第202話 初めての外交
すみません、遅れましたm(_ _)m
ちょっと長めです。
前章のあらすじ:
無事内乱を鎮めたタツヒト達一行だったが、その直後、蜘蛛人族の連邦が王国へ侵攻を開始した。
国王が即時組織した対連邦防衛軍に参加した一行は、次々と拠点を開放し、ついにヴァイオレットの実家である領都クリンヴィオレ、さらに縁深き開拓村ベラーキも開放した。その際に若き天才土魔法使いのプルーナを捕縛し、彼女の話から連邦の危機的状況が明らかになった。
連邦勢力の排除に成功した王国だったが、今後の対応には苦慮していた。そんな中、神託の御子であるロスニアは、連邦を蝕む強大な邪神の共同討伐作戦を提案。重臣達が反発する中、ロスニアの覚悟に国王も同調、連邦との共同作戦が開始されることになった。
プレヴァン侯爵領の領都エキュリー、その領主の館の大会議室。円卓に座る重鎮達が見守る中、僕はオルテンシア氏と相対していた。
先の会議で決まった内容に基づき、オルテンシア氏に連邦への橋渡しを依頼するためだ。もちろんタダではなく、彼女を捕虜から開放することを条件にしている。そのままトンズラされたら困るので、彼女の部下達の開放は成功報酬にしてある。
しかし僕の話を聞き終わった彼女は、小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
『ふん…… よく決断したものだ。四つ足共の中にも、まともな頭を持った者がいるのだな。
しかしタツヒト。貴様まさか、この私がその条件で頷くとでも?』
奴隷の首輪をつけられ、手足を拘束された状態で椅子に座らされている彼女は、それでも尊大な態度を崩していない。
この場の全員が古代遺跡産の装具を着けているので、扱う言語の異なる僕とオルテンシア氏も会話ができているし、その会話は全員に共有されている。重鎮達の中には、そんな彼女の言動に青筋を立てている人もいる。
『結構良い条件だと思いますけど。連邦には今、貴方の身代金を払う余裕は無いという話でしたよね? それに、この共同作戦の連邦が乗らなければ、今年の冬を越すのも怪しいという事でしたし……』
実際この提案は、彼女にとって連邦で再起を図る唯一のチャンスのはずだ。それに、仮に連邦が消滅したら、彼女は自分の身代金を苦役か何かで支払う必要がある。王国内の情勢によっては、飯代が勿体無いからすっぱり死刑、ということもあるだろうし。
『無いだろうな。そして、連邦は貴様らに頼るしか生き残る道が無いのも事実だろうし、まともな連中は支援を引き込んだ私を評価するだろう。
だが、世の中には馬鹿の方が多い。もし唯々諾々と貴様らの依頼を受ければ、本国の馬鹿共は私をこう思うだろう。敗北して四つ足どもの走狗と成り果てた惰弱極まる女だとな』
うーん。一理、あるのかな……? 詳しくは知らないけど、君主制の王国と違って連邦は共和制っぽいから、民意がより重要なのかもしれない。さておき。
『そうですか。まぁ、貴方が受けないというのでしたら、他の方に頼むだけなのですが……』
『待て。他だと? 私と同格以上の指揮官に、生き残りがいるのか? まさか、あの出来損ないではあるまいな……!?』
『……もしプルーナさんの事を仰っているのであれば、あの方はとても優秀ですが、連邦首脳部への伝手という意味では難しいでしょう。
それと、王国が抱える蜘蛛人族の方の捕虜の数は膨大なんです。その中に、貴方以上に適任の方が居ないとでも? っと、依頼を受けない貴方には関係のない話でしたね。すみません。
兵士の方々。彼女を元の場所へ連れて行ってあげて下さい』
『ま、まぁ待て。ええぃ、触るな! --くそっ、受けぬとは言っておらぬ』
オルテンシア氏が兵士の人の手を振り払い、僕の方を睨む。
『つまり……?』
『受けてやっても良い。だが、せめて我が連隊の捕虜。その身代金くらいは割り引いてもらおうか。いや、いっそのこと無料に--』
『兵士の方々、彼女を部屋に--』
『わ、わかった! 半額、半額ならばどうだ!?』
『……分かりました、その条件でいきましょう』
オルテンシア氏が快く仲介役を引き受けてくれたので、その場で話を詰めることになった。
ちなみに、僕らの手持ちの捕虜の中に彼女以上に適任の人は居なかったし、捕虜の身代金の半額割引くらいは織り込み済みだった。
圧倒的に立場の差がある交渉だったけど、初めての外交としては上出来だったんじゃ無いかな?
