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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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第258話 四時限目:魔導士論文

遅れましたが火曜分ですm(_ _)m

ちょっと長めです。冒頭四分の一は読み飛ばして頂いても大丈夫です。趣味に走りすぎました。。。


 --魔法とは周知の通り、術者の思考によって生じた念素が自身の聖素に干渉し、魔素を分離、励起させることで、所望の現象を引き起こすものである。

 魔法の効果は術者の位階や演算能力等に大きく依存し、複雑な魔法ともなると、位階によらず発動すら出来ない場合がある。

 魔法陣はこの問題を解決するものためのもので、術者の技量や属性によらず、一定の水準で魔法を発動させることを可能とする装置である。

 

 魔法陣は、数個から数万個の、素子と呼ばれる最小機能単位の集合である。

 素子は、通過した魔素をその特性に応じた状態に励起させるものであり、魔法陣はこの組み合わせにより術者の思考を代替している。

 これにより、術者は複雑な思考を必要とせず、単に魔法陣に魔素を流し込むだけで魔法を発動させることができる。


 この事による利点は大きく三つある。一点目は、冒険者等の必ずしも魔導教育を受けていない者が、強力な魔法を扱えるようになる事である。

 二点目は、刹那の対応が求められる戦闘時において、思考を伴わない反射的な魔法発動が可能となる事である。

 そして、魔導的観点において最も重要な三点目は、術者の技量に大きく依存したある魔法を、機能分解して一般化することで、その魔法への理解と応用を容易にする事である。


 ここで、本稿の趣旨である雷の具象魔法による身体強化魔法に立ち返り、その魔法陣化について述べる。

 雷魔法は火属性魔法の派生であり、術者も極少数で制御が困難とされていたことから、現在使用可能な素子が殆ど存在しない。

 一般的に、素子の形状や材質には明確な法則性が存在せず、既存の素子は膨大な試行錯誤の末に偶然見出されたものが殆どである。

 よって、本稿で言及する魔法を魔法陣化することは現状困難である。加えて、本魔法が万能型の術者を想定している点にも課題がある。

 したがって本稿では、本魔法の機能の一部を抜き出し、魔法型の術者にも実現可能な脳機能の高速化に特化させ、その理論構築を目的と--


「--ツヒト君。タツヒト君」


「ぅわっ」


 集中して筆を走らせていた所で、肩を叩かれた。ちょっと驚きながら振り返ると、そこには癒し系メガネ男子が立っていた。


「ヒュー先輩。もしかして、もうお昼ですか?」


「うん。ごめんね邪魔しちゃって。でも、今日はルフィーナとの昼食会の日だからさ」


「あ、そうでした。すみません、すぐ行きます」


 僕は席を立つと、ちょっと迷ってから脱いでいた上着を羽織り、先輩と一緒に研究室を出た。

 魔導具によって少し冷房が効いていた研究室と違い、廊下はじんわりと暖かかった。僕らがこの都市に来てからおよそ五ヶ月程が経過し、季節は初夏に差し掛かろうとしていた。

 ルフィーナ王女殿下との昼食会でなければ、半袖で過ごしたいような陽気だ。


「どう? 論文の調子は。学長が定めた期限まであと一ヶ月くらいだけど」


 昼食会の場所まで並んで歩きながら、ヒュー先輩はニコニコと尋ねてくる。この人が怒っているのを見た事が無い。


「まぁ、なんとか形になりそうです。プルーナさんの魔法と違って僕のは魔法陣化できないので、理論的にはこうすればできるはず、って感じに誤魔化す感じですけど……」


 プルーナさんはすでに自身が開発した魔法の魔法陣化を終え、さらに機能を向上させて論文にまとめている。

 ちょっと前に冒険者等級も黄金級に上がったので、絶好調という感じだ。

 シャムも魔法陣加工技術に関する論文をほぼ完成させていて、自身の技術でプルーナさんの魔法陣を高密度に構築する応用まで行っている。

 アシャフ学長が出した条件。数ヶ月で魔導士または魔導技術士を取得する目標の達成が、今一番危ぶまれているのが僕だ。いやー、大変。


「いやいや、形にするだけで大したもんだよ。僕はあと一年くらいかかりそうだなぁ」


「ヒュー先輩は、その、私生活の方が大変ですからね」


 隣を歩く彼は、初めて会った頃と比べて少し、いやかなり痩せている。表情は幸せそうなのが逆に心配だ。

 彼の左手の薬指には指輪が嵌っていて、実は僕らの後ろには影のように護衛の騎士が付き従っている。 


「あはははは…… まさか僕がルフィーナ、この国の王女殿下の婚約者になるなんてね」

 

 そう。三ヶ月ほど前の生誕祭で、ルフィーナ王女殿下とヒュー先輩は急接近し、ちょっと前に正式に婚約したのだ。

 で、僕が普段会う人達が淑女的なので忘れてたけど、兎人族(とじんぞく)は性欲がとても強い種族と言われている。

 婚約を機に歯止めを失った王女殿下は、その、ヒュー先輩と毎日とても激しく励んでおられるそうだ。

 普通だったら王族にそんなこと許されなどうだけど、この国は自分達の性質をよく理解しているらしく、避妊さえしていればOKらしい。


「婚約して、僕は改めてタツヒト君のことを尊敬したよ…… だって君って、僕の四倍は頑張ってるわけでしょ?

