第247話 地下一階:仁義を切る(1)
水曜分ですm(_ _)m
果たして週6ノルマを達成できるのか。。。
オリエンテーション的な日程を駆け足で終えた僕とシャム、そしてプルーナさんは、夕方頃に大学を後にした。
そして宿に戻ると、すでに他のみんなも帰ってきていた。座学中心の僕らやロスニアさんと違って、カサンドラさんに稽古をつけてもらっていた戦士組のみんなは少し疲れた表情をしている。
この間初めて知ったけど、あの方若干バトルジャンキー的側面があるっぽいからなぁ……
指導者への賞賛か愚痴かわからないような話をしながら夕食を摂った僕らは、その後全員で地下街に向かった。
今日は、夜曲の幹部であるエリネンに、親分さんを紹介してもらうのだ。
日暮と同時くらいに地下街に入ると、やはり昨日と同じく異様な賑わいを見せていた。
すごい人口密度の通りを抜けた僕らは、エリネンに教えてもらった地下二階の拠点を尋ねた。
建物は一見宿屋みたいだったけど、入り口の前に屯している兎人族の人が明らかに堅気じゃない雰囲気だったのですぐに分かった。
突然近寄ってきた僕らに警戒感を滲ませた彼女達だったけど、僕らがエリネンの名前を出すとすぐに彼女を呼んでくれた。
「こんばんは、エリネン」
「おう。来たか。 ……ごっつい雰囲気のあるやつがおるやないか。タツヒト、おまはんがリーダーや言うてへんかったか?」
エリネンは、警戒感を滲ませながらヴァイオレット様を見た。どうやら漏れ出す気配で彼女の実力を推測ったらしい。
「は、初めましてエリネン殿。私はヴァイオレット。見ての通りこのパーティーの前衛だ。よろしく頼む」
それに対して笑顔で応対したヴァイオレット様だったけど、何やらソワソワ、手をワキワキしている。
わかってます。子供好きのあなたにとって、あの愛らしい見た目でオラついた態度をとる様子が、可愛くて仕方ないんですよね。
その辺りは予想していたので、みんなには事前に「可愛い」が禁句だと共有してある。
「……おう。今タツヒトがゆーたが、ウチがエリネンや。この辺の警備の連中をまとめとーさかい、よろしゅうな。
しっかし、坊さんまでおるとは驚きや。こないな地の底までわざわざおーきに」
「……いえ。人を助けるのに場所は関係ありませんから。助祭のロスニアと申します」
聖職者に思うところがあるのか、皮肉っぽく言うエリネン。対するロスニアさんは澄まし顔で返答している。この二人はあんまり相性が良く無さそうだ。
「よろしゅうな。ん? ひぃ、ふぅ、みぃ…… おまはんら、七人てゆーてなかったか?」
「シャムもいるであります!」
訝しがるエリネンに、シャムが元気よく前に出た。どうやら死角になって気づかなかったらしい。
エリネンは驚いてシャムを見た後、眉間にシワを寄せて僕を睨みつけた。
「--おい、ガキなんか連れて来んなや。遊びやないんやで?」
おぉ、ドスのきいた口調がかえって甘やかな高い声を際立たせている。
って違う。口調に若干の心配の色が含まれているので、善意で忠告してくれているらしい。
でもどうしようかな。置いていくとシャムが泣くのだろうから、なんとか納得してもらわないと。
何か無いかとみんなの方を振り返ると、いつの間に買ったのか、食べ終わった串焼きの串を悲しげに見つめるキアニィさんが居た。
「キアニィさん。それをシャムに放って頂けますか?」
「え? あぁ、わかりましたわぁ。シャム!」
僕の意図を汲んでくれたキアニィさんが、空中に太さ3mm程度の串を放った。
すると、シャムは手先がブレるような速度で弓を構え、矢をつがえて瞬時に狙いを定めた。
「えい!」
シュガッ!
