で似たような縦穴に遭遇したけど、目の前にある深淵はそれよりもはるかに大きく見えた。

 もしかしたら、こういった年月を経た巨大な魔窟は、その規模に見合った縦穴を備えるものなのかもしれない。

 魔窟の壁はうっすらと発光しているので、通路などでは十分な光量が確保できる。

 しかし、こういった開けた空間だと途端に頼りなくなり、縦穴の底どころか縁すら判然としない。


「ちょっと調べてみましょう。『灯火(ルクス・イグニス)』、も一つ『灯火(ルクス・イグニス)』」


 僕は前方と縦穴の底に向け、それぞれ三つずつ『灯火(ルクス・イグニス)』投射した。

 みんなが見守る中、キャッチボールで軽く投げるくらいの感覚で前方に飛ばした光点と、穴の底に向けて自由落下させた光点はほぼ同時に停止した。

 両方とも静止するまで10秒ほどかかったけど、前に撃ったものは三つの光点が形作る三角形がかろうじて見えるのに対し、下に落としたものは判然としない。


「う〜ん…… 多分、直径200メティモル、深さは500メティモルってところでしょうね」


「ふむ。タツヒト、穴の淵を満遍なく照らせるだろうか? 横穴の有無を知りたい」


「はい。ちょっとお待ちを」


 ヴァイオレット様のリクエストに、僕は大きめの『灯火(ルクス・イグニス)』を頭上に生成し、そのまま縦穴の方に投射した。

 投射された大きな光点は、縦穴の真ん中ほどで100個以上に分裂し、縦穴の淵にほぼ均等に着弾した。

 すると奥の暗がりが照らされ、縦穴の淵が(あらわ)になった。


「あら、とってもお上手ですのね。アシャフ協会長が目をおかけになる訳ですわ」


 それを目にしたルイーズ魔導士団長が、上品に褒めてくれた。うん。確かに目は掛けてもらってるかも。

 それに応えるために、僕は命を賭けるはめになったけど……


「あはははは…… ありがとうございます。あ、右奥に横穴がありますね。行ってみましょう」


 縦穴の淵を歩き、発見した横穴にたどり着いた所で、ヨゼフィーネ大親方が『導の碑(チプス・ヴィアエ)』を使ってくれた。

 横穴と縦穴の淵、彼女の魔法によって生成された二つの石筍は、両方ほぼ同じか大きさに成長した。


「ふむ…… 両方正解のようじゃな」


「ご苦労さん、ヨゼフィーネ。どないや団長さん。わしは、行く道は早いほうがええと思うんやけどなぁ?」


「うむ、私も同意見だリアノン殿。縦穴で行こう。今はともかく時間が惜しい。皆も、それで良いかな?」


 団長の確認に全員が頷き、僕らはほぼ垂直の縦穴を降りることにした。

 もちろん、ロッククライミングやラペリングで降りるわけではない。何せこの魔窟討伐隊には、幸い土魔法の専門家が何人も居る。

 ヨゼフィーネ大親方やプルーナさんが、縦穴の壁面に階段を生成してくれたので、まるで巨大な螺旋階段を降りるように簡単に縦穴を下っていく事が出来たのだ。


 途中、巨大なムカデ型の魔物に襲われるトラブルがあったけど、先行して警戒してくれていたキアニィさんのおかげですぐに襲撃に気づけた。

 僕らからありったけの魔法と飛び道具の攻撃を受けたそいつは、ひと足さきに巨大な穴の底に落ちていった。

 この大穴はそいつの縄張りだったのか、それ以降は襲撃を受けることも無く、無事に縦穴の底に辿り着くことが出来た。

 





***






 縦穴の底にたどり着いたタツヒト達は、その場で野営することとなった。

 巨大なムカデの死骸の他に魔物の姿が無い事と、地面が程よく平で、単に時間的にちょうど良かったからである。

 現在は食事も終え、見張りの数人を残して他の人間は眠りについている。

 

