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第191話 地雷原(2)

遅くなりましたm(_ _)m

ちょっと長めです。


 悲鳴をあげて倒れそうになる馬人族の騎士。近くに居た僕は彼女に駆け寄り、馬体の下に片手を差し入れて支えた。

 さらにもう片方の手の中で短槍の()を短く持ち替え、騎士を貫いている石筍を切り払った。


「シッ!」


 カッ、カカッ!


 何度か槍を振るって石筍を全て切断すると、思ったより軽い感触に驚いた。けど、今はそれどころじゃ無い。


「キアニィさん、短槍を!」


「わかりましたわぁ!」


 僕はキアニィさんに短槍を投げ渡し、痛みに呻く騎士を両手で抱き上げた。そして隊列の先頭にいるグレミヨン様に視線を送ると、彼女は険しい表情で頷いた。


「全軍停止、全軍停止だ! --よし、防御姿勢はそのままに、ゆっくりと後退せよ! ゆっくりだ!」


「「は…… は!」」


 彼女の指示に、隊列全体が戸惑いながらもだんだんと停止し、村の方に頭を向けたままゆっくりと後退を始めた。しかし、その間も何箇所かで地面が爆ぜる音がした。


「ぎゃっ……!?」


「いてぇぇぇぇ!?」


 あたりを見回すと、僕が今抱えている彼女のように、何人もの騎士が前足や後足を石筍に貫かれていた。

 僕の対応を見ていた周りの騎士が助けに入っているけど、全体が浮き足だって混乱が生じている。

 音や作動の方からしてトラばさみのような仕組みなんだろうけど、被害の与え方がまるで地雷だ……! えげつない事をする。


「グレミヨン様! 全体に、自分が踏んだ場所以外を踏まないようにご指示願います! 一度踏んだ場所は安全です!」


「りょ、了解した! 全体傾注! 自分が踏んだ場所以外踏むな! 一度踏んだ場所は安全だ! 焦らずにゆっくり後退せよ!

 防御を担当している風魔法使いの後ろにいる者は、撤退をを支援せよ! 負傷者は決して見捨てるな!」


「「は!」」


 グレミヨン様が指示を出してくれたおかげで、その後は負傷者を出す事なく撤退することができた。意地の悪いことに、地雷は地面が掘り起こされた場所に必ずあるというわけでは無く、逆に絶対に無いとも言い切れないような配置だった。

 そして全隊が森の外周部の地面が掘り起こされている領域、地雷原を脱出したところで、すぐに後方に控えていた支援部隊が駆け付けてくれた。

 その中には、従軍聖職者のセリア助祭と、ロスニアさんの姿もある。


「負傷者はこちらに集めて下さい! すぐに治療致します!」


 セリア助祭が示した場所に、支援部隊の人達がシーツのようなものを敷き始める。僕も両手に抱えた騎士の人を連れてそこに向かった。


「ロスニアさん! この人もお願いします!」


「わかりました! そこの敷布に横向きに寝かせて下さい!」


「うぅ…… すまない、助かる」


「ええ、気をしっかり持ってください。ロスニアさんならきっと治してくれます」


 出血で朦朧とする騎士の人をシーツに寝かせると、ロスニアさんがすぐに処置を初めてくれた。


「タツヒト! こちらに来てくれ!」


「はい、只今!」


 グレミヨン様に呼ばれて行くと、中隊の幹部陣と「白の狩人」の皆んなが集まっていた。

 険しい表情で負傷した騎士達を見つめていたグレミヨン様が、僕に視線を移した。

  

「あれについて、何か知っているようだな?」


「はい。同じものではありませんが、僕の故郷に似たようなものがあります。地雷と言って、地面に浅く埋めて使う兵器です。埋めた場所を誰かが踏むと、えっと、中の魔法のようなものが発動して爆発、踏んだ人の手足を吹き飛ばしてしまいます。

 ……怖いのは、踏んだ人が死なないように威力が調整されているところです。今の僕らのように、敵に負傷者の救護と後送、行軍の停滞を強要させることが目的なんです。悪魔の兵器、なんて呼ばれることもあるみたいです」


「なんだと…… 蜘蛛共め、悪辣な!」


「地雷かぁ、よく考えられてるなぁ、多分、土魔法で石筍と弾性体を地下に形成して、地表に一定以上の力がかかったら歪みが解放されて、石筍が飛び出す仕組みだね。領都でもそうだったけど、蜘蛛人族の土魔法使いは優秀だね。ちょっと悔しいくらいだよ」


 激怒するグレミヨン様に対し、ロメーヌ様が関心したように何度も頷いている。この人らしいっちゃらしいけど、怪我人も出てるし、もうちょっと言い方があるのでは……

 僕と同じ心境なのか、彼女の副官のオレリアさんは片手で自身の顔を覆ってしまっている。


「ロメーヌ殿、感心している場合ではありませんぞ! 何か、魔導士団で打てる手は無いのですか!?」


「それはもちろんあるよ。でも、正攻法と力技があって、多分正攻法は上手くいかないと思うんだよね…… まぁやってみようか」






 それからロメーヌ様を始めとした土魔法使いの人達は、敵の矢や魔法の射程外、地雷原の際あたりから地雷の無力化を試みた。

 以前、ヴァランティーヌ王国魔導士団長が蜘蛛人族の森にやっていたように、地雷原を丸ごと軟化、撹拌して、元の罠のない地面に戻してしまおうという作戦だ。

 しかしこれは失敗した。敵の方でもせっかく設置した地雷を壊されたく無いのか、しっかりロメーヌ様達の魔法に干渉してきたのだ。術者の質や量が拮抗しているのか、地雷原は僅かに振動するだけで、こちらの魔法は不発に終わってしまった。やはりロメーヌ様の読み通り、正攻法では上手くいかないようだ。

