第229話 死者と生者を想う
遅くなりましたm(_ _)m
今週はこの時間帯の更新になってしまいそうです。。。
少し短めです。
お前らちょっと落ち着けと猊下に言われた僕らは、深夜だった事もあり、その日は大聖堂の一室に泊めてもらった。
激戦の後だったせいで全員一瞬で眠りに落ちた翌朝。猊下は、シャムの子供服と朝食まで奢ってくれた上に、連邦に近い場所への転移魔法陣まで僕らを案内してくれた。
そして転移の直前、これだけお世話になっておいてシャムの治療費すら払っていなかったことに気づいた。
恐る恐る費用を尋ねる僕に、しかし猊下は静かに首を振った。
聖教の定めでは、身内で無い者を治療した場合は必ずお布施を徴収する必要がある。しかしシャムも其方らも、もはや我の身内だ。そう言われたのだ。
シャムは、ありがとーであります! と猊下に抱きついていたけど、僕らだってそうしたかった。本当に頼りになるお婆ちゃんだ。
僕らは最後にまた念入りにお礼を言った後、猊下に見守られながら転移した。
転移先は例によって真っ暗な古代遺跡で、入り口の偽装を破って外に出ると森の中だった。
キアニィさんとプルーナさんに確認してもらうと、ここが連邦の現在の中枢から徒歩で一日程の場所だと分かった。いやー、転移魔法陣本当に便利すぎる。
「皆さんこっちです。地形に見覚えがあるので、多分迷うことも無いと思います」
「ありがと。プルーナさんが居てくれてよかったよ」
「えへへへ…… 任せてください! あ、シャムちゃん、揺れとか大丈夫かな?」
「大丈夫であります! 視覚補正の範囲内の揺れなので、酔ったりもしないであります!」
先導してくれるプルーナさんの背中には、シャムがちょこんと乗っている。
今のシャムの歩幅だと僕らと差がありすぎるので、移動中は基本的にプルーナさんが背負っていく事になったのだ。
彼女は身体強化こそできないけど、蜘蛛人族なので可搬重量に余裕があるのだ。
ヴァイオレット様が運ぶ案もあったのだけれど、シャムの安全を考えると後衛職と一緒に居てくれた方が守りやすいのだ。
「そう言えば、エラフくん大丈夫かな……」
「む。君の友人の緑鬼か。翻訳装具でエーデルトラウト将軍には伝えたのだろう?」
僕の独り言に、ヴァイオレット様が反応してくれた。
「はい。でも、人類に囲まれてたら彼も不安だろうし、トラブルが起きて無いか心配なんですよ。まぁ、もう連邦から離れているかもですけど」
「それは確かに心配だな…… ところで話は変わるが、君は緑鬼だけでなく、例の獣の神にも随分と入れ込んでいるようだな」
「へ……? ええ。シャムを助けてくれて、脚を捥いで槍まで作ってくれましたしたから」
なんだろう。ヴァイオレット様の探るような視線がちょっと怖い。
「ふむ…… 率直に訊くが、かの神は君の好みだろう?」
--ば、バレてる…… やっぱり分かりやすいんだな、僕。
「えっと、はい…… お姿の美しさもさる事ながら、寛大で懐が深く、人間的な魅力にあふれた方でしたので。 --いや、人間じゃなくて神様なんですけど」
「なるほど…… キアニィ、どう思う?」
「流石に無いと思いますけれど、タツヒト君ですからねぇ…… 淑女協定にあの神様が加入したとしても、わたくしはあまり驚きませんわぁ」
「え……!? そ、そんな……」
隊列の先頭で僕らの話を聞いていたプルーナさんが、ひどく不安そうな表情でこちらを振り返った。
「プルーナ、心配することは無いであります。蜘蛛人族が二人居たとしても、タツヒトはプルーナを蔑ろにしたりしないであります!」
「……じゃあ、協定に別の機械人形が加入するってなったら、シャムちゃんは--」
「そんなの絶対に阻止するであります!」
「もう!」
お子様二人がいつものように戯れ始めるけど、内容が内容なだけにちょっと居た堪れない。
なんかすごく変な表情をしてしまっている気がする。
「にゃは、にゃっはははは! ロスニア、タツヒトの顔見てみるにゃ! --にゃ? どうしたにゃ、そんなシケたツラして」
少し心配げなゼルさんの声色に、全員が足を止めてロスニアさんを見た。
確かに、ひどく思い詰めた表情で俯いている。彼女は全員が足を止めたことにやっと気付き、顔を上げた。
「……あれ、皆さんどうしました?」
「それはこっちの台詞だにゃ。一体どうしたにゃ。全財産が入った財布を落としたみたいな顔してるにゃ」
ゼルさんの気の抜けるような言葉に、ロスニアさんは頬を緩めた。
「--ふふっ、違いますよ。 邪神討伐作戦で亡くなられた方々…… 私の提言が無ければ、死なずに済んだかもしれない方々を想っていたんです……」
その言葉に全員が息を呑んだ。当初の討伐作戦は連邦と王国の二国による想定で、それを発案したのがロスニアさんだった。
あの時、彼女はその選択の重さに震えながらも、王国の重鎮達に毅然と提言したのだ。
あの場に居た王国の枢機卿も仰っていたけど、彼女が創造神様に御子として選ばれたのは、その勇気を見出されたからなのだと思う。
「あの提言は周辺国家の人類全体にとって最適なものだったと、今でも信じています。
でも、遺族の方にとっては、そんな話より家族が亡くなってしまったことの方が遥か重いはずです。
そして、それを招いた私が聖職者を続けていていいのか…… そんな考えが、いつまでも頭から離れないんです」
そう言ってまた俯きそうになる彼女に、僕と、同じタイミングでキアニィさんが歩み寄った。
「ロスニアさん…… 話してくれてありがとうございます。そして、あなたの背中を押したのは僕らです。
だからその想いは僕らも背負います。絶対に、ロスニアさん一人に抱えさせたりなんかしません」
「そうですわぁ。それにあなたの行動によって、亡くなった方の何千倍もの人間が助かったはずですわぁ。
あなたは故人だけでなく、これからも生きていく沢山の人達を想ってもよろしいのではなくて?」
ロスニアさんは、僕とキアニィさんの言葉にはっと驚いたような表情になった。
そして周りに視線を巡らせる彼女に、他のみんなは大きく頷いて見せた。みんな、気持ちは一緒みたいだ。
「皆さん…… ありがとうございます。そうですね。自分の罪深さに慄くあまり、今を生きる人々を想う事を怠っていました。
そして私は、本当に人に恵まれていますね。今まさに、神を側に感じました。真なる愛を」
「お、調子出てきたみたいだにゃ。それじゃあ行くにゃ! ウチらが行かないと、連中、きっと打ち上げもできないにゃ!」
「ふふっ、そうですね。急ぎましょう!」
軽やかに尻尾を翻すロスニアさんと一緒に、僕らは再び連邦へ向かって歩き始めた。
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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】
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