第184話 束の間の休息(2)
なんとか今週を乗り切った。。。遅くなりましたm(_ _)m
「貴方の雷魔法、かなり使い勝手がいいみたいね。遠目からだけど、蜘蛛共を雷撃でなぎ払うのを見ていたわ。
私の知人にも雷魔法が使える人間がいるけど、あまり生かせていなかったの。あの魔法、普通は離れた的を狙って打つなんてことはできないから。
結局その知人は、でたらめな方向に伸びる雷撃もこの距離ならあたるだろうって、接近戦用の奥の手にしていたわ。ふふっ、彼女に君の雷撃魔法を見せてたら、とても驚くわね。
貴方があれだけ正確に対象を狙えるのは、何かからくりがあるのかしら? 是非教えて頂きたいわ」
「えっと、そうですね--」
先ほどまでの気だるげな雰囲気は一変し、ずい、とこちらに身を寄せながら質問してくるヴァランティ―ヌ魔導士団長閣下。僕はちょっと引きながらも、頑張って原理の説明を試みた。
正電荷とか負電荷、絶縁破壊とかその辺の話だ。僕は高校一年の秋に異世界転移したので、最終学歴は中卒ということになる。なので、中学レベルの理科とほんのちょっと高校物理、あとは中二心の赴くままに調べた断片的な科学知識が頼りだった。
しかし賢い人は一を聞いて十と悟るものなのか、僕の拙い説明に、彼女は目を爛々と光らせて何度も頷いてくれていた。
「ふーん、なるほど。いくつか疑問がのこるけど、貴方の雷撃が必ず狙った場所にあたる理由にも、それなら納得ができるわ。とても興味深いわね。
それにしても、随分私の知らないことを教えてくれのね。ロメーヌ、彼って開拓村の出身じゃなかったかしら? 最近の開拓村は教育水準が高いのかしら?」
「あぁ、そのへんちょっと複雑なんですよ。彼、転移魔法陣の誤作動でものすごく遠くから来たんです。彼の魔法はそこの知識に基づくものが多いみたいですよ。あの強化魔法もそうらしいですし」
「そう! その強化魔法よ。私は見られなかったけど、御前試合でも披露していたそうじゃない? 魔法型の人間が戦士型のような力を得ることは、魔導士にとってはある種の悲願なのよね。一体どんな--」
その後暫くは、ヴァランティ―ヌ様の質問に僕が答えて、ロメーヌ様は少し補足するという時間が続いた。
ヴァランティ―ヌ様は僕の強化魔法を魔法陣化、つまり誰でも使えるように出来ないか可能性をさぐっていたみたいだけど、どうやら無理そうということが分かった。
あの魔法には、得意属性として雷魔法が扱えることと、脳とか神経の知識をある程度備えている必要がある。それらに加え、身体強化の経験に基づく言語化が難しい感覚を頼りに、自分の体の各部に強化を施していく。
つまり、個人ごとに調整が必要で、その調整をするには僕みたいなやつじゃないと出来ないという訳だ。魔法陣化するのだいぶ困難らしい。
彼女の質問がひと段落した後、僕も疑問をぶつけてみた。
「閣下。あの不気味な森を一瞬で消し去った魔法ですが、かなり距離があったのに、閣下の魔力はあの森に対して、非常に強力に干渉していたと思います。
紫宝級にまで至ると、距離の問題は些末な物になってくるのでしょうか?」
基本的に、具象魔法で物質を生成したり、周囲にある物質に干渉する場合、術者から距離が遠くなるほど効率が落ちてくる。
それを防ぐために、手元で生成、または成形した物体を投射して攻撃するのが、魔法使いのスタンダードなのだ。
しかし、あの時彼女は森から100m程離れていた。いくら彼女が紫宝級だろうと、数百、下手したら数千トンにも及ぶ質量に、遠隔かつ一瞬で干渉したとは思えないんだよね。
「あぁ、いいところに目をつけたわね。あれは直接森に干渉したわけじゃないの」
「--と、いいますと?」
「確かに物質への干渉は距離が近い方が簡単よ。でも、その距離とはなにかしら? 因みに知っての通り、魔法使いが干渉して魔力を通した物質は、術者の手足のように扱うことができるわ」
