第185話 蜘蛛の巣(1)
今週は早めに更新できそうだと思ったけど、そうでもないかも。。。
遅くなりすみませんm(_ _)m
プレヴァン侯爵領の領都エキュリー。そこを圧倒的戦力差で奪還した対連邦防衛軍は、多めの守備兵を領都に残し、南北に分かれて進軍した。
南軍の構成は、プレヴァン侯爵領とヴァロンソル侯爵領、それから王都の師団だ。
また同じように領都が乗っ取られないか心配だけど、王都方面から援軍が来るはずなので、防衛軍は短期に拠点を開放することを優先するそうだ。
僕ら「白の狩人」も南軍に帯同し、プレヴァン侯爵領の他の重要拠点を開放しながら南下した。
それから数日程かけて、僕らは三つの拠点を開放した。どの都市も、領都エキュリーと同じように無機質な森で覆われていて、数千程度の敵戦力が配置されていた。
普通であれば、設置された森や都市の防壁によって攻撃側が不利を強いられるはずだ。でも、南軍の戦力は三万程もあり、その分魔法使いの層も厚い。大体、領都エキュリーを奪還した時と同じ展開で都市内に攻め込めるので、どの拠点もさほど苦労せずに攻め落とすことが出来た。
それと、都市から食料の大部分が運びされれていたことも共通していたし、連邦の将兵が情報をはいてくれないことも同じだった。
因みに、南軍にはベアトリス騎士団長、北軍にはヴァランティ―ヌ魔導士団長が配置されている。南軍は魔導士団長閣下が居ない分、ちょっと森の除去に時間がかかる。しかし、その分ベアトリス騎士団長が猛威をふるっていた。
今も、四つ目の拠点の防壁を騎士団長閣下が単身で飛び越え、一分もしない内に内側から門をあけてくれたところだ。
「開門したである! 者ども、吾輩に続けぇー!!」
「「おぉーーー!!」」
門が開くのと同時に、馬人族の将兵達が地響きを上げて都市になだれ込む。僕ら「白の狩人」は、その突進が収まったころに都市に入った。
「うーん。最初の拠点以来、あんまり活躍してないですね、僕ら」
「仕方あるまい。一番大きな拠点でそれなりの功績を上げさせてもらったのだ。我々は領都クリンヴィオレやベラーキに当たるまで体力を温存させてもらおう」
僕と並走するヴァイオレット様が苦笑気味に言う。それもそうか。民兵の僕らが活躍しすぎると、本職の領軍の皆様の立つ瀬が無いだろうし。
「ん…… 貴方たち、十時の方向で友軍が劣勢よぉ!」
「よっしゃ、そっちに向かうにゃ!」
都市に入ってからすぐに高い建物に登ったキアニィさんが、僕らの向かうべき方向を示してくれる。
二つ目の拠点以降、僕らはこうして本体の後に都市に入り、友軍が劣勢の所を助けたりすることを主な仕事としていた。まぁ、遊撃役なので、こっちのほうが正しい動き方なんだろうけど。
キアニィさんが示した方向に走っていくと、だんだんと怒号が聞こえ始めた。
「***、***!」
「くそぉ、蜘蛛どもがぁ!」
比較的細めの路地を曲がると、そこには30騎程の馬人族の小隊が居た。彼女たちは路地に張られた蜘蛛の糸に絡めとられ、その場から動けずにいた。
おそらく、路地を曲がってすぐのところに巣が張ってあって、止まり切れずにひっかかってしまったのだろう。
巣の周りの建物の壁には、同数ほどの蜘蛛人族が張り付いていて、友軍に矢を射かけている。
「助太刀する!」
「ヴァイオレット殿か!? 助かる!」
小隊長らしき馬人族の騎士の人が、矢を必死に叩き落としながら声を上げる。
まずはあの糸を何とかしないと。
『螺旋火!』
蜘蛛の巣と建物との接続点、騎士と騎士の間。それらに目掛け、螺旋状に圧縮された火線を幾たびも照射する。
すると友軍を拘束していた蜘蛛の糸はあっさりを焼き切れ、彼女たちの拘束の大部分がゆるんだ。
よし、あとは自力で抜け出せるだろう。
僕が友軍の拘束を解く間、皆はすでに壁面の蜘蛛人族達に攻撃を開始していた。
壁を駆けて敵に肉薄するキアニィさんとゼルさん、小型の槍を投擲するヴァイオレット様、そして、弓兵の本領を発揮するシャム。
すぐに半数程が討ち取られ、残りは文字通り蜘蛛の子を散らす様に逃げて行ってしまった。
「--ふぅ。助力に感謝する。格好の悪いところを見せてしまったようだな」
糸の拘束から抜け出した小隊長らしき騎士が、ヴァイオレット様と握手しながらお礼を言う。
「いえ、そのようなことは…… しかし、都市内は敵の領域です。十分にご注意を」
「うむ。肝に命じよう。では慌ただしくて済まぬが、我らは今逃げた連中の追撃に移る。御免!」
そうして友軍の小隊が走り去ると、後には絶命して壁から落下した蜘蛛人族の躯が残された。
その半数程は、矢によって首や目を貫かれている。
「ふっ…… ふっ…… ふっ……」
「シャム。大丈夫、ゆっくり呼吸するんだ。本当に助かった、よくやってくれたよ……」
呼吸も荒く弓を構えたままのシャム。僕はその肩に触れ、なるべく穏かな調子で声を掛けた。
シャムは、二つ目の拠点で始めて敵兵を手にかけた。その日の夜、彼女は食事も喉を通らず、悪夢にうなされて全く眠れなかった。
しかし今では、こうして少し戦闘後に呼吸が乱れてしまうけど、すぐに落ち着きを取り戻すことが出来る。
そのうち、僕やヴァイオレット様のように、平気な顔で敵を屠れるようになってしまうだろう。
彼女にとって、これが本当に良いことなのかいまだに分からない。けれど、これが彼女の意志なのだ。
「あ、ありがとうであります。ふぅー…… うん、もう大丈夫であります!」
「そうかい…… それじゃ、またどこかの友軍を助けに行こうか」
僕らはそのあとも何度か友軍を助け、敵兵を殺し、ほどなくして都市を奪還することが出来た。
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