第219話 ヤマタノオロチ作戦
この時間に更新しても誰も読まないのでは……? と思いつつ更新。大変遅くなりましたm(_ _)m
「えっと、ヤマタノオロチというのは、大昔に僕の故郷の居たとされる、頭が八つもある竜種です。
悪さをする上にやたらと強かったそいつを、酒を献上して酔っぱらわせ、眠ったところを仕留めたっていう伝説があるんですよ」
「頭が八つも…… あれ? タツヒトさんの故郷って、魔物はいなかったんじゃ……」
プルーナさんが小首を傾げる。確かにこの伝説って、以前彼女に説明した日本とは矛盾するな。
「うーん、そこは分からない。大昔には本当に居たのかもしれないけど、今は多分居ないよ。あくまで伝説だしね」
「あの、それよりも、今回はカッファをお酒の代わりに使うということですよね?」
「はい。眷属達のこの様子だと、多分カッファの匂いに釣られて寄ってきて、自ら飲んで酔っ払っています。
眷属と邪神の性質が大きく異なるという事は無いでしょうから、結構勝算の高い作戦だと思うんですよね。
邪神が怪しがってカッファを飲まないと、作戦失敗ですけど……」
「なるほど…… それでも、現状の勝つ見込みが立たない状況より遥かに希望が持てます」
僕の説明に、ロスニアさんはなるほどなるほどと何度も頷いている。
ざっくりとした討伐の流れは、まず大森林のどこかにキルゾーンを用意して、そこに大量の珈琲を置く。
そこにどうにかして邪神を誘き寄せて、珈琲を飲んで前後不覚になったところをみんなで滅多打ちにする。こんな感じだろう。
うん。万全な状態の邪神には数万人いても勝てる気がしなかったけど、これなら行けるのでは?
「あー、盛り上がってるところ悪いんでやすが、ちょいとお待ちを。あんた方、さっきそれをあっしらに飲ませるって言ってなかったかい?」
少し視線を鋭くしながら訊いてくるゾエさん。
「あ…… すみません、説明が足りていませんでした。カッファは大抵の亜人種が飲んでも大丈夫なんですが、蜘蛛人族だけお酒に酔ったような状態になるんです。
この場にいる他の人種の方は、むしろ頭が冴えたりする効果があります。何より美味しいですよ?」
カッファの原料であるブンナの実は、その果肉を嗜好品として食べる歴史の方が長く、帝国という人種の坩堝のような国で結構昔から親しまれている。
僕も果肉の方を食べてみたことがあるけど、豆よりは少ないけどカフェインは含まれている感じだった。
だからカフェインが亜人に有害な場合、すでにそれが広く伝わっているはずなんだよね。
そう言えば帝国では蜘蛛人族を見なかったから、彼女達は数少ない例外だろう。
ちなみに、地球世界では人間以外の動物にカフェインを与えるのは結構危険だった気がする。
「ほーん。そんじゃあ一杯もらおうかい。その作戦てヤツも詳しく聞きてぇしなぁ。よっ」
ゴシャッ!
