第196話 懐かしき人々
更新はできたけどめちゃくちゃ遅くなってしまった。。。すみませんm(_ _)m
ちょっと長めです。
プルーナさんは一階の村長夫妻の寝室に寝かせた。彼女は連隊長から除隊を通告されたらしいけど、それでも王国を侵略した元敵兵だ。キアニィさん曰く、彼女は捕虜として扱うのが妥当で、一応民兵の僕らは見張っておく必要があるらしい。
どうしようかと考え込んでいると、キアニィさんとゼルさんが監視を買って出てくれたので、お礼を言って僕とシャムは村長宅を出た。プルーナさんの話では無事らしいけど、やっぱり自分の目で確認しないと。僕らは村のみんなが居るという冒険者宿舎に走った。
宿舎は村の入り口付近にある。村の一番奥にある村長宅から走っていくと、宿舎前の開けた場所に、懐かしい人達が固まっているのが見えた。どうやら外で軍から炊き出しを受けているみたいだ。僕はちょっと泣きながら声をかけた。
「おーい、みんなー!!」
「……! おい、あれ!」
「タツヒトさん、ですか……!?」
何人かがすぐにこちらを振り向いて僕に気づいてくれた。そしてその中の小さな人影が、僕と目が合った瞬間に無言でこちらに駆け出した。
あ、まずい。僕はすぐに減速し、彼女のタックルに合わせて少し後ろに飛び、衝撃を逃した。
ドサッ!
「タ、タツヒト、大丈夫でありますか!?」
急に子供にタックルされて仰向けに倒れた僕に、シャムが驚いて目を見開く。
「あはは、大丈夫だよ。 --久しぶりだね、ちょっと背が伸びたかい?」
僕にタックルしてきた小さな人影、彼女の栗色の髪を撫でながら声をかける。
「ダ、ダヅヒド、お兄、ちゃん…… なんで…… ずっど…… よがっだ…… ゔぅ〜」
僕のお腹に顔を押し付けながら泣く彼女に、胸が締め付けらえるような罪悪感が湧き上がる。
しかし同時に、何度も見すぎて頭にこびりついてしまっていた悪夢が、彼女の涙によって洗い流されたかのような深い安堵を感じた。
「ごめん、ごめんよ…… 何も言わずに出ていってしまって、助けに来るのが遅くなってしまって。でも、本当に無事でよかった。ただいま、エマちゃん」
「ゔん。 --おかえり、タツヒトお兄ちゃん」
涙と鼻水でぐしょぐしょの顔で、エマちゃんはにっこりと笑ってくれた。
ハンカチはプルーナさんに上げてしまったので、僕は服の袖で彼女の顔を拭って上げた。
「ふふっ、タツヒトもやられてしまったか。まぁ、我々は甘んじて受ける他に無い立場だからな」
ヴァイオレット様が手を差し出してくれたので、お礼を言ってエマちゃんと一緒に立たせてもらう。よく見ると彼女のお腹のあたりもちょっと濡れている。なるほど、ヴァイオレット様もエマちゃんにフォールを決められた後だったのか。
「そうですね。エマちゃん、許してくれるかい?」
「ぐすっ。もうしょうがないなぁ、許して上げる!」
「よかったぁ。ありがとう」
三人で笑い合っていると、あっという間に懐かしい面々に取り囲まれた。
「久しぶりだなぁ、タツヒト。いつだったか、おめぇはこんな村に収まるタマじゃねぇっつったが、まさか国を割る男になるたぁなぁ。恐れ入ったぜ」
「やめなさいボドワン。タツヒト君のせいじゃ無いんだから。元気そうで安心したわ。お帰りなさい」
「ボドワン村長、クレールさん……! ただいまです!」
僕の肩を叩きながらニヤリと笑うボドワン村長と、そんな彼を嗜めるクレールさん。村長夫妻は相変わらず仲が良さそうだ。この二人の掛け合いを見ると、帰ってきたなぁという実感が湧き上がってくる。
「よぉ義弟、派手な里帰りだったなぁ。でもちょっと来るのがおせぇぜ。おかげでクロエが痩せちまったじゃねぇか」
