第242話 ヤのつく自由業
めちゃくちゃ遅れましたm(_ _)m
本話が木曜分です。。。金曜分は明日の午前、土曜分は明日の夜に更新予定です。
三人で入った夜の地下街。そこは日中とは別世界だった。
街を照らす灯火の数も、通りを行く人々の数も倍以上に増えていて、開いているお店も比例して増えている。
やはり、今の時間帯にこそ地下街本来の姿が見られるようだ。ワクワクしてきたぞ。
「二人共見てくださいまし! 屋台があんなに沢山……! わたくし、お腹が空いてきましたわぁ!」
そして、僕以上にテンションの上がっているキアニィさんは、僕らを放って手近な屋台に突進して行ってしまった。
この人、休みの日は一人で永遠と屋台を巡るくらい屋台飯が大好きだからなぁ……
一度ついて行かせてもらった事があったけど、胃袋の容量の違いを思い知らされた結果となった。
「にゃあ。あいつ自分のこと、ウチらのお目付け役だとか偉そうに言ってにゃかったかにゃ?」
珍しく呆れたような声でぼやくゼルさん。
「……言ってましたね。まぁいいじゃないですか。キアニィさんも楽しんでくれた方が、僕らも気が楽ですし」
「にゃ、それもそうだにゃ。おーい、キアニィ。あんまし食うと動けなくなるにゃ、程々にしておくにゃ!」
「もぐもぐ…… ふぁはっへいわふわ!」
肉串を頬張りながら何か言ってるキアニィさんを先頭に、僕らはまず屋台巡りを楽しんだ。
一応、古代遺跡に関して屋台の人に聞いてみたりしたけど、成果は得られなかった。
そしてキアニィさんが満足した後は、地下一階から地下三階まで降った。
この辺の階層から、えっちなお店やら賭け事のお店が現れ始めるのだ。是非とも詳しく調査したい。
階段を降りた先の地下三階も、日中とは別次元の活気があった。
単純に人が多いのもあるけど、なんというか、道を行く人達の目がぎらついているのである。
そんなヤル気満々な人達に、キャッチみたいな感じの兎人族が次々に声をかけいく。
声をかけられた人々が吸い込まれていく先は、やはり扇状的な格好をした見目麗しい男性達が愛想を振りまいているお店だ。
そんなお店が通りいっぱいに営業していて、もう、本当にすごい空間だ。
「おっほぉ、やっぱりすげーにゃ! あれって着てる意味ほとんどにゃいにゃ!」
ゼルさんの視線の先を辿ると、大事な部分がほぼ丸見えになった格好の若い男性が、愛想よく手を振っていた。
「ず、随分開放的ですわねぇ…… ねぇゼル、あれも売ってるかしらぁ?」
「にゃふふ、任せるにゃ。帰りに必ず買って帰るにゃ」
「……何を買うのか知りませんけど、もうあんなの着ませんよ?」
「うふふ。それはどうかしらぁ? 優しいタツヒト君なら、きっと最後にはわたくし達のお願いを訊いて下さると信じていますわぁ」
「ぐぬぬ……」
うん、多分着てしまうだろう。だって喜んでくれるんだもん……
ゼルさんとキアニィさんが一通り雰囲気を楽しんだ後、ゼルさんの先導で別の通りに進むと、そこは男性向けのお店が連なる通りだった。
なんとゼルさんは、男向けのお店の通りを事前に宿の人から聞いてくれていたらしい。あなたが神か。
先ほどとは男女が逆転し、店先には露出度の高い、綺麗なお姉さん達が立ち並んでいる。
そんな人たちが愛想よくこちらにて手を振ってくれるのだ。テンション爆上げである。
「すっご……!」
思わず声をあげてしまい、恐る恐る振り返ると、二人はニヤニヤと僕の方を見ていた。
「にゃふふ。キアニィ、買うものが増えたにゃ」
「ええ。ああいう刺激的なのが好きなんですね、タツヒト君。言ってくれればいいのに」
「えと、あの…… はい」
恥ずかしさから誤魔化すようにあたりを見回すと、通りを行く人達にはやはり男性が圧倒的に多い。
僕のようにお姉さん達に手を振りかえし、そのままフラフラと入店していく人がちらほらいた。
そのままキャッチの人を躱しながら通りを見終わる頃、僕は雰囲気を十分に味わえたという満足感を感じていた。
幸いな事に、三人共直接的な行為を行う店に行く気はなかった。僕もそうだけど、キアニィさんとゼルさんも言った事に満ち足りているという事だと思うので、僕はちょっと安心した。
ただ、このまま素通りするのは完全に冷やかしだ。ちょっとは地下街にお金を落としたかったのと、情報も収集したかったので、男性向けのキャバクラ的なお店に入ってみた。
密着してお話ししてくれる綺麗な兎人族のお姉さん達にドギマギしながら、僕は古代遺跡につながりそうな情報が得られないか色々と訊いてみた。
でも、ここでも有益な情報は得られなかった。これは、調査には本当に時間がかかりそうだ。
それからしばらく楽しくおしゃべりした後、お姉さん達に別れを告げてお店を出ると、ゼルさんが表情を引き締めて僕らに向き直った。
「タツヒト、キアニィ。いよいよこれからが本番だにゃ……!」
