第251話 地下二階:エリネンのシノギ(1)
超遅くなりましたm(_ _)m
王女殿下とヒュー先輩との突発的昼食会の後、それぞれ他の講義等を受けた僕ら大学組は、昨日同様夕方頃に宿へ戻った。
そこで他のみんなと合流して、お互いに軽く状況報告をしたのだけれど、やはり僕らが持ち込んだ情報がみんなをざわつかせた。
「なるほど…… 情報を統合すると、こう推測できるわけだ。
エリネン殿は、公式には存在しない王家の娘で、ルフィーナ王女殿下も姉君である彼女の事を知らない。
そして、毛並みのせいで監禁されていたところを、ポブルマナズの初代首領のように脱走し、現在は地下街で夜曲の幹部に収まっている、と。
--かなり取り扱いに注意が必要な内容だな」
僕が報告した内容を簡潔にまとめてくれたヴァイオレット様に、ゼルさんが首を傾げる。
「にゃんでだにゃ? おみゃーの妹は元気そーだったにゃって、エリネンに伝えてやれば良いにゃ」
「ゼル。あなたのそういうところは、本当に美徳だと思いますけど……」
ちょっと言いづらそうにしているロスニアさんを見て、キアニィさんが口を開く。
「他人の耳目がある所では口にしない方がいいですわねぇ。
わたくし達の推測が間違っている場合は、ただただ王家への不敬となりますわぁ。
そしてもし合っている場合は、わたくし達もエリネンも処分される可能性がありますわぁ。当代の王家の娘が犯罪組織の幹部だなんて、醜聞もいい所ですもの。
もっとも、簡単にやらせるつもりはありませんけれど」
「--そうですね。あくまで推測が合っている場合ですけど、エリネン自身、逃げ出した実家の事なんて聞きたくないでしょう。
この事は、僕らの胸の中にしまって置くことにしましょうか」
僕がそうまとめると、プルーナさんに抱っこされているシャムが、難しい表情で腕を組んだ。
「むぅ。折角血縁関係のある家族がいるのに…… シャムは、なんだか寂しい気持ちがするであります」
「--シャムちゃん。家族にはいろんな形があるんだよ。血縁が祝福になることもあれば、呪いになることだってある……」
「あ…… ご、ごめんであります……」
プルーナさんのひどく平坦な声に、シャムが慌てて謝罪した。
蜘蛛人族の彼女は、戦士型が生まれやすく、魔法型が非常に稀な『奔り人』の家系に生まれた。
彼女の故郷では魔法型の『奔り人』は差別の対象で、家庭の内外からとてもひどい扱いを受けて来たのだ。
機械人形であるシャムにしたら、肉親が居るだけで羨ましいのだろうけど、プルーナさんにとっては……
「ううん。謝る事なんてないよ。普通は肉親が居るのって嬉しい事のはず-- わっ……!?」
「むぎゅっ」
僕は気づくと、席を立ってシャムごとプルーナさんを抱きしめていた。
「--プルーナさん。僕、ここにいるみんなの事は勝手に家族だと思ってるよ」
「は、はい。ありがとうございます……」
「む。ちょっとずるいな」
「あ、ウチもウチも!」
ヴァイオレット様を皮切りに、他のみんなも僕ごとプルーナさんとシャムを抱きしめてくれた。
「み、みなさん……! ちょっと、苦しいですって…… えへ、えへへへ」
嬉しそうな声でそう訴えるプルーナさんが愛おしくて、僕らはより一層強く彼女を抱きしめた。
全員満足するまでハグし終わった僕らは、ちょっと急ぎ気味に地下街のエリネンの元に向かった。
昨日と同じように地下二階の拠点を訪ねると、彼女はすぐに出て来てくれた。
うん。やっぱり、毛並みを除いてルフィーナ王女殿下にそっくりだ。
「おう、時間通りやな。 ん? どないした、人の顔をじっと見て」
「あぁ、いや。今日も決まってるなぁと思ってさ」
「そ、そうか? おおきに。あー、ほなら行くか。今日は取り敢えず、一緒にうっとこの担当を全部周ってもらうわ。
街の連中へのおまはんらの顔見せも兼ねとるさかい、愛想ようせえよ」
「にゃ、愛想なら任せるにゃ!」
「ははっ、確かにアンタはそういうの得意そうやわ」
