第241話 入学手続き
すみません! 遅れしすぎましたm(_ _)m
「--あの、いきなりで困惑されていることと思います。事情の説明も含めて、皆さんで自己紹介しませんか?」
僕の提案に、応接室に呼ばれたお三方はどこかほっとした表情で頷いた。
お互いに自己紹介した後、僕らが協会長への頼み事の対価に、魔導大学への入学と早期卒業を求められた旨を話した。
あまり広く知らせることでは無いと思ったので、遺跡やシャムの事はぼかしてある。
そして僕の説明を聞いたお三方は、三者三様の反応を示した。
「ははははは、そんな事情だったんですね…… いやぁ、いつもながら無茶をおっしゃるお方だ。
ご本人はさっさと出て行ってしまわれるし、まいりましたねぇ」
困ったような笑みを浮かべているのは、青髪の柔和な顔立ちの妖精族、プリシッラ副協会長だ。
アシャフ協会長に次ぐ魔導士協会のNo.2で、なんだか苦労人の雰囲気がある。
「ふん。さすが学長殿。雑事は下の者に任せて直ぐにご自身の研究に戻られるとは、魔導士の鏡だな」
次に不機嫌そうな表情で皮肉を口にしたのが、ベージュの毛並みの兎人族のお姉様、ガートルード副学長だ。
魔導大学におけるNo.2で、あまりアシャフ協会長兼学長を慕っていないようだ。
「むぅ。この童を大学にのう……」
最後にシャムを見ながら眉をハの字にしているのが、床につきそうなほどに長い三つ編みの鉱精族、ザスキア魔導技術学部長だ。
魔導士協会が設立したディニウム魔導大学には、基本的に魔法型しか入れない魔導学部と、戦士型でも入れる魔導技術学部が存在する。
彼女は後者の学部長で、大学におけるNo.3だ。戦士型ながら類まれな鍛治の腕と学識から今の地位にいるらしい。
「いきなり言われても困ってしまいますよね…… あの、アシャフ協会長がおっしゃったように、数ヶ月で魔導士号や魔導技術士号を取る事は可能なんでしょうか?」
「うーん…… 可能か不可能かで言うと可能ですが、ご本人の資質によるとしか……」
僕の疑問に、ちょっと言いづらそうに返答するプリシッラ副協会長。そりゃそうか。
「あの、先ほどアシャフ協会長に見て頂いた魔法を、皆さんにもお見せして良いですか?
協会長はそれを見て、僕らに大学に入るよう言われたんです」
僕の言葉に頷いたお三方に、僕とプルーナさんは先ほどと同じ魔法を。シャムは以前彼女が作った複合弓や魔法陣を見てもらった。
すると、先ほどまで協会長の指示に懐疑的だった皆さんが目の色を変えた。
「なるほど……! 道理で協会長が機嫌良さそうなわけですね。これなら臨時の入学試験も問題なく通過できるでしょうし、確かに数ヶ月もあれば魔導士になれるでしょう。
私は協会の人間ですが、大学にも籍があるのでタツヒトさんの指導もできます。これからよろしくお願いしますね。
--しかし、それはそれとして、災難でしたね。協会長に魔法を撃たれて生き残るというのは、なかなか出来ることではありません。大したものですよ」
「あはははは…… ご指導、よろしくお願いします。プリシッラ副協会長」
正直、指導してくれるのがプリシッラさんで安心した。アシャフ協会長だったら毎日死にかけそうだし。
僕が先ほど協会長が開けた壁の穴に目を向けると、ガートルード副学長が壁に手を翳しているところだった。
そして数秒だけ彼女の体が緑色に発光し、手を退けると穴は跡形もなく塞がっていた。
早くて正確な土魔法の行使。副学長の役職は伊達じゃないみたいだ。
「こんな威力の魔法を年若い男子に撃つとは…… 異常者め……!