 それで、力技に出ることになった。


「それじゃあよろしく頼むよ、タツヒトくん、ヴァイオレット…… もう卿じゃ無いんだっけ? まぁいいや。ともかくよろしく。僕らは後ろからついていくからさ」


「お任せください、ロメーヌ様」

 

「申し訳ございませんヴァイオレット殿。私が不甲斐ないばかりに……」


「気に召されるなグレミヨン卿。こういった事態のために、我々が居るのだ」


 陣形は先頭から順に、僕、ヴァイオレット様、ロメーヌ様を筆頭とした土魔法使いの人達、キアニィさんとゼルさん、そして残りの領軍の方々だ。今回シャムは、領軍の弓兵の人達と一緒に行動してもらう。


「では…… 行きます!」


 その号令に、中隊の風魔法使いの人達が防壁を展開してくれたのを確認し、僕はゆっくりと歩き出し、前方の地面に向けて手をかざした。


雷よ(フルグル)!』


 バババァンッ!


 拡散型の雷撃が風の防壁を貫通し、少し先の地面を爆ぜさせる。僕らが地雷原に入ったことで蜘蛛人族からの攻撃が再開されたけど、向こうの攻撃は矢や石弾などだったので、大部分は風の防壁が防いでくれた。

 そしてしばらくして、地面の爆ぜる音が変化した。


 バヂッ! バヂヂィンッ!!


 雷撃で地面が爆ぜた衝撃で、地雷が次々と発動する。一瞬、動揺したかのように蜘蛛人族達の攻撃が止んだ。僕はそれに構わずゆっくりと確実に前進を続け、後ろのみんなは雷撃で焼け焦げた地面を踏んで僕に追従した。

 これが完全な力技による地雷原の攻略である。地面に干渉して罠を無力化するよりはるかに効率が悪いけど、緑鋼級に至った僕の豊富な魔力量なら可能だ。

 段々と激しくなる蜘蛛人族からの攻撃は、彼女達の焦りを反映しているかのようだったけど、僕らはそのまま地雷原を渡り切ってしまった。

 ここからは選手交代だ。僕は後ろに下がりながら叫ぶ。


「ヴァイオレット様!」


「うむ! --らぁっ!!」


 ザガァンッ!!


 領都でも見た彼女の延撃が、僕らの目の前に広がる蜘蛛人族の森、その広範囲のを一気に伐採してしまった。


「「******!?」」


 バキッ、バキキッ!!


 蜘蛛人族達の悲鳴と、木々が倒れる音が風の防壁を貫通する。木々の倒れた向こう側に、懐かしいベラーキの防壁と門が見えた。


「ロメーヌ卿!」

 

「任せたまえ! みんな行くよ!」


「「は!」」


 その隙をついて、ロメーヌ様達が土魔法を行使する。流石の蜘蛛人族の術者も、この混乱の中ではこちらの魔法に干渉できなかったようだ。

 切り倒された木々がずぶずぶと地面に沈み、ほんの数秒で、村の門までの平坦な一本道ができてしまった。


「あとよろしくぅ……」


「「応!」」


 魔力切れ気味のロメーヌ様に応えながら、シャムを除く「白の狩人」で門に駆ける。よし! あとはこの四人で防壁を飛び越え、城門を内から開けるだけだ。

 しかし僕らが走り始めた直後、防壁の内側、村の中から照明弾のようなものが打ち上がった。

 何をする気だ? でも、何かする前に終わらせてしまえばいい!

 

「押し通ります!」


「「応!!」」


 そうして全員で城門まで走る僅かな間に、違和感に気づいた。村の防壁や左右の少し遠くなってしまった森。攻撃が飛んできそうなの場所が、静まり返っているのだ。何かの予兆かと思って警戒を強めながら走り続けると、今度はなんと村の門が開き始めた。


 これは流石に様子がおかし過ぎる。僕らは段々と走る速度を落としていき、減速して止まる頃には門のすぐ前に到達していた。

 村の門は完全に解放され、目の前には、領都で取り逃した蜘蛛人族の片割れ、あの小柄な魔法使いが居た。

 彼女の前には、直前まで装備していたであろう手甲のようなものが六つも置かれていて、彼女自身は足を内側に折りたたむようにして座り、上半身は目一杯倒して頭を下げている。蜘蛛人族の作法は知らないけど、まるで日本人の土下座のような印象だ。

 視線を巡らすと、村の中にいた蜘蛛人族達も、彼女に倣って武器を放り、土下座のような姿勢に移行していた。


「君は……」


 僕がそう呟くと、小柄な魔法使いはびくりと震え。恐る恐るといった様子で頭を上げた。改めて見ると、思ったよりずっと幼い顔つきだ。

 長い前髪のせいで少しわかりずらいけど、その表情は恐怖と怯えに染まっている。


「こ、降伏します! だから…… だからどうか、オルテンシア様を助けて下さい……!」


お読み頂きありがとうございます。

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【月〜土曜日の19時以降に投稿予定】


※ちょっと下に作者Xアカウントへのリンクがあります。

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