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亜人の王 〜異世界転移した僕が平和なもんむすハーレムを勝ち取るまで〜  作者: 藤枝止木
12章 四八(しよう)戦争:急

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215/511

第215話 三国首脳部会談(1)

2024/9/3 翻訳装具の着け忘れを修正


「あけましておめでとうございます」


 狂乱の夜が明けた翌日。同時に目覚めたらしいヴァイオレット様に、僕は新年の挨拶を申し上げた。

 僕らはベッド上でお互い向き合って横になっているので、彼女の端正な顔を至近距離で眺めることができる。

 一年の始まりとしては最高の部類なんじゃ無いだろうか。


「アケマシテ……? タツヒト、どういう意味だ?」


「えっと、新しい一年が始まってめでたいですね。くらいの意味だと思います」


「なるほど、そうか。あけましておめでとう。今年もよろしく、タツヒト」


 計らずしも日本式で挨拶を返してくれた彼女は、穏やかに微笑むとそのまま僕を抱き寄せてくれた。

 双方一糸纏わぬ姿なので、冬の寒さに彼女の肌の温もりと柔らかな感触が心地いい。

 正直いつまでもこうして居たいけど、そうも言って居られない。

 

「はい、よろしくです。じゃ、名残惜しいですけど起きましょうか」


「ふふっ、そうだな。みんな、朝だぞ! --ゼル、足を閉じるのだ。丸見えだぞ?」


 ヴァイオレット様の声に、みんながうめき声のような返事をしてモゾモゾと起き出した。

 大変な状態らしいゼルさんの方に行きかける視線を鋼の意志で止め、粛々と体を拭き清めて服を着る。

 そうして一番に身繕いを終えた僕は、シャムとプルーナさんを起こしに別室に向かった。


「シャム、プルーナさん、起きてる?」


 ノックをして扉越しに声をかけると、中からベッドから転がり落ちるような音が響いた。


「え、ちょっと、大丈夫?」


「……だ、大丈夫であります! 大丈夫なので開けないで欲しいであります!」


「そぉ? わかったよ。じゃあ準備できたら下のに来てね」


「わかったであります! プルーナ、起きるであります!」


 なんかすごく慌ててたな、シャム。夢見が悪かったんだろうか?

 

 そうして身支度を済ませた僕らは、宿舎が近かったメームさんとも合流し、昨日に引き続きグレース司祭の教会に向かった。

 この世界では年初めに教会を詣でるのがスタンダードらしいので、それに習う形だ。

 しかし、なんだろう。シャム、プルーナさん、メームさん。この三人の様子がおかしい。顔が赤いし、僕の方をチラチラみてる様子なんだけど、振り返ると視線を逸らされてしまう。

 メームさんは昨日の爆弾発言のせいかもだけど、他の二人は具合が悪いのでは……?


「プルーナさん。それにシャムとメームさんも、なんだか顔が赤いですよ? 風邪でも引いたんじゃ--」


 覗き込もうと顔を近づけると、プルーナさんはばっと飛び退いてしまった。 ……ちょっとショック。


「あ…… す、すみません! でも、僕は大丈夫です! 多分、他のお二人も……」


 いや、三人とも顔赤いままだし目も合わせてくれないし、全然大丈夫そうじゃないんだけど…… そう思っていると、キアニィさんまでちょっと顔を赤くしながら手を上げた。


「--あの、昨夜はわたくし、タツヒト君とロスニアに攻め立てられて指摘する余裕がなかったのですけれど……

 わたくし達の部屋の扉、途中から少し開いていたような気が致しますのよねぇ…… 顔を赤くしているそこのお三方、もしかして何かご存知かしらぁ?」


「え…… き、昨日の見られてたんですか!?」


 ロスニアさんが先に悲鳴のような声をあげたけど、あの狂宴を見られていたとなると僕も気持ちは同じだ。とてもまずい…… メームさんは置いておいて、お子様二人の教育に悪すぎる。あと単純に恥ずかしい。


「も、黙秘するであります。きっと、キアニィの認知の歪みであります」


「えと、その…… ごめんなさい……」


「プ、プルーナ! 裏切るでありますか!?」


「だ、だってぇ……」


「その、すまない…… 逃げた後でどうしても気になって戻ったら、そこの二人がお前達の部屋を覗いていてな……

 俺は最初、嗜めようと思ったんだ。本当だ。でも、つい一緒になって見入ってしまったんだ…… 申し訳ない」


 揃ってしょんぼりと項垂れる三人。


「そっちの二人はともかく、メーム。すぐそこまで戻ってきておいて、にゃーんでおみゃーはそのまま入ってこなかったんだにゃ?」


「か、簡単に言うな! ……だが、仲間達にも言われた。なんのために送り出したと思っている、根性無し、いつもの格好つけたアンタはどこにいったんだと。あんなになじられたのは、数年一苦楽を共にして来たが初めてだ。ふふふ……」


