第246話 一時限目:オリエンテーション
どんどんずれ込む。。。火曜分ですm(_ _)m
『白の狩人』が緑鋼級に上がった日の翌日、入学準備が整ったと宿に連絡があった。
そんなわけで、僕、シャム、プルーナさんの三人は、魔導士教会本部、兼ディニウム魔導大学に向かっている。
冒険者の格好だと浮くので、服装は大学の学生さん達がよく着ているローブ的なものに合わせてある。
僕もそうだけど、二人は目に見えてウキウキの様子だ。
「ふふっ、二人とも楽しそうだね」
「あ、えへへ…… 僕が今まで読んだ書籍の作者の人って、大体がここの魔導大学出身なんです。
そこに今から通えると思うと、もうワクワクしちゃって」
八本の足でスキップ気味に歩いていたプルーナさんが、ちょっと恥ずかしそうに笑う。
「シャムも楽しみであります! 魔法陣やその加工技術について体系的に学べる機会はすごく貴重であります!
でも、みんなで通えたらもっと楽しかったであります……」
完全にスキップしていたシャムが、後半は少し寂しそうに言う。
「そうだね。でも、他のみんなも別の学校に通うようなものだし、あとで何を勉強したか教えっこしたらきっと楽しいよ」
「それは…… とっても楽しそうであります!」
お、よかった。シャムがまた笑顔でスキップを踏み始めた。
僕らが魔導大学に通う間、触発されたのか、他のみんなもそれぞれ修行的なことをして過ごすことになった。
現在は助祭のロスニアさんは、司祭の位階に上がるためこの街の教会に相談に行くと言っていた。司祭になると、使える神聖魔法の幅が増えるのだそうだ。
普通は年単位の時間がかかるらしいのだけれど、御子や邪神討伐の実績ゴリ押しで短縮してみせると息巻いていた。
残りの戦士型のみんなは、強装や重脚と言った身体強化の技の修行をするそうだ。
なんと冒険者組合の強すぎる受付嬢、カサンドラさんが修行を見てくれるらしい。アシャフ氏が僕に即死級の魔法を放った件のお詫びだそうだ。
正直僕も一緒に修行したいくらいだけど、体が一つしかないので仕方ない。大学が休みの時にみんなに教えてもらおう。
日中はそんな感じで全員修行パートをこなし、夕方以降はみんなで夜曲のところに顔を出す予定なので、結構ハードな日々になりそう。
魔導大学のキャンパスに入った僕らは、事務室で説明を聞きながら諸々の手続きを行なった。
魔導大学は基本6年制で、通常は前半3年間は講義に集中し、後半3年間は研究室に所属して研究に集中する形だ。
卒業して魔導士ないし魔導技術士の称号を得るためには、必要な単位を揃え、研究成果をまとめて発表し、評価員の先生方から合格を貰う必要がある。
魔導大学における僕らの目的は、これらの称号を数ヶ月で取得し、アシャフ魔導士協会長から遺跡に関する情報をもらうことだ。
今はちょうど後期の授業が始まる時期で、タイミングは悪くないようだけど、果たしてそんな短期間で本当に卒業できるのだろうか……
午前中に入学手続きと必要な物品の購入などを終わらせた僕らは、事務員さんから聞いた食堂に向かった。
食堂は数百人は収容できそうなほど大きなものだった。この規模のものがキャンパス内にもう何箇所かあるらしいけど、お昼時なせいか食堂は人でごった返していた。
魔導大学の学生数は学生数は三千人程度もいるそうなので、納得の光景だ。
加えて、近隣諸国でも有名なこの大学は、なんと学生の半数ほどが国外の人らしい。
同じ人種で固まりがちな国家が多いこの世界では、結構珍しい光景だ。普段は目立つ僕らもそれほど目立っていない。
「いろんな種族の人がいて面白いなぁ。あれ、あの人って鳥人族じゃない!? うわぁ…… あの羽毛あったかそう。
あ、あっちには樹人族も居る! 蔦をあんなふうに動かせるんだ。す、すごい……!」
テンションが上がってしまい、思った事がそのまま口をつく。
すると、ニコニコとご飯を食べていたシャムとプルーナさんが食器を置き、真顔で頷き合った。
「……タツヒト。シャムはヴァイオレット達から、ある指令を受けているであります。見境の無い行動は慎むべきと警告するであります」
「その、どんなものかわかりますよね? 僕、タツヒトさんが怒られる姿を見たくないです……」
ちょっと呆れ気味のシャムと、言いづらそうなプルーナさん。
な、なるほど。地下街の一件で、僕は大きく信用を毀損してしまったらしい。
ヴァイオレット様は、最大限オブラートに包んで僕を気の多い奴と表現してくれていたけど、今回は監視員が派遣されてしまったようだ。
以前は王国の追手に対抗する意味でも、その、僕に好意を寄せてくれる人を積極的に仲間にしていた。でも、陛下と和解した今はそういう状況じゃ無い。
