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第002話 魔法陣の部屋


 「……っくしゅん」


 寒さに目を覚ますと、僕はまったく見覚えのない場所に横たわっていた。

 急いで冷たい石畳から上半身を起こし、薄暗い周囲を見回す。

 目が慣れてくると、ここが大きな石造りの部屋だということがわかった。


 部屋の広さは25m四方はありそうで、薄暗いせいで天井の高さはわからない。

 壁際の小高くなっているところに、祭壇のようなものも見える。

 窓は一つも無く、祭壇の反対側の壁に鉄製の大きな扉が一つあるだけだ。

 ところどころに僕の身長くらいの燭台っぽいものがあって、蝋燭の代わりにケミカルライトのようなものがぼんやりと光っている。

 そして……


 「ふふふ、我を召喚したものは何処か」


 ものすごく禍々しい魔法陣のようなものが床に書いてあって、僕はその真ん中に寝ていたようだ。

 何重かの円に加えてその縁には見たこともない文字がびっしり書き込まれている。

 ちょっとでもファンタジー作品を見たことがある人であれば、誰もがこれを魔法陣と呼ぶはず。

 内心はものすごく不安だし混乱していたけど、ふざけたことを言っていたら少し冷静になってきたぞ。 


 なんだか落ち着かないので、近くに転がっていた通学カバンを持って魔法陣の外に出た。

 魔法陣の描かれた床は、綺麗な円形の一枚岩になっていた。

 しかしよく見ると一部にひび割れがあって、いくつかの文字が崩れてしまっていた。


 「えぇ~…… 何この状況」


 縛られたりしていなかったので、カルト宗教に誘拐されたとかでもなさそうだけど、やっぱり状況がわからない。

 ポケットからスマホを取り出して時刻を確認してみると、なんと深夜の1時だった。

 神社で記憶が途切れてから、8時間も経ってる……!?

 とりあえず両親に連絡しようと電話をかけようとしたけど、圏外で繋がらなかった。

 ダメもとでGPSアプリも起動したけど、測位されずここがどこかもわからなかった。

 困り果ててスマホから顔をあげたら、鉄扉が目に入った。

 あの扉って開くんだろうか……?


 強まった不安感に突き動かされ、僕は鉄扉に駆け寄った。

 押しても引いても動かない扉に肝を冷やしたけど、内鍵っぽいものを捻ったら少し扉が動いた。

 嬉しくなって思いっきり扉を開きたくなったけど、考え直してゆっくり開けることにした。






 扉の外の様子を目の当たりにし、僕ははっと息を呑んだ。

 この部屋は、洞窟のなかに造られたものだったみたいだ。

 扉の前は岩盤を綺麗にくりぬいたような広い一本道になっているけど、途中で落盤により塞がれていてしまっていた。

 ただ、落盤で左側の壁も崩れていて、その先に道があるようだった。

 今気づいたけど、岩壁のところどころがうっすらと青く発光している。

 さっき見た蝋燭もどきと似た感じの光だ。

 とりあえず、まだ生き埋めになったわけでは無いみたいだ。


 崩れた岩壁の先を見ようと部屋を出ようとしたその時、向かう先からかすかに遠吠えのようなものが聞こえた。


「--アォォォォォン……」


 僕は一瞬固まり、そっと部屋に戻って扉の内鍵を閉めた。

 家の近所の犬とはまったく異なる、野太い遠吠えだ。

 背中に、うっすらと冷汗が滲むのを感じる。


 「野犬注意の看板は出て無いみたいだけど、このままあの先に進むのはちょっと怖いな……」


 部屋の中で少し方針を考える。

 自分でここに来た記憶がないので、だれかが僕をここに連れてきたことは確かだ。

 そう考えると、誘拐犯が戻ってくるかもだから、このままここに引きこもるのは悪手だよね……

 そうすると、体力のあるうちに脱出を試みるべきだけど、何かの漫画で犬は地上最強だって言ってたしなぁ。

 うーん…… よし、やっぱり外にでよう。

 必ず遭遇すると決まったわけじゃないし、襲ってくるのが野犬とわかっていれば、対策のしようもあるはず。

 あと、進んでいるうちにスマホの電波が通じるかもしれないし。






 それからは僕は、部屋の中の使えそうなものを物色した。

 燭台は、蝋燭もどきを外すと先端がいい感じに尖っていたので、野犬対策に持っていくことにした。

 振り回すのに邪魔そうだったので、燭台の脚の部分は石壁にぶつけて外して、短槍のような状態にした。

 うん、結構いい感じだ。念の為もう一本作っておこう。


 次に祭壇に向かった。

 祭壇には手洗い場のようなものがあって、何かの液体がかけ流しになっていた。

 液体は、ほのかな緑色の光を発していて、水よりもわずかに粘度があるみたいだった。

 壁に取説のようなものが描いてあってけが人の患部に液体を振りかける図が描かれていた。

 こんな液体見たことないけど、消毒液か何かかな?

 ちょうど通学カバンの中に飲みかけのペットボトルがあったので、残りを飲み切って液体を持っていくことにした。


 物色を終えた僕は、出来上がった短槍を振り回してみた。 

 自分より小さく、そして素早い野犬に当てるイメージで、何度か突きや払いをする。

 こうしてると、道場での稽古を思い出すせいか少し精神が安定する感じがする。


 家が杖術の道場をやっていて、僕も小さい頃から稽古をつけてもらってたんだよね。最近はあんまり真面目にやってないけど。

 父さんが師範、兄さんが師範代で、二人とも僕とは正反対のワイルドな風貌をしている。

 そのためか、生徒さんの多くは僕がこの道場の子だというと驚く。

 一方、母さんはいまだに中学生と間違われるくらい小柄で童顔なので、僕は母方の遺伝子が強いみたいだ。

 僕も父さんの方に似たかったな……





 対野犬のイメトレを終えたので、いよいよ扉の外に出ることにした。

 けれど、部屋を出る前に、ふと思い立って写真を撮ることにした。

 魔法陣の写真や、祭壇の様子をパシャパシャと撮影する。

 無事に脱出出来たら、後で部活仲間の阿部君と秋山君に自慢しよう。

 特に秋山君あたりは喜びそう。

 そして頼んでも居ないのに魔法陣の考察を語ってくれそう。

 ……はやくこんな所からは脱出しないとな。

 

 この状況に心細くなったなったみたいで、やたらと家族や友達のことを思い出してしまった。

 気持ちを切り替えるために、ぱんぱんと両頬を叩いて気合を入れてみた。

 そして僕はゆっくりと扉を開き、部屋の外に出た。


お読み頂きありがとうございました。

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【日月火木金の19時以降に投稿予定】


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