第250話 二時限目:基礎根源粒子学(2)
先週の土曜分ですm(_ _)m
ずれた分は、また日曜に補填する形にさせてください。。。
「はぁ……」
基礎根源粒子学の講義終わり。講義室から食堂に向かう僕の足取りは、非常に重かった。
「タツヒト、元気を出すであります! シャム達はタツヒトが優しい人だと知っているであります!」
「そうですよ! そ、それに、喜んでいる人もいましたし……」
ため息を吐く僕を、シャムとプルーナさんが励ましてくれる。
「--ものすごく少数の人はね。でも、二人ともありがとう。あの後の展開を予想して、断固拒否すればよかったなぁ……」
コリーン先生の講義自体は、とても興味深く分かりやすいものだった。
僕の殺気を食らって混乱していた生徒のみんなも、後半は先生に質問したりして積極的に講義に参加していた。
しかしその講義終わり、その殺気を放った僕自身に近づいてくる生徒は誰一人いなかった。
話しかけてみようと視線を送ると、みんなそそくさと離れていってしまったのである。
短い大学生活だけど、友達とかできたら楽しいだろうーとか思っていた僕の幻想は、脆くも砕け散った。恨みますよ、コリーン先生……
そんな感じで、二人にコリーン先生への愚痴を聞いてもらいながら歩いていると、知った顔に出くわした。
「あれ、奇遇だねタツヒト君。これから昼食かい?」
廊下の角から現れたのは、プリシッラ研究室の先輩。癒し系メガネ男子のヒュー先輩だ。
「こんにちはヒュー先輩。はい、先輩もですか?」
「うん。あ、こちらはルフィーナ王女殿下。ガートルート研究室の所属だよ」
そう言って先輩が一歩避けると、彼の後ろにエリネンが居た。
一瞬の混乱。しかし、エリネンそっくりの愛らしい顔立ちをしている彼女は、よくみたら毛並みピンクではなく純白で、年齢も少し幼く見えた。
それにヒュー先輩はルフィーナ王女と彼女を呼んだ。これは……
「え……?」
「エリ--」
これは触れてはいけないヤツだ。声をあげそうになるプルーナさんとシャムを手と視線で制した僕は、ルフィーナ王女に丁寧にお辞儀した。
「これは失礼致しました。プリシッラ研究室のタツヒトと申します。お会いできて光栄です、ルフィーナ王女殿下」
「お初にお目もじ致します、ルフィーナ王女殿下。お、同じくガートルード研究室のプルーナです」
「ザスキア工房のシャムであります!」
三人揃って頭を下げていると、王女殿下からお声がかかった。
「ええ、よろしくお願いいたします。ですがここでは私達は同じ学生、畏まる必要はありませんわ。
しかし、あなた方が噂の…… 外部の冒険者と聞いていましたのに、弁えた方々ですのね」
言われて頭を上げると、ルフィーナ王女はにっこりと上品に微笑んでいた。
彼女の側には、ヒュー先輩以外にもお付きの人々が控えていて、中でも護衛の武官らしき兎人族が僕らに油断なく視線を送っている。
しかし、やはり彼女はエリネンによく似ているけど別人。典型的な貴族のご令嬢のようだ。チラリとシャムを見て思う。この世界、同じような顔の人が多すぎでは?
