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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
12章 四八(しよう)戦争:急

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第227話 体は子供、頭脳も子供

本日は二話更新でして、お昼頃に第226話を上げております。ご注意下さいませ。

ちょっと長めです。


 トッ。


「おっと……」

 

 突然復活した地面の感覚に、少しバランスを崩しそうになる。

 シャムを抱き直して辺りを見回すと、そこは聖ぺトリア大聖堂前の広場だった。もう日が沈みかけているので周囲は薄暗い。

 1,000kmの距離を魔法陣も無しに一瞬かぁ…… 場所もこっちの指定通り正確だし、流石アラク様。

 っと、みんなも送ってくれるはずだけど--

 

 ドササッ!


「痛っ!?」


「ここは……!?」


 後ろから複数の着地音と声。振り向くと、『白の狩人』のみんながそこに揃っていた。

 前衛職業の人達と多脚のプルーナさんはちゃんと着地に成功しているけど、ロスニアさんは着地に失敗してお尻を打ってしまったようだった。


「みんな! よかった、ちゃんと送ってもらえたんだね!」


 僕がみんなの元に駆け寄ると、ゼルさんとキアニィさんが真っ先に反応してくれた。


「にゃ! タツヒト、無事だったかにゃ!」


「よかったですわぁ…… ロスニアから突然消えたと言われた時には、どうしようかと-- 送ってもらえた……?」


「はい。ちょっと偉い人にお願いして、みんなを聖都に送ってもらったんです。ロスニアさん、手を」


 僕は手を差し出すと、お尻をさすっていたロスニアさんがガバリと立ち上がった。


「タ、タツヒトさん! 突然消えてしまって、一体今までどこに……

 あっ、シャムちゃんはどこですか!? 私から離れたので、もう魔法が切れてしまっているはずです!」


 目に涙を溜めて捲し立てるロスニアさん。そ、そりゃそうか。彼女視点だと僕より意味不明な状況だし、シャムの容体の面でも焦燥感が強かったはずだ。

 その状態で呑気にアラク様とお茶していたと思うと、非常に申し訳ない気持ちになる……

 僕は努めて穏やかな声で、布でぐるぐる巻きのシャムを彼女に見せた。


「安心してください。シャムはここです」


「え…… これがシャムちゃんですか!? い、急いで魔法をかけ直さないと--」


「いえ、大丈夫です。この布で巻かれている間、中の時間は止まっているそうなので」


「時間が、止まっている……? い、一体何を言っているんですか……?」


 混乱の極みにあるロスニアさんの肩に、ヴァイオレット様が手を置いた。


「ロスニア、落ち着くのだ。 --タツヒト。あの蜘蛛人族の少女らしき超常の存在…… やはりあれが、本物の邪神だったのか?」


「--はい。僕らが討伐したのは邪神の眷属だったんです。でも、詳しい話は後にしましょう。今はシャムを猊下に見ていただく方が先です」


 突然聖都に転移させられて混乱しているみんなを引き連れ、僕は大聖堂に向かった。

 鬼気迫る雰囲気の僕らに引きつつも、職員の方は僕らをすぐに猊下の元へ通してくれた。

 そして応接室には、いつもの悟りを開いたかのような様子では無く、人間的で不安げな表情をした猊下が待ってくれていた。


「……! 知らせを聞いて驚いた。だがひとまず、皆、よくぞ帰ってきた」


 シャムと、僕が持つ黒い槍を捉えた猊下の目が、驚愕に見開かれた。やっぱり、ご存じなのか。


「はい。ただいま戻りました、猊下。まず端的にご報告します。連邦を襲っていた、邪神と呼ばれる強力な魔物は討伐することができました。

 しかし、その時シャムが瀕死の重傷を負ってしましました。今はシャムの時間は止まっていますが、この布を外すと時間は流れ始めます。どうか、猊下のお力でシャムを治して頂けませんか?」


