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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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第255話 地下三階:盃を交わす(1)

遅れましたが金曜分ですm(_ _)m

ちょっと長めです。


 月例報告会の翌朝。いつの間にか季節は春に移り変わり、寒さを感じることもめっきり無くなった。

 昨日のアシャフ学長に謎めいた発言も気になるけど、今日はまた別のイベントがあった。

 全員が服装を整え終えたところで、宿の部屋の中に元気な声が響いた。


「ロスニアさん! 僕、準備できました!」

 

「はい。みなさんも準備はいいですか? では教会に行きましょう!」


「「お、おー」」


 ロスニアさんとプルーナさんのテンションに着いて行けず、やや戸惑い気味に応える僕達。

 今日は春分の日を超えた最初の安息日、すなわち復活祭なのだ。

 聖イェシュアナが死から復活したとされるのこの日は、彼女の生誕を祝う年末の生誕祭と並び、聖教における最も需要な祝日の一つだ。

 当然、敬虔な聖教徒であるロスニアさんと、以前聖職者を目指していたプルーナさんは大張り切りである。


 他のみんなは二人ほどの信仰心やテンションは無いけど、多分創造神様への感謝の気持ちはあるはずだ。

 シャムの件では神託という形で助けてもらったし、大森林の最奥に座す古の神獣、アラク様もなんだか創造神様を知ってるっぽかった。

 創造神様は、居るか居ないのかわからないあやふやな存在ではなく、今もどこかから僕らを見守ってくれているのだ。

 その実感を得てからは、以前と比べて大分信心深くなったと思う。本来の信仰の形とは大分違うだろうけど。


 二人に引きづられるようにたどり着いた教会は、都市中心部にある大きく荘厳なもので、おそらく一千人以上の人々が詰めかけていた。

 街には大小幾つかの教会があるけど、ここはその中でも一番大きなものらしい。聖教の本場、聖都レームにあった聖ペトリア大聖堂に迫る規模感だ。

 中に入ると、高い天井を幾つもの柱が支える広間のような廊下のようなの先に、荘厳な造りのドームが見えた。あの辺で教会の偉い人が説法してくれるのだろう。

 人だかりの中、なんとか全員でドームから離れた席に座った途端、シャムが声を上げた。

 

