第197話 捕虜との語らい(1)
ぎり日を跨いでしまった。。。明日(日付の上では今日)からは19時頃に更新時間を戻せそうな見込みです。
ちょっと短めです。
村を出て二日後の夕方、僕らは数日振りの領都に到着した。意外にも住民の人達は、僕らが連れてきた蜘蛛人族の捕虜を遠巻きにし、顔を顰めるくらいの反応だった。石を投げる人くらい居るのではと思っていたけど、元々蜘蛛人族はあまり住民に無体を働いていなかったから、ヘイトもそんなにたまっていなかったんだろうな。
そんな感じで、つい先日まで占領されていたはずなのに、すでに領都は落ち着きを取り戻しているように見えた。やっぱり、余裕のある状態だと人間は寛容になるみたいだ。僕らものんびりしたいところだけど、そうもいかない。
開拓村ベラーキで捕縛した、プルーナさんオルテンシア氏を含む数十人の蜘蛛人族捕虜。彼女達を貴人用の監禁塔や領軍の屯所に収容した僕らは、すぐにその足で領主の館へ報告に向かった。
「我々の推測は当たっていたか…… しかし、その元凶については予想を遥かに超えているな。
その捕虜の話が正しければ、紫宝級冒険者パーティーを含む連邦の全戦力が束になっても敵わない化け物中の化け物。まさに邪神と呼ぶのに相応しいものが、大森林の深淵から這い出してきたということか……
ともかく、蜘蛛共から情報を得るのに苦労していたのだ。よくやってくれたグレミヨン、ロメーヌ、そして『白の狩人』の面々よ」
「は、ありがたき幸せにございます、閣下」
報告に対してお褒めの言葉をくれたヴァロンソル侯爵に、僕らは頭を垂れ、グレミヨン様が代表して応えた。
彼女はそれに鷹揚に頷くと、暫し思案するように黙り込んでから口を開いた。
「ふむ、手分けした方が良いだろうな…… シルヴィ、文を認める。準備を」
「はい、旦那様」
控えていた侍女長のシルヴィさんが動き、文房具的なものを持ってくると、侯爵はあっという間に手紙を書き上げてしまった。
そして五通もの手紙に蝋で封印を施すと、それらをグレミヨン様に差し出した。
「グレミヨン、伝令を頼む。王都の陛下と、大森林連合の各侯爵にだ。中には今我々が得た情報と、捕虜に対する裏どりを行うよう記した。連邦への対応を決めるのに、より角度の高い情報が必要だからな。もちろん、我々が抱える捕虜に対して確認を行うのだ」
「は! 陛下と連合の侯爵閣下達に伝令を届け、領都の捕虜に対して情報の裏どりを行います!」
「よろしい。では行きたまえ」
「は!」
グレミヨン様は手紙を恭しく受け取ると、キビキビと執務室を後にした。
「侯爵閣下。私達はどうしましょう?」
ロメーヌ様が尋ねると、閣下はそういえばこいつらも居たなというような表情をした。
「む? あぁ、貴殿ら魔導士団は通常任務に戻ってくれ。『白の狩人』の面々は…… 暫く領都に止まって欲しいが、その間は自由に過ごしてくれ。何かあったら声をかけさせて貰う。シルヴィ、彼女達に部屋を用意してくれ」
「承知しました、旦那様。皆様、こちらへ」
執務室を辞した僕らは、なんと領主の館の部屋をあてがって貰えることになった。えらい高待遇で恐縮だけど、ヴァイオレット様は元々侯爵令嬢だし、ロスニアさんは神託の御子だ。そりゃぁ、その辺の宿に止まっておけとは言えないか。
その日はみんな疲れもあったのか、夕食の後それぞれの部屋ですぐに眠ってしまった。
翌朝の朝食後。僕らは部屋に集まって今後のことについて話し合った。領軍が捕虜から情報の裏どりを済ませるまで事態は動かないだろう。その間僕らは自由時間だ。軍のみんなが働いている時にちょっと申し訳ないけど、民兵の僕らが役に立つ場面でも無いだろうしね。
みんなに予定を聞いてみたら、ヴァイオレット様はどうやらフランセル書院、平たく言えばエロ本屋さんに行くようだった。誤魔化そうとしていたけど、態度から丸わかりなんだよね。いや、いいんだけど。
食いしん坊のキアニィさんは食べ歩きで、気まぐれゼルさんはそれについていくそうだ。一方ロスニアさんは、領都の司教様に会いに行くそうだ。なんでも、少し一人で相談したいことがあるらしい。ここ最近、蜘蛛人族から拠点を開放する度に怪我人や死人が大量に出ていたからなぁ…… 聖職者として思うところがあるんだと思う。
それで、僕とシャムはというと、最近仲良くなった捕虜の様子を見に行くことにした。
「あ…… タツヒトさん、シャムさん。来てくれたんですね」
面会に来た僕らを、プルーナさんは安心したような笑顔で出迎えてくれた。
「おはようであります、プルーナ!」
「や、昨日ぶり。思ったより良さそうな部屋で安心したよ」
プルーナさんは、貴人用の監禁塔の一室に収容されていた。塔は厳重に警備されていて、各部屋に見張りの兵士の人が付いている。部屋の内装は一見すると上流階級の客間という感じだけど、扉や壁の作りが異様に頑丈で、窓も人間では出られない程狭く作られている。
ちなみに、僕の腕にはすでに主の腕輪は無い。奴隷の首輪と主の腕輪の装着者が離れすぎると、奴隷の首輪が締まっていく仕組みになっているので、見張りの兵士の人に引き継いだのだ。
「えへへ、そうですね。えっと、そこにかけて下さい」
促された僕らは、プルーナさんが座るテーブルの向かいに座った。
「これ差し入れ。今領都で大人気の堅果焼き。保存が効いて、栄養価も高くてさらに美味しい優れものだよ。あとこっちは今一緒に食べる用の茶菓子」
ここに来る前、僕の義理のお兄さんが働いているお店で買ってきたものを、どさどさとテーブルに積み上げる。全10フレーバーを3個づつ買ってきたので、結構な量だ。
「わ、わぁ…… こんなに、ありがとうございます。あ、今お茶を淹れますね」
尋問は今は僕らの仕事ではないので、三人でただただお茶を飲みながら雑談する。朝の段階で早速供述内容の確認があったらしけど、彼女にはもう隠す理由はないので、洗いざらいしゃべっているそうだ。
ちなみに、彼女が飲んでいるのは香草茶で、多分カフェインは入っていない。一応珈琲を飲んだ後何か体に問題は無いか効いてみたけど、今の所大丈夫ということだった。遠回しに珈琲を飲みたいとリクエストを受けたけど、またあの状態になられると困るので、一杯だけにしておいた。
そして、聞けば彼女はまだ14歳ということだった。その年齢でここまで魔法に習熟してるのって、控えめに言ってやっぱり天才だと思う。
でも、オルテンシア氏に役立ちたい一心で遠い王国まで来たのだろうけど、彼女に首にされた今は不安でしょうがないはずだ。元敵兵に構いすぎだろうけど、なんかもう放って置けなくなっちゃったんだよね。
僕らは一時間程おしゃべりをした後、また来る事を約束してプルーナさんの部屋を辞した。
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