第237話 賭博と魔法の都(2)
めちゃくちゃ遅くなりましたm(_ _)m
夜にもう一話投稿予定です。
首都ディニウムの地下一階は、地下街という言葉の印象と違って、猥雑な感じは無くとても綺麗に整備されていた。
ただ、大通りらしい場所を歩くと結構人が多くて、逸れたら迷子になりそうなほどだ。
今がお昼時で、通りのお店の殆どがごはん屋さんか食料品店なせいだろうけど、とても活気がある。
ふと天井を見上げると、重さを支えるのに効率が良さそうなアーチ形状で梁がいくつも走り、点在する太い柱と繋がっていた。
「上の街をちょっと小さくして地下に複製したみたいな印象ですね。こんなに大きな空間、街の真下にどうやって作ったんだろう……?」
「多分、土魔法で元々あった土を圧縮して、柱や壁にしたんだと思います。見た感じ強度も十分そうですね。いい仕事です。
あ、シャムちゃん。人が多いから乗ろっか。逸れると大変だし」
「ありがとうであります!」
土魔法の専門家であるプルーナさんが、シャムを背中に乗せながらコメントしてくれる。
彼女がそういうなら、ここが崩落することは無さそうだ。
「しかし圧巻だ…… 王国のことわざに『それを見ずしてそれを信じるな』とあるが、まさに--」
「きゃっ……!?」
小さく響いたロスニアさんの悲鳴に、全員が武器に手をかけて振り返る。
すると、ちょうどキアニィさんが、フードを目深に被った人物の手を掴んでいるところだった。
バギッ……
「***ッ!?」
何かが折れる音がした後、その人物は握っていた皮袋を取り落とし、一目散に逃げていった。
「どうしました!?」
「コソ泥ですわぁ。面倒ですから、腕を握り潰すだけで見逃して差し上げましたの。
ほらロスニア。お気をつけなさぁい」
「あ…… ありがとうございます、キアニィさん。すみません、全く気づきませんでした……」
キアニィさんから皮袋を差し出されたロスニアさんは、そこで初めて財布を掏られていたことに気付いたようだった。
響いたコソ泥の悲鳴と僕らのやり取りに、周囲の人達は一瞬注目したけど、すぐに興味を失って視線を外した。
なるほど。地下街らしくなってきたな。
それから、人でごった返すこの時間帯に一階を探索することを諦めた僕らは、地下二階もざっと見回り、地下三階まで降りた。
階を下る度に街の雰囲気は猥雑になってきて、お店の構成も変わっていった。
ゼルさんの情報通り、三階から段々と地下街の影の部分が見え始めたのだ。
地下三階に降りて少し歩くと、すぐに通りの雰囲気が一変した。
通りに並ぶたくさんの宿屋のようなお店は、魔導国語と王国語が併記された看板が掲げてあり、店先では露出度の高い服装の若い男性が愛想を振り撒いている。
どこか後ろめたそうに道を行く人々は全員女性で、客引きらしき兎人族のお姉さん達が、彼女達にしきりに声をかけている。
雰囲気でわかる。ここはえっちなお店の通りだ……! でもざっと見た感じ、この通りには男用のお店は無いみたいだ。残念。
「おぉ! 見るにゃロスニア! あいつ殆ど丸見えだにゃ!」
「や、やめなさいゼル! はしたないですよ!?」
嬉しそうにお店を指差すゼルさんと、僕の方を気にしながらもチラチラとお店の方を伺うロスニアさん。
僕も釣られてお店の方を見ると…… わぉ、確かに殆ど丸見えだ。こちらに手を振る中性的なお兄さんは、スケスケの布で最低限の箇所だけを覆っているだけの格好だった。
「そう言ってロスニアもガッツリ見てるにゃ」
「……!」
バシッ、バシッ!
