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第025話 飲みニケーション


 村に着く頃には日が沈みかけていて、僕らが入ると同時に村の門が閉じられた。

 帰りが遅いぞと詰め寄る村のみんなに事情を説明すると、ちょっとした騒ぎになった。

 リゼットさんは村に着く頃には目を覚ましていたけど、お土産のカマキリの丸焼きがかなり衝撃的だったみたいだ。


 それからリゼットさん達と一緒に村長宅に向かい、今日あったことを報告した。

 村長夫妻からはものすごく感謝された。

 具体的には村長の馬鹿力で包容され、奥さんのクレールさんには涙ながらに何度もお礼を言われた。

 義理の姉上達はというと夫妻からの愛情多めのお説教を受けていた。

 二人とも黙って聞いていたけど、リゼットさんが神妙な顔をしていたのが印象的だった。

 リゼットさんは念の為ソフィ司祭に診てもらったけど、特に問題は見つからなかった。

 やっぱり古代遺跡産の治療薬はすごいみたいだ。


 そしてそのままお疲れ様回、というか飲み会に傾れ込むことになった。

 みんなでワイワイ喋りながら酒場兼冒険者宿舎のエマちゃん家に急ぐ。

 その中に何故かソフィ司祭もいらっしゃる。はて。


 「あの、司祭様ってお酒飲めるんですか?」


 「えぇ、神は飲酒を禁じてはいません。亜人と只人の融和こそ神の願い、むしろ良い交流の機会です」


 いつものアルカイックスマイルで答える司祭様。

 そういえばソフィ司祭の説法の中にそんな内容があったな。

 村、というかこの国ではってことになると思うけど、七日に一度安息日というものがある。

 その日はみんな教会に行って、お祈りをしてソフィ司祭の説法を聴くのだ。

 正直あんまり真面目に聞いてなかったけど、今度はちゃんと聞いてみよう。

 只人と亜人は仲良くしましょうっていう教義には大賛成だ。結構いいこと言う神様だよね。






 酒場についてエマちゃん達に食事と飲み物を注文して待つこと暫し。

 カップが行き渡ったのを見たイネスさんが立ち上がった。


 「みんな今日は災難だったね! でもこうして全員無事ここに帰って来れた。まずはそれを祝おうじゃないか! そして見事大物のアルボルマンティスを仕留めたタツヒトに、かんぱ〜い!」


 イネスさんが音頭を取ると歓声が上がり、みんな好きに飲み食いを始める。

 なんだかすごく華を持たせてくれてるな。今日のMVPはイネスさんだと思うけど、ありがたいことだ。

 酒場には、彼女をはじめとした僕を含む護衛組と木こり組がいて、かなり混雑している。

 なのでみんな、同じテーブルにいる人に対して叫ぶように会話している。


 「タツヒト、よく擬態したアルボルマンティスに気づいたな! アタシは全く気づけなかったぜ」


 「いや、偶然ですよ。でも本当に全員無事帰って来れてよかったです」


 「ほんとだよね〜。でも私は途中で吹き飛ばされて情けないとこ見せちゃったよ〜」


 「いやいや、踏ん張ってくれて助かりましたよ。僕とクロエさんだけだったら最後まで防ぎきれませんでしたから」


 染みついた日本人的な謙遜をしながらも、同じテーブルの護衛組の人達と楽しく飲み食いする。

 僕は大抵村長宅で食事を頂くので、エマちゃん家で食べるのは久しぶりだ。

 確か村に来て直ぐぐらいの時に、娘を助けてくれたお礼ってことでご馳走になったんだった。

 あの時食べさせてもらったマスのパイ包み、森の香草が効いてて美味しかったなぁ。

 今日みたいな大人数の飲み会では作ってられないだろうけど。


 「あ、ちょっと飲み物もらってきます」


 飲み物が切れたので厨房に向かう。

 今日はエマちゃんとお父さんの二人で酒場を回しているので、セルフサービスなのだ。

 実はエマちゃんのお母さんがご懐妊らしく、今日はつわりがひどいので休んでいるそうだ。

 そう言えば、会った当初から少し体調が悪そうだった。

 馬人族の場合、上半身ではなく馬体のお腹の方にお子さんが宿るので、言われないと気づけないんだよね。


 「エマちゃーん、お酒と果実水もらえるー?」


 「はーい! あ、タツヒトお兄ちゃん! ちょっと待ってねー」


 厨房から顔を出したエマちゃんが嬉しそうに答えてくれる。

 ちなみに果実水は僕のだ。この国では15歳が成人年齢らしいけど何となくお酒は避けている。

 待つこと数十秒、エマちゃんが厨房の奥からパタパタと走ってくる。

 

