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第024話 杣人の護衛(3)


 くそでかカマキリことアルボルマンティスを倒した後、僕らは木こり達を現場に呼び戻した。

 彼女達は丸こげになったカマキリに驚いていたけど、護衛として仕事を全うした僕らを素直に称賛してくれた。

 そこから急いで撤収作業を行い、今は夕日で赤く燃える草原の中を村へ急いでいる。

 大きなトラブルはあったけど誰も欠けていない。そのせいかみんなの表情は明るい。


 まだ意識の戻らないリゼットさんは、イネスさんパーティーの前衛の人が担いでくれている。

 ハルバートを装備した彼女は、アルボルマンティスに弾き飛ばされていい所がなかったからと進んでリゼットさんを背負ってくれた。

 どうやっているのかと言うと、馬体の上にそのまま馬体を重ねて、上半身は上半身に背負う形だ。

 何かそのまま重ねましたって感じだけど、馬人族が馬人族を背負おうと思うとそうするしかないよね。

 リゼットさんの妹のクロエさんはというと、その隣をお姉さんを気に掛けながら歩いている。

 

 アルボルマンティスの死骸は、木こり組にお願いして材木と一緒に台車に乗せてもらっている。

 イネスさんの火炎放射と僕の槍で胴体はめちゃくちゃだけど、両腕の鎌と下半身は無事だ。

 この鎌はかなり頑丈で切れ味も鋭いので、何か武器にでも加工したら良いものができるかも。

 それとこいつの甲殻は火に弱い以外は凄まじい防御力だった。防具素材としても期待できる。

 そしてまだ解体確認してないけど、魔核もそれなりのものが取れるはずだ。


 聞いた話では、全ての魔物に魔核は存在しているらしい。

 と言うよりも、魔核を持っている生き物を魔物というのだそうだ。

 魔核は魔法の道具や薬などに使えるので、冒険者組合が買い取ってくれる。

 でも、ゴブリンとかクウォルフ(四つ目狼の名前)とかだと、わざわざ解体してまで回収するほどの値段じゃないらしい。

 今日仕留めたのはアルボルマンティスの中でもかなり大物で、魔核の買取価格も結構期待できるみたいだ。

 そういう話を聞くと、洞窟で仕留めたボスゴブリンの魔核を回収しに行きたくなる……

 でも魔物は魔核も食べるらしいので、多分すでに食べられちゃってるだろうな。


 アルボルマンティスから意識を話して隊列を見回すと、僕の横をイネスさんが歩いている。

 今回の戦いを振り返ると、魔法つおいの一言だな。

 あと、的確に指揮を取って、虫系の魔物の甲殻が火に弱いところを突いたイネスさんの経験値もすごい。

 さすがベテランの橙銀級冒険者、色々勉強になる。

 あ、そうだちょっと聞いてみよう。


 「イネスさん。風属性が得意って聞いてましたけど、すごい火属性の魔法でしたね。何か地属性っぽい魔法を使ってましたし、もしかして全属性使えるんですか?」


 魔法には具象魔法と呼ばれる火、風、水、地の四属性と、抽象魔法と呼ばれる光、闇、強化、弱化の四属性があるらしい。

 僕の身体能力が向上しているのも無意識の抽象魔法によるものらしいけど、まだ断片的な情報しか得られていない。

 一度ちゃんと体系的に勉強してみたい。

 魔導士の称号を持つ白山羊さん、ロメール様あたりに今度聞いてみようかな。


 「ん? あぁ、違う違う。さっきのはこの杖の力だよ。放炎(フラメスロウェル)とかの魔法が込められた筒陣(とうじん)を仕込んでるのさ。魔力を込めるだけで魔法が発動するから楽なもんだよ」


 イネスさんは僕に杖を見せながらそう答えた。

 確かに立派な杖だけど。


 「筒陣(とうじん)、ですか?」


 「えっと、そうだな。魔法陣を描いた紙を丸めて円筒状の入れ物に収めたもの、と言ったら想像がつくかな。冒険者をやってる魔法使いは、みんなそれをいくつも杖に仕込んで使い分けるのさ」