プルーナと言ったか。あんな魔導士には絶対になってはならぬぞ。私が正統な魔導士というものを教えてやる」
「は、はい。よろしくお願いします!」
「これガートルード。口がすぎるぞい。否定はできんがの……
さてシャムよ、短い間じゃがよろしくの。まぁお主の腕なら問題ないじゃろう」
「よろしくであります、ザスキア!」
「シャ、シャムちゃん! せめてさんをつけましょうね」
黙ってやり取りを見守っていたロスニアさんが、焦りながら訂正を入れてくれる。
「ほっほっほっ、良い良い。子供は元気であればそれで良いのじゃ。そういったことは少しずつ学んでいけば良かろうて」
幼い顔には皺ひとつ無いのに、好々爺といった感じで笑うザスキア魔導技術学部長。よかった。三人とも上手くやっていけいそうだ。
それから僕らは早速臨時の入学試験を受け、学科は若干怪しいところがあったものの、実技では満点の成績を出し、無事に試験に合格した。
さらに諸々の事務手続きを済ませる頃には日が暮れていて、忙しい合間を縫って付き合ってくれたお三方に別れを告げ、その日は宿に戻ることになった。
「--きるにゃ。起きるにゃ、タツヒト」
体が揺すられる感覚と囁くような声がして、意識が徐々に覚醒する。
僕らは協会を出て夕食を摂った後、疲れのせいで宿に戻ってすぐにそのまま寝てしまっていた。
半ば予想しながら目を開けると、視界いっぱいにゼルさんの顔が広がっていた。
「ふぁ…… おはようございます。あれ、朝にしては随分くらいですね」
「何寝ぼけてるにゃ。まだ夜だにゃ」
言われて窓に目を向けると確かに真っ暗だった。ここは宿の寝室で、周りから他のみんなの静かな寝息が聞こえてくる。
「ほんとですね…… あれ、じゃあ何で起こしたんです? あぁ、お手洗いですか。仕方無いですねぇ、ついていきますよ」
どっこいしょとベッドから身を起こすと、ゼルさんがちょっと呆れ気味に息を吐く。
「目を覚ますにゃ。うちはシャムじゃにゃいにゃ。 --にゃあタツヒト。今から地下街に行かにゃいかにゃ?」
「……!」
耳元で囁かれたその甘い言葉に、僕の意識が瞬時に覚醒した。
いや、思っていたのだ。日中に訪れた地下街。あれはおそらくあそこの本来の姿じゃない。
きっと、夜にはもっとすごいことになっているはずだ、と。
「い、いやぁ…… みんなに内緒でってことですよね? まずいですよそんなの。絶対夜の方が治安悪いですし……」
感情では「はい!」と即答したかったけど、一欠片の理性が僕にそんな事を口にさせた。
「にゃふふふふ…… わかってるにゃ。今から行くのはちょーさだにゃ。夜ならきっと、日中と違ったじょーほーが聞けるはずだにゃ。
でも、あんまり大人数で行くと悪目立ちするかもしれにゃいにゃ。だから二人で行くにゃ。
どうだにゃ? にゃにもおかしくにゃいにゃ」
これなら真面目ぶったお前でも頷けるだろ? 言外にそんな雰囲気を出しながら、ゼルさんはニヤニヤと笑った。
そんな悪魔の囁きに僕は。
「--そ、そうですね。そういった多角的な調査も必要ですよね…… 行きましょう!」
「よっしゃ! そう来なくっちゃにゃ!」
一瞬で悪魔の誘惑に落ちた僕は、なるべく音を立てずに着替え、ゼルさんと一緒に忍足で宿を出た。
そして二人して笑顔で頷き合い、地下街に向かって歩き出した瞬間。
「--お二人とも、こんな夜中に何処へ行くんですの?」
「「うひゃっ!?」」
真後ろから声をかけられた。ゼルさんと二人して悲鳴を上げ、驚いて振り返ると、そこには呆れ顔のキアニィさんが立っていた。
さっきまで寝てたはずなのに……! --いや、時々忘れそうになるけど、彼女は元暗殺者だ。僕らが部屋を出たことに気づかないわけが無い。
この計画は最初から破綻してたのだ……
「こそこそと部屋を抜け出して、一体何をするつもりなのかと思いましたら…… もしかして地下街に行くつもりですの?」
「えっと、そのー…… これは多角的調査の一環といいますか……」
「た、頼むにゃキアニィ。せっかく賭博の都に来たのに、一回も遊べにゃいにゃんてあんまりだにゃ。無茶な賭け方は絶対にしにゃいから、ここは見逃してほしいにゃ……
--あと、近隣国家最大の色町を体感しないにゃんて、死んでも死にきれにゃ言ってタツヒトが……」
「ゼルさん……!? 僕そんなこと言ってないですよ!?」
「でも顔にそう書いてあったにゃ」
二人して醜く擦りつけ合いをしていると、キアニィさんは小さく息を吐いてから歩き出し、僕らの間を通って振り返った。
「二人とも、夜中に騒がないで下さいまし。ほら、さっさと行きますわよ」
「え。い、いいんですか……!?」
「夜中に抜け出すほど行きたいのでしょう? 多分わたくしが止めても無駄ですわぁ。それでしたら、お目付け役として付いていきますわよ。
それに、わたくしも少し興味がありますもの」
そう言ってやれやれと笑うキアニィさん。なんだこの女性、惚れてまうやろ。いや、すでに惚れてたわ。
「さっすがキアニィ、話がわかるにゃ!」
「ありがとうございます、キアニィさん!」
「はいはい。お静かにね」
まるで引率の先生のようなキアニィさんを加え、僕ら三人は夜の地下街に向かって歩き出した。
お読み頂きありがとうございます。
よければブックマークや評価、いいねなどを頂けますと励みになります。
また、誤字報告も大変助かります。
【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】
※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。