 もちろん今は幸せなんだけど、今の四倍頑張ったら僕は死んじゃうんじゃ無いかなぁ」


 四倍? あぁ。ヴァイオレット様、キアニィさん、ゼルさん、ロスニアさんで四人か。

 ヒュー先輩には、僕ら『白の狩人』の関係性も少し話してあるので、多分そういう意味だろう。


「そ、そうですね。僕が身体強化もできる万能型じゃなかったら、今頃干からびていると--」


「おほんっ」


 半笑いでそんなふうに返したら、後ろから咳払いが聞こえてきた。

 振り向くと、背後に付き従っていた護衛の騎士の方が、僕らを睨みながら首を左右に振っていた。


「おっと、ちょっと下品だったね。急ごうか」


「はい、先輩」


 僕らは口を閉じ、昼食会の会場に向かった。






「そう。三人とも、アシャフ学長が出された条件を達成できそうなのですね。嬉しくもありますけれど、三人が卒業してしまうのは寂しいですわね……」


 場所は、いつも昼食会が行われる静かな食堂の一室。ヒュー先輩とピッタリ並んで座っているルフィーナ王女殿下は、本当に寂しげな声でそう言った。

 彼女の左手の薬指には、ヒュー先輩と同じ指輪が嵌っていて、彼とは対照的にめちゃくちゃ肌艶がいい。

 先輩との婚約期間を色々と満喫していることが伺える。


「僕も、寂しいです…… ルフィーナ様にはとても良くして頂きましたから。その、大切な友人だと思っています。えへへ……」


「シャムも、二人とお別れするのは嫌であります…… アシャフの条件がなかったら、一緒に卒業したかったであります」


 僕の両隣に座る二人が、少し涙声になりながら言う。

 研究室が同じプルーナさんは、この数ヶ月でルフィーナ様と随分打ち解けたようだった。

 シャムも、毎回可愛がってくれるルフィーナ様とヒュー先輩にとても懐いていた。


「プルーナ、シャム……! い、いけませんわ。涙は卒業式に取っておきませんと。さぁ、昼食を頂きましょう」


 いつものように昼食会が始まり、話題は授業や研究、食べ物、季節の話から、少し不穏なものに移っていった。

 それは、この都市の住民であれば誰もが不安に思っているであろう事柄だった。


「え。それじゃあ、ガートルード先生達の調査隊は、地下街の深部を調べられなかったんですか?」


「ええ。地下街の住民の強い抵抗に遭って…… 口惜しいですが、あそこは王家の威光が届かない場所です。

 王家が依頼した正式なもので、頻発する地震の原因調査だと言っても信じてもらえず、武装集団、夜曲(やきょく)と言ったかしら? その集団に阻まれて引き返さざるを得なかったと。

 はぁ…… 地下の魔物への対応に必要とは聞いていますけれど、いっそのこと地下街など埋めてしまった方がよいのかも知れませんね」


「仕方ないですよ。地下街の人達って教養が無いから。そもそも毛並みも地表の人達と随分違うから、違う生き物と考えた方が良いのかも」


「「……!」」


 シャムとプルーナさんが何か言いかけるのを、僕はテーブルの下で手を握って制した。

 特に、形は違えど故郷でひどい差別に遭っていたプルーナさんは、内心穏やかでは無いだろう。

 しかし残念ながら、これが地表の街の人々の地下街への印象だ。彼女達と数ヶ月一緒に過ごしている僕らとは、感じ方が違うのだ。

 ルフィーナ様とヒュー先輩は、地表の人々の中でも極めて善良な方々だと思う。

 地下街への心証もまだフラットな方だと思うけど、僕らが夜曲(やきょく)の警備活動を手伝っている事は話していない。


 大学の他の学生や地表の街の人の中には、地下街の人々を忌み嫌っている人もいる。

 穢らわしい色付き、陽の光を嫌う出来損ない、犯罪者と犯罪者予備軍、下等国民…… そんなふうに呼ぶ人達すら居る。

 僕らが黙り込んだことにも気づかず、ルフィーナ様とヒュー先輩は地下街へについて話し合っている。そして--


「特に夜曲(やきょく)と呼ばれる集団は、私の代で早急に対処しなくては行けません。

 あのような犯罪者集団、百害あって一利--」


「ルフィーナ様」


 自分でも驚くほど硬い声が出て、全員が動きを止めて僕に注目した。あ、まずい。


「ど、どうしましたの? タツヒト」


「失礼…… この汁物、とても美味しいです。冷める前に頂いてしまいませんか?」


「あらいけない。話すのに夢中になっていましたわ」


「あ、本当だ。これすごく美味しいよ、ルフィーナ」


「もう。口元が汚れていましてよ、ヒュー」


 ニコニコしながらヒュー先輩の口元をナプキンで拭ってあげるルフィーナ様。

 よし、なんか急にバカップルみたいになってしまわれたけど、あのままエリネン達を貶され続けるのは辛すぎた。

 もちろん夜曲(やきょく)全体が善かというと絶対に違うけど、純粋に地下街を守ろうと命をかけている人達もいるのだ。

 

 ほっと息をついていると、左右から脇腹を突かれた。シャムとプルーナさんだ。

 二人ともちょっと笑っている。私達を止めたお前が我慢できなくなってどうすんの。といった所だろう。そりゃそうだ。

 僕はそれにわずかに頭を下げて謝ると、食事に戻った。

 しかし、地震の規模や回数が加速度的に増えているのは事実だ。このまま調査もせずに放っておくのも怖いし、今日エリネンに話を訊いてみよう。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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