 ガックリと肩を落として自嘲気味に嗤うメームさん。ここ最近、彼女の新しい表情をたくさん見られて嬉しいけど、痴態の覗かれた方としてはすごく居た堪れない。


「あー…… シャム、プルーナ。あれは特殊な状況で、普通はあんなふうに大人数でというものではないのだ。

 そしてメーム。これは君にも言いたいが、そういった場面を覗くのは--」


 それからヴァイオレット様による若干の性教育を絡めたお説教が始まり、三人は教会に着くまでにすっかりしょげてしまった。

 教会には新年ということもあり、普段見ないくらい多くの人が詰めかけていた。

 それらの人達に混じって僕らもグレース司祭の説法を拝聴し、若干の後ろめたさと共にお祈りしてから教会を後にした。






 教会から戻ってメームさんと別れた後、僕らはそれぞれの武器や魔法の基礎訓練と、連携の反復練習を行った。

 決して昨日の行為とのバランスを取ろうとしているのではなく、この里に来てからも合間に訓練ははしていたのだ。

 邪神討伐がどのような形になるのかわからないけど、できる限りの準備をしておこうというのがパーティー内の共通見解だった。

 そうして一通り訓練をこなし、昼食を終えて宿舎で一休みしていたら、連邦の軍人さんが訪ねてきた。

 彼女は翻訳装具を着けていて、僕らにも装着を促した後で装具越しに声を発した。


 『神託の御子様、並びに護衛の皆様! 連邦の各州長と王国からの皆様がお着きです! 邪神討伐に関する会議を行うため、里長の館までご同行願います!』


『……! わかりました、すぐに向かいます』


 軍人さんについて里長の館に向かい、会議室に通されると、すでに主だった面子は揃っているようだった。中の面子はすでに全員翻訳装具を装着している。


 連邦の面子はまず、ここコンフォル州の州長であるヒルデガルダ氏と、その補佐らしきオルテンシア氏と武官や文官達だ。

 彼女達と似たような構成、雰囲気の蜘蛛人族が他に11組いるけど、おそらく他の州の州長達だ。

 赤い法衣の聖職者っぽい蜘蛛人族の人もいて、あの人が多分連邦の枢機卿だろうな。

 そして、現在連邦最強と目されているエーデルトラウト将軍。彼女はアシダカグモっぽい種族の蜘蛛人族で、両手と前足を全て使う六刀流の使い手らしい。

 無造作に灰色の長髪を一括りにし、鋭い視線を僕らに投げかけている。この威圧感からして、間違いなく紫宝級だろう。


 そして先ほど到着したらしい王国の面子。我らがヴァロンソル侯爵とその盟友プレヴァン侯爵、それから他三名の侯爵の方々だ。連邦の重鎮達と同じく、それぞれ補佐の武官や文官を連れている。

 先だって連邦入りしてくれていたリュディヴィーヌ枢機卿も同席してくれるようだ。

 あとは王国軍最強の二人、ベアトリス騎士団長とヴァランティーヌ魔導士団長だ。相変わらず凄まじい気配を放っている。

 しかしよかった。全員無事に辿り着いたらしい。僕らが会釈すると、彼女達も笑顔で頷き返してくれた。


 最後に聖国。バージリア枢機卿とアルフレーダ聖堂騎士団長、それから高位の聖職者と騎士団の幹部の方々。

 あと、一応聖国側という括りで、神託の御子であるロスニアさんを含む僕ら『白の狩人』と、メームさんだ。 


 国を背負う重鎮と各国最強クラスの強者。彼女達が数十人集まった会議室は異様な雰囲気であり、少し入るのを躊躇ってしまう程だった。

 そしてロスニアさんが用意された席につき、僕らが後ろに控えると、ヒルデガルダ氏が声を発した。


『ふむ。王国の紫宝級冒険者の方々の到着が遅れて居ますが、時間が惜しい。始めることに致しましょう。

 神託の御子殿。進行をお願いしてもよろしいかな?』


『はい、ヒルデガルダ様。 --皆様、幸運にも神託を賜り、御子としてここに同席させて頂いておりますロスニアと申します。

 まずは、こうしてお集まり頂き誠にありがとうございます。早速ですが、これより三国による邪神討伐に関する作戦会議を始めさせて頂きます』

 

お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


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