「時間を…… なるほど、大義であった。そして、やはり相対したのだな。あの、古き獣の神と」


「--はい。アラク様、蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)は意外に友好的でした」


「そうか…… 詳しく聞きたいところであるが、今はシャムの治療が先だ。ついてくるが良い」


 席を立った猊下の後に続いて暫く大聖堂の中を歩くと、やはり地下の聖槽の部屋に辿り着いた。

 部屋に入ると、シャムを布に包んだまま聖槽に入れるよう猊下に言われた。

 僕が指示通りにシャムを聖槽に横たえると、猊下は大きく頷いた。


「よし…… 此度の治療には、少なくとも数時間は要するだろう。其方らは元の部屋に戻り、休息を取るが良い」


「い、いえ! シャムちゃんが大変な時に休憩だなんて--」


「プルーナよ、其方の気持ちは分かる。しかし、其方らは自分達が思っている以上に消耗しておるのだ。

 病人が増えては敵わぬ。ここは、(われ)に従ってはくれぬか?」


「……! わかり、ました。すみません……」


「よい。繰り返すが、気持ちはよく分かるのだ」


「--では猊下、シャムをよろしくお願いします」


「うむ、任せよ」


 後ろ髪を引かれるような気持ちになりながらも、僕らは聖槽の部屋を後にし、素直に応接室に向かった。






 部屋に戻ってすぐ、僕はみんなにアラク様から聞いた話を共有した。

 最初は全員、信じられないというような表情をしていたけど、僕の話を聞く内に納得の表情に変わっていった。

 時間を止める道具を作れたり、魔法陣無しで転移させるなんて、そんな人類どこを探しても居ないからだ。

 何より、あの時狩場にいた全員が感じたはずだ。自分達が総力をあげてやっと倒した邪神、それ以上の存在があの場に現れたのだと。


 そして、僕ら応接室に戻ってから数時間が過ぎた。

 職員の方が出してくれた軽食もろくに喉を通らぬまま、全員が重苦しく黙り込んでいる。

 窓に目を向けると、すでに日はとっぷりと暮れ、聖都の街並みからも光が消え始めている。


「深夜、になってしまったな……」


 同じ事を考えていたらしいヴァイオレット様の呟きに、ロスニアさんが窓に目を向けた。


「はい…… 機械人形は構造が人間よりも複雑で、特に繊細な機械部品が損傷すると治すのが難しいそうです。

 私は猊下に少しだけご教授頂きましたけど、まだ理解が及んでいないことの方がはるかに多いです。

 だからきっと、とても時間がかかるんだと思います。私の技量がもっとあれば、お手伝いできたのに……!」


「ロスニア、あんまし思い詰めるんじゃないにゃ。おみゃーは十分よくやってるにゃ」


「そうですわよ。貴方が居なければ、シャムはすでに手遅れだったのかも知れませんわぁ。今はただ、猊下を信じて待ちましょう?」


「ゼル、キアニィさん…… ありがとうございます」


 ロスニアさんを慰めた二人の顔にも、疲労の色が濃い。みんなかなり憔悴してしまっている。

 当然だろう。激戦の後で疲労はピークのはずなのに、心がそれどころじゃなく全く休めていないのだ。

 僕も同じだ。シャム。どうか、どうか無事に帰ってきてくれ……!


「みんな、お茶を淹れ--」


 ガチャリ。


 じっとして居られなくなった僕が席を立ったのと同時に、突如として応接室のドアが開いた。

 部屋に入ってきたのは、猊下一人だった。そして彼女の沈痛な面持ちに、腹の底が凍りついてしまったかのような感覚を感じた。

 僕はふらふらと席を立って猊下の前に進み、震えながら口を開く。


「げ、猊下…… シャムは……」


「--すまぬ」


 その言葉を聞いた瞬間、僕は立って居られなくなり、ガックリと両手を床に着いた。

 頭の中が自分を呪う言葉で満ち、呼吸もままならなくなり、視界がぼやける。

 もう二度とシャムに会えない。僕のせいだ。叫びたいのに、声すら出せない。


 --トトト。


 すると軽い足音と共に、僕のぼやけた視界の中に入ってくるものがあった。小学校低学年くらいの、小さな靴だ。

 子供……? こんな時間に、誰だろう?

