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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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第252話 地下二階:エリネンのシノギ(2)

最早朝。。。遅れましたm(_ _)m


 全員で階段を駆け降りた先。最下層の地下15階には、地獄の底ような光景が広がっていた。


「「ビィィーーッ!!」」


 他の階層のように整備されていないだだっ広い坑道のような空間。そこいっぱいに、人ほどのサイズの、巨大なおけらのような魔物がひしめいている。

 薄暗い光源に黒々と浮かび上がる細長いゴキブリのようなフォルムに、巨大な顎と掘削機のようなギザギザの前脚。あれが大おけら(マグリタルパ)か。

 そいつらは悲鳴を上げて逃げ惑う人々に群れで襲い掛かり、生きたまま貪り喰っている。

 対して、日本刀のような長い夜曲刀(やきょくとう)で魔物に切り掛かっている人達がいるけど、全く手が足りていない。

 格好を見るに、前者は採掘や坑道の拡張を行っていた坑婦の人達、後者は救援に駆けつけた夜曲(やきょく)の人達だろう。

 そして、僕ら到着に気づいた夜曲(やきょく)の人が声を上げた。


「エリネンか!? 見ての通りや、手ぇ貸せ!」


「おう! おまはんら、行くで! あ、火は使うたらあかんで!」


 長い夜曲刀(やきょくとう)を鞘から引き抜いたエリネンは、僕らの返事を待たずに駆け出した。

 最近魔物が多いからと、今日はドスに加えて長物も持ち歩いていたのだ。


「了解! シャム、ロスニアさん、プルーナさんはここから援護を! 足場が悪いのでヴァイオレット様は後衛組の護衛を! 残りは散開して襲われている人を助けて下さい!」


「「応!!」」


 エリネンに遅れること数秒、僕らも動き出した。ざっと見回したところ、極端に位階の高い個体は居ない。ともかく一人でも多く助けないと……!


「わぁぁっ!?」


 視線の先、へたり込んだ坑婦らしき人に、今まさに大おけら(マグリタルパ)の凶悪な形状の前脚が振り下ろされんとする。

 僕は身体強化を最大化させ、踏むぬく勢いで地面を蹴った。

 一瞬で詰まる十数mの間合い。僕はその勢いのまま、大おけら(マグリタルパ)の頭部に漆黒の槍を突き込んだ。


 バキャッ!


「ビギュッ……!?」


 わずかな抵抗とともに深々と突き刺さった穂先は、うまく中枢を破壊したようだ。大おけら(マグリタルパ)はびくりと動きを止めると、どさりと音を立てて地面に腹をつけた。

 そいつが死の痙攣を始めた事を確認し、僕は呆然とへたり込んでいる坑婦の手をとって無理やり立たせた。


「階段へ! 急いで!」


「わ、わかった。助かったぜ!」


 上階への階段がある方向、ヴァイオレット様達の方に走っていく彼女を見送った後、僕は次の悲鳴の元へと急いだ。

 チラリと他のみんなの様子を見ると、キアニィさんとエリネンは順調に大おけら(マグリタルパ)の数を減らしている。

 エリネンの剣術はやや乱暴ながらも、きちんとした術理に裏打ちされたものだった。

 そして、中でもゼルさんの活躍には目を見張るものがあった。


「にゃにゃにゃー!!」


 ゼルさんは、圧倒的な俊足と双剣の手数を武器に、次々と大おけら(マグリタルパ)の頭部を狩り取っていった。

 そんな彼女の活躍もあり、大おけら(マグリタルパ)の数はみるみる内に減っていった。

 そして十数分後。ゼルさんが最後の魔物の頭部を跳ね飛ばした瞬間、地獄のようだった地下街の最下層に歓声が上がった。






 負傷者のへの治療や遺体の収容などを終えた僕らは、襲撃の恐怖から抜け出せて坑婦の人達に付き添うように、上階への階段を登っていた。

 よく見ると、坑婦の人達は細かい金属メッシュの入った変わったランプを吊り下げている。一部がガラス製で、中の火の大きさを測るゲージまでついてて、結構手の込んだ品だ。

 エリネンに聞いてみると、これは防火灯と言って、可燃性のガスが周囲にあると爆発を引き起こさずに中の火が大きくなり、逆に酸素の割合が低くなると火が小さくなる優れものなのだそうだ。

 採掘中にはいろんなガスが発生することがあるらしく、普通のランプだとガス爆発を引き起こすこともあるらしい。それで火を使うなって言ってたのか。

 しかし冒険者も大概だけど、坑婦も過酷な職業だな……


 今回の事故で、坑婦や夜曲(やきょく)の人々に相当数の犠牲者が出てしまった。正直、ここまでして地下街を維持、拡張させる必要があるのかとも思うけど、やむを得ない事情があるようだ。

