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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
13章 陽光と冥闇の魔導国

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第248話 地下一階:仁義を切る(2)

木曜分ですm(_ _)m


「お嬢、お帰りなさいしまし。そちらは……?」


 地下とは思えないラグジュアリーな作りの屋敷に入ると、構成員らしき兎人族(とじんぞく)の人が恭しく出迎えてくれた。

 油断なく僕らに視線を走らせる様子から、手練の気配を感じる。


「あぁ、頭への客やわ。頭はいつものとこか?」


「へい。案内を--」


「いらんわ。何年住んでたとおもとんねん」


 構成員の人に手を振り、ズンズン奥に歩いていくエリネン。というか、今お嬢って呼ばれてたな。


「あのー。もしかしてお頭さんて、エリネンのお母さんだったり?」


「まぁ、育ての親っちゅうやつやけどな。随分世話になったわい」


 そういうエリネンの表情は、とても優しげだった。親子仲は良好らしい。

 そのままついていくと、両開きの大きな扉の前に辿り着いた。


「頭、入るで!」


「--おう」


 扉の中には、本当に典型的な親分さんの部屋だった。広い室内の奥に執務机、手間には応接用のソファセットが置いてある。

 壁際には魔物の剥製や大小の夜曲刀(やきょくとう)、高価そうな壺なんかまで配置してある。

 そして執務机に座っているのが、一際豪奢なスーツに身を包んだ兎人族(とじんぞく)のお姉様だ。

 片目は切り傷で潰れていて、残った目でこちらをギロリと睥睨している。兎人族(とじんぞく)と言うより、虎や狼の獣人のような野生的な顔立ちだ。

 この人もエリネンと同じく、他の夜曲(やきょく)と違って薄緑色の明るい毛並みをしている。


「昨日話した助っ人の連中や。面通しに連れてきたで。ってなんや、またそれ吸っとんのかいな」


「前とは違うやつや。ただ、こいつはちいと強すぎるわ…… 捌く時にゃあ気ぃつけなあかん」


 親分さんは、火のついたタバコのようなものを揉み消しながらそう言った。

 おー…… あんまり聞いちゃいけなそうな話だ。後ろの方でロスニアさんが声を上げ掛け、キアニィさんが宥めている気配がする。

 僕は一歩前に出てお頭さんに頭を下げた。


「どうも初めまして。冒険者パーティー『白の狩人』のリーダーのタツヒトです。

 縁あって、暫くエリネンさんの仕事のお手伝いをさせて頂くことになりました。よろしくお願いします」


「おう。わしがポブルマナズの(かしら)、リアノンや。娘が世話になったみたいやのう。

 そやけど、そっちの馬人族(ばじんぞく)の姉ちゃんじゃなく、おまはんがリーダーなんか」


 リアノンさんは僕に頷きながら、視線をヴァイオレット様に走らせた。親子揃って勘の鋭い人達だ。


「いや…… 私では彼に敵わないのでな。あなた方のように、一番強い者が組織を率いるのが自然だろう?」


「ほぉ……?」


 ヴァイオレット様の言葉に、リアノンさんはぴくりと片眉を上げ、視線を僕の方に戻した。


 ビリッ……!


 一瞬の間のあと、彼女から鋭い殺気が放たれた。身構えそうになったけど、何となく評価を落としそうな気がしたので何とか耐える。しかしこの気配、青鏡級はありそうだ。

 僕が動じなかった様子を見て、リアノンさんはニヤリと笑った。笑い方がエリネンとそっくりだ。


「ほっほぅ…… 男の身で大した胆力やのう。そんで腕っぷしも強ぇと。 --おいタツヒト、うちのエリネンと一緒にならへんか?」


「--はぁ!?」


 横で僕らの話を聞いていたエリネンが、赤い顔で素っ頓狂な声を出す。

 僕も同じような声が出そうになったけど、ここで慌てると、また後ろのみんなからの在らぬ疑いを招きかねない……!


「その、大変魅力的な提案なのですが…… 僕には既にこの通り相手がいまして」


 この通りのとき、手でなんとなくパーティーメンバー全員を示しておく。


「は、はぁ!?」


「あん? ……まさかそのガキもか?」


 エリネンがまたでかい声を出す一方、リアノンさんは眉間の皺を深くした。


「あ、いえ。この二人にはその、手は出していません」


 僕は慌てて、ちょっと恥ずかしそうにしているシャムとプルーナさんを手で示した。


「ふぅん…… おいガキども。こっちこい、飴ちゃんやるわ」


 リアノンさんに手招きされ、大量の飴を手渡される二人。


「わーい! ありがとうであります!」


「あ、ありがとうございます」


 嬉しそうな二人の様子に頬を歪めるリアノンさん。なんだ? さっきまで犯罪組織の親分さんだったのに、急に親戚のお姉様みたいな感じになったぞ?


