第239話 閃炎の魔導士(1)
めちゃくちゃ遅れてしまいました。。。すみませんm(_ _)m
ちょっと長めです。
月曜更新できなかった分は、日曜更新にて補完させて下さい。
カサンドラさんから紹介状を頂いた僕らは、取り敢えず昇級の件は後回しにし、内壁街の魔導士協会本部へ向かった。
王国の王都と同じく、ここでも内壁街は貴族や上流階級の街になっていて、入るには紹介などが必要らしかった。
しかし、内壁街への門にいた兵士の人達は、カサンドラさんの紹介状を見せると恭しく僕らを通してくれた。
毎回カサンドラさんの紹介状が便利すぎる。本当に何者なんだあの人……
洗練された街並みの内壁街を歩いてくと、その中央付近に聳え立つ協会本部に辿り着いた。
近くで見るとその大きさと高さが際立つ。赤い煉瓦造りで優美かつ頑丈。まるで城のような構造で、尖塔がいくつも立ち並び、中央の塔に至っては高さ百数十mはありそうだ。
ここに出入りしている人々もたくさんいるらしく、敷地内を老若男女様々な人々が行き交っていて、露天まで立ち並んでいる。
若い人も多く、なんだか前にテレビで見た大学のキャンパスみたいな雰囲気だ。この都市には魔導士の学校があるらしいけど、協会本部がそれを兼ねているのかも。
「改めてでっかいなー。聖ぺトリア大聖堂も大きかったですけど、高さでは協会本部の方が勝っていますね」
「そうですね。でも、この色合いと言い高さといい、お隣の王城よりも目立ってしまっていますね…… 怒られたりしないんでしょうか?」
ロスニアさんの視線を辿ると、協会から少し離れた位置に、同じくらいの規模感の白亜の城があった。
こっちの王城の方が装飾も多く優美さでは勝っているけど、確かに視線は協会の方に向かってしまう。なんたって赤いからね。
「普通であれば王家から不敬と断じられてしまうだろうな。しかし、この都市はその成り立ちが特殊で、魔導士協会の力がとても強いらしいのだ。
理由については…… プルーナの方がよく知っているだろうか?」
「はい! 以前本で読んだんですが、太古の昔、ここは強大な魔物と夥しい数の魔窟を有する広大な魔物の領域だったそうなんです。
その大きな魔物の領域が何度も大狂溢を繰り返すので、周辺はとても人類が住める土地ではありませんでした。
そこに、魔導士の祖と言われる大魔導士アシャフが現れ、当時の弟子たちと共に領域の全てを焼き払ったんです」
「え…… アシャフって、今から会う協会長さんと同じ名前だよね?」
「はい。魔導士協会長の座についた方は、慣習的に代々アシャフの名を襲名するそうなんです。
今代の協会長は、閃炎の魔導士と呼ばれる凄腕らしいですよ!
えっと-- それで、この都市はその焼け跡の上に作られたものです。不敬なので大きな声では言えませんが、今の王家は当時の魔導士達の世話係だったという説が有力だそうです。
そんな経緯で、この都市では魔導士協会が王家より強い権勢を誇っているんです。
あと、ここは魔物の領域の跡地、つまり龍穴が真上に作られた都市です。
そのお陰で、魔力の回復速度が魔物の領域の深部程に早いとも本にありました。まさに、魔導士のための都市ですね!」
ヴァイオレット様に水を向けられたプルーナさんが、嬉しそうに解説してくれた。やっぱり、魔法が大好きなんだなぁ。
「にゃー…… すげー話だと思うにゃけど。それって何時の話だにゃ?」
言外に、そんな昔の手柄で何時までも威張っていられるのかとゼルさんが疑問を挟む。
「少なくとも数千年は前の出来事だろうな…… しかし、我々が日常的に使う治療薬や便利な魔導具は、すべて協会の管理下にある。
軍や冒険者達への影響力、資金力においては、むしろ現在の方が大きな力を持っているだろう」
「--はっ!? シャ、シャムはまずいことに気づいたであります……
シャム達が探してる古代遺跡は、おそらくその時点でここに存在していたはずであります。
だとしたら、あるはずの場所に無いのは、跡形もなく焼けてしまったからなのでは……?」
「「あ……」」
シャムの指定に、全員が惚けたように口を開ける。た、確かに……!