 「はい、どうぞ!」


 「ありがと! 今日は大人数で来ちゃってごめんね? お父さんと二人で大変じゃない?」


 「んーん! エマもこれからお姉さんになるんだもん、頑張らないと!」


 ふんすっ、と言った感じで両手を握るエマちゃん。かわいい。


 「そっかぁ。 頑張り屋さんだね。でも、手が足りなくなったら教えてよ。僕、結構料理得意だからさ」


 「うん、わかった! ありがと、タツヒトお兄ちゃん!」


 それじゃぁとエマちゃんに手を振り厨房を後にする。

 いやぁ、ほんとええ子やで。

 僕があの歳の頃はゲームばっかりやってたなぁ。いやえらいよほんと。


 飲み物を持ってテーブルに戻ると、少し不穏な会話がされていた。


 「そういやぁ、アルボルマンティスなんて久しぶりに見たなぁ」


 「え〜? 言われてみればそうだね〜」


 「あの魔物はこの辺によく出る魔物なんですか? 結構強かったと思うんですけど」


 席に座りながら聞くと、赤い顔をしたみんなが上を向いて考え込む。

 結構お酒が回ってきてるみたいだ。


 「いんや、もっと森の深いところならまだしも、あんな淵のところで見たのは初めてだぜ」


 「あの強さだと下手したら黄金級はあったよね〜。あんながちょくちょくいたら命がいくつあっても足りないよ〜」


 「そうですか…… ちょっと怖いですね」


 でもまぁ、今回はたまたま運が悪かったって可能性もあるかな。

 今は打ち上げを楽しもう。






 前衛職あるあるの話で盛り上がっていると、後ろに人の立つ気配がした。

 振り返るとリゼットさんだった。

 お酒を片手に赤ら顔だけど、バツの悪そうな顔をしている。

 アルボルマンティスに装備を引き裂かれてしまったせいか、普通の村娘って感じの服を着ていて一瞬わからなかった。


 「よ、よぉ」


 「あ…… どもです。身体の調子はどうですか? 古代遺跡から出た治療薬なので、体力の消耗もないと思うんですけど」


 「げ。それめちゃくちゃ高いやつじゃねーか。 あー、まだちょっとふらつくけどどこも痛くねぇ、大丈夫だ。って違う! あー、その、ちょっとつら貸せや」


 えぇ…… それ校舎裏とかで締められるやつじゃん。こわっ。

 あとふらつくのは酒のせいかも。


 「……分かりました。では、ちょっと席を外します」


 「おう。エロいことされそうになったら声上げろよ。ガハハハハ!」


 「やんねーよ! バカ!」


 同じテーブルのみんなに声をかけてからリゼットさんの後を追う。

 彼女が壁際の誰も座っていないテーブルに座ったので、僕もそれに倣った。

 

 「あー、その、なんだ…… ありがとよ。おかげで命拾いしたぜ」


 言いにくいことを言う時の仕草にめちゃくちゃ村長の面影を感じるな。

 

 「ええ。助けられてよかったです」


 「……おう」


 リゼットさんが押し黙って俯き、そのまま会話が途切れる。

 喧騒の中、僕とリゼットさんの間にだけ沈黙が流れた。

 き、気まずい!


 パタッ


 そうしている内に、彼女の手元に雫が一つ落ちた。

 僕もびっくりしたけど、本人の方がびっくりしたらしく、必死に目元を拭っている。


 「ぐっ、くそっ……」


 「あ、あの、お酒持ってきます!」


 見てはいけないと思い、咄嗟に言い分けして席を立ってしまった。

 そして本当に厨房からお酒をもらい、なるべくゆっくり歩いてテーブルに戻った。

 よかった、目元は赤いけどもう泣き止んでいるようだ。

 カップにお酒を注いでリゼットさんに差し出す。


 「どうぞ」


 彼女は僕が差し出したカップをひったくった。そして。


 ッガン!


 一息に飲み干してからテーブルに叩きつけた。


 「情けねぇっ……! 散々当たり散らしておいて、命助けられて、目の前で泣いちまうなんて、くそっ、くそっ……」


 確かに…… 僕が同じ立場だったらめちゃくちゃ気まずいだろうな。

 何となく何も言わない方がいい気がして、黙って彼女のカップにお酒を注ぐ。

 彼女はまたそれを飲み干すと、こちらをギロリと睨んだ。


 「大体オメェよぉ、俺より年下の、しかも男の癖に俺より強くて、親父の仕事手伝えるくらい頭も良くて、ヴァイオレット様とも仲がいいってふざけんなよ…… ふざけんなよ!」


 「えっと、ありがとうございます?」


 「褒めてんじゃねぇよ! くそっ…… 気にいらねぇ。お前も飲め!」


 「えぇ…… いや、僕お酒飲んだことないですよ」


 「僕お酒飲んだことないですよぉ、だぁ……? ギャハハハッ、じゃぁ俺がお前の童貞奪ってやるよ! オラ!」


 そう言って彼女は余ったカップにお酒をジャバジャバと注ぎ、僕の目の前にガンッと叩きつけた。

 あー、めっちゃ溢れてるよ。


 「えっと…… じゃぁ一杯だけ」


 なんか飲まないと収まらなそうだし、どんな味かちょっと興味あったんだよね。

 カップに入った赤い液体、おそらく葡萄酒に恐る恐る口をつける。

 あ、意外と美味しいかも。アルコールの匂いはするけど、独特の香りとほのかな甘味が嬉しい。


 「結構美味しいですね、これ」


 「おぉ、いける口じゃねぇか! 村で作ってる葡萄酒だ! どんどん飲め!」


 リゼットさんは機嫌良さげに僕のカップにお酒を注いだ。

 すごい、お酒を飲んだだけで急に仲良くなれた感じがするぞ。

 飲むたびにリゼットさんが笑顔になるので、僕は勧められるがままにカパカパとカップを空けた。


 --そこで僕の記憶は途切れた。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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― 新着の感想 ―
今回妊娠しているのは只人のお母さんではなかったですか? 14話でエマちゃん家の姉妻(馬人族)は亡くなっていると思っていたんですが、もう一人いるのかな。
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