「もう、姉さん! タツヒトさん、本当に助かりました。村の戦力では、蜘蛛共に従うほかありませんでしたから……」
「二人とも相変わらず仲良いね。僕も早く来たかったんだけど、軍隊相手だとそうもいかなくってさ。大目に見てよ」
村長夫妻娘さん達、リゼット義姉さんとクロエ義姉さんも元気そうだ。僕は村長夫妻の義理の息子ってことになっているので、この二人は僕の義理の姉上なのだ。二人とも雰囲気が少し変わっている。腕を上げたみたいだ。
「いやー、見違えたよタツヒト君。今は冒険者で、もう緑鋼級なんでしょ? リゼットとクロエも橙銀級になっちゃうし、若い子達の成長って早いよねぇ。もう先輩面できないよ」
「ふふっ、イネスさんはいつまでも僕の先輩ですよ」
村付きの冒険者パーティー、『深緑の風』のリーダーのイネスさんは相変わらず飄々としている。でも、村の人達に欠けている顔が無いのは、彼女が適切な判断をして、早めに蜘蛛人族の軍に降伏したおかげだろう。戦闘中はベテランの風格が漂ってかっこいいのだ、この人は。
「タツヒト君、よく戻ってきてくれたね。顔を見れて安心したよ」
「ダヴィドさん、お久しぶりです。あれ、レリアさんが抱えているその子ってもしかして……」
エマちゃんのご両親も声をかけてくれた。そして馬人族のレリアさんは、最後に見た時は妊娠中だったはずだけど、今彼女は腕の中に赤ん坊を抱えていた。
「ええ、エマの妹よ。抱いてあげてくれる? 君みたいに強く育って欲しいの」
「は、はい。是非!」
恐る恐る受け取って抱き抱えると、腕の中に確かな重みと温もりを感じた。顔を覗き込むと、彼女は粒らな瞳でこちらをじっと見つめ返し、ほにゃほにゃと小さな手を伸ばして僕の頬に触れてくる。おくるみの中がモゾモゾと動き、四本の足を元気にばたつかせているのがわかる。
「えへへー、かわいいでしょ。名前はリリアっていうんだよ」
「リリアちゃんかぁ…… うん。もう、びっくりするくらいかわいい……」
得意げに言うエマちゃんに、首がもげそうな程同意する。これは本当に反則的にかわいい。子育てって大変だって聞くけど、他人のお子さんでこんなに可愛いのだ。もし自分の子供だったら、何を置いても大切に育てようって気になるんだろうな。
「本当に可愛いですよねぇ。やはり子供は神の恵みです」
「にゅ、乳児とはこんなに小さいのでありますか……?」
ロスニアさんがニコニコとリリアちゃんを覗き込んでいる一方、シャムは驚愕に目を見開いている。
「そうか、シャムは初めてみるのか。ふふっ、不思議だろう? こんなに小さいのに、十数年後には私のような姿に成長するのだ」
「不思議であります…… そして、とても可愛いであります! タツヒト、ヴァイオレット、やはり早急に家族の新規製造にかかるべきであります!」
「え、家族……? タツヒトお兄ちゃん、ヴァイオレット様と結婚したの……?」
シャムの発言に、今度はエマちゃんが驚愕の表情で僕とヴァイオレット様を見た。
「あー、えっと、結婚はしてないのだけれど……」
「まぁ、その、おいおいだな。うむ……」
僕らやロスニアさん達の関係を、正直にエマちゃんに話すのは教育に悪い。高速の目配せでそう合意に至った僕とヴァイオレット様は、必死に話を逸らすことにした。これはこれで教育に悪い気もするけど……
村のみんなの無事を確かめた僕は、彼らと一旦別れ、この場の最高指揮官のグレミヨン様に報告に向かった。
最近眉間に皺を寄せることの多い彼女だったけど、プルーナさんから得た情報を伝えた際にも盛大に皺が寄っていた。なんかすみません。彼女曰く、凄まじく有用な情報だが中隊長の自分の手には余る。すぐに侯爵様の判断を仰ぎたいとのことだった。そんな訳で、慌ただしいけど明日には捕虜を連れて領都へ発つことになった。
