第236話 賭博と魔法の都(1)
すみません! 日を跨いで朝になってしまいましたm(_ _)m
今日の深夜頃にもう一話投稿します。
船が出てからずっと続いていたロスニアさんのお説教は、魔導国が見え始めた頃にやっと終わりを迎えた。
遠くに見えたのは見事な白い岸壁。結構有名な観光名所なのか、甲板にいた人達も船首に集まって物珍しそうに眺めていた。
僕らも他の乗客達に混じってその岸壁を眺めはじめ、みんなが飽きる頃には魔導国の港に到着した。
船を降りると、ほんの数時間海を渡っただけなのに異国の香りがした気がした。
港には人がごった返していて、隣接した市場からは魔導国語の客引きの声がひっきりなしに聞こえる。
王国と同じくこっちの港町もかなり栄えてるみたいで、冬だと言うのに人の熱気が感じられるほどだ。
そんな活気に溢れた雰囲気に当てられたのと、魔導国に来るのは全員初めてとあって、みんなでちょっと市場を見ていこうということになった。
「活気があるなぁ。当然ですけど、やっぱり兎人族の人が多いですね」
王都でもたまに見かけていたけど、市場には大きなウサ耳が特徴的な兎人族の人達がたくさんいた。
猟豹人族のゼルさんと同じく、顔や体の各部がふわふわの毛で覆われていて、尻尾は短いヘラ状の形をしている。触ってみたい。
耳の形や毛の色はかなり個人差があるようで、ピンと立っている人もいれば垂れている人もいる。
「うむ。聞いていた通り、妖精族や鉱精族もちらほら見かけるな。
--ちょっと試してみよう。すまない」
「***?」
ヴァイオレット様が露天の人に話しかけると、店主らしき只人のおじさまは魔導国語らしき言葉で答えた。
「その干物を一つ貰えるだろうか?」
「--あぁ、はいはい。2ファージか、3オールね」
「これを」
「3オールね。はい毎度!」
途中から王国語で話してくれた店主さんに、ヴァイオレット様は王国の通貨を渡し、魚の干物を一つ購入した。
そしてその場でガブリと一口食べ、満足そうに頷く。
「ふむ、流石港町。ただの干物でもうまい。これも聞いていた通り、この辺りなら王国語が通じるようだな」
「王国の通貨だと、手数料分余計に掛かるみたいですわねぇ。手持ちのいくらかを魔導国の通貨に変えておきましょう。
ところでヴァイオレット、その干物わたくしにも味見させて下さらない?」
「ふふっ、いいとも。半分こだ」
それからみんなでしばし買い食いを楽しみ、両替を終えてから街を出た。
港町で聞いたところ、ここから首都までは街道を歩いていけば数日で着くらしい。
身体強化にものを言わせて走れば一時間もせずに着くだろうけど、見知らぬ土地で爆走するのは色々と危ないし、何より風情がない。
そう言うわけで、僕らは冬晴れの異国の空の下をのんびり歩き、三日目のお昼頃に首都ディニウムにたどり着いた。
「大きい街ですねー。王国の首都よりほんのちょっと小さいですけど、やっぱり連邦とは建物の規模感が違って圧倒されちゃいます」
「シャムからしたら連邦の里の方が凄かったでありますが、確かに大きいであります!」
都市に入るための行列に並びながら、プルーナさんとシャムがほへーという感じでディニウムの防壁を見上げている。
ここに来るまでに寄った村などで聞いていたけど、確かに直径1km以上はありそうな立派な防壁だ。人口も5万を超えるらしい。
そのまま都市防壁の門をくぐると、内部にもう一層防壁があり、道中も目にした巨大な河川、雄大なテルム川が陽光を反射して煌めいていた。
防壁の向こう側。内壁街の中央付近には、背の高い白亜の城と赤い煉瓦作りの塔が見えた。この国の王城と魔導士協会の本部だ。
双方同じくらいの大きさなので、この国における魔導士協会の力の強さが伺える。
というか、いくら強い勢力を持ってたとしても、普通王家に気を遣ってちょっと抑え目にするよな…… 協会長は結構ヤンチャな人なのかもしれない。
それから僕らは、外壁街の中でも良さげな宿屋で部屋を取り、一階の食堂でご飯を食べながら作戦会議をした。
この宿は当たりだったらしく、テルム川で取れたらしいフナぽい魚の香草パン粉焼きが絶品だった。
さておき、作戦は非常にシンプルで、シャムにお任せ。これ一択である。
シャムは、周囲の地形と古代遺跡で写した地図とを照らし合わせ、地図上の自分の位置をかなり高精度に当てることができる。
さらに周囲の地形が確認しずらい都市内においても、自分の歩幅と歩数、進行方向から、m単位で自己位置を推定することすらできる。機械人形である彼女にしかできない方法だ。