 まず、この国の兎人族(とじんぞく)の半数は地下性であり、彼女達は習性的に、開けた地表で暮らすことに苦痛を覚えてしまうのだ。

 そして、龍穴の上に存在するこの都市の地下には、地下性の魔物もたくさん寄って来る。

 遥か昔、都市ができたばかりの頃は、知らぬまに地面の下を穴だらけにされてしょっちゅう陥没が起きていたそうなのだ。

 その対策として行われたのが、最初から都市の地下に強度計算された地下空間を作り、侵入してきた地中性の魔物を都度迎撃するという方式だ。


 その辺が得意な鉱精族(こうせいぞく)の存在、地下鉱物資源の存在、土魔法も研究する魔導大学の存在。

 それらが上手く噛み合い、ディニウムは地表も地下も今のところ上手く回っているのだそうだ。

 

 ちなみにここディニウムの地下街は、深い階層ほど面積が狭くなる氷柱型の構造をしている。

 浅層が地下一階から三階、中層が地下四階から七階、下層が地下八階から十二階。それぞれの層の合計面積はおおよそ同じくらいらしい。

 最下層の地下十三階から十五階までは、まだ採掘と整備を行っている階層で、人が住めるような環境ではない。

 そんなわけで坑婦の人達も大半は地下十二階に住んでいるそうで、階段を登り切って十二階の街並みが見えた途端、ほとんど全員が安堵の声を上げた。


「ほら、着いたで。気ぃ付けて帰りや」


「ありがとうございます!」「帰って来れたぁ……」


 エリネンや他の夜曲(やきょく)の人達にお礼を言いながら、沢山の坑婦の人達が街へ走っていく。

 魔物の巣を掘り当ててしまった事故を聞いたのか、深刻な表情で身内を迎えに来ているらしい人もたくさんいた。

 

 奥に見える地下十二階の街並みは、浅層とはかなり違った印象だ。申し訳ないけど貧民街のような様相だった。

 駆け降りた時には気づかなかったけど、街並みは雑然としてて清掃が行き届いておらず、物乞いの人や、タバコのような物を吸って虚空を見つめる人なども居る。

 この階をぐるりと見て回るだけど、人類の仄暗い側面をおおよそ網羅できてしまいそうな雰囲気だ。


「***!」「***!」


 聞こえてきた魔導国語の叫び声に視線を移すと、擦り切れた作業着を着た兎人族(とじんぞく)の坑婦と、幼い兎人族(とじんぞく)が泣きながら抱き合っていた。

 どうやら年の離れた姉妹らしい。あの事故で、幸運にも無傷で生き残ったことを喜び合っているのだろう。

 全員でなんとなく彼女達を見ていると、エリネンが口を開いた。


「よかったなぁ…… 生きて妹に会えて」


 その声色はとても優しく、表情には安堵や羨望、そしてほんの少しの寂しさが浮かんでいるように見えた。

 何か言葉をかけたくなり口を開きかけた時、後ろから服の裾を引っ張られた。首だけで振り向くと、ゼルさんとシャムだった。


「……にゃ、にゃータツヒト。ウチは、エリネンに教えてやっても良いと思うにゃ」


「シャムも、そう思うであります」


 おずおずとう言う二人に対し、他のみんなは静観の構えのようだ。僕は二人に頷くと、歩み寄ってエリネンの隣に立った。


「--エリネン。君には何の事か全くわからないかも知れないけど、ちょっと今から独り言を言うね」


「あん? なんや藪から棒に」


 横目で彼女の様子を伺うと、とても怪訝そうな表情をしている。僕はそれに構わず言葉を続けた。


「僕らは日中、ちょっと事情があって魔導大学に通ってるんだけど…… そこでルフィーナ王女殿下にお会いしたんだ」


「なっ……!?」


 エリネンは驚愕に目を見開き、長刀に手を掛けながら僕に向き直った。 --この反応。やっぱりそうなのか。


「落ち着いて、唯の独り言だよ。何かしようってわけじゃないんだ。エリネンの事を殿下やその周りの人に伝えたりもしないし、僕らが推測していることを誰かに話すつもりもないよ」


「……」


 再び怪訝そうな表情に戻るエリネン。こちらの意図を図りかねているようだ。


「……殿下は、心身ともにとても元気そうだったよ。勤勉で、僕らみたいな流れ者にも丁寧に接してくれてさ、ちょっと不敬だけど将来とてもいい女王になると思うよ。

 --えっと、言いたいことはそれだけ。独り言終わり」


「--そうか。元気なんか……」


 エリネンはポツリと呟くと、長刀から手を離し、抱き合う工婦の姉妹の方に向き直った。

 僕も視線を戻し、エリネンと一緒に姉妹を見つめ始める。そして数秒の沈黙の後、エリネンが再び口を開いた。


「何の事なのか、ウチにはさっぱりわからへん…… けどその独り言、また聞かしたってくれや」


「--うん。もちろんだよ」


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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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― 新着の感想 ―
エリネン、ルフィーナ王女殿下の関係性は難しいよね 決して触れることはできず、さりとて忘れることもできず。 タツヒトたちが介入することでどのような展開になるのか楽しみです!
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