「にゃぁにゃぁ。本当にこのでっかい縦穴も、シャムとプルーナの魔法で塞げんのかにゃ?」


「可能であります! 理論上、プルーナの軽石樹(アルボラピス・リブス)には大きさの限界が存在しないであります。

 そして、シャムはそれを完全に魔法陣に落とし込み、魔窟補強部隊に配布済みであります。

 もちろん人数や時間は必要だと思うでありますが、この縦穴も問題なく補強できるはずであります」


「ほーん。ようわからんが、おまはんらが真面目に大学で勉強したおかげで、ウチらの街も助かるいうことやな。おおきにな」


「ありがとうであります! あ、でもロスニアも頑張っているであります。もうすぐ司祭の資格を取得できるんでありますよね?」


「ふふっ、そうですね。ありがとうシャムちゃん。ちょっと位階や御子の肩書に頼ってしまいましたけど、高度な神聖魔法を沢山学ぶことが--」


 焚き火を囲んで談笑しているのは、ゼル、シャム、エリネン、そしてロスニアの四人だ。

 全員、傍から見ればリラックスしているように見えるが、全方位を適度に警戒しながら過ごしている。

 そうして暫く雑談が続いたところで、エリネンがゼルの方を気にし始めた。

 ゼルは、少し前から辺りをチラチラ見回し、落ち着かない様子で体を揺すっていた。


「なぁゼル。おまはん、さっきからなんかソワソワしとらへんか? 便所なら付いていったるで。一人じゃ危のうさかいな」


「にゃ……!? にゃははは…… いや、違うんだにゃ。ウチ、こういうでかい縦穴の底にいるとムラムラしちゃうんだにゃ」


 誤魔化すように頭を掻くゼルに、エリネンは胡乱げな視線を投げかける。


「……えらい珍しい性癖やなぁ」


「いにゃぁ? そんなこともにゃいにゃ。多分ロスニアもそうだにゃ。にゃぁ?」


「え……!? あ、その…… 否定はしません……」


 知らん顔をしていたロスニアは、ゼルから水を向けられて真っ赤な顔で首肯した。

 それを見たエリネンは、ますます首を傾げてしまった。


「はぁ……? なぁシャム、こいつら大丈夫か? まさかおまはんまで同じなんて言わへんよな?」


「ん〜……? あ! 多分前の、100階層越えの魔窟討伐の時のことを思い出しているんだと思うであります!」


「「……」」


 シャムにズバリ言い当てられてしまった二人は、石像のように沈黙した。


「いや、いまいちわからへんわ。どないなことや?」

 

「えっと、以前シャムたちが討伐した魔窟にも、ここと同じような地形があったであります。

 その時事故があって、縦穴にタツヒト、ゼル、ロスニアの三人が転落してしまったのであります。

 シャム達は迂回路を通って三人に合流したのでありますが、合流時に三人の物理的距離、心理的距離は極端に縮まっていたであります!

 すなわち、情報を統合すると! ……三人は、縦穴の底で、あの、その--」


 途中まで得意げに推理を語っていたシャムだったが、恥ずかしくなってしまったのか、後半は俯きがちにゴニョゴニョと話すばかりだった。

 それを見て察したエリネンが慌てて止めに入る。


「あー、ええ、ええて。ようわかったわ。おおきにな、シャム。 --せやけどおまはんら、いったい何をしとんねん。

 魔窟の中で、その、おっ始めるなんて…… あ、頭おかしなっとんちゃうか? しかも二人がかりって、まさかとは思うけど……」


 僅かに怒気を滲ませたエリネンに、ゼルが慌てて弁明を始める。


「い、いや! 違うんだにゃ! 最初はウチが襲っちゃったんにゃけど、最終的にはタツヒトの方から求めて来てくれたんだにゃ! だから無理矢理じゃにゃいにゃ! 本当だにゃ!」