にっこり笑って見せるゼルさんに、エリネンも釣られて笑い出す。この人、ほんと誰とでもすぐに仲良くなるよなぁ。
エリネンに連れられた僕らは、一旦地下一階まで上がった後、地下街の外壁をぐるりと巡り、街の主だった通りなどを見て回った。
エリネンの肩書は、正確には警備部浅層領域長というものらしく、担当は浅層と呼ばれる地下一階から三階とのことだ。
そういうわけで僕らの仕事は、主に浅層を見て周り、発見し次第魔物を排除する事だ。
ちなみに、現在のディニウムの地下街は、完全にエリネン達ポブルマナズの支配下にあるそうだ。
他の街を拠点とする夜曲が、たまにちょっかいをかけに来ることもあるらしく、それに対応するのも警備部の仕事らしい。まぁ、これに関しては僕らはタッチしなくていいだろう。
エリネンが顔見せと言った通り、彼女は地下街の住民の皆さんに異常が無いか話を聞きながら、僕らを助っ人だと紹介してくれた。
夜曲の仕事の中でも、エリネン達警備部はかなり白寄りだと思っていたけど、住民の皆さんの反応から認識が間違っていないことがわかった。
子供からお年寄り、果ては男娼の方に至るまで、誰もがエリネンに好意的で、信頼を寄せているように見えたのだ。
もちろんエリネンの普段の仕事ぶりによるものなんだろうけど、仕事を手伝う僕らからしたらとてもありがたい。
途中で見かけた喧嘩の仲裁までしているのを見て、そんな事までするのかと驚いてしまった。
そんな調子で地下一階と二階を見てまわり、三階まで降りた所で、地下街の外壁に大穴が空いている場所があった。
多分、エリネンと初めて会った、岩土竜の襲撃の時のものだろう。
大穴の周りには鉱精族の集団がいて、魔法や道具を使って分厚い外壁を補修している所だった。
ここの鉱精族達は、国から地下街の設計、拡張、整備を委託されているそうなのだけれど、夜曲とズブズブらしい。
エリネンは、鉱精族の集団のリーダーらしき人と親しげに世間話をしている。
「--なるほど。そんなら、ここの補修は問題なさそうやな。親方、また何かあったら知らせや。ほなな」
「おう、ご苦労さん!!」
やたらと声がでかい親方さんに別れを告げ、さて巡回に戻ろうかと地下街に足を向けた矢先、視線の先に見覚えのある夜曲の人を見つけた。
彼女は、何やら叫びながら僕らの方に走ってくる。
「エリネンの姉貴ー!!」
「……! どうした、何があったんや!?」
やはりエリネンの部下の人だったみたいだ。彼女は僕らのところまで来ると、息を乱しながら答えた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…… 深層の警備部から応援要請です! 最下層で巣を掘り当ててもうたみたいで、100匹超えの大おけらに鉱婦らが襲われとるんです! 今すぐ来てほしいゆうてます!」
「ひゃ、百匹やとぉ……!? わかった、すぐ行く! ドナの班を残して、残りの全員に現場へ向かうように伝えんかい!」
「へい!」
指示に答えて走り去る部下を見送り、エリネンが真剣な表情でこちらを振り向く。
「聞いたやろ。ちょいと働いてもらうで?」
「もちろん、そういう約束だしね。その最下層っていうのは?」
「こっちや、ついて来てや!」
「「応!」」
先導するエリネンに続き、僕らは駆け出した。
しかし、一昨日に引き続きまた魔物の大群か。本当に魔物が増えているみたいだ。僕らが大学を卒業する頃には、落ち着いてくれると良いのだけれど……
お読み頂きありがとうございます。
よければブックマークや評価、いいねなどを頂けますと励みになります。
また、誤字報告も大変助かります。
【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】
※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。