そんなわけでシャムを先頭に街の中を進んで行ったのだけれど、半ば予想してた光景が広がっていた。
「ここ、のはずでありますが…… それらしいものは無いでありますね」
「むぅ、やはりか……」
シャムのナビゲーションでたどり着いたのは、テルム川近くの唯の道だった。
あたりを見回してみても、普通の民家やお店があるくらいで、古代遺跡らしきものは全く見えなかった。
そりゃそうだよなぁ。街中にあんなに目立つ施設があったら、もう観光名所になっててもおかしく無い。
一応通行人の人やお店の人に聞いてみたけど、珍しい建物に関する情報は得られなかった。
「ここって川の近くですし、氾濫した時とかに土の中に埋まってしまったとかですかね。
プルーナさん。土の中にある探し物を探り当てる魔法なんて……」
「ご、ごめんなさい。僕が知っている中にはいい方法は無さそうです。
一応、土魔法の干渉の具合の違いで、土中から金属を見つける魔法なんかがあります。
でも、遺跡だけじゃなくて他の鉱石にも反応しちゃいますし、埋まっている深さもわからないですから……」
おぉ、ダメもとで聞いてみたけど、まさかちょっと可能性がありそうな方法を返してくれるとは。
でもその方法だと、確かに探し当てるのに果てしなく時間がかかりそうだよなぁ。
「まぁ、これは半ば予想していた展開だ。気を取り直して次に行くとしよう」
「え…… つ、次ですか?」
「うむ。タツヒト、魔導国の都市は特殊な構造をしていると言っただろう? おそらくこの辺りにも…… あぁ、あれだろう」
ヴァイオレット様はあたりを見回すと、一点をさしてそのままそこに歩いて行ってしまった。
慌ててみんなでついていくと、それはなんというか、この世界では初めて見る造りの建物だった。
道端にポツンと細長い小屋が立っていて、どこか既視感を覚える。トイレだろうか?
しかし、入り口に回った瞬間に疑問は氷解した。扉も、中身すら何も無い小屋の中には、地面の下に向かう下り階段だけがあったのだ。
「お、ここが入り口だったのかにゃ! ウチ、ワクワクしてきたにゃ!」
「ゼル…… 一応言っておきますけど、もし今のあなたが奴隷落ちしたら、買取額はとんでも無いことになりますよ?」
「わ、わかってるにゃ…… そんなに怖い顔しないで欲しいにゃ」
平坦な調子で静かに語るロスニアさんに、ゼルさんが怯えながら応える。
そんな二人の掛け合いを聴きながら長い階段を降り、視線を足元から戻すと、そこには広大な空間が広がっていた。
5mほどの高い天井。煌々と共された魔法の灯火が、どこまでも立ち並ぶ石造りの建物群を照らしている。
整備された道を多くの人々が歩き、上の街と変わらない賑わいがある。客層は比較的、鉱精族が多いようにも見える。
一定間隔で天井を支えるための太い柱が存在していて、それがここが地下であることを思い出させた。
街の下にもう一つの街、地下街が広がっていたのだ。
「す、すごいですね…… この地下街が、この国独特の特殊な構造ですか。もしかしたら、上の街と同じくらいの広さがあるんじゃ無いですか?」
「あ、ああ。私も話には聞いていたが、これほど広大なものだったとは……
兎人族の半数ほどは地下を好む種族で、何世代もかけてこの広大な地下街を構築してきたそうだ。
街の成り立ちも特殊なため、地下には金属資源も多く埋まっている。そのせいで鉱精族も多く暮らしているのだ。
しかし、地表に古代遺跡がないのなら、なんらかの理由で地下にあるかもしれないと思ったのだが……
ゼル。君は私より詳しいだろう。この地下街、地下何回まであるのだろうか?」
「にゃー、流石にわからないにゃ。でも、地下10階で精力剤を買った奴が、三日間やり続けて死んじまった話を聞いたことがあるにゃ。
だから最低でも地下10階はあると思うんにゃけど、地下街は下と横に広がり続けてるって話も聴くにゃ」
「そ、それは探索範囲が膨大でありますね……」
目の前の光景に心を躍らせていたみんなが、これ見つけられるのか……? と不安な表情をする。
ていうか、なんだよゼルさんの今のエピソード……
「あ、タツヒト。色町は地下三階かららしいにゃ」
「……! えっと、情報ありがとうございます。さ、さぁ、まずはざっくり探索してみましょう! 取り敢えず、今日は地下三階くらいまで!」
ゼルさん以外からの若干冷たい視線に晒されながら、僕は地下街に向かって歩き出した。
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