 

「タ、タツヒト……! 顔を、顔を上げるのだ!」


 ヴァイオレット様の声に涙をぬぐい、ゆっくりと顔を上げると、エマちゃんくらいの小さな女の子が立っていた。

 ただ、驚いたことにその顔はシャムにとてもよく似ていた。

 --いや、似ているというか…… 


「タツヒト、何を泣いているでありますか? 何か、悲しいことでもあったのでありますか?」

 

 心配げに眉をハの字にするその子の声、そして喋り方は、シャムそのものだった。

 驚いて猊下の方を見ると、彼女は少しバツが悪そうに口を開いた。


「--(われ)の言い方が悪かったようだ。(われ)では修理できぬ機械部品がいくつも損傷していたので、元通りには治せなんだ。

 有り合わせの部品では、このような(わらべ)の姿にせざるを得えなかったが、命は助ける事ができたのだ。すまぬ」

 

「げ、猊下…… 紛らわし過ぎます!」


「うむ…… 重ねてすまぬ」


 珍しく語気を荒げるロスニアさんに、こちらも珍しく肩を落とす猊下。

 いや、それよりも……


「シャム!」


「あぁ…… 神よ!」


「よがったにゃあ!」


 僕が彼女を抱きしめると、他のみんなも僕ごとシャムを抱きしめた。そして全員、よかった、よかったと涙を流し始めた。


「も、もう、みんな仕方ないでありますね。縮んでしまってもシャムは大人の女なので、慰めてあげるであります!」

 

 そう言って頭を撫でてくれるシャムの小さな体を、僕はいっそう強く抱きしめた。





 

***






 ビーーーッ!


【……現地表記アラニアルバ連邦を急襲した、蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)の紫宝級血縁個体が、現地人類の手によって討伐された模様……

 ……蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)を始めとした、他の大龍穴融合個体は沈黙、コード00000、神威(イル・リムトゥ)への発展可能性も基準値以下まで低下……】


【……コード00302を解除……】


【……外部機能単位より報告…… ……観察対象、個体名「シャム」が大破するも、中枢系は機能を損なうこと無く残存、機能縮小体へ退避することで生存に成功……

 ……追加報告事項として、蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)と観察対象、個体名「ハザマ・タツヒト」が接触したとの報告が--】


 ジジッ……

 

『--あー、あー…… どうじゃ? 聞こえておるかぇ? 妾じゃ、蜘蛛の神獣(アラク・イルフルミ)じゃ』


 --ビーーーッ!


【……緊急事態、コード10003を発令…… ……侵入箇所を特定の上、該当の経路の遮断を--】

 

『これこれ、まぁ待つのじゃ。妾はちと伝言を頼まれただけじゃ。タツヒトという只人のいい男が、シャムという娘の件で礼を言っとったぞ。

 あーっと、なんと言ったか…… そうじゃ、創造神じゃった。其奴に今のを伝えてたもれ。以上じゃ!』


【……上位機能単位へ、対応を請う……】


【……】


【……上位機能単位からの返答…… ……伝言に感謝する、古き獣の神よ……

 ……当方に貴殿らと敵対する意図は現在、未来においても皆無、友好な関係を望む……】


『ん? ほっほっほっ、わかっとるわい。前みたいな事は妾もあまり好きでは無いからのう……

 まぁお主らが居るのなら、あんなことはもう起こらんじゃろうて。ではな--』


 ジジッ……


【……】


【……上位機能単位からの指令…… ……個体名「ハザマ・タツヒト」を、最優先観察対象に引き上げ、引き続き観察を継続すること……】






 12章 四八(しよう)戦争:急 完

 13章 陽光と冥闇の魔導国 へ続く


12章、および第三部 四八(しよう)戦争編終了です。第三部は一繋がりの長い物語となりましたが、ここまでお読み頂き、ありがとうございましたm(_ _)m

第四部 世界紀行編、および13章は、明日から更新予定です。よければまたお付き合い頂けますと嬉しいです。

【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】

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