「--あの、私も流されるままに参加してしまったのですが…… 決して強引に迫った訳ではありません。

 聖職者にあるまじき行為だったとは重々承知していますが、その、そんな私を、タツヒトさんは優しく受け入れてくれました……」


「そ、そうか…… ほなええか…… 結構積極的なんやな。まぁ、あんまり意外やないけど……」


 二人の返答に、途端にトーンダウンするエリネン。

 それを見た三人は頷き合うと、兼ねてより確かめようとしていた事を口にした。


「エリネン。そっちはどうなんだにゃ。おみゃーがタツヒトに気があるのは、多分タツヒト意外全員気づいてるにゃ」


「は、はぁ!? アホ抜かせ! 誰があんな奴--」


 反応は激烈。顔を真っ赤にして立ち上がるエリネンに、ロスニアが慈愛と少しの呆れが混じった表情で語りかける。


「そのタツヒトさんのために、今こうして危険な魔窟までついて来てるじゃないですか……

 お頭さんのためという言い訳は通じませんよ? それでしたら、夜曲(やきょく)のパーティーに参加すれば良いことですし。

 エリネンさんでしたら、タツヒトさんを巡る淑女協定に加わることに誰も反対しませんよ?」


「エリネンはタツヒトと話すときに体表温度が0.5度上昇し、心拍数が一割ほど早くなる傾向があるであります!

 視線もずっとタツヒトを追っているであります! これは一般的に、恋する乙女状態と言えるであります! 素直になるといいであります!」


 シャムにまで諭されたエリネンは、数秒ほどぱくぱくと口だけを動かしていたが、観念したようにガックリと座り込んだ。


「……! あぁ…… あぁそうやわ! 命助けてもろて、一緒に仕事して同じ釜の飯食うて、あんだけ思わせぶりなことされて……!

 おまけに通すべき筋は通すし、強うて優しうて(つら)までええと来とる……!

 こないなん、惚れん方がおかしいやろ!?」


「うんうん、わかるにゃわかるにゃ。けど、そんにゃらにゃんで押し倒さにゃいんだにゃ?

 タツヒトもエリネンの事は好いてるみたいにゃけど、あいつはどエロい男の癖に、素面(しらふ)の時はすげー奥手だにゃ。

 エリネンの方から迫らにゃいと、多分話が進まにゃいにゃ」


「--そいつもわかっとる。そして、もし手ぇ出したんやったらそれなりの責任取らなあかん。

 そんで、おまはんらはここに腰落ち着けるわけにはいかへん。ウチがおまはんらについていくんが筋やわ。

 せやけどな…… ウチは頭にどえらい恩義がある。とてもまだそれを返しきれとらへんし、下のもんや、街の連中を守る勤めがある。

 それが夜曲(やきょく)やあるウチが通すべき筋やねん。それは、絶対に曲げるわけにはいかへん。

 そうやさかいウチは、この想いは仕舞っとく事にしたんや……」


 語り終えたエリネンの表情には、強い覚悟の裏に、少しの悲しみと諦めが隠れているようだった。

 その覚悟の重さに対して、かなり気軽な気持ちで質問を投げかけてしまった三人は、ハッと息を呑むことになった。


「そう、ですよね…… タツヒトさんとヴァイオレットさんも、馬人族(ばじんぞく)の王国を逃げ出してから、後ろめたさと罪悪感にとても苦しんでいたそうです。

 残して来た沢山の親しい人々が苦しんで亡くなってしまう悪夢。毎夜のように見ていたそれも、馬人族(ばじんぞく)の女王陛下と和解してやっと見なくなったとか……

 申し訳ありません。エリネンさんのお立場を考えない、軽率な発言でした」


「ご、ごめんなさいであります……」


「にゃー……」


「--いや…… むしろ気持ち吐き出せてすっきりしたわ。おおきにな。

 ほんなら、そろそろ交代の時間やないか? 次の連中叩き起こさんとあかんわ」


 揃って頭を下げる三人。エリネンは彼女達に優しく微笑むと、そう言って大義そうに腰を上げた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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