「--あぁ、そういえばゼルさんの主目的はそれでしたね。すみません、忘れてました。
でも、使う金額はあらかじめ決めておいてくださいよ?」
「その金額を超えたら、絶対に帰りますわよ? 抵抗してもタツヒト君と二人がかりで引っ張って行きますからね?」
「にゃふふふふ…… もうあの頃のウチじゃにゃいにゃ。逆に何倍にも増やして、二人に勝利の美酒を奢ってやるにゃ。
奴隷落ちから復活し、数々の修羅場を潜って成長したウチの姿を見せてやるにゃ!」
そうかっこよく言い放った彼女の後に続き、僕らはこの辺で一番大きな賭博場、一際たくさん灯火が焚かれて賑やかなお店に入って行った。
賭博場の中は、以前テレビで見たドバイのカジノのような雰囲気で、店内は人々の熱気で暑いほどだった。
お店の規模に合わせて格式もちょっと高めなのか、身なりの良い人もちらほら居る。
三階立ての広い店内には、ルーレットやカード、サイコロなどをする卓が点在していて、これまた露出度の高い格好をした男性店員さん達が、ディーラーや給仕を務めている。
変わった所だと、人同士の拳闘や、小型の魔物を戦わせて賭けをする所まであった。
そしてそれらの遊戯を満遍なく遊びきったゼルさんの財布は-- 見事に空になっていた。
「嫌だにゃ嫌だにゃ! もうちょっとで当てられるんだにゃ! タツヒト、キアニィ、頼むから金貸してくれにゃ!」
涙目で僕らに縋り付くゼルさん。周囲の視線が痛い。
この人、全く成長していないぞ……! フラグ回収があまりにも早いですよ……
僕とキアニィさんは賭けに参加せず、成長したというゼルさんの賭け方を後ろから見ていたのだけれど、この人は賭け事に関してはとことん運が悪いようだ。
しかも、負けを取り返すために熱くなって無謀な賭け方をして、さらに大きく負けるというのを繰り返すのだ。そりゃあ奴隷落ちもしようというものだ。
「ダメですよ。もう決めた額を超えて、財布も空じゃないですか。時間も遅いですし、帰りますよ」
「そうですわぁ。また付き合ってあげますから、今日の所はもう行きますわよ。あんまり駄々をこねると、ロスニアに言いつけますわよ?」
キアニィさんの言葉に、ゼルさんの表情がはっと顔を上げる。
「そ、それは……! ゔぅぅっ…… わかったにゃ。今日のところは帰るにゃ……」
しおしおになってぐすぐす泣いているゼルさんの手を引き、僕らは周囲の目から逃れるように店を後にした。
「うぅ…… ウチはなんでこうもうついて無いんだにゃ。あそこで赤の9に賭けてれば今頃は……」
「多分、運だけが原因じゃ無いですよ…… ほら、ちゃんと歩いてください。階段で転んじゃいますよ?」
上階への階段に向かって歩いていると、少し寂れた通りに入った所で先を行くキアニィさんが足を止めた。
「あれ。キアニィさん、どうし--」
「んにゃ?」
彼女に遅れること数秒。僕とゼルさんも気づいた。通りには人一人おらず、刺すような殺気が僕らに向けられている。
「はぁ。お客さんのようですわねぇ」
キアニィさんの呟きを合図に、僕らを挟み撃ちにするように十数人の兎人族が路地から姿を現した。
彼女達の姿に、僕は目を見開いた。この世界の貴族の上着を簡易化したかのような丈の長いジャケットとパンツ。色合いや柄はかなり派手目だ。
その下には第三ボタンくらいまで襟を開いたシャツを着ていて、覗く胸元にはサラシのようなものが見える。足元は革靴だ。
なんというか、テレビやゲーム作品で見る、ヤのつく自由業の人達のような出で立ちだった。
「おう、あの蛙人族で間違いあらへんのやな?」
リーダー格らしき強面の兎人族が、一人だけ混じっていた只人の女の人に問いかける。
「はい姉貴! こいつが突然俺の腕を折ったんです! 仇を取ってくださいよ!」
そうリーダに訴えた彼女は、確かに骨折しているかのように片腕に添木を当て、布で釣っていた。
それを見て思い出した。多分、初日にロスニアさんの財布を盗ろうとして、キアニィさんに腕を握りつぶされた人だ。
「やっぱりあの時のコソ泥ですわねぇ。お友達が沢山、美しい友情ですわぁ」
キアニィさんの言葉に、リーダが顔を顰める。
「ふん…… 誰が好きでこないな女のために動くかいや。
そやけど、よそ者にでかい面させとくんは、夜曲の沽券に関わるやさかい。悪いけど痛い目に遭うてもらおか」
夜曲。そう名乗った彼女達が懐から取り出したのは、長さ30cm程の細長い棒。
まさかと思っていると、彼女達はそれから鞘を引き払った。現れたのは鈍く光る刀身。浅く剃りの入った片刃の短剣だった。
--嘘だろ。僕が知ってるものよりやや幅広だけど、完全にドスじゃん……
「わえら、いてこましたれ!」
「「おう!」」
混乱の極みにある僕をよそに、夜曲の集団が僕らに殺到した。
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