「あ、ヒューとルフィーナであります!」


 彼女の視線を辿ると、強化された視覚が見覚えのある二人の後ろ姿が見えた。

 ルフィーナ王女殿下の王族特権なのか、席はドームの真ん前で、僕らからかなり距離がある。


「え? ど、どこですか? 見つからないようにしないと……」


「あちゃー、こっちでかち合うとはなぁ。でも、この人だかりだからきっと向こうからは分からないよ。上手く行ってるみたいでよかった」


 ヒュー先輩とルフィーナ王女殿下とは、この二ヶ月で何度も昼食を一緒に食べたり、休みの日に遊んだりして結構仲良くなれたと思う。

 そして今日、実はヒュー先輩には、僕、シャム、プルーナさん、そして殿下の五人で、一緒に安息日を楽しもうとお誘いしていたのだ。

 しかしそれはもちろん嘘で、奥手な殿下がヒュー先輩と二人きりになれるよう、みんなで共謀したものだ。

 ちなみに、実はヒュー先輩も家格は低いけど貴種だったりするので、殿下のお相手としてはまずまずなのだ。

 そしてヒュー先輩への直接のアプローチは苦手な殿下だけど、外堀はもう完全に埋めているそうだ。さすがエリネンの妹、徹底してる。 


 ちょっと想定外だったのは、あの二人とこの教会でニアミスしてしまった事だ。

 王族やその関係者は、王城の礼拝堂でもっと厳粛な典礼を行うって話だったけど…… きっと、堅苦しいのを嫌うヒュー先輩に殿下が合わせたんだろうな。

 予定では、あの二人はこの後都市内の散策し、市場を冷やかし、王城にあるという空中庭園でロマンチックな夕食を楽しむはずだ。

 エリネンへの土産話にもなるし、結果を聞くのが楽しみだ。






 一般的な復活祭の流れをざっくり説明すると、さっきのように教会に行った後、街全体でお祭り騒ぎをするという感じだ。

 枢機卿猊下の説法を聞いたり、お祈りしたりして午前中一杯を教会で過ごした後、僕らはヒュー先輩達に見つからないように教会を後にした。

 そして外壁街に戻って市場へ繰り出し、ちょっとした用事を片付けた後、食材をしこたま買い込んだ。

 西に傾きかけた太陽に照らされながら向かう先は、地表の街の下に存在するもう一つの街、地下街だ。


「意外に買い出しに時間がかかってしまったな。だが、良いものが沢山買えた」


「ええ! タツヒト君の新作料理、楽しみで仕方ありませんわぁ!」


「ふっふっふっ。任せてくださいよ。今回のはこの国にぴったりのやつです」


 大量の食材を抱えて目を輝かせるヴァイオレット様とキアニィさん。今日新しい料理を作ると言ったら、教会に行く時のロスニアさん達くらいにテンションが上がっている。

 荷物を抱えながら地下への階段を降り、向かったのはもちろん地下二階、エリネン達浅層警備部の詰め所だ。


「おー、ごっつい買うたなぁ。まぁ入りや」


 エリネンは、僕らの抱える大量の食材に目を丸くしながら出迎えてくれた。


「あはは、ちょっと張り切りすぎたかも。炊事場借りるね」


「おう。おいおまはんら! タツヒトらぁ手伝わんかい!」


「「へい、エリネンの姉貴!」」


 首都ディニウムに来て二ヶ月。大学の方でもヒュー先輩達と仲良くなれたけど、それ以上に地下街のみんなとも仲良くなれたと思う。

 魔物から地下街を守るため、何度も命を助けたり助けられたりしたので、警備部の人達との強烈な連帯感生まれていた。

 そんなわけで僕ら『白の狩人』は、復活祭の祭りの部分を地下街で過ごす事にしたのだ。


 詰所と『白の狩人』のみんなで、わいわい話しながら料理を準備していく。

 夜曲(やきょく)であるポブルマナズは、エリネン達を始めとした警備部の他に、賭博や売春、薬物なんかを担当する部局が存在する。

 他の部局の人達はどうか分からないけど、警備部の人達は純粋に街を守りたいという気のいい人が多くて付き合いやすい。

 最初は警戒気味だった聖職者のロスニアさんも、今は警備部の人達に混じって笑顔でジャガイモを切ってくれている。


 一方僕は、例の新作料理を作っている最中だ。

 まず、市場で仕入れた大型の白身魚を大量の切り身にして、塩を振って酒で洗い流して臭みを取る。

 それを小麦粉やビールなんかで作った衣に潜らせ、火魔法で温度管理した油でこんがり揚げていく。

 ロスニアさん達にカットしてもらったジャガイモの同じよう揚げて、大皿に盛れば完成だ。


 「よし、出来たよー!」

 

 出来上がったのは、ご存じフィッシュアンドチップスだ。この国は地球でいうところのイギリスあたりなので、その辺で食べられると思ったのだけれど、全く見かけなかった。

 多分植物油が高いせいだと思うけど、無いものは作るの精神で今回作ってみたのだ。

 あと、生誕祭ではその象徴として卵料理が好まれるので、タルタルソースも添えている。

 撹拌作業が大変なマヨネーズも、身体強化にものを言わせたら結構簡単に作れた。

 卵関連の縁起物も好まれるらしいので、二ヶ月前にこなした鷲獅子(グリフォン)の卵の採集依頼も、この日のためのものだったのかも。


「うぉ〜! タツヒトの兄貴の手料理や〜!」


「待ちかねたぞ!」


 他の料理も並べられたテーブルに大皿をどんと置くと、飢えた夜曲(やきょく)のお姉さん方と、ウチからも二名のフードファイターが料理に殺到する。

 僕もジャガイモと白身魚のフライを一切れずつ食べてみる。 --うん! フライの方は臭みもなく、淡白でほろほろの身質とタルタルとの相性が素晴らしい。ジャガイモも熱々ホクホクでいい感じだ。


「う、うめぇ……!」


「止まりませんわぁ……!」


 お、おう。揚げたてで熱いはずなのに、みんな飲むように貪り食っている。身体強化で皮膚の強度を上げているのだろう。

 大皿三つに大量に作ったのに、見る見る内に無くなっていく。


「こら、おまはんらががっつくんやない! ガキ共に譲らんかい! タツヒト、手伝ってや」


「はいはい」


 エリネンと一緒に料理の皿を抱えて詰所を出ると、街の中はまさにお祭り騒ぎだった。

 いつも以上に灯火が焚かれ、道端に机や椅子を並べて楽しそうに飲み食いしたり、半裸で踊ってるいる人達までいる。

 詰所の前にも椅子や机が並べてあって、そこには近所から集まった子供達が目を輝かせながら待っていた。


「あ、エリネン!」「タツヒト兄ちゃんもおる!」


「待たせたなガキ共、タツヒトの手料理もあるで! 熱いから気ぃつけて食べぇな」


「「やったー!」」


 机に料理を置くと、欠食児童のような勢いで食べる子供達。さっき詰所内で見たとの同じ光景だ。人間は意外と成長しないのかも知れない。


「この茶色いやつがタツヒトにいちゃんの? うぁ、なんやこれ、さくさくやんけ! おおきにな、エリネン!」


「あほ! せめてさんを付けんかい!」


「この付けるやつもめっちゃ美味いわ! タツヒト兄ちゃん、ウチと結婚しよー!」


「はっはっはっ、まずは沢山食べて、もっと大きくならないとねー」


 口いっぱいに料理を頬張り、体全体で喜びを表現してくれる子供達。

 エリネン達は普段から街の守る活動をしつつ、時折炊き出しなんかもやっているので、特に子供達からの人気がすごいのだ。

 ひとしきり子供達と戯れて詰所に戻ると、中ではすでにお酒も入った連中が宴会モードに突入していた。

 あ、ゼルさんがトランプに似たカードで賭け事を始めてる。 --まぁ、今日くらいはいいか。

 あんまり深く考えず、僕もみんなに混じって宴会に混ざる事にした。

 それから馬鹿話をしながら料理を食べたり、たまに追加を作ったりして過ごしていると、厨房からみんなの居る広間に戻るときに声を掛けられた。


「おぅ、タツヒト。ちょっと来てくれへんか?」


 エリネンは、広間の隅に置かれた二人掛けのテーブルに一人で座っていた。

 何かを感じ取った僕が近寄ると、彼女は僕からちょっと目を逸らしながら小声で言った。


「あー、その、また例の独り言が聞きとうなってな」


「--あぁ。うん、もちろん。今日は沢山ネタがあるよ」


「はっ、そいつぁ楽しみや」


 僕はエリネンの正面に座り、例の独り言、大学でのルフィーナ王女殿下の様子を話し始めた。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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