「お、おい頭。何(なご)んでんねん……」


「わかっとる。魔物退治の話やろ? 確かに最近もぐらも増えとるし、取引っちゅうんなら問題あらへん。

 見たところおかしな連中でも無いし、おまはんが連れてきたっちゅうんなら大丈夫やろ。怪我せんよう頑張りぃ」






 お頭さんの屋敷を後にした僕らは、地上に向かって階段を登っていた。

 今日は魔物も落ち着いているので挨拶だけで帰っていいらしい。早上がりというやつだ。

 

「--エリネンのお母さん、貫禄あったね。服も格好良かったし」


「へっ。そりゃあ、この国で一番でかい夜曲(やきょく)の頭やさかい。そこらのチンピラとは格が違わぁ」


 エリネンは機嫌良さそうに僕の言葉に応えた。若干お世辞も入っているけど、リアノンさんの着こなしは本当に格好良かったのだ。

 話を聞いてみると、あの明らかにヤのつく自由業な服装も歴史的経緯があるそうだ。


 地下街の悪党達がやっと夜曲(やきょく)と呼ばれ始めた頃、この街でも組織間抗争が活発で、小さい組織が現れては消えると言うことを繰り返していた。

 そんな中、この国の女王に一人の子供が生まれた。明るい色合いの鮮やかな緑色の毛並みだったらしい。

 この国の始祖神は導く白兎ドゥチェンス・アルブレプスといって、白毛白眼の兎人族(とじんぞく)だったらしい。

 その血を引くという王族も真っ白な毛並みが特徴で、瞳の色だけが個人で違っていたそうだ。

 そんな中で生まれた文字通り毛並みの違う赤子は、不吉の象徴として幽閉され、表向きは死産ということにされたらしい。


 普通なら、そのままひっそりと城の中で老いていくだけだった緑色の元王女は、しかし尋常な精神と才覚の持ち主ではなかった。

 幽閉された状態で自分の状態を把握し、長い年月をかけて準備を行い、見事城を脱出に成功したのだ。

 そして彼女は、そのままある種の不可侵領域になっていた地下街に逃げ込み、メキメキと頭角を表していった。

 その彼女が立ち上げたのが、主に西の山岳地帯から来ていた人々で構成される、ポブルマナズという話だ。

 長くなったけど、若干貴族の衣服の面影がある彼女達のスーツ姿は、その元王女から多大な影響を受けた結果らしい。


 ……スーツの話がそんな話に繋がるとは思わなかった。でもこれ、知ったら消されるタイプの話では?

 もしこの話が本当なら、夜曲(やきょく)の親分であるリアノンさんは、この国の王族の血を引いているということになる。

 他の地下街の住人と比べて文字通り毛並みが違うので、ちょっと真実味のある話だ。

 エリネンはリアノンさんのことを育ての親だって言ってたから、血は繋がっていないんだろうけど、二人とも他の住人と違って明るい色合いなんだよね。


「まぁ、そんなわけでウチらのこれは、歴史ある伝統的な服装っちゅーわけや。

 おっと、いつの間にか2階やな。ウチはここまでや。そんじゃ、明日からよろしゅう頼むわ。

 安心せぇ。もぐら共が落ち着いたら、きちんと例のブツの場所を教えたるさかいな」


「そこは疑ってないよ。まだ会って間もないけど、エリネンが筋の通らない事をしないってことは何となく分かるからさ。今後ともよろしくね」


 僕はそう言ってエリネンに手を差し出した。なんか彼女も親分のリアノンさんも、悪人なんだろうけどどこかフェアな雰囲気があるんだよね。

 こちらの戦力が無視できないせいもあるだろうけど、振る舞いも紳士、いや、淑女的だし。

 どこかの魔導士協会長の方がよっぽどタチが悪い気がする……


「お、おう……」


 エリネンはなぜかちょっと赤面しながら僕の手を握り返すと、地下街へ戻っていった。

 さて階段を登ろうと振り返ると、ヴァイオレット様が僕とエリネンを見比べながら何度も頷いていた。

 

「--まぁ、彼女なら良いだろう」


「え。な、なんの話ですか?」


「ヴァイオレット。それって貴方の趣味じゃなくって?」


「……否定はしない」


 何か通じ合っているらしいヴァイオレット様とキアニィさん。僕は首を傾げながら地上への階段を登った。


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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