「痛いにゃ……」
真っ赤な顔をしたロスニアさんに、ゼルさんがぶっ叩かれている。他のみんなも、どうしても抗えない……! といった感じでちらちらとお店のお兄さん達に視線を送っている。
--正直ちょっとモヤる。でもまぁ、気持ちはすごくわかるし、僕の立場では文句言えないからなぁ……
「うわぁ……」
「す、すごいであります…… 映像を記録しなければ、であります」
チラチラどころか、ガン見しているお子様二人もいた。プルーナさんとシャムは目を皿のようにし、顔を真っ赤にしてスケスケお兄さんを凝視している。
教育に悪そうだけど、すでに僕らの痴態を散々見られてるし、ここを探索する上で見ないわけには行かないから、しょうがないか……
なんだか普段の行いのせいですごく無力感に苛まれるぞ。
明らかに歩行速度が遅くなったみんなを引っ張って次の通りに行くと、また雰囲気が一変した。
酒場のような雰囲気のお店が立ち並び、通りには灯火が普通の倍は設置されている。
店の中からは絶望や歓喜の絶叫がこだましていて、通りをいく人達の目もぎらついている。
「……! タツヒト。ちょっとあそこの店に入ってみるにゃ。ゆーえきな情報が聞けるかもしれにゃいにゃ」
ゼルさんはそう言って、キリリとした表情で特に賑やかな様子のお店を指差した。
「--そうですね。みんなすみません。僕とゼルさん、それからシャムとプルーナさんはここで待っているので、ちょっと聞き込みしてきてくれますか?」
「うむ。了解した」
「ちょっと行ってきますわぁ」
「ゼル、大人しくしていてくださいね」
僕の言葉に、お子様二人を残した面子がお店に入っていった。
「な…… なんでだにゃ!? ウチも行くにゃ!」
ついていこうとするゼルさんの手を、僕はしっかりと握った。
「いや、あれ絶対賭け事のお店ですよ…… また奴隷落ちする気ですか?」
「うにゃ〜…… 後生だにゃ。もう一年くらい賭け事やってにゃいにゃ。頼むにゃ、一回だけ、一回だけだにゃ!」
情けを誘うように僕に縋り付くゼルさん。本当に涙目になっていて、一回だけならいいよと言ってしまいそうになる。
「な、泣いたってだめですよ!」
「ゼル…… かっこ悪いであります」
「賭け事って怖いんだね、シャムちゃん……」
騒ぐゼルさんを宥めながら待つことしばし。聞き込みを終えた三人が戻ってきた。
けれど、残念ながら古代遺跡の情報は得られなかったみたいだった。
古代遺跡らしき変わった部屋や建物を見たという人はおらず、そんな噂話も聞いていないらしい。
収穫としては、現在の地下街は地下15階まで存在していて、さらに拡張を続けているそうだ。
加えて、街の形に整備されていない坑道のようなものであれば、どこまで広がっているか見当もつかないらいしい。
少なくとも、目的のものを見つけるのがかなり難しそうということだけがわかった形だ。
「そういうわけで、少しこの街に腰を据えて探索する必要がありそうだ。もう時間も遅いし、今日のところは引き上げるとしよう」
「うぅ…… みんな、ごめんであります……」
「気にするんじゃ無いにゃシャム。ウチがかけた迷惑と比べたら可愛いもんだにゃ」
「それは本当にそうなので、反省してくださいね、ゼル」
そうして全員で地上への階段に向かって歩き始めたとその時、地下街が揺れた。
ズズズ……
「わっ、地震……?」
「ひぃ……!?」
日本出身の僕でも少しビビってしまうような激しい揺れ。プルーナさんが悲鳴をあげて僕に抱きつき、他のみんなも険しい表情で身を低くしてあたりを見回す。
周りを行く人達、特に地元民らしき人たちは割と平然としているけど、王国出身らしき人達は僕らと同じように慄いている。
数秒後、揺れはだんだんと小さくなり、完全に無くなった。
「収まったか…… 随分揺れたな」
ヴァイオレット様のつぶやきに、目をつぶって僕に抱きついていたプルーナさんが慌てて手を離した。
「す、すみません。構造的に大丈夫とわかっていても、地下で地震にあうとかなり怖いですね……」
「それはそうですよ。でも、周りの人の反応を見ると、そんなに珍しいことじゃ無いみたいでね…… ともかく、早いとこ宿に戻りましょう」
来る時より少し足早になりながら、僕らは地上に向かった。
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