「--なるほど……! あの森は地面から生えていました。先にご自身の足元の地面から干渉を始めて、段々とその範囲を拡張、最終的に森の木々に触れているのと同じ状況を造り出したんですね」
「その通り、御名答よ。 --そういえばあの森、見た目のわりに軽かったように感じたのよね。あれだけの質量を軟化、変形させたにしては魔力消費もそこまでじゃなかったし…… まあいいわ。
ねぇ貴方、陛下が発した手配はもう解かれたんでしょう? この戦争が終わったら、王都の学院に来てみない? 特待生待遇で迎えるわよ」
「おー、よかったねタツヒト君。学院の特待生って、中々成れるもんじゃないよ」
ロメール様が無表情に感嘆の声を上げている。学院かぁ。正直、魔法の事を時間をかけて体系的に学んだり、魔法陣を作ったりするのにはものすごく興味がある。でも--
「ありがとうございます。とても光栄です。でも、今はまだ先のことは考えられません。この戦争が終わったら、また改めてお話させてください」
「ええ、もちろん。さて、話も聞けたし私は行くわ。有意義な時間をありがとう。では」
そういって彼女はすたすたと去って言ってしまった。会話中、彼女は僕とロメーヌ様しか見ておらず、他の面子には一瞥もしなかった。きっと、興味のあるものと無いものがはっきり峻別されている人なんだろうな。ロメーヌ様の恩師と言われてすごく納得してしまった。
あと彼女に言われて気づいたけど、もう逃げ話まわる生活はおわったんだよなぁ。少し気が早いけど、戦争が終わった後の身の振り方を考え始めてもいいのかも。
「相変わらずだねぇ、ヴァランティ―ヌ様は…… あ、そう言えばバタついてあんまり話してなかったけど、二人とも元気だった?」
ヴァランティ―ヌ様を見送った後、ロメーヌ様は僕とヴァイオレット様の方を見た。
停戦協定からこの都市を奪還するまで、激動の日々だったからなぁ。
「あぁ、この通りだ。騎士団、特にグレミヨン殿にはかなり負担を強いてしまったが……」
「幸い元気ですよ。でも、ロメーヌ分隊長にオレリア副長、隊の皆さんにはご迷惑をおかけしました」
「まあびっくりしたけど、タツヒト君の方は大丈夫だよ。こう言っちゃなんだけど、君って配属されて数ヶ月の新人だったからね。そんなに影響はなかったから安心してよ」
「私は、タツヒト君のモテっぷりにびっくりです。確かに優秀で見た目もいいですが、一国をかたむけるほどとは……
君のことを魔性の男だという、口さがの無い人も居ますが、現状を見ると真っ向から否定できませんね」
軽い感じのロメーヌ様に対して、オレリア副長は神妙な表情で僕ら、正確には全員女性である僕の仲間たちを見回した。
「あはははは…… えっと、そうだ。皆を紹介しますよ」
ロメーヌ隊長達に皆を紹介したところ、特にシャムが彼女たちに興味を示した。シャムの髪色と同じでありますと、白い山羊人族の二人に懐いていた。
彼女たちを交えて話すのは、やはり今後の事と、今だ奪還されていない都市や村の事だ。
僕ら対連邦防衛軍は、この後北軍と南軍に分かれる。僕らが参加する南軍は、奪還リストの最後である領都クリンヴィオレを開放するまで南下する。
そこの開放に成功したら防衛軍は一旦解散。その後で、僕らはやっとベラーキに向かうことができる。
領都にはヴァイオレット様のご家族のほかに、魔導士団のエクトル小隊長やジャン先輩、内乱には参加しなかった従軍聖職者のセリア助祭がいる。それに、この世界における僕のお義兄さんや、馴染みの鍛冶屋さんだっている。
そしてベラーキには村長夫妻、義理の姉上たち、イネスさんたち冒険者の皆、ソフィ司祭、そして、エマちゃんがいる。
この都市では、一般市民が蜘蛛人族に無体を働かれることはあまり無かったみたいだけど、他では分からない。
僕は皆と会話する内に復活してきた焦る気持ちを、熱い珈琲を飲むことで誤魔化した。
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