今後の流れとしては、まずは状況確認と第一報のため、オルテンシア氏に連邦に帰ってもらい、邪神の共同討伐作戦について記された陛下の書状を連邦首脳部に届けてもらう。
無事提案が受諾されれば、王国は遠征部隊を組織し、逼迫していると予想される食糧及び物資と一緒に連邦へ送る。そこで改めて邪神討伐の具体案を練り、どうにかして邪神を討伐する。 ……そのどうにかの部分が、すごく重要なのだけれど。
ちなみに、もちろんオルテンシア氏を一人で連邦に送ることはしない。王都とプレヴァン侯爵領の外交官や武官の人、それから何とリュディヴィーヌ枢機卿も同行する。二国間はとにかく仲が悪いけど、そういった時に中立的で立場のある聖職者の方がいると、何かと助かるのだそうだ。
そして彼女達の護衛として、王国最強の紫宝級冒険者パーティーに依頼するらしい。仮に邪神によって連邦が滅ぼされていたら、大森林から帰ってくるだけでも大変だからだ。
僕ら『白の狩人』はというと、連邦からの返答が来るまでは待機。連邦から受諾の返答が得られた場合は、王国が遠征軍の組織編成などをする間、別の仕事に当たる予定だ。
そしてこの待機中、僕らには一つ解決しておきたい事があった。
「そうですか。これで、連邦は救われるかもしれませんね。よかったぁ……」
大会議室を後にした僕ら『白の狩人』は、プルーナさんの控え室に来ていた。先ほどの会議で決まったことや、オルテンシア氏が仲介役を引き受けたことを説明すると、彼女は胸のつかえがとれたような表情でそう呟いた。
「オルテンシア氏に関しては、その、業腹だけど彼女が一番適役だったんだ。プルーナさんは思うところがあると思うけど……」
「あ、いえその、なんというか、本当にオルテンシア様にはもう思うところがないんです。だから、気にしないでください」
「そうかい…… それじゃあプルーナさん、これをどうぞ」
「え…… こ、これって……!?」
僕が一枚の書類を渡すと、彼女は驚いた表情で書類と僕の顔を何度も見比べた。ヴァロンソル侯爵名義のその書類には、連邦所属の捕虜であるプルーナさんを解放する旨が記載されていた。
オルテンシア氏との交渉をまとめた後、僕らは王国の首脳部とヴァロンソル侯爵に対して、一つお願いをしたのだ。民兵としてのこれまでの功績と、先ほどの交渉の成果。これらと引き換えに、プルーナさんを捕虜の身から解放して欲しいと。
おそらく連邦は彼女の身代金を払うことは無い。そうすると彼女は、それが一生か何十年かは分からないけど、ヴァロンソル侯爵領で苦役を課されることになる。それは、彼女と深く関わってしまった僕らには見過ごせないことだった。
プルーナさんの優秀さは伝えてあったので、最初は難色を示された。けれど、彼女がすでに手酷い形で軍を首にされていること。それから僕らの功績が大きい事などが考慮され、要望が通った形だ。
「うむ。捕虜としての君の所有権を持つ母上…… ヴァロンソル侯爵が正式に発行した書類だ。プルーナ、これで君は自由の身だ」
「な、なんで…… 皆さんが、何かしてくださったんですか?」
「まぁ、ちょっと陛下や侯爵にお願いしたんですの」
「ちょっとって…… 絶対、そんな簡単な事じゃ無いはずです。どうして…… どうしてここまでしてくれるんですか……!?」
僕らの言葉に、プルーナさんは目を白黒させている。しかし、どうして、か。
「……どうしてだろ? なんか、仲良くなっちゃったからかな……?
--ねぇプルーナさん。何かやりたい事とかって無いかな? 自由の身だからって、いきなり異国の地に放り出されたら大変だろうし、連邦にも帰りづらいと思う。よければ、僕らの伝手で働き口なんかを紹介できればと思ったんだけど」
「やりたい事…… わかりません。突然すぎて……」
プルーナさんは暫く俯きがちに呆然としていたけど、突然はっと顔を上げた。
「あ、あの、ありがとうございます! 多分、僕の代わりに何か大きな対価を支払ってくださったんだと思います。お礼を言うのが遅くなってすみません。
それでその、やりたい事なんですが…… できれば、タツヒトさんと、皆さんと一緒に居たいです…… だめ、でしょうか……?」
「え…… その、そう言ってもらえるのはすごく嬉しいよ。でも僕らの本業は冒険者だし、この後きっと邪神討伐にも参加する。結構命懸けになると思うんだ。君はまだ成人前だし--」
「き、昨日! 昨日成人に成りました! それに、タツヒトさん達が危険を顧みず邪神に挑むのに、僕だけ安全な所に居るなんて耐えられません……! どうか、どうか僕も連れて行って下さい!」
決意に満ちた表情で言い募るプルーナさん。でも昨日って…… 絶対嘘でしょ。参ったなと思って皆んな方を振り返ると、みんな頷いている。あれ、みんな賛成ってこと?
「シャムは賛成するであります! プルーナの気持ちはよくわかるであります。魔法の腕も確かなので、戦力増強の面でも心強いであります」
「私も歓迎します。覚悟を決めたんですね、プルーナさん」
おぉ、賛成多数のようだ。うーん。まぁ確かに、今は少しでも戦力が欲しいし、プルーナさんの土魔法はかなり頼りになる。邪神が討伐できなかったらこの辺一体の国家が滅ぶかも知れないから、未成年どうこう言ってる場合じゃないか。
何より、それが彼女のやりたい事なのだとしたら、尊重したい。
「わかったよ。それじゃあ、ようこそ『白の狩人』へ。歓迎するよ、プルーナさん」
「は、はい! よろしくお願いします!」
僕が差し出した手を、彼女はしっかりと握り返した。おっと、そうだ。
「プルーナさんの奴隷の首輪を取らないとね。もう必要ないから」
「え…… その、このまま着けていてもいいでしょうか? 王国内では蜘蛛人族への風当たりも強いでしょうから、このままの方がいいと思うんです。
あと、一緒に行動することになるので、主の腕輪はタツヒトさんに着けていて欲しいです……」
プルーナさんは、何故かちょっと顔を赤らめながら上目遣いでそんなことを言った。
「あー…… 確かに、その方がいいのかな……? わかったよ、後で隷属の輪の専門官の人にお願いしてみようか」
「にゃはっ、にゃはははは! ませてんにゃあ、プルーナ。うんうん、わかるにゃわかるにゃ」
「えっと、えへへへへ……」
何かプルーナさんとゼルさんが通じ合ってるけど、何、どう言うこと?
12章開始です。お読み頂きありがとうございます。
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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】
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