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第022話 杣人の護衛(1)


 出発前にだいぶゴタついてしまったけど、僕らは予定通り村の門のところで木こりの人達と合流して森へ向かった。

 隊列は木こりの人たちを中心に、周りに僕や冒険者の人たちが散開して警戒している。

 僕はイネスさんの指示に従って護衛の仕事を手伝う形だ。

 森へと続く街道を歩きながら、僕は木こりの人たちに視線を向けた。 

 

 ここ開拓村ベラーキは、森の開拓と材木の確保のために作られた村の一つだ。

 何が言いたいのかというと、この村はやたらと木こりの人が多いのだ。

 村の人口が100人くらいなのに、僕の隣にはおよそ20人の木こりが歩いている。

 そして彼女達は全員が屈強な体付きで斧を担ぎ、少々下品な冗談を飛ばし合いゲラゲラと楽しそうだ。

 ……これ本当に護衛いるの? 木こりというより、嫌に組織化された山賊と言われた方が正しい気がする。

 ここに顔の怖いボドワン村長が親分として加われば完璧だ。


 そんなことを考えていると、イネスさんが近づいてきた。


 「やぁ。さっきは災難だったね」


 「ははは…… リゼットさんて、いつもあんな感じなんですか?」


 「いや、普段は気のいいやつなんだけどね。どうも君とは相性が悪いらしい。

 --ところで、やっぱりいい腕してるじゃないか。リゼットは若手の冒険者だけど、赤銅級の中ではかなり強い方なんだよ。でも君とは殆ど勝負になってなかったね」


 彼女はリゼットさんに配慮したのか、最後は少し声をひそめて耳打ちするように言った。

 リゼットさん達は僕から一番遠いところで護衛してるので大丈夫ですよ。

 ……自分で言ってて悲しくなってきた。ほんとすごい嫌われてる。

 

 「いえ、結構ひやっとする場面はありました。後ろ蹴りとか」


 「あれはあの場では反則だったけどね」


 そう言って笑う彼女の首元で、太陽の光を受けた銀色のタグが光る。


 冒険者という職業は、倉庫の片付けからドラゴンの討伐まで幅広い仕事を請け負う。

 魔物の脅威度が高いこの世界ではとても需要のある職業で、職業人口も多いみたいだ。

 そして冒険者達を取りまとめ、依頼の仲介をしているのが冒険者組合である。

 冒険者組合は、依頼の難易度に対して適切な実力を持つ冒険者を斡旋できるよう、冒険者に等級を定めている。

 

 等級はその冒険者の「位階」の高さ、依頼の達成内容などによって組合が認定するものらしい。

 ここでいう「位階」とはいわゆるレベルのようなもので、すごく大雑把にいうと魔物を倒すと上昇していくのだそうだ。

 僕も洞窟で魔物を倒していた時に身体能力が向上していたから、その時は位階が上昇していたんだと思う。


 等級は七つあり、低いものから初心者の「灰鉄(はいてつ)級」、一人前の「赤銅(せきどう)級」、熟練者の「橙銀(とうぎん)級」、達人の「黄金(おうごん)級」、超人的強さの「緑鋼(りょくこう)級」、英雄と呼ばれる領域の「青鏡(せいきょう)級」、そして最後がもはや人外とい言われる「紫宝(しほう)級」だ。

 冒険者は等級に応じた金属のタグが発行され、その着用が義務付けられる。

 でも、金属の前に色がついてるのはなんでなんだろう?鏡とか宝とか金属じゃないだろうし。

 前置きが長くなったけど、リゼットさんは一人前の赤銅級、イネスさんは熟練者の橙銀級というわけだ。

 赤銅級の中でもかなりの強さだというリゼットさんを倒せたので、僕の今の力は橙銀級くらいなのかもしれない。

 

 「そうだ。ボドワン村長って以前は冒険者だったんですよね。何等級だったか知ってますか?」


 「あぁ、村長は黄金級だったよ。黄金級は凡人が努力の果てに至れる最高等級だって言われてるし、只人が黄金級になるのってかなり珍しいから、結構有名だったんだよ」

 