「ど、どうしましょう……?」
「--落ち着きなさぁい。南部山脈にあった古代遺跡は、かなり頑丈な造りでしたわぁ。
あれと同じものなら、無事に残っている可能性だってありますわぁ。その辺りも含めて、今から会う方に伺ってみればいいですわぁ」
キアニィさんの指摘に全員が深く頷いた。確かに。
紹介状の力で守衛さんを突破した僕らは、魔導士協会の広い敷地に足を踏み入れた。
事務室らしき場所でまた紹介状を見せると、職員の方がすぐに対応してくれて、応接室のような場所に通された。
ちなみに、応接室は外から見えた高い尖塔の最上階付近らしく、沢山階段を登る羽目になった。
そのまま小一時間ほど座って待っていると、ドアの向こうから足音が響き、ノックもなしに扉がバンと開いた。
「待たせたな、俺がアシャフだ」
入ってきたのは、仮面の魔導士だった。
仮面は顔の上半分のみを覆うもので、引き結んだ口元と特徴的な笹穂耳は露出している。妖精族だ。
髪は燃えるような赤のウェーブロングで、豪奢なワインレッドのローブを着ている。
ただその特徴的な出立よりも気になるのは、体型や顔の造形、そしてその声が、僕のよく知る人とそっくりなところだった。
僕らが驚いて固まっている内に、アシャフ氏はスタスタと対面に座ってしまった。
「失礼します」
声に振り返ると、開けっぱなしのドアから給仕の方が入ってきたところだった。
彼はそのまま流麗な手つきで全員にお茶を淹れ、作業が終わるとすっと壁際に控えた。
「ご苦労。下がれ」
アシャフ氏の声に、給仕の方はまたすっと頭を下げ、殆ど音を立てずにドアを閉めて退出した。
王族よりも傲岸不遜な話し方だ。しかし、もう一度彼女の声を聞いて確信した。
魔導士協会長アシャフ。彼女は、カサンドラさんと猊下に次いで三人目の、シャムと同じ顔を持つ人間だ。
驚いてみんなの方を振り向くと、全員僕と同じように目を見開いている。
視線をアシャフ氏に戻すと、彼女はじっと僕らの方を凝視していた。
あ、やべ。まだ挨拶もしてなかった。
「お、お初にお目にかかります。私達は--」
「シャムというのはお前だな。ここに来い」
焦りながらも何とか僕が発した挨拶を遮り、彼女は自分の横の床を指した。
「は、はいであります……!」
有無を言わさぬ雰囲気に、椅子を降りたシャムがとてとても彼女の元に歩み寄る。
すると彼女は、突然両脇に手を差し入れてシャムを抱き上げてしまった。
意外と子供好きなのかと思ったけど、仮面の奥の目は全く笑っておらず、冷静に対象を探るような様子だった。
「あわわ……!」
彼女はシャムを何度も持ち替え、数分かけてしっかりと観察してからやっと解放した。
「--ふん。よし、もういいぞ」
シャムが逃げるようにこちらに戻ってくる。ちょっと怖かったらしい。
「旧世代の機械人形を有り合わせでここまで修理するとは、流石教皇と言ったところだな。
カサンドラからの紹介状にもあったが、貴様らはこの娘のために古代遺跡を探していて、俺に助言を求めに来たわけだな」
……! やはり、彼女も猊下やカサンドラさんと同じく、シャムの正体について既に知っているようだ。
「はい、どうかご助力を--」
「貴様がタツヒトだな」
アシャフ氏がまた僕の発言に被せてくる。 ……コミュニケーションて、そういう一方的なものじゃいけないと思う。
「はい、私ですが……」
「だろうな。では貴様の強化魔法を-- 待て、なんだその槍は?」
アシャフ氏が、僕の側に立てかけられた漆黒の短槍を凝視した。
……気づいたのか。貰って暫くは異様な気配を発し続けていたこの槍だけど、周囲を威圧するので正直街中では不便すぎた。
試行錯誤して、最近やっと気配を発さないように制御できるようになったのだ。
「えっと、蜘蛛の神獣から下賜された、天叢雲槍という神器です。天候をも操る力があります」
「何だと……!? 見せてみろ」
ずいと手を差し出してくるアシャフ氏。まぁ、見せるだけなら。
「わかりました。ですが、強い気配を発するかもしれませんので、お気をつけ下さい」
席を立って彼女に槍を手渡した途端、槍から異様な気配が溢れだす。
しかし、アシャフ氏は全く気にする素振りを見せず、シャムにそうした時の三倍ほどの時間をかけてじっくりと槍を観察した。
「……驚いた。本当に神器ではないか。よし、これを俺に売れ。一千万ファージ出してやろう」
「え…… い、いや、ダメですよ! 絶対に売れません!」
いきなりだったので素で断ってしまった。しかしこの槍は、アラク様がその御御足を捥いでまで創ってくれたものだ。絶対に手放すわけには行かない。
一千万ファージというと日本円でざっくり10億円くらいだけど、金額は問題じゃない。
「なんだと……? ならば一億ファージ出そう。流石に支払いは分割になるが、これならば文句あるまい」
「……お断りします。その槍には、お金に変えられない価値があるんです」
「--ふむ、なるほど。貴様は物の価値を分かっているようだな。少し評価を上げてやろう」
アシャフ氏は薄く笑いながら僕に槍を返すと、椅子から立ち上がった。
「では、紹介状にあった強化魔法とやらを使って見せよ」
……これ何の時間なんだろう? 全然古代遺跡の話ができていない。
けど、僕らは彼女に教えを乞いに来ている立場だ。今は素直に従っておこう。
「わかりました…… 『雷化』」
強化魔法を行使したことで、僕の体は青く発光し、体表でバチバチと放電が発生し始めた。
それを見たアシャフ氏が仮面の奥で目を見開き、感嘆の声を漏らす。
「ほぅ…… 貴様は万能型だったな。具体的に、その魔法は何が強化されるのだ?」
「はい。反射速度を含む身体機能を一段階引き上げる効果があります。唯一、肉体の耐久度だけは上昇しません」
「ふむ、心得た。では行くぞ」
「へ? 何を--」
何をするおつもりですか? そう僕が言い終わる前に、いつの間にか僕に向けられていたアシャフ氏の手から、閃光が迸った。
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