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第026話 井戸端会議(1)


 「ゔっ……」

 

 目が覚めると村長宅の自室だった。

 激しい頭痛と気持ち悪さに起き上がる気力が全く湧かない。

 風邪でも引いたのかなと思ったけど、そう言えば昨日は打ち上げで人生初のお酒を飲んだんだった。

 しんどい…… これが話に聞く二日酔いかー。

 あれ、でも僕どうやって帰ってきたんだろう?

 酒場でリゼットさんにアルハラされたあたりから記憶が曖昧だ……


 窓に目をやるともうかなり明るく、日差しの感じから盛大に寝坊したことがわかった。


 「やばっ」


 声をあげてベッドから跳ね起きると、自分の声がガラガラになっていて驚いた。

 ふらつきながら階段を降りて居間に行くと、もう村長夫妻は起きていた。


 「おはようございますっ。すみません、寝坊してしまいました」


 「おう。ガハハハ、すげー声だな。初めて酒飲んだにしては早起きだぜ」


 「ふふっ、あなたと違ってちゃんと家まで帰ってきましたしね」


 「う、うるせいやいっ、いつまでそんな昔のこと覚えてるんだよ」


 隙あらばいちゃつくなこの夫婦。

 

 「あの、僕って自分でここまで帰ってきたんでしょうか? あんまり記憶がなくて……」


 「あぁ、赤ら顔で機嫌よさそうに帰ってきたぜ。余程楽しかったんだろうな。あ、忘れないうちに護衛の報酬を渡しておこう」


 ボドワン村長は奥に引っ込むと、すぐに戻ってきて僕の手のひらに硬貨を乗せた。

 あれ? なんか護衛の報酬としてはかなり多いような気がする。


 「ありがとうございます。でも、こんなにもらっていいんですか?」


 「あぁ、ちょっと色つけといたけど気にすんな。娘の命のと比べたら安すぎてわりぃくらいだ」


 「そうですか-- では遠慮無く頂きます」

 

 「タツヒト君、朝食は食べられそう? 今朝はジャガイモとベーコンのスープよ」


 「えっと、すみません、まだ食欲が無くて…… ちょっと外の空気を吸ってきます」


 「そう、わかったわ。食べられそうになったら言ってね」


 「はい、ありがとうございます」






 村長宅の目の前は広場になっていて、真ん中に井戸がある。

 最初は、湖から水路を引いているのに井戸いるのかなと思ったけど、綺麗に見える湖の水もそのまま飲むとお腹を壊すらしい。

 井戸が大丈夫なのは、水が土か何かで濾過されてるからだろうか?

 井戸の水で顔を洗って喉を潤すと、大分気分がマシになった。

 

 ちょっと村の中を散歩しようと思ったところに、向こうからエマちゃんが歩いてきた。


 「あ、エマちゃんおはよう。昨日は騒がしくしちゃってごめんね」 


 「あ…… お、おはよう。タツヒトお兄ちゃん」


 あ、あれ? なんかエマちゃんの様子がおかしい。

 あのいつも100%の好意と笑顔を向けて突撃してくるエマちゃんが、何か恥じらうように目も合わせずモジモジしている。


 「エ、エマちゃん…… 僕、記憶が途中からないんだけど、何か変なこと言ったかな?」


 「え、覚えてないの!?」


 ショックを受けるエマちゃん。

 あれ、これ僕何かまずいことやってないか?


 「や、やぁ、タツヒト君。その、おはよう」


 そこにイネスさんもやってきた。

 彼女は全然二日酔いの様子はないけど、やはり僕と目を合わせないしちょっと様子がおかしい。


 「イネスおねぇちゃん、タツヒトお兄ちゃん昨日のこと覚えてないんだって……」


 「え!? そ、そうかい…… まぁかなり飲まされていたからね」


 「ちょっ、ちょっと待ってください! 僕昨日何したんですか?」


 「あー、まぁなんというか、凄かったよ。リゼットと二人で飲み始めたからちょっと注意して見てたんだけど、途中から変な様子になってね。近づいてみると君がリゼットをすごい勢いで口説いてたんだよ」


 「へ?」


 サー。

 自分の体内で血の気の引く音がした気がした。

 理解が追いつかないままイネスさんが続ける。


 「なんと言っていたかな…… 『リゼットさんて黒豹のようなしなやかなスタイルと濡れたような見事な毛並みが素晴らしいですよね』とかなんとか……

 言われた本人は酒で赤くなった顔をさらに赤くして、ありゃぁ満更でもないみたいだったね。

 それで面白いことになってるなぁと思って見に行ったら私も口説かれたんだよ」


 彼女は嬉しそうに語るけど僕はそれどころじゃない。


 「えっと確か、『イネスさんのお髪と毛並みは、風に靡く草原のようにたおやかで美しいですね。そして包み込むような大人の魅力を感じます』だったかな?

 あんなに詩的に口説かれたのは初めてだったから、年甲斐もなく浮かれてしまったよ。ふふっ」


 「エマはね? 膝の上に抱っこしてもらって『可愛い、可愛い』って撫でてもらったの!」


 「あ、う……」


 え、やばくない?

 特にエマちゃんのは地球だと捕まる可能性があるヤツだ。


 「あー、してもらってたね。それで他のみんなも面白がってね、我も我もと君のところに行って、全員それぞれ違った文句で口説かれてたよ」


 「え、あの場にいた全員ですか!?」


 「あぁ、ほとんど全員口説いてたね。言っただろ? 凄かったって」


 嘘だろ、全然覚えてないぞ。

 あの場にいた全員て、多分30人くらいだよね…… 確かにほとんど馬人族の人だったので、全員僕にとって魅力的だったけど。


 「まぁ酒の席だしみんな酔ってたからそんなに気にすることないよ。でも村の外で酒を飲む時には気を付けなよ? 私らが淑女だったから昨日は何も起きなかったけど、朝目覚めた時に隣に知らない女が寝てるなんてのはよくある話だからね」


 ……それはちょっと体験してみたいかも。

 ってダメだ。僕にはヴァイオレット様が…… くそ、もうこのセリフに説得力がないぞ。

 

 「イネスさん…… お酒って怖いですね」


 「はははは。その通りさ、でもその年で気づけたんなら上等だよ」


 ぐぬぬ。さっきからなんて楽しそうなんだこの人。


 「でもエマはちょっと残念だなー。何も覚えてないなんて」


 そう言うエマちゃんに、イネスさんはしゃがんで目線を合わせた。


 「いいかい、エマ。彼のようなやつを魔性の男と言うんだ。将来騙されないように気をつけるんだよ?」


 「ちょっと!? 何てこと教えてるんですか!?」


 「タツヒトお兄ちゃん、エマのこと騙すの?」


 無垢な表情で僕に問いかけるエマちゃんに思わず天を仰ぐ。

 もうお酒はこりごりだ!


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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― 新着の感想 ―
女性優位の世界で、男性から口説かれるということが一般的でない分、与える影響が大きくなる感じですかね。 一線を越えてなくてよかったw
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