「あ、ルフィーナ様。タツヒト君達も昼食に誘っていいですか? 同じ研究室ですけど、そちらのプルーナさんとはまだ話した事ないんですよね? 僕もお話を聞いてみたいですし」
「--ええ、構いませんよ」
ヒュー先輩の提案に、一瞬間を置いてから返答する殿下。それに対し、武官の兎人族の人が少し慌てる。
「殿下……!」
「良いのです。学長がわざわざ特例で入学させた方々ですもの、心配ありませんわ」
「ありがとうございます! よかったねタツヒト君。ルフィーナ様のところの料理人は、すっごく腕がいいんだよ」
「あの、大変光栄なのですが、お邪魔じゃないでしょうか……?」
「そんな事ないよ! ね、ルフィーナ様?」
「え、ええ。ご安心を、みなさん歓迎いたしますわ」
笑顔のヒュー先輩にそう言われ、王女殿下は少し赤面して顔を逸らしてしまった。お? これは……
突発的に発生した昼食会は、大学構内にある食堂の一室で行われることになった。
広い個室の中央には大きなテーブルが置いてあり、僕らは全員そこに着席している。
純白のテーブルクロス、側に控える給仕の方々、目の前には見た目も美しい料理の数々。まさに上流階級の昼食会って感じだ。
シャムは美味しそうに笑顔で料理を食べているけど、プルーナさんはガチガチに緊張している。
食事会が始まってからは、お互いの自己紹介や当たり障りの無い話をしていたのだけれど、ルフィーナ王女は終始ヒュー先輩の方ばかり見ていた。
やっぱりそういう感じか。これは本当にお邪魔してしまったらしい。
「ところでタツヒト君、なんだかさっきは元気が無かったみたいだったけど。何かあったの?」
「え? あ、いや、それがですね--」
ヒュー先輩に振られて先ほどの講義であったことを話すと、彼は吹き出すように笑い出してしまった。
「あっはっはっ、それは大変な目にあったね。コリーン先生はとても優秀で、学長にも目をかけられているんだよ。
でも、学長からよくない部分を学ばれてしまったのか、タツヒト君が被ったみたいな無茶をよくやるんだ。
だから、保護者からコリーン先生宛の苦情が頻繁に届くそうだよ。あ、そういえば殿下の時も大変でしたよね?」
ヒュー先輩の言葉に、殿下はまるで美しい思い出に浸っているかのような表情になった。
「ええ。あの時コリーン先生は、聖素の増加を体感してみようと、講義室に小型の魔物を持ち込みました。
そしてその魔物を、将来この国の代表となられる殿下に仕留めて頂きましょうなんて言ったんですの。
今でこそ平気ですけれど、当時のまだ幼い私にはとても出来ませんでした……
その時、ここは僕に譲ってくれませんかと言って、ヒューが助けてくれましたの。本当に懐かしいですわ……」
「ヒュー、かっこいいであります!」
「あはは、そうかな?」
頭に手をやりながらちょっと照れているヒュー先輩と、彼を愛おしげに見つめるルフィーナ殿下。
よし、せっかくの二人のお時間を邪魔してしまったのだから、ちょっとアシストを試みてみよう。
「お二人はその頃からご交流があったんですね。道理で、とても仲が良いように見えたわけです」
「あ、あら。うふふ……」
「うん。有難いことに、殿下にはとても良くしてもらっているよ」
おぉ、ちょっといい雰囲気かも。二人とも笑顔で見つめあっている。よしよし。
「あなた、タツヒトと言ったかしら。本当にとても弁えていらっしゃるのね。
--ところでカイラ。もう少し離れていて下さらない? 今は学友との食事を楽しみたいんですの」
とても上機嫌な様子の殿下が、側に控えていた武官の方にそう言った。
「しかし…… 承知いたしました、殿下」
渋々といった様子で離れていく彼女を見送りながら、殿下は小さくため息を吐いた。
「全く…… 少々過保護ですわ」
「仕方ありませんよ。殿下はやっとお生まれになった陛下のお世継ぎですから」
「それにしても、ですわ」
やっとお生まれになったお世継ぎ。その言葉を聞いて、僕の脳裏にまたエリネンの姿が思い浮かぶ。
殿下はエリネンとそっくりな上、数歳年下に見える。加えて、エリネンが所属する組織に伝わる王族に関する逸話。
もしかして本当に-- 思考が暴走しそうになった瞬間、殿下が口を開いた。
「ねぇプルーナ。あなたのお話も聞かせて下さらない? 同じ属性を学ぶ身として、実践で培われた土魔法にはとても興味がありますわ」
「は、はい! 僕が得意としているのは--」
楽しそうにプルーナさんと話す殿下を見て、僕はそのことについて深く考えることを辞めた。
エリネンは今の生き方を気に入っているようだし、殿下も幸せそうに過ごしている。それでいいはずだ。
突発的に始まった昼食会は意外に盛り上がり、次の講義時間ギリギリまで続けられた。
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