エレインさんは、的確に頭部を潰しながら、もがいていた眷属達を里の外へ蹴り飛ばしてしまった。怖い。
「エレイン! もう、お行儀が悪いですよ!」
「うるせぇなぁキトリー。魔物相手に行儀もクソもあるかよ。ほれ、邪魔なもんはどかしたからお前らも座れや」
「あ、ありがとうございます」
振る舞いや言葉遣いが完全にヤンキーなんだよなぁ、エレインさん。
彼女に倣って車座に座った僕らは、淹れ直した珈琲を飲みながら討伐作戦については話し合った。
砂糖たっぷりの珈琲は先輩方にも好評で、王国でも絶対手に入るようにしてくれとのお言葉を頂いた。
唯一、犬人族のドミニクさんにだけ「匂いが苦手……」と遠慮されてしまった。
珈琲を布教し始めてから初の敗北だったので結構ショック。本当に苦手なのか、彼女だけ少し離れた位置に座っている。ちょっと申し訳ない。
暫くそのままおしゃべりしていると、僕らに遅れること数時間、もうすぐ日が暮れるという時に連邦軍がエシュロトの里に駆けつけてくれた。
現場を彼女達に引き継ぎ、僕ら『白の狩人』と『湖の守護者』はヴィンケルの里に戻ることにした。
そして地表に降り、来た時と同じように陣形を組んで走り始めようとしたその時、背後から誰かの視線を感じた。
慌てて振り返る頃にはその感覚は消えていて、視線の先には深い森が広がっているだけだった。
--気のせいだったのかな? 殺気じゃなくて、どこか懐かしい感じだったけど……
「タツヒトさん、どうかしましたか?」
両手に抱えたプルーナさんが不思議そうに見上げてくる。お互いの顔が近いので、普段前髪で隠れている彼女のクリクリとした目がよく見えた。
「あ、いや、誰かに見られたような気がしたんだけど…… ごめん、勘違いだったかも。来た時と同じくらいの速度で走るから、しっかり掴まっててね」
「はい、お願いします!」
そう言って笑顔で身を寄せてくるプルーナさん。ちょっとドギマギしてしまう。
「う、うん。 --それじゃみなさん、出発しましょう」
「「応!」」
里の人達に見送られながら、僕らはヴィンケルの里に向かって走り始めた。
『なるほど…… 確かに盲点だったな。我らに効くのであれば、姿形が近しい邪神の眷属、ひいては邪神そのものにも効く可能性がある、か』
ヴィンケルの里に帰ってきた僕らは、早速会議の再会を各国の首脳部に打診し、面子が揃った段階でヤマタノオロチ作戦を提案した。もう時間は深夜である。
眷属の同時多発襲撃で会議が中断されるまで、おそらく参加者全員が行き詰まりと焦燥を感じていた。
そんな状況で提案されたこの作戦は、連邦側の代表格であるヒルデガルダ氏を初め、各国の首脳部にかなり好意的に受け止められた。
僕らだけじゃなく、『湖の守護者』の先輩方もこの作戦を推してくれた事も大きい。
ここに戻ってくるまでに眷属の小集団に遭遇し、ちょうどいいからと珈琲の効果検証実験をしたのだ。
実験方法は、眷属を大中小の大きさごとに5体づつ捕獲し、脚を折って動けない状態にしてから珈琲を飲ませ、その効果の現れ方を観察するというものだ。
結果として、全個体が抵抗無く、むしろ積極的に珈琲を飲んだ。そして、全ての個体が酩酊の症状を示したのだ。
もちろん、体の大小によって十分な効果を示す摂取量は違ったけど、その辺から邪神に効果を発揮しうる量も計算できた。
こうして文章に起こすとだいぶ酷いことしてるけど、この結果を見て、作戦に半信半疑だった先輩方も賛成に回ってくれた。
『しかし州長殿。邪神の巨体に効果を発揮しうるカッファ、茶杯で10万杯分でありますか?
そんな量をすぐに用意できるのでありますか?』
この珈琲の量は、実験結果からシャムが算出してくれたものだ。
人間換算だと致死量の千倍程、日本のご家庭のお風呂換算だと多分数十個分ほどの大量の珈琲だ。
だけど、幸いにも今の僕らにはそのアテがあった。僕が目配せすると、商人のメームさんが頷いてスッと手をあげた。
『今回、連邦や各国の皆様にと大量のカッファの豆を運んで来ております。先ほどおっしゃられたカッファを抽出するには十分過ぎる量でしょう』
『『おぉ……!』』
『まさかカッファがこんな風に役立つとはねぇ。ちょっと勿体無いけど』
『仕方ありますまい。カッファで我々の目を覚ますより、邪神めを永遠の眠りに誘う方が重要でしょう』
『ふふっ、そうでありますな。早速、ヤマタノオロチ作戦の詳細を詰めて行きましょう』
会議室はにわか活気付き、夜が明けるまで議論が進められた。
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