シャムの放った矢は、空中で串を真ん中から両断し、向こう側の土壁に深々と突き刺さった。
僕は串と矢を回収すると、突然弓を構えたシャムにドスを抜きかけていたエリネン氏に見せた。
「安心してください。見ての通り、ただの子供じゃないですよ?」
「えっへん、であります!」
彼女は、両断された串と頑丈な石壁に空いた穴を茫然と見比べた後、呆れたように息を吐いた。
「……あー、わかったわかった。ったく、おまはんらんとこはガキまで強いんか。そしたらついてこいや。頭に会わせたる」
親分さんは地下八階の本部にいるそうで、僕らはエリネンに続いてひたすら階段を下り始めた。
ちょうど良かったので、その間夜曲について色々と聞いてみた。
今の所、ざっくり犯罪組織兼地下街の管理人くらいの情報しかないので、気になっていたのだ。
エリネン曰く、彼女達夜曲は、幅広の脇差のような短剣、夜曲刀を好んで使うことからそう呼ばれ始めたらしい。
ではその夜曲刀誕生の経緯はというと、大昔、この都市の黎明期にまで遡る。
妖精族の大魔導士アシャフが興したこのディニウムは、龍穴の真上にあるおかげで魔術師が好んで住むので、魔導具や治癒薬を仕入れたい商人も多く集まるようになった。
加えて、魔物の領域を数多の魔窟ごと焼き尽くした関係で、山でも無いのに地下に鉱物資源が豊富に存在する。
それに目をつけた鉱精族も集まりだし、地下性の兎人族と一緒になって採掘と地下都市の構築を続けた。
そうして、鉱精族の武具まで仕入れられる夢の都市になったディニウムの発展は加速し続け、方々から悪党達も集まり始めた。
エリネン達の組織、ポブルマナズと言うらしいけど、ここから西にある山岳地帯がルーツなのだそうだ。どうりで話し方が独特なわけだ。
地下街に集まった悪党達は、日々利権や縄張りを巡って抗争に明け暮れるようになった。
そんな中求められたのは、狭い路地での取り回し、隠し持てる携帯性、突発的な遭遇戦での鞘走りの良さ、激しい運用に耐える頑健性、そして容易に相手の衣服を切り裂ける切れ味だった。
当時の鉱精族達は、試行錯誤の末にそれらの要求に応え、折れず、曲がらず、よく切れる小振りの曲刀を創り出したのだ
そして、夜のように薄暗い地下街で日々振るわれる曲刀は、いつしか夜曲刀と呼ばれるようになったということらしい。
需要と環境でここまで日本刀に近いものができちゃうのか…… 面白いな。
「ありがとう、すごくよくわかったよ。あ、その夜曲刀って、お金を払えば僕らも作ってもらえたりするの?」
夜曲の人達が地下街に侵入した魔物を倒すのを見ていたけど、頑丈な魔物の体をスパスパと切り裂いていた。
一方僕は、でかい奴にとどめを刺した際に自分の短剣をダメにしてしまった。
形も日本刀みたいで格好いいのだけれど、何より性能面で非常に欲しいところだ。
「あん? あー、まぁ普通はあかんけど、一緒に魔物退治すんのやからええか。後でうっとこの刀匠を紹介したる。
この間無茶させたから、ウチの獲物も作り直さな…… おっと、ここや」
会話に集中していた気づかなかったけど、いつの間にか地下八階の大きな邸宅の前についていた。
八階も、他の場所はやはり人で賑わっているのに、このあたりだけ静かで人通りも少ない。
「わかっとー思うけど、失礼のあらへんようにな?」
「わかったにゃ!」
「……ゼル。おまはんが一番不安やわ。ここでは絶対に暴れたらあかんで?」
ゼルさん、夜曲と揉めた時に一番ハッスルしてたからなぁ。そんなやつを自分のボスに引き合わせるのは不安だろう。
「あー、大丈夫。もしもの時は僕が抑えるから」
「頼むわ、ほんまに……」
「にゃはははは。二人とも心配しすぎだなにゃ。今日は機嫌いいから大丈夫だにゃ!」
僕とエリネンは思わず顔を見合わせてしまった。 --機嫌で左右される人だからこそ不安なんですけど……
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