第235話 兎人族の国へ
すみません、昨日は投稿できませんでしたm(_ _)m
昨日分は日曜の投稿で補わせてください。
コンソールに映る地図の全体像と、各地の最大拡大画像を、シャムは殆ど印刷するかのような精度で紙に写し取った。
その後は最後にもう一度念入りに見落としが無いか確認し、その日はこの遺跡で一泊した。
以前は僕とヴァイオレット様とシャムの三人だったので、寝室のベッドを三つ合体させるだけで十分だった。
でも今は七人もいるので、寝室のベッドを全て合体させても、全員で眠るにはちょっと狭いほどだった。
まぁ、ぎゅうぎゅう状態できゃいきゃいしながら眠れたから幸せだったのだけれど、大所帯になったものである。
翌朝。遺跡を出てクレバスを這い上がり、いざ下山を始めようとすると、キアニィさんが立ち止まった。
「あれ、何か忘れ物ですか?」
「--えぇ、とっても大きな忘れ物ですわぁ。ねぇみんな、このお肉-- じゃなくて風竜、このまま野晒しにしておくのは勿体無いのでは無くて?」
そう言って彼女は、クレバスの近くで凍りついた竜の巨体を指した。その言葉に全員がハッとし、激しく同意した。
キアニィさんを筆頭とした竜肉の魅力に取り憑かれたみんなは、その後綺麗な連携を発揮した。
まず、竜を一抱えほどのブロックに解体し、それらを全てクレバス下の谷底に降ろした。
その後、プルーナさんが谷底の石壁に土魔法で横穴を生成、竜のブロックをそこへ保管して雪で封印した。
ここは元々天然の冷凍庫だし、これなら他の魔物に食べられたり劣化もしにくいだろう。いつになるかわからないけど、またここに竜肉を取りにこよう。
しかし結構な作業量だったので、気づくともう日が傾いており、結局遺跡にもう一泊することになってしまった。
急ぐ旅じゃないけど、ちょっと欲に正直すぎたかも。
その翌日。今度こそ下山を始めた僕らは、また二日程かけて王国側に降りて北上した。
そして走ること数日、王都を通り過ぎ、その北西にある王国最大の港町に到着した。
この港からなら、僕らのいるイクスパテット王国からレプスドミナ王国、別名魔導国まで数時間で移動できるそうなのだ。二国は物理的に結構近いらしい。
今まさに出るところだった船に運よく乗せてもらった僕らは、寒々とした冬の海の上を、魔導国に向かって進み始めた。
「ふぅ…… いやー、運が良かったですね」
「そうですわねぇ。これに乗れなければ、一日待ちぼうけになるところでしたから。時間は貴重ですわぁ」
「ふふっ。食欲のため、丸一日かけて竜を解体していた人間の言葉とは思えないな」
笑いながらそう言うヴァイオレット様に、キアニィさんがひょいと肩を竦める。
「あら、何の事やら…… ところでわたくし、あまり魔導国について知りませんの。この中では、ヴァイオレットが一番詳しいのかしらぁ?」
「あ、僕も事前知識が殆どないです。どんな国なのか、簡単に教えてくれますか?」
「ふむ。それはそうだろうな。了解した」
ヴァイオレット様の話によると、レプスドミナ王国、通称魔導国は、兎人族が支配する王政国家の島国らしい。
国力はかなり大きめの中堅国家といった感じで、総人口は700万人程。妖精族と鉱精族も多く住んでいる。
王国との関係は、大昔には小競り合いもあったらしいけど、現在は食料を輸入して魔導具などを輸出する平和的なものになっている。
そのおかげで、海沿いから僕らの目的地である首都ディニウムあたりまでは、大体王国語が通じるそうなのだ。とてもありがたい。
プルーナさんが言っていた通り、ディニウムは魔導士の都として有名で、魔導士協会の本部や、協会が運営する魔導士のための学校などもある。
その関係で、種族的に魔法が得意な妖精族が多いのだそうだ。
鉱精族が多いのは、特徴的な都市の構造や土地の特性によるものらしいけど、それは着いてからのお楽しみらしい。
あと、賭博都市と言われる所以もこの辺に関わってくるそうだ。
「なるほど、だいたいわかりました。ちょっと首都に着くのが楽しみです」
「うむ。 --しかし、今回は懸念事項が多いな。古代遺跡を示す位置は、おそらく首都の直中を指していた。
ディニウムの中に古代遺跡があるという話は聞かないので、なんらかの理由で見つかりにく状態になっているのだろう。果たして発見できるのか……
そして、ゼルと賭博都市の組み合わせに、極め付けはタツヒト、君だ。何も起きない気がしない」
ヴァイオレット様が渋い表情で僕を凝視する。
「え。ぼ、僕ですか……!? --あの、この船に乗ってから、いつもより視線を感じる気がしていたんですけど…… それと関係してたりします?」
七人パーティーの中で唯一の只人の男、しかも前衛職に見える僕は、よく奇異の視線を向けられることがある。
しかし、この船の甲板の上では、いつもと違うなんだか湿度の高い視線を多く感じる気がするのだ。
それらの視線の元を辿ると、大抵一人か同性で固まっている亜人に辿り着く。夫婦やカップルっぽい人達からの視線はいつもの感じなのだけれど……
「あー、それはだな……」
「にゃっはははは。ヴァイオレット。さっきの説明、大事なことが抜けてるにゃ」
そこに、暇を持て余してシャムを肩車してたキアニィさんが割り込んできた。
「大事なこと、ですか?」
「そうだにゃ。兎人族ってのは、めちゃくちゃエロい種族なんだにゃ。あの吸精族とタメを張れるって言う奴もいるくらいなんだにゃ。
そう言うわけで、そんなエロい奴らが作ったディニウムにはもう一つ呼び名があるにゃ。その名も、近隣国家最大の色の都だにゃ!
この船に乗ってる独り身っぽい奴らは、十中八九その色町目当てだと思うにゃ」
「な…… なんですって!?」
あ、ワクワク感に思わず叫んでしまった。あぁ、ヴァイオレット様が天を仰いで手で顔を覆っていらっしゃる。こ、これはキツイ……
あたりを見回すと、会話が聞こえていたのか、僕に視線を送っていた淑女の方々が大袈裟に視線を逸らしてしまった。
ん……? そうか。たまに忘れそうになるけど、男女の貞操観念がおおよそ逆転しているこの世界だ。
おそらく、色町にいるのは見目麗しい男娼の方々だろう。なんだ、途端にワクワク感が萎んでしまった。
「にゃふふふふ。タツヒト、おみゃーの心が手に取るようにわかるにゃ。安心するにゃ。ちゃんと男用の店もあるにゃ」
「ほ、本当ですか!? あ…… い、いや、行きませんよ? 絶対に」
興味はある。とてもある。でも、一緒に死戦を潜って心も体も繋がったみんなを置いて、そういったお店に行けるわけが無い。行ける訳が無いのだ……
そんな僕の心中は表情が表れていたのか、シャムが少し悲しそうに呟いた。
「プルーナ。シャムは時々、タツヒトは誰でも良いのではと思ってしまうことがあるであります……」
「い、いや、タツヒトさんに限ってそんなことないよ! 多分……」
「タツヒトさん。聖教において人々の融和は推奨されるものですが、それは心の繋がりがあってこそですよ?」
「は、はい。その、重々承知しております……」
急遽始まってしまったロスニアさんのお説教を聴きながら、僕は早く船が港に着くことをひたすら祈った。
お読み頂きありがとうございます。
よければブックマークや評価、いいねなどを頂けますと励みになります。
また、誤字報告も大変助かります。
【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】
※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。