ヴァイオレット様をそれほど不安にさせてしまった事も悔やまれるけど、年下二人から向けられる視線もかなり辛い……
「--はい、わかっております。大人しくしています……」
何故かあまり味のしなかった昼食の後、僕らは別れて、それぞれ面倒を見てくれる先生の研究室を訪ねに向かった。
僕は妖精族のプリシッラ副協会長、シャムはの鉱精族のザスキア魔導技術学部長、プルーナさんは兎人族のガートルード副学長だ。
事務室でもらった見取り図を頼りに、十数分ほど一人構内を彷徨うと、やっと目的のプリシッラ研究室に辿り着いた。
コンコンコン。
「***ー」
服装を正してからノックすると魔導国語で返事が返ってきた。ドアを開けると、中は教室二つ分程の広さの部屋だった。
壁際にはたくさんの書架、フラスコや複雑に分岐したガラスの管などの実験器具、なぜかプールのようなものまである。見てるだけで面白い。
中には研究室の学生らしい人が10人くらいいて、みんな机で書き物をしたり器具をいじったりしている。いかにも研究してますって感じだ。
その中の人、分厚い丸メガネをかけた大人しそうな只人の男の子が、机を立って僕に近寄ってきた。
背も歳も僕と同じくらいで、髪はふわふわの茶髪。この世界の一般的な男性の例に漏れず、細身で中性的な顔立ちだ。
「***…… あれ、もしかして君がタツヒト君!?」
途中から王国語に切り替えてくれた彼は、見た目からは想像できなかったテンションで僕の名前を言い当てた。
「は、はい。初めまして、タツヒトと言います。ちょっと特殊な事情でしばらくこちらにお世話になることになりました。よろしくお願いします」
「わー、学長の亜音速炎熱溶断魔法を避けたって聞いてたから、もっとゴツい人を想像してたよー!
僕はプリシッラ研究室の学生で、5年のヒュー。よろしくね。早速だけど、噂の強化魔法を--」
「いや待て、それよりも雷撃魔法そのものを見てみたい。あれを攻撃魔法として制御した例は歴史上ほとんど無いはずだ」
「今日は噂の天候を操る神器は持ってねえのか?」
ヒューさんを皮切りに、僕に気づいた学生の皆さんがわらわらと集まってきた。
みんな好奇心に目を爛々と輝かせ、矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。
「あ、あの……」
答えきれずに困っていると、ぱんぱんと手を叩く音が聞こえた。
全員が口を閉じて音の方を見ると、部屋の奥の扉からプリシッラ副協会長が出てこられたところだった。
「はい、みなさん。そんなに一度に質問したらタツヒト君が困ってしまいますよ。今日彼は色々と手続きがあるので、質問は後日にしてください」
「あちゃー。ごめんね、ちょっと興奮しちゃってさ。魔法はまた後で見せてね!」
「あ、はい」
ヒューさんをはじめとした学生さん達は、意外にも素直に僕を解放してくれた。プリシッラ副協会長は結構人望があるみたいだ。
「すみませんねぇタツヒト君。みんな君に興味津々なんですよ。さぁ、こちらへ来てください」
「はい、プリシッラ副協会長」
「ふふっ、大学では先生か教授でいいですよ」
招かれて奥の部屋に入ると、そこもやはり書籍や実験器具に溢れていた。応接用と思われる机にまで書類が侵食している。
「いやぁ、散らかっててすみません。あ、そこに座ってください」
「はい。改めてお世話になります、プリシッラ先生。だいぶ特殊な入学の仕方だったのでご迷惑をおかけしていると思いますが……」
実際迷惑だろーなーと思っていたので、僕は椅子に座ると同時に深々と頭を下げた。
「ええ、よろしくお願いします。でも、迷惑だなんて思っていませんよ。私は、新しい学生を迎えるときはいつもワクワクしてしまうんですから。
さて、早速研究の話をしたいところですが、まずは通常6年掛かるところを、数ヶ月で卒業するための予定を立てましょう。
ある程度はガートルード副学長やザスキア魔導技術学部長と決めてあるので、後はタツヒト君次第ですね」
プリシッラ先生先生が取り出したのは、授業の履修予定表のようなものだった。
この世界では小学校や高校なんてものがないので、必須科目の中には本当に基礎的な算数や国語的なものもある。それらは試験に合格すれば単位が出る仕組みだ。
その辺りも勘案し、ほとんど研究が完成している前提でギチギチの予定が組まれていてた。あれ、この先生意外とスパルタか?
あと、なんと授業料は大学、というかアシャフ氏の奢りらしい。
その代わり、月例の発表会で成果を示して教師と学生に発破をかけよとのことだ。
なるほど…… ご期待に添えるように頑張ってみよう。
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