 「えーすごい! めちゃくちゃ便利ですね。最後に使った『風よ!(ベイントス)』ってやつもそうなんですか?」


 「いや、あれはだけは自前だよ。私の場合は風属性だけど、得意属性は簡単なものなら筒陣に頼らなくても使えるのさ」


 そう言って彼女は道端の草の葉を引き抜くと、手のひらに乗せて僕に見せた。

 手のひらに乗った葉っぱを見ていると、葉っぱが突然浮き上がってくるくると回り始めた。


 「おぉ! 葉っぱが踊ってるみたい」


 「ふふふ。喜んでもらえてよかった。でも今日やったみたいに相手を強風で煽ったり、飛び道具を吹き散らしたりくらいしかできないんだよ。

 もっと複雑な……例えば風で相手を切り裂いたりしようとと思うと、切る場所や強さを決めたり、風を鋭く圧縮したり、切れ味をよくするために細かい砂つぶを混ぜたり、いろんな工程が必要になってくる。

 でも魔物は魔法が組み上がるまで悠長に待っちゃくれないから、手っ取り早い筒陣(とうじん)を使うってことになるのさ」


 「なるほど、よくわかりました。ご指導ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げると、イネスさんは微笑みながら気にするなと手を振ってくれた。

 ……イネスさん、強くて頼れる大人のお姉さんて感じでいいなぁ。

 はっ、いかんいかん。僕にはヴァイオレット様がいるのだ。

 --いや、別に彼女は僕のものでは無いし、向こうは僕のこと全く意識して無いのだろうけど。

 何か一人で凹んでしまった。






 「タツヒトさん」


 イネスさんとの魔法談義がひと段落したところで、クロエさんが話かけてきた。


 「クロエさん。リゼットさんは問題なさそうですか?」


 「はい、まだ目覚めませんが、寝ているだけのようです。……タツヒトさん、改めてありがとうございました。タツヒトさんが最初に気づかなかったら、姉は今頃死んでいたでしょう。私たちはあんなにキツく当たっていたのに、高価な薬まで使って助けていただけるなんて」


 「気にしないでください。助かってよかったです。 --あの、一つお訊きしていいですか?」


 「はい、どうぞ」


 よし。すごく訊きづらいけどこの際言ってしまおう。


 「僕って、多分お二人に結構嫌われていると思うんですけど、その理由がわからなくて ……何か気に触るようなことをしてしまいましたか?」


 「それは……」


 クロエさんはとても言いづらそうに話し始めた。

 リゼットさんのお母さん、つまりはボドワン村長の姉妻は数年前に魔物との戦いで亡くなってしまった。

 その時リゼットさん自身とても悲しんだけど、家族の嘆きように彼女はショックを受けたそうだ。

 残った大好きな家族の力になりたいとけど自分は頭が良くない。だから強くなって役に立とうと彼女は考えた。

 そしてクロエさんが成人したタイミングで一緒に領都に行き、冒険者登録して修行して、一人前の赤銅級冒険者になって村に戻ってきたのだ。

 その時すでに、自分よりも年下で圧倒的に強いヴァイオレット様がこの辺りの担当になっていたけど、彼女は貴族で軍人だ。

 遠い目標として、自分は自分なりに家族の力になっていこう、リゼットさんはそう納得して村で頑張っていた。

 だが、ここで僕が現れてしまった。


 『エマを助けてくれたのは素直に感謝しかねぇ。だけどよぉ、男のくせに強くて、親父の仕事も手伝えるくらい頭もよくて、ヴァイオレット様とも仲がいいとか、俺がやってきたことはなんだったんだよ……

 くそ! 気に入らねぇ!』


 リゼットさんは、クロエさんにそんな風にこぼしていたそうだ。


 「なるほど…… それは確かに気に入らないでしょうね」


 ほぼほぼ逆恨みだけど、心情的には大変納得のいく内容に思わず苦笑してしまった。

 僕が同じ立場だったら、いじけるか、靴の中にこっそり砂利を入れたりして嫌がらせしてただろうな。

 あれ、でも……


 「あの、今のでリゼットさんが僕を嫌ってる理由は分かりましたけど、クロエさんの理由はなんですか?」


 「何を言ってるんですか。姉の嫌いなものを好きになる妹なんて居るわけ無いじゃないです」


 そ、そうですか。

 ある意味誰よりも軸がしっかりしてる人だな。


 「でも、それも命あってのものだねです。村の住人同士でいがみ合うようなつまらないことで、もうこれ以上家族を失いたくありません」


 クロエさんは僕の目を見据えて言う。


 「これまで本当にすみませんでした。私からも姉によく言っておきます。タツヒトさんは私達の敵では無く、新たに加わった頼もしい仲間だということを」


 彼女は最後に深々と頭を下げてリゼットさんの元に戻っていった。


 仲間か。面と向かってそう言ってもらえると結構嬉しいな。

 村へと帰る足取りが少し軽くなった気がした。

 

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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