 「へぇー、そうだったんですね。どうりで強いわけだ」


 村長との手合わせを思い出す。

 顔に似合わない堅実な剣術と、圧倒的な速度と膂力に未だに一本も取れていない。

 ヴァイオレット様ほどの圧倒的な力の差は感じないけど、それでも大きな差を感じる。


 「ちなみ、ヴァイオレット様って冒険者の等級で言うとどのくらい強いんでしょうか?」


 「ヴァイオレット様かー…… 間違いなく緑鋼級以上だろうけど、あの辺の人はもう凄すぎて私程度には測れないよ」


 「そうですか…… 先は長いなぁ」


 「え?」


 「いえ。教えてくれてありがとうございます」


 やはり、修行あるのみだな。






 森についた僕らは、早速散開して仕事に取り掛かった。

 木こりの人たちは森の淵にある太めの木に目星をつけ、切り倒す方向に注意しながら斧を振るっている。

 僕と冒険者の人たちは、木こりの人たちが作業しているエリアを囲むように薄く広がっている。

 木こりの人たちには背を向け、森の奥側を警戒する形だ。


 森の方を警戒しながら木こりの人たちをちらちら見ていると、切るペースが早い早い。

 斧を使っているのに、まるでチェーンソーで切っているかのようなスピード感だ。


 「このペースだと、すぐに森が無くなっちゃいませんか?」


 近くで警戒していたイネスさん聞いてみた。


 「何言ってるのさ。森を開拓するための我らが開拓村ベラーキだよ?」


 「そうですけど、森が完全になくなるとそれはそれで困るのでは……」


 村の建物や薪、領都の方に送る材木なんかがなくなると大変そうだけど。


 「ははは、その心配は無いさ。どうせすぐ生えてくるから」


 そう言って彼女は村に隣接した大きな湖を指した。

 湖はここから結構離れていて、一部が森に接している。

 あの湖がどうしたんだろう。


 「村の開拓が始まった頃、数年前までは森の淵は湖の向こう側だったそうだよ。それが今ではこのざまさ」


 「え、そんなに早いペースで侵食してくるんですか。はぇー」


 「まぁ、ずっと同じペースで侵食してるわけじゃなくて、周期的に爆発的に侵食するようだよ。それを放っておくと、我々の美しい緑の平原があっという間に森に沈んでしまうわけだ。キリがないけど、侵食が穏やかな今のうちに切れるだけ切っておくしかないんだよね」

 

 「なるほど…… これ結構重要な仕事ですね」


 そうなると、魔物に襲われるリスクを負ってでも森を開拓し続けるしかないよなぁ。

 馬人族にとって森は住み良い環境では無いし、小麦なんかの作物も育てづらくなってしまう。

 あと、確か隣の蜘蛛人族の国は森にそのまま住んでるって聞いたな。

 森の侵食を放っておくと、下手したらいつの間にか国土が乗っ取られてるってこともあり得そうだ。


 それからお昼を挟んでも魔物は現れず、作業は順調に進み、日が傾いて辺りは薄暗くなりつつあった。

 魔物と戦えなかったのは残念だけど、何事もなく撤収できそうでよかった。


 そう思って辺りを見回すと、ふと視界の端に違和感を覚えた。

 違和感は、ちょうどリゼットさんの後ろに生えている太い木の辺りにあった。

 気になってその木に目を凝らすと、幹の形がおかしい。

 真っ直ぐ空に伸びているはずの幹の途中、地面から3mくらいのところが歪に膨らんでいる。

 木のコブか何かだろうか?いや、それにしてはシルエットが歪で、まるで大きな虫みたいな……


 違和感が確信に変わる一瞬前。

 下にいるリゼットさんに向けて、その歪なシルエットが音もなく動き出した。


 「……リゼットさん! 上だ!」


 僕は反射的に叫ぶと彼女の元へ走った。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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