翌日。朝の内に村を発つべく、僕らは慌ただしく出発の準備を進めていた。昨夜はヴァイオレット様以外の仲間を村のみんなに紹介しつつ、積もる話もすることができたので、とても良い時間を過ごせたと思う。
エマちゃんは特にゼルさんとシャムと仲良くなったみたいだった。後半は三人で何か僕の方を見ながら話し込んでいたけど、何を話していたかは教えてもらえなかった。気になる。
「プルーナさん、昨日は本当に申し訳ないことをしてしまった。カッファが蜘蛛人族にはお酒みたいに働くって、思い至らなかったんだ。
それと、首輪の件もごめんね。軍規上、元敵兵の黄金級魔法使いに着けないのは有り得ないらしくって……」
捕虜の多くは手を縛られてロープで数珠繋ぎにされているけど、魔法型や手練の戦士型は隷属の輪を使って能力を制限された上、支援部隊の馬車に乗せられている。
プルーナさんも同じように馬車に乗せられていて、その首には奴隷の首輪が嵌められている。彼女が僕らに危害を加える可能性は限りなく低い。そうグレミヨン様に説明したのだけれど、同時に彼女が超重要人物だと言うことも説明せざるを得なかったので、やはり首輪をつけることになってしまった。あと、なぜか彼女の首輪に対応する主人の腕輪は僕の手に嵌まっている。本人から希望があったそうだ。なぜ……
「あの、その…… 私こそ、すみませんでした…… 首輪は、大丈夫です。はい……」
昨日の記憶が残ってしまっているのか、彼女は赤い顔で僕と目を合わせてくれず、しきりに首輪を触っている。
「やっぱり苦しいよね…… 移送中は難しいかもだけど、領都についたら上に掛け合ってみるから」
「えっと、私はこのままでも大丈夫ですから…… えへへ……」
そういってにへらと笑ってみせるプルーナさん。いや、そうも行かないでしょ……
「キアニィ、やはり我らの男はすごいな。今度は敵国の魔法使いだぞ」
「ええ。若干わたくしの時と状況が似ていますわねぇ…… タツヒト君があの状況にある子に、あそこまで関わったのだから、見捨てられるわけがありませんわぁ」
ヴァイオレット様とキアニィさんが何かボソボソ話している気がするけど、気にしない方が良さそうだ。
「皆、準備は良いか!?」
「第一小隊、出発できます!」
「第二小隊、準備完了です!」
お、グレミヨン様がそろそろ出発を宣言しそうだ。
プルーナさんに、ではまたと言って隊列に戻ろうとした時、ふと後ろから殺気のようなものを感じた。振り返ると、別の馬車に収容されたオルテンシア氏が僕の方を睨んでいた。相変わらず暴れるので、隷属の輪の機能で脱力状態にしたままだ。なんかもう、視線だけで人を殺せそうな感じだ。怖えぇー……
僕が逃げるように隊列に戻ると、ちょうど全隊の準備が整ったようだった。
「よし、では出発!」
広場から全隊が動き始めると、村のみんなが歓声をあげて見送ってくれる。
「グレミヨン様、ヴァイオレット様、ありがとー!」
「タツヒト、しっかりやれよー!」
「ヴァイオレット様、タツヒトお兄ちゃん、ゼルお姉ちゃん、シャムー! 絶対また来てねー!」
一際大きな声で見送ってくれるエマちゃんに手を振り、僕らは村を後にした。
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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】
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